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第三章 学園・領主編

第十四話 襲撃事件3

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「ちょっと見てくる。お前らここにいろ」

 カインは冷たく言い放ち、その場で消えた。
 カインが消えたあとに残された三人は、足が吹き飛び逃げることもできない。

「スタッグ! 回復魔法を……」

 エライブが這うように動きながら、両足が吹き飛んだスタッグに叫んだ。
 今思い出したかのように、スタッグは回復魔法を唱えた。

「ヒ、ヒヒヒール」

 スタッグは自分の足の治療をまず行った。ただし、ヒールでは止血にしかならない。部位欠損の場合は、エクストラヒールが必要なのだ。しかも、スタッグは神に祈ることもせずに毎日、酒に浸っていた。
 ライムからの加護も剥奪され、現在はヒールしか使えない状態となっていた。

 エライブ、ベティの二人は、地面に血の跡を付けながら、這いずるようにスタッグに寄っていく。
 スタッグは順番にヒールをかけていった。
 三人とも回復魔法により止血は出来ているが、足はすでにない。エライブについては右腕もなかった。
 しかも自分たちの視界には、エナクを守りつつも、白い狼と銀色のドラゴンが視線を光らせている。

「あんなバケモノだったなんて……」
「ここまでとは……」

 エライブとベティがそう呟き、スタッグも同調した。
 三人とも後悔したがすでに遅かった。


 ◇◇◇

 血の海の中に倒れているダッシュとヒミカにカインは近づいた。

「あいつら、ここまでやるとは……」

 二人を仰向けに寝かせた。
 血を流しすぎたせいだろう。顔色は青白く意識はないが、僅かながら息をしていた。
 だが、すでに命の灯が消えそうになっていた。
 カインはすぐに回復魔法をかける。

『エクストラヒール』『エクストラヒール』
 
 二人が光に包まれていき、消え去ったあとには怪我が消えた二人が横たわっていた。
 完治したようで、息遣いも落ち着いていた。
 二人が無事だったことにカインは、安堵の息を吐いた。

「よかった……」

 二人の横に座って様子を見る。
 あれだけの血を流したこともあり、意識を戻すような状態ではなかったので、二人に触れ一瞬で転移する。
 転移した先は、領主邸の客室だ。
 意識のない二人をベッドに寝かせて、掛け布団を掛け、またすぐに転移する。

 転移した先では、回復魔法で傷口を塞ぎながらも、足がないことで逃げ出すこともできない三人が、固まって震えていた。
 無理もない、逃げられない状態で、狼とドラゴンに睨まれているのだから。
 突然現れたカインに驚き、そして畏怖し、三人が後ずさっていく。

「お前たち……何をしたかわかっているんだろうな……関係ないエナクたちを……」

 十歳とは思えない冷たい視線を三人に向けながら、カインはエナクに近づく。
 エナクはまだ意識は戻っていないが、安定した呼吸をしていた。
 エナクのそばでじっと待機していた、ハクとギンを撫でてあげる。

「ハク、ギン。見ていてくれてありがとう」

 ハクとギンにそう伝えると、両者ともカインだけにしかわからない笑顔を向けてきた。
 ハクとギンを送還したあと、眠っているエナクの隣に座って衛兵を待った。

 
 遠くから、集団の駆け音が聞こえてくる。
 次第に大きくなり、五十人ほどの衛兵が駆けつけてくれた。
 その後ろには、襲撃者を運ぶための荷馬車も追ってきた。

「領主様宅の襲撃者だ。気合入れてかかれ!」

 先頭を走ってきた衛兵隊長が、座っているカインに気づく。
 以前、猫の和み亭の前で土下座をした衛兵隊長だ。
 カインに気づいた隊長は、真っ先にこちらへ駆け寄ってくる。
 カインも立ち上がり、衛兵たちを出迎えた。

「領主様、お待たせいたしました。衛兵五十名、ただいま参りました」

 息を荒くしながらも、衛兵詰所から駆けてきてくれたことに、カインは感謝する。

「隊長、ありがとうございます。まだ家のホールに五十人ほどの襲撃者が気絶しています。そしてそこにいる連中が主犯です」

 カインが指さした相手を見た衛兵隊長が、目を見開いて驚いた。

「ま、まさかっ!? エライブ様に、スタッグ様、そしてギルドのベティさんまでも!」

 そして、三人とも手足が欠損した状態で、カインに対して震えているのを見て、衛兵隊長は唾を飲み込んだ。
 衛兵隊長は、カインに一礼してから、衛兵たちに指示を出し始める。

「二班から五班までは、屋敷に入り襲撃者たちを縛りあげろ。一班はそこにいるやつらを縛れ」

 四十人の大人数が、屋敷に向かい、ホールで倒れている襲撃者を縛り上げていく。残りはここで倒れているAクラスの冒険者と、エライブたちを順番に縛っていった。

「これは領主様が……」

 頭だけがない死体を見つけて隊長が呟く。

「こいつらは、僕が泊まっていた猫の和み亭にも押しかけて、両親を襲い、そこに寝ている子供を攫ってきて、人質にしようとしてた。今は回復魔法で安静に寝ているが、さっきまでは血まみれで意識もない状態だったんだ。両親も先ほど見つけて治療はした。もう少し遅かったら、助からなかったかもしれない。他にも負傷者がいるかもしれないから、確認してきてくれ」

 カインの言葉に、隊長が冷たい視線をエライブたちに向けた。

「こんな子供にまで手を出すなんて……。よし、五名ほど猫の和み亭の様子を見てくるように。負傷者がいた場合は保護し、泊まっている客も誘導してくれ」

 衛兵に指示を出しながらも、隊長の剣を持つ手が震えている。さすがに一般市民に手を出したことに怒っているようだ。
 屋敷の中に入って襲撃者を縛り上げた衛兵が、次々と外に運び出していく。
 運ばれてきたものの中から、カインは一人を指差す。

「この黒いフードを被っているのが、実行犯の主犯の一人だよ」

 カインはリックを指さした。
 衛兵は、倒れているリックのフードを剥ぐ。そして顔を見た衛兵隊長が驚いた。

「こ、こいつは、スラムにある闇ギルドのギルドマスターのリックです。指名手配されていたのですが、今まで捕まることもなかったのです。まさか……こいつらと仲間だったとは……」

 再度、隊長はエライブたちを睨めつけた。
 全員を縛り上げ一箇所に集めたことを確認した隊長は、カインに報告をした。

「全員縛り上げました。死亡者一名、他は重傷者多数ですが命の問題はないかと思います。これから
詰所の牢屋に運びます」

 隊長の報告にカインは頷いた。

「衛兵の皆さん、今日は遅くにこんなに集まってくれてありがとう。あと少しだから頑張ってくれ。これは少ないが隊長に渡しておく。あとで飲むなり好きに使ってくれ。これは僕からの気持ちだ」

 カインは金貨を数枚いれた小袋を隊長に渡す。
 隊長は驚きながらも中身を確認し、衛兵たちのほうを向く。

「お前ら! 聞いたか! 領主様から金貨をいただいたぞ!! これが全部終わったら勤務が終わったやつから飲み代を渡す。だから最後まで気を抜くな!」

 「「「「「「おぉ!!!!!!」」」」」」

 金貨と聞いて、衛兵たちは勢いよく返事をした。先ほどより動きは格段と良くなり、持ってきた荷馬車に次々と捕縛した襲撃者たちを乗せていく。

「これで、全て終わりました。猫の和み亭も確認が終わり、宿泊客については、宿屋はあの状態なのに、なぜか全員深い眠りについておりました。薬か何か使用されたのかもしれません。」

 衛兵隊長は代表して、カインに報告した。

「明日、詰所に顔を出すよ。数日間は牢屋に入れておいてくれ。あと、主犯の四人は王都に連行することになると思うからよろしく頼む」

「わかりました。明日お待ちしております」

 数名の衛兵が領主邸の警護にあたり、残りの衛兵たちが襲撃者を連行していった。
 最後にカインとエナクだけが残った。
 エナクを優しく抱き上げお姫様抱っこをし、屋敷に戻る。屋敷では、騒ぎで起きてきたメイドが、騒動で驚き、アタフタしていた。ホールには数十人の襲撃者たちが倒れていて、さらに衛兵まで入ってきたら驚かないほうがおかしい。

「もう、大丈夫です。明日話しますから、今日はゆっくり休んでください」

 カインは、メイドたちをなだめて、客間に向かった。
 ダッシュとヒミカが寝ている部屋の扉を開けると、すでに二人は目覚めていた。
 二人ともエナクが連れ去られたことで、抱き合って泣いていた。
 扉が急に開き、カインが入ってきたことに驚き、そして、カインがお姫様抱っこをしているエナクに気づいた。

「カ、カイン様……エナクは……」

 意識のないエナクを見たダッシュとヒミカは、もしかしたらと、最悪のことが瞬時に頭をよぎった。

「もう、全て終わりました。みんなには迷惑をかけてしまいましたね。申し訳ありません。エナクは無事です。今は意識を失っていますが、直に目覚めると思います。今日はこの部屋でゆっくりと休んでください」
 カインが頭を下げたことに恐縮しながらも、エナクが無事と聞いて、二人は胸をなでおろした。
 カインは、優しくエナクをダッシュに渡した。
 エナクの顔は怪我もなくスヤスヤと眠っているようで、ダッシュとヒミカはお互い涙を流して眠っているエナクを抱きしめた。

「「カイン様ありがとうございます」」

 頭を下げる二人に、カインは頷き、そのまま部屋を出た。
 部屋に戻り、着替えたあと、寝不足ということもあり、カインはすぐに意識を手放した。




 そして長い夜が終わった。



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 いつもご愛読いただきありがとうございます。
 とりあえず今回の騒動は一段落です。明日から後始末ですね。

 明日のストックがないのに、今日は飲み会になりそうです。
 お酒控えめで耐えていきたい。
 金曜日も飲み会なので、土曜日は当日分の下書きを・・・。
 かなりきつい状況になりそうです。
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