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第5章

浅蘇芳の誘惑

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*あさすおうのゆうわく*



グラン・リオ・エルフ族の郷にあるギルド、『ダイモス』。
冒険者の間では幻のギルドとして名高く、所属冒険者の平均ランクが大陸一であることも有名だった。

所属冒険者の殆どがエルフ族だが、なかには数十年に一度くらい他の種族が登録することもある。他の種族の主がドワーフ族。ドワーフの鍛冶職人としての腕を見込み、エルフがわざわざスカウトしに行くらしい。
スカウトをするエルフは郷に常駐しているエルフではなく、外の世界に出て暮らしているエルフだ。そんなエルフを多少の侮蔑を込めて『そとエルフ』と言うのだから、保守派のエルフを殴りたくなったのは言うまでもない。

そいつらのおかげでドワーフをスカウト出来ているのに、感謝こそすれ蔑むなんて馬鹿のすることだ。
そんな頭でっかちなエルフ達をも守りたいと言ったブロライトを、俺は尊敬するよ。今まで不潔なエルフだとか言ってごめんなさい。俺の肩で鼻水拭いたのは許してやんないけど。

俺たちはプニさんのデレ発動からすぐに行動を開始した。気まぐれな神様がせっかく乗り気になってくれたのだから、乗り気のままにギルドへと赴いた。
ギルドにはエルフの郷の周辺情報があるだろうし、俺の知らない素材の情報もあるはずだ。

がちーんがちーんがちーん
じゅわわわわ…

ああこの音、聞いたことある。
ベルカイムの職人街で毎日のように聞ける騒音。ドワーフの魂が武器に込められる音だ。
郷の一角に設けられた鍛冶場には、数人のドワーフがいた。この鍛冶場ではエルフ専用の武具が造られている。エルフとドワーフは比較的友好な関係を築いているらしく、それぞれがそれぞれの文明を守りつつも極わずかな交流をしている。
静寂が似合う緑の郷には不釣り合いな音だが、俺はこの音が気に入っている。後であそこの鍛冶場も覗くとしよう。

「こんちはー」

瞼を腫らしたブロライトに連れてこられたのは、藁ぶきの小屋。ベルカイムのエウロパに比べると規模が小さいが、あの独特のギルドの雰囲気はそのままだ。

薄暗い室内にあるのは簡素な受付。ぼんやりとした明かりのランプ。きしむ木の床。冒険者で活気づいているわけではない。だけど、妙に落ち着く静けさがある。受付には綺麗なエルフの女性。
エルフ族の全員と言っていいくらい美男美女揃いなんだけど、この女性は美しさと妖艶さがある。口元のホクロが、清純そうなエルフにはない色気を感じさせた。ようするに、存在がエロい。

「あらぁ。噂の神の御使いちゃんね?」

その声までも色っぽい。

「神のみつかいちゃんではなくて、俺はタケルって言います。こっちはクレイストン」
「うふふふ。宜しくね?私はアガラフィリアロベルサーラ。サーラって呼んでちょうだい」
「はあ、どうも」
「いやあん、可愛いじゃない。噂に聞いていたよりも、ずうっと」
「あはは…」
「栄誉の竜王ちゃんに、オールラウンダー認定者。私、逢いたいと思っていたのよ」

エロ女性…いやいや、受付嬢のお姉さま、サーラは豊満な身体をくねくねさせながら会釈。その、いちいち色気を出すのは目の毒なんですけど。露出度の高い服を着ているから、目のやり場にものすごく困ります。胸とか腹とか太ももとか出しすぎなんだよ。破廉恥な。

クレイは平然と壁に貼られた依頼クエスト書を見ていた。食指が動かないとはいえ、さすが騎士。尊敬しますパイセン。
動揺しているのは俺だけとか。なんか恥ずかしい。

「ブロライトちゃん、素敵な子じゃないの。やだあ」
「ああ、タケルもクレイもわたしの大切な仲間じゃ!」
「そうね。うふふふ」

サーラはにっこりと微笑むと、ブロライトの頬を撫でる。
ブロライトは郷の全員のエルフから嫌われているわけではない。一部の保守派のエルフやハイエルフ達がブロライトのことをよく思わないだけで、他のエルフ達からは慕われていると言える。
このエロ女性、じゃなくて、サーラもブロライトを慕っているのだろう。

「良かったわ。あなたに素敵な仲間ができて。私、ずうっと心配していたんだからあ」
「サーラには心配をかけてしもうたな。でも、わたしはもう大丈夫じゃ!」
「うふ。それでも心配なのよ?貴方がちいちゃなころからそれは変わらないわあ。あらあ、泣いたの?目が腫れちゃっているじゃなあい」
「これしきのこと、大したことは」

ブロライトの頬を撫でる手がそのままするると瞼に移動。
なんだろこの…見ていて恥ずかしくなる光景。ブロライトは男でも女でもあるって言ったから、妖艶な女性とピッタリくっついていてもおかしいわけでは。いやでも目のやり場に困るっていうか、なにその近距離。サーラの胸でけぇやべぇ、なんて感心している場合じゃない。ちょっと誰か突っ込みなさいよ。

「タケル、月夜草の依頼書があるぞ」

あああ、よかったー!
空気を読まない読めないクレイの助けー!
桃色吐息な空間をブチ破り、慌てて壁へと走る。

「何本かな!何本欲しいのかな!」
「さ、三本の依頼書があるな」
「はい三本ね!あるよー三本!他にはないかな!」

場を弁えないカップルのイチャコラを見てしまったような罪悪感を覚えながら、クレイから依頼書を受け取る。
依頼書には月夜草三本と、他にも何種類かの薬草が書かれていた。知らない素材の依頼もあった。
エウロパでは一枚の依頼書に一つの素材というのが定番なのだが、このギルドでは違うようだ。必要な素材を必要なだけ、依頼として一気に出すようだ。効率はいいな。

「サーラさん、このランクCとDの依頼クエストを受けたいんですけど」
「あらぁ?いいのかしら?せっかくヴィリオ・ラ・イにまで来たのだから、ゆっくりすればいいのにぃ。ブロライトちゃん、タケルちゃんたちを案内してあげたのぉ?」
「タケルはゆっくりすることが苦手なのじゃ!なんでも、タケルはわーかーほーりっくんという病に侵され、働かなくては不安になるそうなのじゃ」
「あらぁ…聞いたことのない病だけれど、気の毒ね」

おいこらブロライト。俺はそんな説明をした覚えはないぞ。
エルフが信仰する神様を探す前にギルドに寄り、周辺の地理情報を仕入れるついでに依頼クエストの受注をすれば、一石二鳥になると言っただけだ。

もともと俺は働かざる者食うべからず、という考えのもと働いていた。働いていないと不安になる、ワーカホリック、つまり仕事中毒気味の日本人。
そりゃラク出来るところはとことんラクをするが、せっかく知らない土地、知らないギルドに来られたのだから、遊びほうけているわけにはいかない。
頭の中で自分の行動に伴う損得をはじき出してしまうのは、悪いクセなんだよな。せっかくだから、勿体ないから、って動いてしまう。朝から晩まで仕事仕事残業残業接待接待ノルマノルマノルマノルマの生活を5年以上続けていれば、仕事中毒にもなる。
ああ、映画鑑賞とか読書とか旅行とか趣味があって良かった。なんて、独りでほっとしていると。

「でも私は好きよ、貴方みたいな考え方。働く男はだぁいすき」

うふっ
ウインクがめっちゃ眩しいですサーラさん……。

「月夜草はここに三つあるので、これで。後はエプララの葉とリオラの葉もあります。それから」
「うん?キエトの洞に行くのじゃな」

受付の机に鞄から次々と依頼の品を出していくと、依頼書を見たブロライトが聞いてきた。

「きえとのほら?なにそれ」
「この依頼書にあるネコミミシメジは、キエトの洞の奥に自生するのじゃ。タケルは持っておらんじゃろ?」
「聞いたことのない素材だ」
「すり潰してエプララの葉と混ぜれば傷薬になるのじゃ。そのまま食っても美味い。この素材は魔素の濃い、暗闇に生える光るキノコの一種なのじゃ」

へえ。食材であり、回復薬でもあるのか。面白い。
エルフの郷の近くにある素材なんて、きっと魔素の含有量が高いはずだ。強すぎる魔素は人体に宜しくないが、自生する草花は生き延びようと独自の進化を遂げる。きっと、俺の想像を超える珍しい素材があるはず。採取して、グリットさんに売ろう。

ギルドの外でリベルアリナの気配を探っていたプニさんとビーは、難しい顔をしたままだ。
エルフという種を守るリベルアリナは、エルフの守護神のような存在。プニさんほど力は強くもないし、神様の序列のなかでは上位でもない。だけど、創世記からグラン・リオ・エルフ達を守り続けてきた。優しくて思いやりのある、光と風を司る神様。
その気配を一切感じられないとうのは、プニさんやビーにとって有り得ないこと。

「ピュピュイ」
「ええ、そうです。リベルアリナの息吹を感じられません。これは、ゆゆしき問題です」

エルフを見守る神様が行方不明。プニさんから命じてエルフに直接警告してもらおうと思ったのに、その存在がどこにいるのかわからないとは。
それにブロライトのお姉さんの行方もわからないままだ。ブロライトが過剰に心配していないから、たぶん安全な場所にいるのか、それとも今現在の避難場所をブロライトが把握しているか。
どちらにしろ、こりゃ簡単にはいかないぞ。

「リベルアリナを捕まえるのです。わたくしのじゃがばたそうゆーのために!」」
「キエトの洞ならば最深部まで案内することができるぞ!」
「どのようなモンスターが現れても、俺のこの槍で蹴散らしてくれる!」
「ピュイ!ピュイーーィ!」

チーム蒼黒の団、チームメンバー揃っての依頼クエスト受注は今回が初めて。
それぞれが高ランクの冒険者と、未知の力を持った神様。
例えその目的が仕事の後の食事だとしても、危険な場所にも怯まず赴く。
とても心強く、とても頼りになるのだけど。


なんだろう、そのやる気がちょっと不安。



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