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第三章 学園・領主編

第二十一話 白狐姉妹

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  カインは四肢を欠損した姉妹から目を離せなかった。

 コランはカインの暴走的な言葉に呆気にとられ、口を大きく開けて驚いている。
 サンダラマールも、まさか四肢に欠損のある姉妹をいきなり購入すると言ったカインに驚いた。
 そして言われた姉妹たちが一番驚いていた。姉は一人で立つこともできず、妹も十歳にして片腕がない。
 そんな姉妹に対して、目の前にいる貴族の子供が買うと言い放ったことに。

「カイン様! そんないきなり決めるなんて。しかもこの子達は四肢に欠損が――」

「いいんだ。これは僕が決めたことだから」

 カインはコランに目もくれず、ただ二人の少女を見つめている。

「――はい、わかりました」

 カインの常識外れな行動については、コランも理解していた。またきっと考えがあるのだろうと納得し、素直に頷いた。

「シルフォード卿、本当によろしいのですか?」

 横から、サンダラマールが声を掛けてきた。さすがに商会長として、欠陥がある奴隷を買うと言い始めたカインを心配をした。

「うん。その前に二人と話をさせてもらってもいいかな?」

 カインの視線は部屋の中にありながらも、サンダラマールに問いかけた。
 その言葉にサンダラマールは頷き、懐からだした鍵で格子扉を開けた。
 扉が開かれたことによって、姉妹の顔に緊張が走る。

「どうぞ。宜しければ一度、話してあげていただけますか。それから決めていただいてかまいません」

 カインは格子扉を潜り部屋に入っていく。カインの行動に姉妹は驚き、肩を寄せ合い震えている。
 姉は妹を守るように手を回して、カインのことを睨みつけた。
 二人の前にゆっくりと進み目の前に立つと、カインは二人に視線の高さを合わせるためにその場で膝を付き、笑顔を向けて話しかけた。
 二人はカインの行動に少し驚いてしまった。貴族と思われる子供が、わざわざ二人に視線まで合わせて、笑顔を向けてきたのだ。

「二人とも、僕の家に来てくれるかい? 身体が不自由なのは気にしなくていい。二人一緒に是非きてもらいたいんだ」

 カインの問いかけに萎縮した白狐族の姉妹は、一度、顔を合わせたあと、カインの純粋な笑顔に向かって、緊張した顔つきで僅かだが小さく頷いた。

「頷いてくれてありがとう」

 カインの優しい言葉に、二人とも少しだけだが表情が和らいだ。

「少し待っていてくれるかい? これから契約を済ませてくるから。それが終わったら一緒に帰ろう」

 カインは二人に告げた後、振り返り部屋を出た。

「シルフォード卿、本当に宜しいのですか?」

「うん、構わないよ。今日二人を連れて帰れるように用意してくれるかい?」

「はい、それはもちろん。すぐに準備いたします。契約の準備を致しますので、先ほどの応接室までご案内いたします」

 カインとコランは、サンダラマールの後を歩き、先ほど通った奴隷達の居室を通り抜け応接室に戻った。
 サンダラマールは、職員に白狐姉妹の準備をさせるように指示し、契約書の作成を始めた。
 この国は、奴隷は契約によって結ばれており、双方の合意があって成り立っている。契約書には、奴隷、奴隷商、購入者の三者のサインが必要となっている。奴隷商にも神棚が置いてあり、契約を交わした後に契約書を供えると消えて神の世界に行くと言われている。但し、犯罪奴隷に関しては除かれているが。

「シルフォード卿、たしかに姉妹は保護したという関係で購入費用はございません。ただ、この奴隷商で二年間過ごしておりました。教育費や食費がかかっております。その費用だけでも精算させていただいてよろしいでしょうか。二人で金貨一枚と大銀貨四枚となりますが」

「うん、それについては問題ないよ。逆に、そちらの儲けがなくなってしまうのではないかな?」

 カインはサンダラマールから提案を受けた金額では、ほとんどが経費で消えてしまって儲けがでていないと思っている。

「それは構いません。このままここにいても姉妹は変わりませんし、先ほど少しだけですが、姉妹の顔が和らいでいました。きっとシルフォード卿ならなんとかしてくださるだろうと思っております」

 サンダラマールは出来上がった契約書をカインに渡す。カインは手渡された契約書の内容を確認し、コランに手渡して再度確認させた。

「カイン様、契約については特に問題はございません」

 コランの言葉に頷いたあとに、サインをし、懐からテーブルに金貨二枚を置いた。

「代金はこれで。お釣りはいらないよ。身体に欠損のある姉妹を二年間に渡って面倒を見ていることに対して、あなたの心意気を感じましたから」

 その言葉でサンダラマールは僅かながら微笑んだ。すぐに表情を戻してしまったが。

「わかりました。シルフォード卿のお気持ちを確かにいただきました」

 代金を受け取ったサンダラマールは、カインに一礼し、姉妹の用意をするために部屋を退出した。

「コラン、ごめんね。どうしても二人を購入しないといけない理由があったんだ」

 カインはソファーに座ったまま、後ろに立っているコランに話しかけた。

「カイン様、私はカイン様の考えていることはわかりません。ただ、カイン様の進む道をお手伝いするだけです」

「コラン、ありがとう」

 コランにお礼を言ったあと、用意されていた紅茶に口をつけた。


 少し時間を置いて、サンダラマールに連れられた姉妹が部屋に入ってきた。もちろん姉は両足がないので歩けるはずがない。職員に抱きかかえられながら部屋に入る。
 ソファーに座らされ、サンダラマールから契約についての説明を頷きながら聞いている。
 先ほどまでの服装とは違い、二人とも平民が普段着ているようなワンピースを着ている。長い髪も綺麗に梳かされており、カインは二人の横顔を見ていた。
 二人は納得できたようで、共にサインをしていた。

「これで契約が完了いたしました。これからお世話になるシルフォード子爵家の当主、シルフォード卿だ。二人とも挨拶するといい」

 二人はサラダラマールからカインの方を向いた。妹のほうは片方しかない左手で、姉の腕を掴んでいる。やはり緊張しているようだ。

「ご主人様、姉のルーラになります。隣にいるのは妹のローラです。二人とも身体の欠損があり、何が出来るかわかりませんがよろしくお願いいたします」

「ローラです。よろしくお願いします」

 二人はカインに頭を下げた。

「カイン・フォン・シルフォード・ドリントルだ。二人ともこれからよろしくね。馬車で来ているから一緒に乗って帰ろう」

 カインは笑顔を二人に向ける。まだ二人とも緊張しているようだが、部屋にいたときよりも随分いい顔になっていた。
 サンダラマールに案内されて、商会を出て馬車に乗った。姉のルーラは職員に馬車に乗せられ、ローラは隣に座る。

「では、週末にドリントルにお伺いできるようにいたします。本日はありがとうございました」

 サンダラマールと職員が並んで礼をする。

「うん、その件についてはよろしくね」

 御者のコランの一声があり、馬車が出発した。
 カインの対面に座った二人は、貴族の馬車に初めて乗ったことで内装が気になるらしく、視線が落ち着かない。コランは御者をしているので、馬車の中は三人だけだ。
 それでも姉妹は緊張からか密着し、手をつないだままでいる。
 外は日が傾き始め、街は仕事から帰る人や、買い物をしている人で溢れている。その中を馬車は屋敷に向かって進んでいく。

「君たち二人を引き取ったのはね、申し訳ないけど商会で鑑定させてもらったからなんだ」

 カインは二人に告げた。その瞬間に姉のルーラが一瞬緊張する。
 妹のローラはわかっていないようで、少しだけ身体が固くなった姉の顔を見上げた。

「あとは、そのうち落ち着いたら話をするよ」

 カインはそれだけ言うと、馬車の窓から見える街並みを眺めた。
 馬車は、貴族街に入り、大きな敷地に立つ屋敷が並んでいる通りを進んでいく。妹のローラは、その屋敷の大きさに驚き窓の外をずっと眺めている。
 そして、衛兵が立っている門を通り、屋敷の前に馬車を止めた。

「屋敷につきました。私がルーラさんを運びますね。部屋の準備がありますので、一度応接室にご案内いたします」

 カインは、問題なくルーラのことを抱きかかえることが出来るが、コランに任せた。
 コランがルーラを抱きかかえ、屋敷に運んでいく。シルビアもいきなり白い髪をした娘二人を連れて帰ったことに、一瞬動揺したがすぐに持ち直しコランの手助けをしていた。コランとシルビアが応接室に案内して、姉妹を座らせる。テーブルには紅茶とお菓子を置いてくれた。
 カインは二人の対面に座り、置かれた紅茶に口をつける。相変わらずシルビアが淹れてくれた紅茶は美味しかった。
そんな様子を姉妹が眺めている。妹のローラは目の前に置かれたお菓子のほうに意識がいっている。

「二人とも紅茶を飲んでいいよ。お菓子も食べていいから」

 その言葉で、ローラは、緊張しながらも、お菓子を一つ手に取って口に入れた。
 口の中に広がる甘さで、一瞬にしてローラは笑顔になった。

「――おいしい」

 ローラの笑顔を見たカインは微笑んだ。もちろん、コラン、シルビアも含めてだ。
 ローラの笑顔を見たルーラは、一瞬頬を緩ませたが、またカインのほうを向き真剣な眼差しで見つめる。

「ご主人様、四肢に欠損がある二人ですが、なぜお買いになられたのでしょうか」

「四肢の欠損については、問題ないと思っているよ。元に戻るし」

 カインは軽く答えたが、その言葉にルーラとローラは驚いた。身体の欠損を数年後に治すのは、ほぼ不可能だと言われている。
 どんな伝手があるか知らないが、とても目の前に座っている子供が簡単に出来ることだとは思えない。
 驚いている二人に、カインはさらに話を続ける。

「その身体じゃ不便だよね、もう屋敷の中だしいいよね」

 カインはそう言うと、席を立ち、二人の前に立つと手をかざした。


『パーフェクトヒール』

 カインが二人に手をかざし魔法を唱える。その瞬間に二人は今まで見たこともないほどの神々しい光に包まれていく。光が収まると、そこには今までなかったルーラのスラっと伸びた両足と、ローラの右腕が戻っていた。
 切断されて直ぐならば上級回復魔法のエクストラヒールで問題はなかったが、すでに四肢の欠損をしてから二年が経過している。超級回復魔法を使用する必要があったが、カインは躊躇なく使用した。超級回復魔法など、マリンフォード聖教国でも教皇と次期教皇候補と言われる枢機卿が使える程度だ。各国に派遣されている司教ですら使えない。そんな伝説級の魔法を奴隷に向けて使ったのだ。

「えっ……」
「……うそ……」
「……そんな……」
「お姉ちゃん、私の手があるよっ!!」

 初めて見たカインの超級回復魔法にコランとシルビアは愕然とした。二人はこの魔法の希少性を知っているからだ。絵本の御伽噺に出てくる魔法を、目の前で見た事自体が信じられなかった。

 ローラは喜び、元に戻った右手を握ったり広げたりしている。その様子を見てルーラは驚き、そして自分の足を確認して両目から涙をボロボロと流す。
 妹に片腕がないことや、自分に両足がないことできっと色々と苦労してきたのが、目に見えてわかる。
 ルーラは喜んでいるローラを抱きしめる。ローラは上級回復魔法がどれほど貴重なのかは、奴隷になったのが小さかった事もあり、わかっていないようだった。
 ローラを抱きしめていたルーラだったが、手を緩めたあと、改めてルーラはカインに向き合った。

「ご主人様、何と感謝の言葉を申し上げたらいいかわかりません。私たちのことを治していただき本当にありがとうございます」

「ご主人様、ありがとうございます」

 ルーラが頭を下げたことで、ローラも一緒に習って下げた。
二人は、回復魔法のおかげで顔色も一気に良くなっていた。

「うん。構わないよ。まだ少しリハビリが必要だと思うけど、慣れてきたらシルビアの下でメイドとして働いてもらえるかな? 今日は部屋でゆっくりするといいよ。僕はこれから領地に行かないといけないから、あとは二人に任せたよ」

 後ろに控えているコランとシルビアが頷く。二人とも先ほどの感動のシーンを見たことで、ハンカチで目を押さえている。

「うぅ……。も、もう部屋の準備は出来ております。ルーラさんは、足が戻ったばかりで歩くのが辛いでしょうから、私が手を貸しますね」

 感動して流した涙を拭きながら、シルビアはルーラに手を貸す。その横にローラが笑顔で歩いてついていく。
 コランと二人きりになったカインはフゥーっとソファーに寄りかかる。

「カイン様、まさか超級回復魔法まで使えるとは思いませんでした。だから二人のことを気にせずに購入できたのですね」

「うん、それもあるけど、理由は別にあるかな。今はまだ話せないけど」

 コランの問いにカインは軽く答える。こればかりはコランにも話せない。それだけ重要な内容だからだ。
 カインは席を立ち、手を上にあげ身体を伸ばす。

「それじゃ、ドリントルに行ってくるよ。また夜には帰ってくるね」

「わかりました。お気をつけていってらっしゃいませ」

 コランが一礼したところで、 カインはドリントルに転移をした。


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 いつもお読みいただきありがとうございます。
 なんとか書き上げました。すでに眠さが限界にきております。
 投稿予約はしましたが、まだ見直しできておりません。明日投稿前までにできるかな。
 このページは後日加筆予定です。(もうちょっとルーラとローラの描写を書きたい)
 これからもよろしくお願いいたします。
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