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第5章

吾亦香の休息

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*われもこうのきゅうそく*



レベル5くらいの初心者冒険者がラスボスのダンジョンに迷い込んだ境遇っていうのは、今の俺のことを言うのだろう。
キエトの洞、はんぱねえ。

「クレイストン!右じゃ!」
「おおよ!どりゃああ!」
「ピュイ、ピュィ!」
「ブロライト、うえです」
「ハアアアッ!」

くねくねとした洞を順調に進む俺たち。
順調、ではあるのだ。時々ブロライトが『こっちか?いや、こっちかもしれん』と心配になる道案内をしてくれたが、概ね順調と言わせてもらおう。
バジリスク並みのモンスターが次から次へと出てくるだけで、誰一人として負傷していない。

「こーんちくしょー!」

硬化ハード化した両手でパンチを繰り出し、サソリ型モンスターの猛毒の尻尾を叩き潰す。悪臭を放つ青紫色の体液が弾け飛んだ。きもちわり。

「お前ら、そろいも、そろって、毒まみれ、か、よっ!おりゃああっ!」

毒ツチノコにはじまり、毒サソリ、毒ハチ、毒アリ、毒カマキリと、毒しかありませんけど何か?ってくらい、毒モンスターが飽きることなく俺に襲い掛かる。俺を目がけて襲い掛かるのは、俺が放つ独特の魔力を感じ取っているかららしい。

出てきたモンスターはキエトの洞で独自進化を遂げた変異種ばかり。暗闇でも僅かな音を聞きつけ、俺を食ってやろうとハイテンションでやってくるから、対抗策を考える暇がない。
極限魔法で一網打尽にできたらどんなにラクか。魔法縛りがこれほどキツいとは思っていなかった。
珍しいモンスターなのにいちいち調査スキャンしている暇すらなく、走りながら先を急いだ。もちろん、全て回収もできていない。勿体ない。

「さすがにっ、これだけを、相手するのは!」
「ああそうじゃな!疲れた!」
「タケル、おなかがすきましたよ」
「わかってんよ!!」
「ピュィ〜〜…」

いくらスタミナお化けの全員でも、お代わりしまくりのモンスターラッシュは心身ともに疲弊する。
はーやれやれ、と息をつく暇がないのは辛い。
無双系ゲームで爽快感を得ていたあの頃の俺を説教してやりたい。お前な、ボタン操作で紅蓮ナントカとかDEATHナントカとか動かざること山の如しでラクしてんじゃないよ、と。

休みなく戦うのはゴブリン戦以来だったが、あの時よりもずっと辛い。モンスター個々が最低でもランクB、強くてランクA++。その++ってなんだよちきしょうめ。
ビーもへとへとで俺にしがみ付くのが精いっぱいのようだ。

「この先に開けた場があるのじゃ!そこで、なんとかならんか!」
「特大の結界バリアを展開して、それから結界バリア魔石を起動させる!」
「心得た!」

走りながら毒アリを踏みつけつつ、絶対に清潔クリーンやってやる清潔クリーンやってやるこの野郎バカ野郎と呪いのように呟きながら、ゆるいカーブを曲がる。
ブロライトの言った通り、突然開けた空間が現れ、高い天井からわずかな太陽の光が漏れていた。

「ブロライト!左右に展開するぞ!」
「了解!」
「タケル!今だ!」
「やけくそ結界バリア、展開ぃっ!!」

説明しよう。
俺のやけくそ魔法シリーズは、その名の通り自重も調整も一切考えないで放たれる魔法のことである。適当に名付けた。
極限まで放たれた魔法は本来の目的以外にも作用してしまい、結果がどうなるのか予想ができないという恐ろしい技である。
ゆえに、頭のどこかで冷静に調整をしないとならないのだが、今の俺にそんな余裕はない。とにかく早く休みたい。

ユグドラシルの杖が眩く輝き、周囲の魔素を吸い込んだ。
分厚いガラスのような壁が俺を中心に円状に広がる。追いかけてきた毒モンスターたちを押しのけ、広い空間全体を覆う。
きらきらとした粒子が宙を飛び交い、魔素すらも消滅してしまったことがわかった。
結界バリア効果の最大は分厚いガラス。これきっと防弾で防刃。

「……すっげ」
「流石じゃな!」

喜び飛び跳ねるブロライトと、分厚いガラスを叩いて強度を確認し頷くクレイストン。
クレイストンの甲冑の下に隠れていたプニさんは、辺りを見回してから飛び降りた。
ぼひゅん、と音を出して通常の人型サイズに戻る。

「ひひん。魔素が消えてしまいました。タケル、やりすぎましたね」

ごめんて。
調整する余裕なんてなかったんだって。
鞄から結界バリア効果のある魔石を取り出し、四方に配置する。やけくそで放たれた結界バリアはしばらく持ちそうだったが、これもまた念のため。

「はあああ、疲れた」
「そうだな。ゴブリン討伐以来の連戦であった」

全身から力を抜いたクレイストンとブロライトは、もう駄目だと言わんばかりに腰を下ろした。まだ余力はあるだろうが、集中力というのは長く続くものではない。
上司からの説教も素直に聞き入れられるのは五分が限界。それ以上は「あーもう早く終わんないかな」となる。嫌なものほど過ぎる時間が長く感じるものだ。

俺の精神は未熟なまま。限界がわからない体力と魔力を持っていても、精神まで鍛えられたわけではないんだ。だから素直に思ってもいいはず。もう帰りたいと。

「改めて思うが、洞の中で暖かな飯を食えるというのは有難いことじゃな」
「左様。こればかりはタケルに感謝をしよう」
「ははっ、べつにいいよ。俺が食べたいだけだ」

先ずは全員で魔素水をコップ一杯飲み干す。
続いてエルフの料理長が作ってくれた巨大ローストビーフサンドイッチを食べながら、ベルカイムで買っておいた温かい野菜スープを飲み、温かいそば茶を飲む。
結界バリアのおかげで暑さ寒さを感じない。しかし、疲れた時こそ温かい食べ物や飲み物が身に染みるのだ。

カニをたらふく食いたいが、カニの美味さに目覚めてしまった仲間たちに隠れて食う度胸はない。とっておきのトランゴ・クラブの肉は、キエトの洞を攻略した後でふるまおう。それまで我慢。

「それぞれ回復薬ポーションも飲んでおいてくれ。ルベリアさん特性だから、疲労回復になる」

回復薬ポーションを二つ取り出し、手渡す。
体力オバケのこいつらにどこまで効くかはわからないが、既に温かい飯を食って身体はだいぶ回復しているようだ。
洞の中は常に真っ暗で、僅かな太陽の光が差し込んだとしても正確な刻限はわからない。腹の虫の泣きっぷりからみて、今は昼過ぎかおやつ時か。
このまま暖かいオフトゥンに包まれて寝てしまいたい。
いくら身体の疲れが取れても、心の疲れはそのままだ。

「ピュプププ…プィィ……」

ビーは食べるだけ食べ、飲むだけ飲んだら俺の膝の上で眠ってしまった。こんなちっちゃな身体で精一杯頑張ってくれたからな。洞を出たら焼きカニに醤油を垂らして食わせてやるよ。

「ブロライト、洞はどこまで続いているんだ」
「む?最深部の突き当りにある祭壇まであとわずかじゃ」
「わずかってどのくらい?」
「ここから、入口くらいまでじゃな」

それわずかって言わねーよ?
だがしかし、半分までは来ているということか。それは朗報なのかもしれない。そう思わないとやってらんねえ。

「気は抜けぬということだな。祭壇というのは何だ?」
「よくわからぬ。リベルアリナを祭るものなのかと思われたが、様式が違うのじゃ」
「つまり、リベルアリナのための祭壇ではないと申すのか」
「うむ。誰がなんのために作ったのか、長老様もご存じない」

長老様というのは、グラン・リオ・エルフ族のなかで一番長命なハイエルフのこと。ブロライトのひいひいひいひい…なんかすっごい長生きしている爺さんらしい。
今は完全に隠居して、エルフの郷から離れたところでひっそり暮らしている。何故そんな離れて暮らしているのかと思えば、長老様はなんと改革派。保守派のハイエルフらから半ば追い出される形で出て行ったのだと。

「長老様っていうのは、郷から出て無事に暮らしていけているのか?」
「ああ。無事じゃ。プネブマ渓谷でレインボーシープを育てておる。あそこは魔素が少ないが、不便はないそうじゃ」

なんですと。
わたあめ天国羨ましい。
いやそうじゃなくて、とにかく謎の祭壇とやらが気になる。
リベルアリナを祭るためではないとしたら、他の何かを祭るもの。
エルフの郷を襲った地震。それによって河の水位が上がり、流れが激しくなった。それだけで魔素が溢れるっておかしくないか?と思っていたんだけど。

「封印……?」
「なんだ」
「いや、可能性を考えてみただけ」

もしも何かを隠しておくための祭壇だったとしたら。
それは、いわゆる封印って言いませんか。すげえやべえやつを封じておくような、そういう。
ドワーフの国では地震によって、トランゴ・クラブが目覚めてしまった。もしもこの洞の中でも同じようなことが起こっていたとしたら。
いわゆる雑魚敵が最低ランクB。洞の入口でランクA+のモンスターが出てきて。
それじゃあ封印されている何かっていうのは……?


やだどうしましょう。




++++++

更に短くなりまして申し訳ない。
クリスマスだから何か番外編でも書こう、と思っていたら思っていただけに終わったよ。
いや、ちょっとは書いていたんだけど完成しませんでした。チキンうめえ。

正月には仕上げたいです。
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