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調べ物と移動

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 そして翌日。ログインした自分は──

「なにもない、普通だ」

 何事も無くファストの宿屋にあるベッドの上で目を覚ました。ログインする前に何が起こっても良いようにと身構えていたのが滑稽に感じるほど普通のログインだった。いや、これが普通というか本来の姿なのだけれども。

(マスター、その様子では特に変わった事は無かったようですね)

 ルエットも、自分の一言で状況を察したのかそんな事を言って来た。そしてアクアが自分の頭の上にちび状態で鎮座する……本当に普段通りのログインだ。

「とりあえず、今日もここの歴史を調べてみようか。ヒントか何かあるかもしれないし……」

 装備を纏い、宿屋を後にする。そのままファスト役所に直行し、歴史を調べられる場所を教えて貰う。その途中でアクアにはご飯を与えて、街の外で自由に運動してもらう事にする。調べものなんて、調べている本人以外にとっては退屈極まりない物だからね。

(では、さっそく調べてみましょうか。何か情報があればよいのですが)

 ルエットと時々念話を交わしながら資料をあさるように調べる。そうして分かった事は、ファスト、そしてネクシアに円花を持っていたと思われる人物は居そうにないと言う事だ。というか、最初にファストに来ればサーズも含めたこの世界における人族の歴史を調べる事は可能だったのだが──まあ、いい。これでネクシアはスルーしても問題はなさそうだ。もちろん、調べてみた歴史の中で魔剣使いが居なかった訳じゃない。ただ、斧であったり槍であったりと、明らかに円花に通じる点が無いので除外していいだろうと言うのが自分とルエットの意見であるだけだ。それに魔剣使いは人数が少ないから、調べるのにかかった時間は比較的少ない。

(マスター、これは私の予想なのですが……円花さんは以前、持ち主が転々としたと私に言っていた過去があります。そこから想像しまして、その言葉は各種族に一度は使われたと言う意味も含まれていた可能性が否定できません。ですので、やはりマスターにはもう一度世界を巡って頂かなくてはいけないでしょう。そして向かった先で情報を集め、該当する可能性がある国にはしばらく滞在して様子を見る。そうすれば、円花さんのトラウマと再び向き合う機会が巡ってくると思います)

 ふむ、ルエットも世界をもう一度巡る必要があると言う結論を出したか。円花とあの闇さまと呼ばれるダークエルフの守護神とされている存在から聞いた話から、使い手を転々とした円花の旅を終わりにした場所はダークエルフの近辺である事は言うまでも無い事だ。その後拾われて使われた? という部分がはっきりとはしないのだが、そこを確認するのは一番最後だな。この円花の一件の展開によっては、闇さまの所で最悪一泊することになるかもしれないのだが、その時はその時って事で。

「とにかく、人族のエリアにはもう円花の使い手と思われる人物の確認は取れないな。ならば次は……気が少し重いが、妖精国に行く必要があるな。まあ流石にもう落ち着いたとは思うのだが……」

 資料を片づけながらそうぼやく。フェアリークィーンとはいろいろあったからなぁ……ああ、本当に色々あった。まあそれでも行かないと言う選択肢はない。それに、今はクィーンも過去の暴走気味の様な感じは薄れてかなり落ち着きを身につけているから、過去の様なごたごたは起きないだろう。以前は呼んでもいないのに押しかけて来てドタバタ劇を何度も演じる事になった訳だが。。

(私の元・本体の事ですね。本当に、申し訳ありません)

 ルエットに謝られても、それはそれで対応に困るのだが。ルエットに非は一切ないし……責める気も無い。

「ああ、うん。まあそれはいったん横に置いとくとして、歴史書の大半はやっぱり王城にありそうなんだよね。もしかすると内陸街にもありそうだけど、二度手間になりそうな気もするし」

 二度手間ってのは本当に疲れるんだよね、だからこそ調べ物は一回で済ませたいと言うのが本心だ。

(そうですね、やはりここは王城に向かうべきでしょう。マスターなら顔パスでしょうし、今回調べたい事は機密には当たらないと思いますし)

 過去の魔剣使いを調べるだけだからねえ……もちろんその魔剣の内容次第では機密に引っかかるかもしれないが、その時は諦める。ごり押ししたい訳でもないし……もちろん調べる事が出来れば、あの夢の世界? に飛ばされた時に対処しやすくなるはずだから、情報は出来るだけ得ておきたい。まさか毎回毎回人族の円花を使っていた奴の様な芸も無い強さも無い、ただ欲望に狩られて剣を振り回しているだけの様な三下ばっかりという事はないだろう。むしろ、アレは例外で、今後は手ごわい相手が出てくる可能性の方が高いと予想を立てている。

「行くついでに妖精国の様子も見物するか。極端に時間に追われて急ぐ必要のある旅でもないし、困っている人が居たら手助けする位の事はしないと」

 久々の妖精国行きとなるのだから、円花の一件だけ終わらせてさっさと退去すると言うのもつまらない。久々に南側の砦街に顔を出してみるのも良いだろう。後はゼタンの所にも顔を出してみるか、あの学校ももしかしたらまた変わったかもしれないし。

(そうですね、それにマスターの世界でも急いては事を仕損じると言うそうですから、変に急ぐとかえってとんでもない失敗をするかもしれません)

 ──だな、そこらへんはルエットと同意見だ。こういう事は焦らず確認しながらやらないと。工場の機械運用と同じだ。とは言え。

「わざともたもたする理由も無いかな。今日はまだ時間もあるし、妖精国の王城まで一気に行ってみようか」

 そうしてファストを後にしてアクアに跨って走ってもらい、ネクシアをスルーして、妖精国の砦街入り口にて入国審査を受ける。

「──確認しました、どうぞ!」

 まあ審査に引っかかる要因はない。それに並んでいる人も少なかったのですぐに入国できた。そのまま砦街を出て、人気が無くなった所で久々にアクアには本来の大きさに戻ってもらい、空路で妖精国城下町の近くまで一気に移動してしまう。この移動速度が出せるのは本当にありがたいんだよね。空輸業とかできそう、ただその場合は妖精国の神鳥扱いされているアクアことピカーシャをこき使う事になる訳で……うん、余計なトラブルの元になりそうだからやっぱり無しで。

 そんなアクアのお蔭であっという間に妖精国の城下町に到着。アクアには再び小さくなって貰って頭にのせて、審査を受けて門をくぐり、王城を目指す。今日も城下町は賑やかだ、かつてゲヘナクロスと戦い、受けた傷もかなり癒されてきているのを感じる。活気なんてものは、出せと言われて出せる物じゃない。ただ、そう言う場所にはちょっと困った奴も交じるようで……

(円花)

 円花にお願いして、ある小走りをしている妖精族の女の足を引っかけて転ばせる。何もいたずらをしたって訳じゃない、この女の正体は……

「やっと捕まえたぞこのスリが! 今までにお前に金を盗まれた人々への賠償をさせるからな!」

 後から追って来た騎士達の声で、周囲の人も状況を察した様だ。ちなみに自分があの女をスリであると見破れたのは、一瞬だが追い抜きざまに歩いている人の懐に女スリが手を突っ込んだのを偶然見たから。戸惑いや無駄の無い動きから、こいつは常習犯だと予想して足を引っかけて転倒させることで動きを封じたのだ。ちなみに騎士が来なければ自分が捕縛するつもりだったが、今回は近くにいて動いたことを感じ取れたので譲ったに過ぎない。《危険察知》はいい仕事をしてくれる。

「クソッ、誰だいアタイの足を引っかけた奴は! こんなトロイ奴らに捕まっちまうなんて……」

 やれやれ、こういったちょっとした悪党はどこにでもいるなぁ。ま、後は任せてしまっていいだろう。騎士の皆さんは毒ナイフのような暗器に注意しながら捕縛し終えたようだし、こっちが手を出す必要は感じられない。彼らの様に油断していない騎士ならば、女スリに逃げられてしまう事も無いだろう。

(マスター、お見事です)

 ルエットの賞賛にありがとうと返して王城を目指す。まあ、義賊頭の自分が近くにいたのが運の尽きって事で。
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