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第5章

藍色鳩羽の戦い

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*あいいろはとばのたたかい*



腹が満たされたので次は睡眠、と言いたいところだが。
モンスターとの連戦に慣れている百戦錬磨な冒険者にとって、体力が回復したら気持ちを切り替え次へと進むのが当たり前。俺みたいに心が未熟な冒険者は、気持ちの切り替えなんて簡単に出来ないものだ。
しかし洞の中で一夜を過ごすなんてとんでもない。早く用事を済ませて温泉に入ろう。そうだ、エルフの郷に戻れば温泉があるのだ。温泉に入りながら温泉卵を食べよう。

「温泉たまごぉぉーーーーっ!」

半熟のぷるんとしたところに塩をふってあっつあつのを食べるのだ。いや、カニ肉入りのすいとん鍋を山盛り作って、そこに半熟温泉卵を投入してやろう。黄身がとろりと溶けたところが美味いんだよ。
壮大な妄想を繰り広げながら繰り出す右ストレートは、毒コウモリの顔面を容赦なく叩き潰す。もう感触が気持ち悪いとか飛び散った毒血液でローブが汚れるとか、細かいことを気にするのは止めた。後でやけくそ清潔クリーンをやってやる。

「ピュイィ!」
「ビー、魔素を散らすんだ!」
「ピュイーーーッ!」

同じくやけっぱちになったビーも参戦。身体がしんどいなどと休んでいる場合ではないほど、モンスターの襲撃が激しい。
風精霊に頼んで溜まった魔素を飛ばしてもらうが、洞の奥から更なる濃厚な魔素が吹き込んでくる。この魔素の原因は、どうやら洞の奥にあるらしい。

「妙な掛け声を出すな!」
「タケル、温泉、たまご、とは、なんじゃっ!」

俺以上にモンスターをねじ伏せているクレイとブロライトも、連戦が続くのに飽きているようだ。しかし、緊張だけは解かず的確に急所を狙うのは流石のランクA。

防御力低下ガードダウン展開っ!温泉卵っていうのは、温泉の熱いところで茹でる半熟の卵のこと!」
「とりゃあああーーーっ!それは美味いのか!」
「醤油を落としてカニ肉とあわせて食べると、こんにゃろっ、究極、美味いっ!」
「タケル、わたくしもたべますよ」
「ピュイーイ!」

暗闇の、限られた空間の中でそれぞれ精一杯戦う。
もっと広々とした場所ならクレイとブロライトの本来の力が発揮できただろうし、俺も魔法縛りがなければここまで苦労することはなかった。ある意味これも試練だと自分に言い聞かせ、今夜の夕飯の献立をそれぞれに叫びあった。

小休憩からまた暫く連戦を続け、毒まみれのモンスターを数え切れないほど倒していく。なかにはバジリスクよりも確実に強い毒ムカデも出てきた。昆虫嫌いの俺がキャアアと乙女の悲鳴を上げながら半べそかいて退治。毒モンスターは毒にしかならないから、倒しがいがない。
もしも倒しっぱなしで放置したモンスターの中にレアな素材があったとしても、取りに帰る余力は残っていない。今は早く目的の素材を採取し、早く帰らなければ。

「この先が祭壇じゃ!洞の最奥じゃぞ!」
「どっせぇぇーーーいっ!おらあああっ!ネコミミシメジはどこだあああ!」

無詠唱で探査サーチを展開すると、ブロライトの指示通りの洞の先、赤と白と緑の反応。奥の部屋の輪郭がわかるほど、緑の光が眩く輝いていた。
いや、これは探査サーチだけの反応ではない。

「うお!」
「ピュー」

ぽっかりと開けた空間の壁一面に、ぼんやりと光る白いキノコが生えていた。びっしりみっしりと。シメジというからには、あのお味噌汁や鍋に入れて楽しむフォルムを想像していたのに、大きくて一メートルはあろうかというほどの巨大キノコ。
基本はシメジなのに、頭に猫耳が生えている。なんとも面白い形をしていた。


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キエトネコミミシメジ ランクB

湿気の多い暗がりに生息する食用キノコの一種。キエトの洞のなかで独自進化を遂げた新種であり、栄養価が高い。焼くなり煮るなりお好みで。バター醤油はどうでしょう。
魔素を吸い込み発光する性質。
備考:多少の薬効成分も含んでいるため食べるほどに体力が回復する。

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調査スキャン先生、わかっていらっしゃる。キノコ種はバター醤油が合うんですよ。鍋の具材にもなるし、スープに入れても美味い。
しかも一本一メートルの巨大キノコ。数本採取すればとうぶん食材に困ることはない。おまけにランクBの新種!ここでしか生息していないから、ランクも高いんだろうな。これもグリットに売ってやろう。ベルカイムを離れていても、遊んでいたわけじゃないんだぞと言い訳ができる。

「すごいなこれは!立派じゃ!」
「俺が知るネコミミシメジよりも大きいぞ」

それも数本ではなく、壁やら天井やら、広い空間にめいっぱい。
まるで宝箱を開けたような心地になってしまう。金銀財宝よりも、ずっと嬉しい発見だ。実際に売ればそこそこの値段がつくんじゃないかな。これでエルフの郷の連中の胃袋もつかみまくってやり、保守派の頑固な考え方も柔らかくしてやる。
郷の中央にあった祭壇、現プニさんの寝床でキャンプファイアーをやるってのはどうだろうか。巨大シメジをその場で焼いて、皆で食うんだよ。きっと楽しいはず。

「タケル、ぼんやりとしているひまはありませんよ」
「へあ?」

脳内妄想ではエルフ達が笑顔でマイムマイムしていたんだけど、プニさんの声で我に返る。
クレイとブロライトはそれぞれに気配を察し、戦闘態勢を取った。
現実では毒々しい真紫の巨大な……。
なにあれ。

「ジュジュ、ジュルル、ジュル」

あれは鳴き声なのか、それとも威嚇音なのか。
暗がりからゆっくりと出てくるものに、俺たちを追いかけてきたモンスターたちが我先にと逃げ出して行った。モンスターもランクが高ければ知恵もつく。空腹よりも我が身を優先させた。それだけ、今から出てこようとしているものが恐ろしいのだろう。

「つよいちからをかんじます」
「ピュィィィ…」

背にプニさんを乗せたビーが怯えた声を出した。今までどんな強いモンスターが来ようとも、ビーが怯えたことなど一度もなかったのに。
空間が広すぎてその姿が見えない。他のモンスターは逃げ出したことだし、相手はラスボスだと覚悟しよう。相手がどれだけ強くても、どれだけ厄介でも、きっとボルさんほどの強さはない。それだけはわかる。

「クレイ、ブロライト、今からここを明るくする。光るキノコのおかげで輪郭はわかるから、きっと今まで以上に広く戦えるはずだ」
「承知した!」
「タケル、シールドを貰えるか!」
「はいよー!」

とてつもなく濃い魔素。
湿気どころではない、まるでサウナ状態。換気の穴を開けたいが、生態系が変わってしまうのは宜しくない。
魔法は効かない。魔素は濃いまま。相手は得体の知れない何か。

「これが終わったら温泉卵!」
「おおよ!」
「カニも食べるのじゃ!」
「ピュイイイーーッ!」

ユグドラシルの杖を両手に持ち、魔力を練る。

照光リヒルート展開!全員にシールド速度上昇クイック軽量リダクション展開っ!」

いつもより強い魔力で展開される魔法の数々に、俺自身が驚く。きっとシールドはより強固に、速度上昇クイックは目にもとまらぬ速さで動ける。
眩い光の玉に照らされた空間は、広く高いドーム型の天井。一面に光る巨大シメジを背景に、謎のモンスターの全容が。

「えっ」

ナメクジ?

「なんだあれは!見たことがないぞ!」
「わたしも知らぬ!なんともおぞましいっ…!」

いや、あれナメクジじゃね?
ウミウシ…じゃないよな。あの姿形はどう見てもナメクジ。
紫色で、赤いドットの、巨大ナメクジ。
どんな恐ろしいモンスターが出てくると思いきや、ぬめった軟体生物。これならガレウス湖で遭遇したイソギンチャクのモンスターのほうがおぞましかった。ナメクジなんて塩まけば一気に縮むだろうし、怯える必要はないよビー。

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キエトダークスラグ ランクS

キエトの洞で独自進化を遂げた新種のモンスター。身体を構成する全てのものが猛毒であり、僅かでも触れれば死に至る。タケル・カミシロでもやばいかも。
弱点:炎

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「俺でもやばいって!」
「ピュ?!」

調査スキャン先生のとんでもない忠告に、さっきまでの余裕が吹き飛んだ。
イソギンチャクよりランクが上だった。しかもマデウス初のランクS。
そもそもモンスターのランクっていうのはいまいちよくわかっていないんだが、ともかく目の前の巨大ナメクジは強いということだ。

それでも俺には絶望的な気持ちはなかった。もう駄目だ、死んでしまう、などと一切思わなかった。
クレイがいる。ブロライトがいる。ビーもプニさんもいる。
俺一人じゃない。
一人じゃなければ、きっとなんとかなる。


確実に倒して、温泉卵を食おう!



++++++

すみません、ギリギリで仕上げたので誤字脱字おかしなところてんこもりです。
ぼちぼちこそこそと直していきますので、ご容赦ください。

書き上げたの23時57分。やったぜ。
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