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第5章

碧瑠璃の故郷

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*へきるりのふるさと*


天高いプライドを傷つけられた美しい馬の神様は、雷雲を呼び戒めという名の特大静電気を発生させた。静電気て。
激しい落雷かと思ったら光が派手な静電気。おかげで美しい長髪だったエルフ達の髪が強烈な静電気によって素敵なアフロの出来上がり。何がどうしてそうなったのかはわからない。シールド効果で俺たちは無傷だったが、これは絶対に巻き込まれたくない恐ろしい攻撃だ。

「ふっ」

駄目だ笑ってはいけない。美形がアフロ。美形が。エルフが。
爆笑しないように必死で堪えていると、先頭にいたエルフが腰を落として深々と頭を下げた。巨大アフロのままで。

「神聖なる神と知らず多大なる無礼を働きし所業、何卒、何卒、平に…」

あれだけ敵意を剥き出しにしていたエルフ族が一斉に頭を下げている。それだけプニさんの、いや『古代馬』という存在が恐れ多いのだろう。
ぼんやりと輝く美しい白馬は確かに神々しいからな。鬣もじゃもじゃだけど。

『ぶるるるる…我の力を悟ることも出来ぬとは。エルフ族も地に落ちたものぞ』

プニさんの言葉に誰も反応しない。わかるのは俺だけ?
エルフ達は頭を上げようとせず、ピクリとも動かないまま。この統率力凄いな。優秀な軍隊のようだ。

「無礼とは承知。しかし、我が一族の郷に赴きしその理由を伺いたい」
「あの、えーと、すいません、それは俺から説明させてください」

俺が小さく挙手すると、先頭のエルフが反応し凄い目で睨んできた。アフロ怖い。

「俺はタケル。ルセウヴァッハ領ベルカイムにあるギルド、エウロパ所属の冒険者です。一応ランクは…」

鞄の中から白金のギルドリングを取り出すと、エルフ達の顔色が変わった。

「それは…オールラウンダー認定証?」
「はいそうです。俺たちはチーム蒼黒の団。ブロライトは俺たちの仲間なんです」
「……ヴェルヴァレータブロライトに仲間、だと」
「そうですよ?なんちゃらブロライトさんは大切な仲間だ」

郷の掟がどうであれ、どんな理由があれ、愉快な仲間を馬鹿にされたり野次られたりするのを黙って見ていられない。
先頭で俺を睨んでいたエルフは暫く黙り、息を吐いた。

「私の名はリルカアルベルクウェンテール。郷の聖域を守る戦士」

長い名前だな。
リルとテールしか聞き取れなかった。この長い名前はエルフ族の特徴なのかな。

「ピュイ、ピュピュ」
「ん?なんだそれ。ビー、もうちょっとわかりやすく言ってくれ」

俺の頭にしがみ付きながらビーが言うには、これだけの魔素がたちこめているのにも関わらず、エルフ族から微量の魔力しか感じられないそうだ。それこそ、皆揃ってブロライトほどしか魔力を持っていないのだと。
ブロライトは元々の魔力が少ないと言っていた。だが、人に比べればそれでも多いほう。
エルフ族って人間や獣人よりも魔力が強いんだろ?それなのに、プニさんの言葉すら理解できないくらい魔力が少ないってどういうことなんだ。
プニさんは空を仰ぎ、紫紺色の瞳を苦し気に細めた。

『タケル、この森には何かを感じる』
「何かって何?」
『……とても、嫌なものだ』

ええー。
なにそのフラグ。


+++++


視界いっぱいに広がる色彩の洪水。
これ以上鮮やかで綺麗な色は存在するのだろうかと思うほど、その光景は見事だった。
くねくねとした複雑な道を案内されてやっとこさ連れてこられたエルフの郷。魔素の濃さが更に高い場所にそれはあった。
目に飛び込んできたのは巨大な樹。大樹と呼ぶにふさわしいそれを囲うように、守るように集落があった。トルミ村の戸建てよりかは立派な建物。ログハウスに似ている。
きらきらした輝く何かがあちこちを飛び交っていて、触れようとすると霧のように消えてしまう。なにこれ。

ベルカイムが映画の撮影セットのようだとしたら、エルフの郷はまるでおとぎ話の世界。物語の挿絵に描かれるような、自分のつたない想像力ではとてもじゃないが描くことが出来ない景色。

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深碧の郷ヴィリオ・ラ・イ

グラン・リオ・エルフの国

国王 メルケリアオルデンヴィア
執政 オーケシュトアージェンシール

グラン・リオ大陸に住まうエルフ族の郷。ベルデ・ロン大樹海の最深部に位置する、秘境の地。大陸の中でも特に魔素が濃く、それゆえに外界から途絶されている。人口五万人ほどのエルフ族の中でもハイエルフ族と選ばれたエルフだけが住む聖域。主な産業は木工細工。

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ベルデ・ロン大樹海って確かグラン・リオ大陸の最南にある広大な森。ということは、アルツェリオ王国の王都を飛び越えて更に大陸の端にまで来たということか。
同じ大陸内にあるというのに、森の雰囲気が全然違う。トバイロンが針葉樹林の森だとしたら、この森はジャングル。それに、この謎のふわふわした光がとても幻想的だ。
むせかえるような湿気かと思ったが、これも全て魔素の影響。クレイさえ息苦しそうに妙な咳をしていた。

「げふっ、げふっ、うむ……不穏な空気が漂っておるな」
「クレイも感じたか。これ全部魔素らしい」
「なんと」

郷の中心にある巨大な樹に近づくにつれ、湿気が増す。俺にとっては湿気としか感じられないが、ご機嫌に飛んでいたはずのビーが急に俺のローブの下に潜り込んだ。

「どうした?ビー」
「ピュウィ…」

何かから隠れるように微かに震えるビー。ビーのこんな姿を見たのは幾度目か。何か嫌な気配を感じたから隠れてしまったのだろう。
クレイの咳が止まらなくなっている。プニさんは平然としているが、その顔はしかめっ面のまま。ブロライトは意気消沈中。アフロエルフ一行は…だから笑っちゃ駄目だ。

「大樹に参る前に身を清めていただきたい。あちらに清めの泉がある」

リルとテールの名前のエルフが指さす先には、綺麗な泉。承知したとばかりにエルフ一行は向かうが、泉って冷たい水だろ?俺としては暖かなお湯に浸かりたい。

「リルとテールさん、宜しいですか」
「……リルカアルベルクウェンテールだ」
「はい、あのですね。プニさんの八つ当たりでアフロ…プッ、いや失敬。その酷い格好にしてしまったお詫びに、綺麗にさせてもらえませんか」

鞄の中からユグドラシルの枝を取り出し、詠唱準備。これだけの人数を一気に綺麗にしたことは無いが、辺りを漂う大量の魔素を利用させてもらおう。深く息を吸い込んで、吐き出す感覚。きっと出来る。

「貴殿の言いしことはわからぬ」
「説明する前に目で見てくれ」

ユグドラシルの枝が勝手に杖に変化する。この反応も初めて。
魔素を勝手に吸い込んでいるんだろうか。考えてみればこの杖、最初から鞄の中に入っていたから考えないで使っていたけど、その正体は何なんだろうな。そのうち調査スキャンするべきかな。

「さーてと。皆さんこっちに集まってくださいね。はいはい、こっちこっち。ではいきますよー。清潔クリーン、展開っ!」

大人数だからと、少しだけ力を込めて詠唱をしたらば。

「うわあっ!」

ユグドラシルの杖の先から飛び出した光の雨。眩いまでの光が爆発したかのように輝き、辺りに勢いよく飛び散った。全力で清潔クリーンを展開したときよりも、ずっと威力がすさまじい。杖の先から光が飛び出すなんて、そんな格好いい魔法は使ったことがないのに。
俺自身呆然と驚いているなか、きらきらとした細かい光に包まれた一同は目がテン。清潔クリーンの呪文に一番慣れているクレイすら固まっていた。
気が付けばアフロのエルフは一人もおらず、美しい輝きに見合う美形集団がそこにいた。プニさんの白銀髪もさらりと風にゆれ、満足そうに頷いている。あれこそ神様。

「ちょっと想定外だった…」
「ピュイイ!」
「ん?息苦しくない?……そういえば湿気が少しだけなくなったような」

ローブの下から飛び出したビーに言われ、気付く。清潔クリーンを展開した範囲だけ空気がカラリとしていた。
不快感が取り払われ、呼吸をするのがラクになった気がする。クレイも咳をするのを止め、こざっぱりとした甲冑を確認してちょっと嬉しそうだ。

「これは何たることだ」
「今、何を成された?」
「魔素が薄れている…?そんなまさか」

うろたえるエルフ一同は辺りを見渡し、自らの手や身体の様子を確認。くちゃくちゃアフロも綺麗なストレートに戻り、これぞエルフという感じの美形集団。

「やはりタケルはすさまじい!わたしの考えたとおりであった!」

ブロライトが飛び跳ねて喜ぶと、リルとテールさんが驚愕の面持ちのまま静かに言った。

「ヴェルヴァレータブロライト、説明しろ。これはどういうことなのだ」

怒っているわけではなさそうだ。ただ、今起こったことを許容しきれていないだけ。
俺だって説明するのが難しい。魔素が濃いからじゃね?って言うしかない。俺が扱う魔法の説明なんて出来るわけがない。使えるから使えるんだと答えたら、きっと怒られるだろう。


そもそもこの郷は、なんでこんなに魔素が濃いんだろうか。



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