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第1話 法廷のシーメール

02:「鑑定医」「人皮ブーツ」「世界一、奇妙で美しいセルフボンデージ死体」

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    02:「鑑定医」「人皮ブーツ」「世界一、奇妙で美しいセルフボンデージ死体」

  BOWWOW!!BOWWOW!!
  ・・・失礼した。飼っている「犬」が、そそうをしたようだ。
  ああやって人を呼び、自分のそそうの後始末をさせようとする。
  まあ「犬」には手がなく、使えるのは前脚と鼻と口だけしかないのだから仕方がないだろう。
  それにこの「犬」は、一応「容疑者」なのでね。取調中でも人権には配慮をしないといけない。
  だから、取り調べの可視化等という、ふざけた事は言わないでくれたまえよ。
  話を続けよう。
  犬?心配しないで頂きたい、部下の者に始末をさせるからね。

 犯罪が起こった場合、犯人を特定する材料としては、現場の遺留品や目撃者の証言など、いろいろな証拠がある。 
 しかし、これといった遺留品もなければ目撃者もいない、ただ死体だけが見つかるというケースになると捜査は極めて難航する。 
 こういう場合、裏方で大いに活躍してくれる人々の中に、「鑑定医」という人間が存在する。 
  刑事事件に限らず、民事事件の領域でも、「親子関係不存在」や「認知」の訴えのように、誰が相続人であるのかが争われるような場合にも、やはり鑑定医が登場する。 

 鑑定医というのは、医師であることは言うまでもないが、それぞれの専門分野を更に「法医学」として身につけている人たちのことをさす。 
 法医学は、応用医学の一部門である社会医学に属する医学である。
 法律上問題となる医学的事項についてを研究することによって、適切な法律の運用に助力する医学といわれている。
 勿論、医学であるから「心の病」に関する鑑定医も存在する。 
 今回の特殊犯捜査第6係が取り組んだ事件に対する裁判では、精神鑑定医である指尻ゑ梨花の証言は、その判決結果を左右する程の大きなウェイトを占めていた。 

 しかし私は、司法精神鑑定医の証言について、次のような内部意見がある事を、しっかり心に留めておく必要があると思っている。 
「精神鑑定とは、厳密に言えば、容疑者が犯行時に精神病であったか否かを診断し、更に裁判官や検察官に、心神喪失者か心神耗弱者か否かの判断の資料を提供するものである。決して『動機や動機形成の過程』を解明したり、『心理状態などを調べる』ものではない。つまり『なぜこんな凶悪な事件が起こったのか』等という、低俗な物語作りに加わってはならないのである。精神鑑定は、あくまでも専門の精神科医によって、被告が犯行時に精神病であったか否かを判断するものでなければならない。それ以上でも、それ以下でもあってはならないのだ。」 
 だが実際は、昨今多発する想像を絶した犯罪にうろたえ、早急に「説明」を求めようと、社会は右往左往する。
 例えば最近、6係が扱った事案では、ハイヒールフェチ・ブーツフェチが昂じた挙句の果に、女性を殺害、その死体の脚や足を切断し、人皮のヒールやブーツを作った男がいるが、この残虐行為に「説明」などが必要なのだろうか?
 いや必要がなくても、人々はそれを追い求める事だろう。
 そんな状況の中で、精神鑑定が逸脱した役割を与えられる可能性は、大いにあり得るだろう。
 第一、この正論を私に提示した某精神鑑定医自身が、ある事件の中で、彼自身の言う「低俗な物語作り」に加担してしまったのだから。
 もちろん、あの「世界一、奇妙で美しいセルフボンデージ死体」を世間に晒したのだから、低俗な物語作り」があっても無理はないが。
 (彼自身が当事者として関与したこの「事件」については、またいずれ報告する機会があるだろうから、ここでは触れない。もちろん、それは我々、特殊犯捜査第6係が関わるような猟奇的な事案だった。) 

 そういった意味で、今回、鑑定医・指尻ゑ梨花が、法廷で見せた態度は、実に正確で誠実なものだったと言える。
 その公明さが、私が指尻ゑ梨花女史を第6係の外部コンサルタントに補した理由の一つでもあった。 
 もちろん、指尻ゑ梨花女史が、時折そっと呟く「私は、時々、犯罪そのものを、犯してやりたくなるの。」の秘めた苛烈さも重要だったが。
 だが私は、今もって思うのである。
 この優秀な精神鑑定医・指尻ゑ梨花が、この事件で診断すべき相手とは、被告人Mではなく、事件が起こった場所の責任者、つまり被告・被害者2名の雇い主である神室家当主、神室三平ではなかったかと。
 残念な事に、我々、特殊犯捜査第6係は、その本丸を落としきれなかったのではあるが。

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