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連載

ゼタンの新しい苦労

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 というわけで、さっき出てきたばっかりの妖精城にとんぼ返りして事情を説明。騎士さん五名に兵士さん十名に出向いてもらえる事になったので、さっさとゼタンの学校前まで戻る。そうして到着した現場で見た物は、まだ一方的な言いがかりを付け続ける保護者妖精達数名にうんざり顔を隠そうともしないゼタンの姿だった。

「双方そこまでだ! これ以上往来で大声を出し続けるのであれば、兵士詰め所まで来てもらうぞ。苦情もすでに上がっているのだからな」

 騎士さんの一言に一瞬沈黙が訪れた、が……保護者? 妖精が一斉に騎士にすり寄ってきて──

「騎士様、聞いて下さいよ! あの学校の校長が私達の子供の入学を認めないと言っているんですよ! 騎士様からも何とか言ってやってください!」

 と大声かつ早口でまくし立ててきた。こりゃ駄目だ、自分が正義であり正解であると言う考えに凝り固まっていらっしゃる。保護者妖精に三名、ゼタンの方に二人の騎士が向かって、しばらくお互いの言い分を聞きいた後に集合して相談を始めたが、その相談の途中で何度も首を振る騎士の皆さん。やがて話し合いが終わったようで、こちらにやって来る。

「双方の話を聞いたうえで、今回の揉め事に対する結論を述べる。保護者たちの訴えは不当極まりなく、ゼタン校長の仕事を大きく妨げる物であった。よって、保護者達はすぐさまここを去るべし。なお、この一件においてゼタン校長の悪評を広めると言うのであれば、それに応じた処罰を下す事を宣言しておく」

 この結論に、保護者妖精達は金切り声の様なものを出して騎士たちに詰め寄り反論したが、騎士たちはそれにたじろく事無くさらに言葉を続ける。

「ゼタン校長の言い分は尤もな事しかない。放浪妖精として街の外に出て戦いに身を置く妖精を育成する以上、過剰な人数の面倒は見れないと言う点も、中途半端な教育で早死にさせる訳にもいかぬという主張も筋が通った物である。それに対して反論をすると言う事は、お前達が生徒の早死を望んでいると捉える事も出来るぞ?」

 この『生徒の早死を望んでいる』という一言にはさすがに怯む保護者妖精達。流石に早死を望むなんて事になったらただのクズ扱いになるもんな、さすがにそれはよろしくないだろう。そこに畳み掛ける様に騎士は言葉を続ける。

「お前達は戦いと言う物を甘く見過ぎている! 一人の戦える存在を育成するのがどれほど大変なのか分かっていない! ましてや兵士の様に常に集団行動をとれる存在ではなく、時には一人で生きていかねばならない時すらある放浪者や冒険者と言う者は常に死と隣り合わせなのだ。どの様な状況に陥っても生き抜ける、もしくは不利な状況に陥らないようにするための立ち回りは、教える側にも教わる側にも多大な時間と忍耐を要求する。そこに一人ぐらい増えても問題ないだろう? というそちらの言い分は、現場を知らぬ愚か者の意見だ」

 そうだな、プレイヤーは例外で何度死んでもデスペナルティを受けるだけで済むが、こっちの世界の人は死んだらそこまでというリアルと全く変わらない状況下に置かれている。死なないためには体を鍛え、知恵をつけ、経験を積まなきゃいけない。自分も以前にやった事があるが、経験が足りないPTを導くと言うのは非常に疲れる行為だ。それを何度もやらなきゃいけない学校の教師勢の疲労は決して軽くない。死なせる訳にはいかないが、守ってばかりでは生徒が経験を積む事が出来ない。このさじ加減は極めて難しいのは言うまでも無い事だ。

「帰って頭を冷やすと良い。落ち着けば、お前達がいかに愚かな事を言っているか理解できるはずだ。さあ、解散して戻るが良い」

 騎士の方のこの一言に、帰る保護者妖精も数名いたが、帰る気配も無い保護者妖精もいる。この様子を見ていたゼタンであったが、事務員と思われる妖精に何かを告げて資料らしき紙束を持ってこさせて騎士達に手渡した。騎士の皆さんはその資料らしき紙束を一枚一枚確認していたが、やがて騎士一同がほぼ同時に頷いた。

「今、ゼタン校長よりある資料を受け取った。これには今回の試験の結果が乗っている。名前は書かれていないが、不合格にした者達は皆知識、身体能力共に平均よりかなり落ちている。これでは我々が行う兵士の選抜でも不合格とするしかないレベルだ。我が子可愛さに、我が子の実力を見余っていないか? 我が子が世界で一番と思うのは自由だが、街の外ではすべてが平等だ。もちろん、死もな。ここはその悲しい結末を避けるために努力を重ねる場所だ。この学校に我が子を入学させたいと言うのであれば、もっと勉学と運動を子供にさせて入学するに見合うだけの力を付けさせて来い!」

 と一喝。この言葉には、兵士の皆さんもその通りだとばかりに頷いていた。その騎士&兵士の皆さんから出る迫力に飲まれたのか、これで完全に保護者妖精側は沈黙。学校前から引きあげて行った。そうしてモンスターペアレントの保護者妖精が皆居なくなった所で、ゼタンが騎士の皆さんに向かって頭を下げた。

「今回の事、誠に申し訳ありません。色々な任務で忙しい騎士や兵士の皆さんのお手を煩わせてしまいました」

 このゼタンに言葉に対して、騎士の一人が「気にするな」と前置きをしてから……

「この学校が、街の外で活動してくれる妖精達を鍛えてくれているのは女王陛下を始めとして多くの者が知る所だ。それに、この学校で学んだ者達は礼儀も正しく、各街から色々な仕事をこなしてくれるので頼りになるとの言葉も幾つも出ているのだ。こちらもその学校が今回の様な言いがかりに負けて傾くようなことがあっては困る。それに今回は間違いなくゼタン殿の言い分が正しいからな、気にする事も無い。むしろ今回の事に気が付けず、あのような言いがかりを長々と聞かせることになってしまった事を詫びさせて貰いたい」

 そうして騎士&兵士の皆さんがゼタンに頭を下げる。ほえー、ゼタンの学校はここまで影響力を持つようになったんだな。その為に入学希望者も殺到して、さっきまでいたモンスターペアレントも来るようになってしまったって事か。なかなかうまくいかない部分がやっぱりどの世界にもあるもんだねえ。と、騎士の皆さんが突如こっちに視線を向けてきたが……

「そして、貴殿にも感謝を。今回の一件、教えてくださり非常に助かりました。今後は対策を練っておくことを約束いたします」

 その騎士さんの一言と共に騎士&兵士の皆さんから頭を下げられた。あーうん、そこまでしなくても良かったんですけど。

「ええ、よろしくお願いいたします」

 と返しておくことにしよう。今後もああいった手合いは絶対やって来るからな、迅速に対処してもらえるなら、それが一番良いのだ。その後騎士&兵士さん達はゼタンとある程度会話をしたのちに引き上げていった。やれやれ、これでやっとゼタンと話が出来るよ。予想外の事態に巻き込まれたな。

「お久しぶりです、ゼタン校長」

 その言葉と同時に、自分は頭をゼタンに下げる。そして声で自分がアースだと分かったのだろう。ゼタンも手を上げてそれに応えてきた。

「よう、よく来てくれたな。外套が変わった様だが……ま、とにかく中に入ってくれ」

 悲しいがな、称号の〈妖精国の隠れアイドル〉のせいで名前を呼ばれるとちょっと困った事になる。それをゼタンは理解しているからこそ、自分の名前を呼ばなかったのだ。ゼタンの後を追うように学校内に入り、自分の正体を知っている受付嬢に挨拶し(しっかりと握手された……どころか、両手で右手をむにむにされた)、校長室の中に通されたところで外套のフード部分を取って素顔を曝した。

「二回目になるが、お久しぶりだ。色々な場所を巡って、気分が乗ったからこっちに来たので軽く寄ってみたんだが……面倒な事にもなってるようだな」

 とたんにゼタンの表情がげんなりとした物になる。あー、こりゃ本気で参ってるな。

「あー、分かっちまうよなあ、あんなところを見られちまったんだから……最初の長期訓練側の卒業生が出てしばらく経ってからだ、今回の様な事が起きるようになったのは。卒業生があちこちで活躍してくれたおかげでこの学校の名前が売れたまでは良かったんだがな……そこからはあっという間にこっちの受け入れられる人数の数倍以上の入学希望者が押し掛けるようになっちまった。なので止む無く入学するための試験を行って、成績の良い奴を受け入れる形にせざるを得なくなった」

 こんな所にも入学倍率の波が押し寄せて来てるとか……

「で、さっきの連中の様に試験に落ちたのは納得いかねえ、うちの子供だけでも入れろと言ってくるのがいてなぁ。第一、それで仕方ないから入れましょうってなったら、真面目に試験を受けて入学の枠を勝ち取った連中が馬鹿を見る事になっちまうだろ。そんな事だけは絶対許しちゃならねえってのに、アイツらはそんな事に気が付かないんだろうなぁ、そうじゃなきゃあんな学校前まで押しかけて大騒ぎするような情けない真似なんか出来やしねーだろうし」

 そうだなぁ、それは絶対許しちゃいけない。ちゃんと努力して結果を出した人が馬鹿を見る様じゃ色々と腐っていく。リアルはそう言う面がなぁ……なので、せめてワンモアではそうなってほしくない。

「そうか、こっちはこっちで戦いだな……それなら、また次の機会って事で今回はもう失礼した方がよいか?」

 お疲れ気味なゼタンに余計な負担を強いるのは本意ではないのでそう聞いてみたのだが。

「あー、アース。もし時間があるんだったら少しの間でいいから臨時教官を頼めないか? もちろん報酬も払うから、何とか協力してほしい……!」

 ふむ、そう来たか。だが、ここは一肌脱いでも良いかも知れないな。
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