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円花の悪夢 第二幕その一

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 翌日の夜。会社から帰って食事を済ませて雑務も済ませていざログイン。そして予想通り、目覚めた場所は妖精城の中ではなかった。二回目だし、心構えもできていたから驚くことはない。

(木の天井……壊れかけの小屋か、ここは)

 目覚めた場所から見渡してみれば、壁のあちこちにヒビがいくつも入ったいつ崩れてもおかしくないほったて小屋みたいな感じの場所だった。壁にはいくつもの穴が開いていて外が良く見える。自分が寝っ転がっていたのは乾草の上だった様だ。このまま横になっていても仕方がない、とりあえずは状況確認だな。

(今回も防具は大丈夫だが武器は全部ない、と。指輪も左右どちらも無いか……アイテムボックスには今回アイテムが入っているな。ハイレア等級のHPを回復させるポーションが十、解毒剤が五。レア等級のHP回復ポーションが十五、解毒剤が七、そしてMP回復ポーションも五あるのか。ポーションがずいぶん多い上に、解毒剤が必要となるって事ね……嫌な予感しかしませんよ。そしてかなり優秀なロングソードとスネークソードも一本づつ入っているな……これはどういう事だろうか?)

 今回も使えるスキルは 〈砕蹴〉〈百里眼〉〈技量の指〉〈蛇剣武術身体能力強化〉〈ダーク・スラッシャー〉〈義賊頭〉〈隠蔽・改〉となっている。やっぱり一番使って来ている弓系統のスキルが封印されるのがきついなぁ。文句を言っても始まらないのだが。とにかく、使える物はこれで全部と分かれば、さっさと行動を開始しよう。というかここに長くいたら崩れて来て生き埋めになって死亡、何て事になりそうで怖い。

(さてと。おそらく、そう遠くない場所にあの妖精族の英雄二人が居るはずだ。出来るだけ気配を消して近づき、まずは様子を見たい所だ。後の行動はそれから決める事にしよう……とにかく、早合点だけはやっちゃいけない)

 予想と真実が全く違うなんてのは良くあることだから、こっちの事前予想……スネークソード使いの英雄が片手剣英雄を殺傷したのでは? が外れる可能性は十分あり得る。とにかく、まずは二人を見つけてどう接触するのかを確認しなければ。幸い目覚めた小屋を出てからは背が高い岩や姿が隠せるぐらいの大きさがある木がいくつも有るので、〈隠蔽・改〉を生かしやすい環境にあるのは救いだ。〈百里眼〉と《危険察知》を使って、周囲の様子をつぶさに調べる。

(動物やモンスターの反応は周囲に全くなし、か。そしてターゲットらしき反応もまだみつから──いや、何かの反応があった。ここから南東方面、川の近く。他には何の反応もないし、近寄ってみるしかないか)

 周囲にあまり障害物がないのだが、見つかった手がかりを調べないと言う選択肢はない。足音を立てず、息を殺してゆっくりと反応があった場所に向かう。そうして〈百里眼〉が反応のあった存在を捉える。鎧姿だがあれは間違いない、片手剣の英雄だな。剣も帯剣してるし、あの資料にあった鎧も一致した。そして肝心の魔剣だが……アレは違うな。円花じゃない別の魔剣だと言う事が感覚で分かる。おそらくこの感覚は、自分と一体化している円花が教えてくれているのだろう。と、もう一つ《危険察知》の範囲内に反応が発生した。その方向に視界を向けると、あれはスネークソードの英雄のようだな。〈百里眼〉のお蔭で近寄らずに確認ができるのは嬉し──まて。

(あのスネークソードは……魔剣であるのは間違いなさそうだが、円花じゃないぞ!? どういうことだ? あの二人のどちらかが円花を使った過去を持つ人物じゃないのか? しかし、右手から感じる感覚、円花からあの魔剣は円花じゃないって言っている気がするから多分間違いない。じゃあ、『この時代の円花』はどこにあるんだ? あの二人は関係ないのか? いや、関係がなかったらこの世界に自分が飛ばされるはずがない。どういう事なんだ?)

 そんな事を考えているうちに、スネークソードの英雄は片手剣の英雄に近づいていく。もしかすると、何か会話を行うのかも知れない。そうなるともっと近づかないと……ここからでは声を拾う事が出来ない。遠くの声を聞く事が出来るスキルは持っていないのだから仕方がない。〈隠蔽・改〉を発動し、物陰に隠れながらできる限り二人に近づく。MPの消費が激しいが、MP回復ポーションを飲むことでなんとか乗り切った。最終的に自分は草むらの中に身を隠してから〈隠蔽・改〉を切って聞き耳を立てる。どうやら会話はすでに始まってしまったようだが、今からでもしっかり内容を聞かないと。

「──と、言う感じだ」

 ここに来るまでに時間がかかったせいか、スネークソードの英雄の話は殆ど聞けなかったか。

「いや、上出来だろう。これで今の戦争推進派である妖精王は王の座を去り、新しき戦争反対派である妖精王がその場に座ることになる。それで長く続いたこんなくだらない戦争はようやく終わる。お前が戦場で悪党だなんだと罵られるのもようやく終わる訳だ。本音を言うとな、お前には負担をかけ過ぎていると常々思っていた。俺ばかりが慈悲の心があるだの優しいだのと良い評価を貰う一方で、お前は残虐極まりない、狂っているなどとの評価を敵からだけでなく身内からも得る事になってしまったし、おそらく歴史においてはお前のその悪名は永久に晴れない。申し訳ないなんて言葉では……謝罪しきれん」

 なんか、色々とおかしいぞ? この二人は不仲だったのではなかったのか?

「仕方ねえ、今回はどうしても悪名を被る奴が必要だったからな。俺のような悪党がもう暴れる機会を得ない様にすると言うバカバカしい理由も、今までの暴走して来た妖精国が戦争を終わらせる理由の一つにしなきゃ止まらなかったんだからよ。それに、お前が慈悲の心を持つ奴を演じた事で、妖精国にも残虐非道な奴らばかりではないというアピールを他種族にできた。後の世の中から見てみりゃ穴だらけで下手くそな策だと言っても、俺とお前の二人……そして戦争を止めたかったあの方の意思を実現させるには仕方ねえ手段だったって事さ。そして、戦争が停戦を迎える事はもう確実な流れだ。後は俺が悪逆非道のふるまいをして来た責を取って国にこの首を差し出して、新妖精王が妖精国の戦争を止める意思を各国に示せば、ある程度他国民の溜飲を下げさせることもできる。覚悟ははじめっからできてたんだからよ、お前はもう気にすんな。むしろ今後が大変だぜ? そこから一抜けさせて貰うんだ、命ぐらいは支払わなきゃよ」

 なに? つまりこの二人は戦争を終わらせたかったって事? そしてスネークソードの英雄があえて相手を残虐に皆殺しという方法を取って殺してきたのも、おそらくだが国内にいくら戦争と言えど、あからさまにやり過ぎだとかの声を上げる人内外に増やし、今の妖精王を失脚させる手段の一つにしたって事? えーっと、つまりそう言った兵士の行動を諌める事が出来ない妖精王に無能の烙印を周囲に押させる為の行動だったって事か? ろくに兵士をコントロールできず、暴れさせる事しかできない王となれば、そりゃ国民は不安になるか……それに降伏しても皆殺しにされるぐらいなら、と相手を徹底抗戦状態に持ち込んでしまった場合は……その後戦争に勝ったとしても、その土地の統治は非常に難しい物になるのは自分でも分かる。反発に反乱を引き起こすだけだ。力で抑えようとすれば、より強い力で反発してくるのはたやすく予想できる。

 そうならない様に新しい妖精王を着かせて戦争を終わらせ、そして悪逆非道の者を裁かせれば……ふむ、それだけで国民や周囲の国に対する印象は良くなる可能性はそれなりにある、か。で、その国の為に捨て石となる為にスネークソードの英雄は今まで動いてきたと。恐らく、スネークソードの英雄の部下もそれは覚悟の上なんだろう。もしくは、もうすでにスネークソードの英雄が部下を直接始末した、か。そこまでは調べなかったな……本当にぷっつりと話というか歴史の舞台上から消えちゃってたもんな。と、なんだ? 《危険察知》が複数の存在を察知した。──数は百近く、そしてこっちに近寄って来る。幸い自分の草むらを通過するようなルートではないけれど……モンスターじゃなさそうだ。

「なんにせよ、これで俺達が潜伏する時は終わりだな。後はお前を捕まえたと言う形で新しい妖精王にお前を連れて行くことになる……お前の分まで、今後の妖精国の為に働くとここに誓おう」

 片手剣の英雄の言葉に、スネークソードの英雄が「ああ、頼んだぜ相棒……先に行っているからよ、お前はゆっくり来い」と返答を返し、片手剣の英雄が縄でスネークソードの英雄の手を縛り上げようとするその時だった。

「いえいえ、その必要はありません。貴方達はここで死んで頂きます。英雄同士が戦争がなくなり、殺し合うと言うのはよくある事……ええ、そしてここで貴方は死に、貴方は殺人鬼として歴史に名を残すのです。それが妖精王の座を追われる事になったあの方へのせめてもの償いでしょう? 我が王も、貴方の事を殺したくて仕方が無かったが、戦果を挙げてくる以上首を取る事が出来ずに苦虫をかみつぶしていましたよ。ですが、それもまさか計算の上で残虐行為をやっていたとは……そうと知れば、さっさと首を飛ばしておくべきでしたね」

 と、後からやってきた団体を率いる指揮官らしき男が姿を見せるとほぼ同時に二人の英雄に告げていた……しかし、自分の目はその指揮官の言葉よりも、腰に刺さっている件い目を奪われていた。あれだ、あれがこの時代に存在していた円花だ! 見つけたぞ……つまり、今回倒すべき相手はあの指揮官と後ろにいる妖精の兵士達、か。
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