トップ>小説>転生貴族の異世界冒険録〜自重を知らない神々の使徒〜
66 / 99
第三章 学園・領主編

第九話 ドリントルの暴れん坊領主2

しおりを挟む
「この店で暴れたら迷惑がかかるでしょう。外に行ってお話しましょうね」

 周りから見たら、小さな子供の冒険者が少し引きつった笑いをしているように見えるが、カインはエナクが蹴り飛ばされたことをかなり怒っていた。
 まだ夕方ということもあり、それなりに店の周りは人通りがあった。
 いきなり人が投げ出されてきて、道に転がり、そして子供が後を追ってくる。
 周りは冒険者たちとカインの五人を囲むように人だかりがすぐにできた。
 騒ぎをエナクから聞いたダッシュもヒミカも外に出てきた。

「このガキがっ!もう容赦しねぇ!」

 一人が剣を抜いたこともあり、残りの三人も剣を抜いた。

「カイン様、危ないですっ!!」

 ダッシュが叫ぶ。
 そして、一人の冒険者がカインに上段から斬りかかった。
 カインは半歩避け剣を躱したあとに、腹に一撃をいれた。

「グホッ」

 腹に一撃を入れられた冒険者は、そのまま数メートル飛んで口から泡を噴いて気絶した。
 その様子に一瞬唖然とするが、仲間たちは気を引き締め視線をカインに向けた。

「ガキがやりやがったな」

 次は三人同時に斬りかかってくる。カインにしてみればスローに見える剣さばきだ。
 一瞬で剣を避け、次々と一発ずつ入れていく。
 三人は三秒も持たずにその場で沈んでいった。
 気絶した四人を見下ろしながらカインは一言だけ呟いた。

「人に暴力振るうなんてとんでもない!」


「「「「「「……」」」」」」

 その一言に周りにいたみんなは「お前がそれを言うのか」と突っ込みたかったが、誰一人として言えなかった。
 一瞬の出来事であったが、銀髪の少年はそれだけ強いということがわかっているからだ。
 誰一人としてカインに突っ込むことはしなかったが、それだけ人が集まれば通報も行く。

「なんだこの騒ぎはっ!!!」

 衛兵が四人ほど人をかき分けて入ってきた。
 衛兵が倒れている四人とカインを確認した。倒れた四人とも剣を鞘から抜いた状態で持っていた。

「いったい何があったのだ」

 衛兵の隊長らしき人が聞いてくる。

「酔っ払いの冒険者が、この店の女の子に後ろから蹴りを入れたんです。だからご退出してもらいました。剣を抜いて斬りかかってきたのでこのようになりました」

 カインは四人を指差し簡潔に答えた。

「そうか、とりあえずお前も詰所に来てもらおうか」

 隊長の問いにカインは即答した。

「嫌です。まだミノタウロスのステーキが残っているので。もったいない……」

 その答えに、隊長も他の衛兵も、ダッシュもヒミカも周りにいた人たちも絶句した。

「ちょっ……。カインさま……」

 ダッシュは衛兵の隊長にも関係なく断るカインに驚いた。

「お前何を言っている! 来ないなら強制的に連れて行くぞ」

 カインの予想外の返答で固まっていた隊長が怒り出した。

「連れて行くならそこの四人にしてください。酔っ払っているので反省を込めて一晩詰所の牢屋で反省させてください。では、お勤めご苦労様です」

 カインは隊長に一礼し、そのまま店に戻ろうとする。
 周りの人たちはその対応に唖然としている。

「お前ふざけているのかっ!! お前は何様だ!!」

 通り過ぎたカインの肩を激高した隊長が掴んで止める。
 カインは振り返り、肩を掴んだ手を振り払ったあとに逆に問いただす。

「悪いことしたのはあいつらでしょう。あいつらだけ詰所に連れていけば問題ないはずです。それに僕が名前を言ったら、それこそ問題になりますので言いたくありません」

「お前は何言ってるんだ!? お前ら! こいつも連行するぞ」

 隊長の言葉で倒れている冒険者たちを運んでいた他の衛兵たちも集まってくる。

「お前も少し反省する必要があるようだな」

 隊長と隊員の四人に囲まれたカインはため息をついた。

「あなたたちも職務ですから仕方ないと思います。名前を言ってもいいですが、小さな声でいいですか。周りに聞かれたくないので」

 隊長は、その言葉に頷く。よく見ればこの子供は平服でも上等なものを着ていた。もしかしたらどこかの貴族の子供かもしれないからだ。その場合は問題になる可能性もある。隊長と隊員はカインの周りに集まった。

「……カインです。カイン・フォン・シルフォード・ドリントル子爵。ここの新しい領主です……」

 カインは四人にだけ聞こえるようにそっと呟いた。そして懐から貴族の当主である証明の短剣を出し隊長に見せた。
 その瞬間、四人の衛兵たちは固まった。
 最悪でも貴族の子供か、籍を外れた親族かと思っていたら、貴族の当主だった。
 ましてや、この街の領主だ。さっきまで領主に対して「お前」や「連行する」とか言っていたのだ。隊長にいたっては、肩を掴んで激高していた。貴族の息子なら適応されないが、目の前にいるのは子爵家当主でありこの街の領主だ。
 下手をすれば不敬罪で、そのまま切り捨てられても文句は言えないのだ。
 四人は無言で目を合わせて頷く。




「「「「申し訳ありませんでした、領主様」」」」

 四人の衛兵はその場で土下座した。


「「「「「「「「「「「「領主様!?」」」」」」」」」」」」」


 周りの人も衛兵の言葉に驚いた。
 平服を着た子供が、まさかこの街の新しい領主だとは、誰も思うはずもなかった。
 そして領主が目の前にいるということは、平民は頭を下げないといけない。
 周りが一斉に膝を付いて礼節をとった。
 カインは数十人の平民に囲まれて、膝を付かせている。

「……」
 
 知られたくないために、小さな声で衛兵たちに伝えたのに、まさかそんな態度とられるとは思わなかった。カインは天を見上げた。そして呟いた。

「だから言いたくなかったのに……」 

 がっくりと肩を落としたところで、エナクが近くによってきた。
 エナクは貴族に対しての礼儀などは、まだ習っていなかったみたいだ。

「カインお兄ちゃん領主様だったの?」

 エナクは目を輝かせながらこっちを見てる。

「……うん、本当はそうだったんだ」

 領主だということがバレてしまったせいで、のんびりできないかと思った。

「カインお兄ちゃんって強くて優しい領主様なんだね。わたしうれしい!」

 エナクは領主と言っても喜んでくれていた。
 それを聞いて、ダッシュとヒミカが固まっている。

「カイン様が領主様……カイン様が領主様……」

 動揺しているダッシュはうわ言をただ繰り返してる。
 周りにいた住民もいつまでも膝をついているので、カインが皆に話しかけた。

「皆、急にすまない。この街で新しく領主となったカイン・フォン・シルフォード・ドリントルです。このような騒ぎを起こすつもりはなかったんだ。迷惑をかけてすまない。皆、気にせず立ち上がってくれ。君たちも構わないから立ってくれ。不敬罪なんて使うつもりはない」

 カインは土下座をしている衛兵たちに話しかける。
 その言葉を聞いて、安心した衛兵たちは顔をあげる。

「ただ、こいつらは酔っ払ってこの子供に対して暴力を振るったんだ。一晩牢屋で反省させてくれるかな?」

 カインはエナクの頭を撫でながら衛兵に伝えた。

「わかりました。皆、領主様からの言葉だ、もう戻ってくれ。おい、こいつらを詰所に連れて行くぞ」

 衛兵隊長からの言葉もあり、街の住民もそれぞれ元の生活に戻っていく。
 店から出てきた冒険者たちも、中に戻っていった。
 衛兵たちはカインに一礼をし、気絶した四人を運んでいった。

 そしてここに残ったのは、カインとダッシュ、ヒミカとエナクの四人になった。

「あ、ミノタウロスのステーキが冷めちゃう!」

 カインは食事の最中だったことを思い出した。まだあの美味しいステーキを食べている最中だったことに。
 そのまま駆け足で店に戻ってしまった。エナクは「まってー」と言いながらカインの後を追っかけていく。
 ダッシュとヒミカは二人で目を合わせ頷きあう。

「今度の領主はいい人みたいだな」
「そうね、あなた」

 二人は笑顔で店に戻っていった。

 ◇===================◇
 いつもご愛読ありがとうございます。
 最後は無理やり終わらせた感が……(汗)
 


しおりを挟む