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第5章

海松藍の伝承

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*みるあいのでんしょう*



青き空が宵闇に染まるとき 尊き血は失われ 大地は乾き死を招く

尊き源枯れるまで 嘆きを止めぬ愚か者

異なる血を抱きしもの 輝き放ちて大地を潤す



ハイエルフ族に伝わる古い言葉。
美しい水をたたえる地底湖のほとりに、その言葉が刻まれた石碑があった。ハイエルフだけが解読することの出来る特殊な文字で刻まれた伝承とやらは、読んでも意味がわからない。
俺は考古学者じゃないんだ。専門的な言い回しも抽象的な言葉の意味もわからない。だが、想像することは出来る。予言というよりも、こうしたほうがいいんじゃない?っていう忠告のような気がするのは、最後の一文。

「ここで大地は乾くって書いてあるのに、こっちでは大地を潤すになっている」
「よう気付かれましたな」
「最初の二行で悪いことばかり言っているのに、最後の一行ではその解決法になっているような?」
「流石!」

俺の隣でぱちぱちと手を叩いて喜ぶアーさんは、ハイエルフ族しか近づくことを許されていないこの地底湖に連れて来てくれた。クレイとブロライトは留守番。プニさんは何処かに散歩しに行ってしまった。

大樹の地下にあるこの地底湖。ボルさんの住処ほど広くはないが、底は深い。松明の光に照らされ、大樹の太い根っこが水底まで伸びているのが見える。
湖の中央が少しだけ盛り上がっているのは、あそこから湧水が出ているのだろう。少しだけ湿気を感じる。だけど、嫌な感じはしない。後で調査スキャンさせてもらおう。

碑文を俺に見せたところで解読なんて出来ないと思っていたが、俺には前世の知識がある。サスペンス映画やドラマを見て、こういった例え言葉の解釈はなんとなくわかるようになった。
あくまでもなんとなくだから、うかつなことを言わないように気を付ける。

「タケル殿はとても博識であらせられるのでございまするな」
「そんな舌噛みそうな丁寧な言葉遣い止めてくれるかな。博識なんて滅相もない」
「ご謙遜を。この碑文を一目見て読むことが出来るなどと、相当なご努力を成されたのでしょう」
「ほんと止めて」

努力なんてしていませんよ。
ただ読めるだけなんです。
世界言語とかいう、恩恵と言う名のずるっこなんです。

「この、えーと?異なる血を抱きしもの、輝き放ちて大地を潤す…この部分かな、俺が救い主って言われる所以は」
「左様でございまする」
「言葉遣い」
「さ、左様」

馬鹿丁寧な言葉遣いを止めてもらい、ついでに俺のことを神様か何かのように崇めるのを止めてもらった。ずっと頭を下げたままの侍女や侍従達にも顔を上げてもらう。
このハイエルフ達はアーさんのお傍要員らしく、おはようからおやすみまでずっと傍に仕えているらしい。時々アーさんを抱っこして移動するからちょっと微笑ましい。全員綺麗な顔しているから、いちいちまあ素敵、とか反応してやるのも疲れる。

「俺は大地を潤したわけじゃないだろ?濃い魔素を吸い込む魔道具マジックアイテムを作っただけだし、あのオレンジダイヤは大地を潤すというよりも、除湿……呼吸がしやすくなっただけ」

大地を潤すって言葉は、一行目の『大地は乾き死を招く』に引っ掛けているんだ。

「大地を潤すイメージっていうか、これは俺の想像なんだけど」
「想像でも構いま…構わぬ。タケル殿の考えを伺いたい」

言われ、胡坐をかいて碑文を指さす。

「大地は乾き死を招くっていうのは、えーと、乾くっていうのは土地が干からびるというか、何かが失われるって意味にも思えないか?特に、この死を招くってところ」
「では、尊き血というのは」
「これはハイエルフ族に伝わる言葉なら、ハイエルフ族のことを言っているんじゃないかな。この石碑はずっとここにあったんだろう?」
「左様」
「青き空が宵闇に染まるとき、っていうのは昼から夕方になるって意味だよな。つまり時間の経過」

時間が経つにつれ、ハイエルフ族が死んじゃうってことかな。
これはうかつに言えなかったが、敏い彼らならわかるだろう。

「やはり我らは滅ぶのか…?」
「おお…リベルアリナよ」
「執政さま…」

ざわつくハイエルフたちは小さなアーさんに縋りつき、悲しみに暮れている。碑文の解読は彼らもやっていたのだろう。俺に別の見解を求めたのかもしれないが、答えは同じだった。
『尊き源枯れるまで 嘆きを止めぬ愚か者』っていうのは、一族が滅んでしまうかもしれないのに、何かを止めないなんてバーカバーカ、ってことだよな。
何を止めないんだろうか。一族が滅んでしまうような何かをやり続けているってことだよな、きっと。

「アーさん、この三行目の言葉だけど」
「うむ」
「異なる血を抱きしものっていうのは、やっぱりハイエルフ族以外の種族のことじゃないかな」
「我らもそのように解釈をしておる」

そう言うとアーさんは視線だけで取り巻きのハイエルフたちを下がらせた。
地底湖に二人きりになると、アーさんは深く息を吐き出す。

「我ら一族の掟は薄々知っておろう」
「他の種族を近寄らせないんだっけ」
「左様。ハイエルフ族は特に多種との繋がりを隔て、尊き血を守ることを重んじる」

ハイエルフが珍しい種族だってことはわかったが、俺のよく知っているハイエルフ代表がブロライトだからな……。どうにもこうにもアレのイメージが強すぎる。
先導するアーさんに連れられて外に出ると、空は茜色に染まり始めていた。ログハウスから煙が立ち上り、そろそろ夕飯だと知らせている。

「ピュイ、ピューィ」
「うむ、腹が減ったな」

ビーの鳴き声にアーさんが返答した。

「アーさん、ビーの言葉が」
「少しだけだがな。言わんとすることがわかるようになった」
「ピュピュ」

警戒心を解いたビーがアーさんの頭に飛び乗る。子供サイズのアーさんの頭はビーが飛び乗ると全て隠れてしまう。爪を立てないようにさせ、歩き出したアーさんの後に続いた。
魔素が薄れた郷ではエルフ達が晴れ晴れとした顔をしていた。やはり濃すぎる魔素はエルフ達の身体にも悪影響を及ぼしていたらしい。

「タケル殿、明日は我が母であらせられる国王に逢うてはくれぬか」
「国王様はアーさんのお母さん?ということは、ブロライトのお母さんか」
「ハイエルフ族すべての母だ」

ハイエルフ族の王様は女性。つまりが女王。そんな凄い人に一介の冒険者である俺が逢ってもいいのだろうか。
ドワーフ王国の国王様にも逢ったことのある俺だが、あのちみっこ王様は恐れ多いっていう言葉と縁がないじゃないか。エルフとハイエルフを統べる女王様だろ?まさしく女王様っていう感じなんだろうな。
鞭とか持っていたらどうしよう。


+++++


日も暮れたエルフの郷で泊まることとなった。
アーさんは王宮にある客室に泊まれと言ってくれたが、俺としてはギルドに隣接している宿屋が気になったのでそっちで。
だって宿屋の奥から煙が出ているんだもの。独特の煙。

「ああああぁあぁぁあああ〜〜〜〜」

乳白色のほどよい熱さのお湯に肩まで浸かると、自然と漏れる声。この声があってこその温泉だと思うんだ。
そう。エルフの郷の小さな宿屋には露天風呂があったのだ。これを見つけた時の俺は正直泣いた。膝をついて男泣き。恥とか知らない。独特の硫黄の匂いを嗅いだ時にこれはまさかと震えた。
エルフ達は薬の湯と呼んでいるが、これはまさしく温泉。しかも岩風呂なんだよ。露天で岩風呂なんて最高じゃないか!

「どわああぁぁぁあああ〜〜〜〜」
「やかましい。黙って入っていられんのか」
「いやいや、これは声出るだろ。出すべきだって」
「ピュヒィィィ〜〜〜」

マイ桶に湯をはって湯船に浮かせば、ビー専用の湯船の出来上がり。
ビーも俺に習って嬉しそうに湯を楽しんでいる。

「これがお前が申していた風呂なるものなのですね」
「わたしもこの湯は大好きなのじゃ!」

はいはい、ちなみに完全混浴です。
えっ?何想像しているの。着 衣 の ま ま ですよ。浴衣のような、絶対に透けてなるものか、っていう素材で作られた服を着ています。残念。いやいや、混浴しているのがブロライトとプニさんだから嬉しさはかなり減る。
しかし景色としては素晴らしい。見た目は白い肌の美女が二人もいるのだから。髪を後頭部で一つに纏めたうなじの滑らかさに思わず黙ってうなずく。うなじ素敵。

ちなみにクレイは人の女性の肉体に一切興味は無いそうだ。枯れているとかではなく、リザードマンはリザードマン同士にしか食指が動かない。人がリザードマンを見て何とも思わないのと同じことらしい。

「エルフの伝承も気になるが、それよりもブロライトのお姉さんだろ」
「あっ」
「あじゃねーよ。本来の目的を完全に忘れていたな」
「しかたなかろう!貴殿の力により、郷を渦巻く魔素が消えたのじゃから」

魔素が完全に消えたわけではない。濃い魔素は今でも生まれ続けている。
もう手を出してしまったから原因解明するまでサヨナラ出来ないだろうなあと思いつつ、本来の目的も忘れてはならない。

「ブロライトが郷の掟を破ってまで外の世界に出かけていたのは、もしかしたら郷の現状を嘆いて?」
「それもあるが、ほとんどが興味本位じゃ」

ですよねー。
それでもハイエルフ族が郷の外に出るということは、掟以前に恐怖心のほうが勝るらしい。座敷猫が外の世界を知らずに育つように、ハイエルフも完全温室育ち。ハイエルフのためだけに仕えるエルフに守られ、蝶よ花よと暮らすらしい。そんな純粋培養がよく外の世界に興味を持ったな。

「異なる血を抱きしものというのは、もしかしたらば外の世界のものを言うのではなかろうかと兄上が言うてな」

執政であるアーさんがブロライトの行動に目をつぶり、外の世界に行くことを咎めなかった。しかしそれは同時に保守派のハイエルフやエルフ達の反感を買い、掟破りの忌むべき者として嫌われるようになったのだと。
だからアーさんはブロライトに対して罪悪感を抱いていたんだ。全ての負の感情をブロライトが黙って受け止めていたのだから。

「タケル、クレイストン、わたしは忌むべき者ではあるが、それでも構わぬ。わたしの判断で貴殿らに出会うことが出来たのじゃ。悔いることなど無かろう」
「それに関してはブロライトの行動に感謝するよ。ブロライトに逢わなかったら、エルフの郷に来ることもなかっただろうからさ」
「ピュイ、ピューイィ」

もうブロライトが郷の掟を破ったからどうのこうの、っていうのはいいんだよ。
それよりも大切なのは、ブロライトのお姉さんの行方。それから濃すぎる魔素の発生理由。そしてエルフ族に伝わる言葉の意味。

あれ。


目的が三つに増えてた。






+++++

また無駄に長くなりすぎたので、強制的に切らせてもらいやんした。

まっぱの混浴よりもタオル一枚で隠された濡れた素肌のほうがときめきませんか。
あの、見えそうで見えないぎりぎりの攻防戦。

おっと全年齢。
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