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第5章

甚三紅の心境

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*じんざもみのしんきょう*



「クウェンテール……なにをしておるのじゃ」
「お、お主らが何を企んでおるのか……後をつけて」
「バッ…!馬鹿者!あのすさまじき魔素の中におったと言うのか!」
「ちっ、違う!急に魔素が薄れたから気になって……ギルドマスターのサーラが言うておったのだ。お主らが、キエトの洞を目指しておると」

ブロライトを守るように立っていたのは、不機嫌な顔のままのリルとテールさんだった。
なんでここに、とか、どうやって、とか考えるより先に。

サーラさんてギルドマスターだったわけ!

あの妖艶な、出るとこ出て引っ込むとこ引っ込んだお姉さんが、ギルド『カリスト』の代表とな。ギルドは『エウロパ』しか知らないから、ギルドマスターといえば巨人タイタン族のおっさんのみ。ギルドマスターって、ギルドを守る冒険者の大先輩なんだよな。元ランクA以上の統率力のある選ばれたものだけが、マスターの称号を得られるらしい。そういえばサーラさんってブロライトの幼少期を知っていたから、ブロライトより年上…?
サーラさんの謎年齢はともかく、まさかの事実にリルとテールさんの登場がくすむ。

「サーラに口止めをするのを忘れていた…。なにゆえそのような危険な真似を犯したのじゃ!」
「己の命を惜しむエルフなどおるか!俺は、俺はただ…お主が無謀な真似をしておらぬか……監視をするために」
「わたしなぞ放っておけば良いのじゃ!」
「そういうわけにもいかぬだろう!お、お主も…ハイエルフの末裔であるのだから」

なんだろう。
この、痴話喧嘩を聞かされているようないたたまれないきもち。
ブロライトを蔑んだ発言をしたくせに、なんやかんやと心配していたってことか。なんだよ、いいやつじゃないかリルとテールさん。
きゃんきゃん口論を続けるエルフ二人は放置して、肩で息を繰り返すクレイに近づく。一番の功労者はきっとクレイだ。

「ふうっ…、ふうっ…」
「クレイ、大丈夫か?とりあえず魔素水と、回復薬ポーションを飲んでおいてくれ」
「ああ、すまぬ。途中から記憶がないのだが、ダークスラグは撃破できたようだな」

今まで見たことのないような大魔王が暴れましてね。
ぐちゃぐちゃの残骸になったナメクジを見下ろし、クレイは満足そうに深く頷いた。主にクレイが戦ってくれたようなものだから、特別にトランゴ・クラブの爪部分をあげることにしよう。

「しかし、ダークスラグの止めを刺した…あれはなんだ?何をしたのだ、タケル」
「あれは俺じゃない」

光が走ったと思ったら、ナメクジが大爆発したんだ。
魔法の防御などもろともしないでナメクジの身体に突き刺さった光。あれを放ったのは、きっと。

「お主か?クウェンテール」

リルとテールさんの手を借りながら立ち上がったブロライトが、ぐちょねちょ残骸のナメクジを感心しながら見つめる。
魔力のかけらすら感じなかった謎の光。あれはもしかしたら俺が使えるどの魔法よりも威力があるのかもしれない。
視線がリルとテールさんに集まると、彼は気まずそうに視線を反らし、手にしている巨大な弓を差し出した。

「俺の、というよりも…執政様が俺にお貸しくだされた、この神器しんぎのおかげであろう」

何の変哲もない巨大な木製の弓に見えるが、茶色の滑らかな木にちらちらと輝く小さな金色の粒がとても綺麗だった。日本で使う弓道の弓ではなくて、ゲームで見たことがあるようなコンポジット・ボウだ。流石のエルフ。こういう弓を持つと様になるな。

「兄上様がお貸しくだされたのか?郷の宝であるのに」
「アージェンシール様は常にお主のことを案じておられた。この弓が少しでも手助けになればと、俺に託されたのだ。だがしかし、俺には一打を放つだけで精いっぱいなようだ」

せっかくだからとちょっと触らせてもらう。見た目に反して驚くほど軽い。軽いんだが、しっかりとした重さもある。片手でも持てるが、両手で持っても安定する重さ。なんだろう、とても不思議な感覚だ。持ち手の手に馴染むというか、ずっと以前から持っていたかのように思えてくる。弓なんて扱ったことがないのに。

「タケル、これこそがエルフ族に伝わる秘宝、ブロジェの弓じゃ!」
「へえー」

なんだっけそれ。
聞いたことあるんだけど。

「……貴様、我がエルフの誇りである神の武具であるブロジェの弓を、愚弄するか」
「いやいや、この弓が不思議な弓だっていうのはわかるけど、俺にとってはただの弓だ」

リルとテールさんがぎろりと睨んでくるが、この弓のすさまじさとか素晴らしさとか、そういうことを知らない身としてはそれほど興味がない。
ああ、そういえばブロライトと出会った時にやたらと弓の話をしたっけ。弓なんて扱ったこともないから未だに興味はないままだ。
それより今は洞内の後片付けをしないとならないだろう。
崩落した天井を直して、ナメクジの惨殺遺体もお掃除しないと。先ずは修復リペアが先かな。

「ピュイ!ピュピューイ!」
「お前たち、こちらに来なさい」

洞の更に奥からビーとプニさんが声をかけた。一人と一匹が指さす先は、ナメクジが逃げようとしていたくぼみ。
何があるのだとくたびれた身体に鞭を打ち、やれやれどっこいしょと見てみれば。
そこにはダチョウの卵のような大きさの石が、ずっしりとみっちりと、所狭しと並んでいた。狭くないくぼみの床から天井からすべてを覆い隠すように、石が何百個と。

「きもちわる!」
「ピュゥーィ」

こう、ツブツブが何百個と集中して固まっている様子ってなんで気持ち悪いんだろう。ぞわぞわするというか、何だか痒くなってくる。
カエルの卵とか、アリの卵とか、カマキリの卵とか、そういうの苦手なんだよ。

「なんじゃこれは…」
「俺もはじめて見たぞ。ただの石には見えぬが、何だこれは」
「タケル、わかるか?」

はいはい、わからないなら調べましょうね。
魔法の使い過ぎと連戦に次ぐ連戦と長期戦でもう寝たくてたまらない。しかし、この気持ち悪い何かを放置するのも怖い。
疲れているところごめんなさい、調査スキャン先生、教えてくださいますか。

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キエトダークスラグ 卵 ランクA

キエトダークスラグの卵。五年で孵化する。太陽の光が苦手であり、暗闇に産み付けられる。孵化する前に太陽の光にさらせば殻を破ることなく死滅する。死滅したダークスラグの幼生は『邪王の水』と呼ばれ、錬金術などに用いられる媒体液となる。売るとお金になるのです。

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「さっきのナメクジの卵だって。太陽の光にさらすと死ぬけど、卵は売れるって。ランクA」

気持ちが悪いが、これが一つ一つ金になると思えば宝の山に見えてくる。
クレイが一つ手に取り容赦なく拳で叩いているが、ヒビ一つ入らない。とても頑丈だ。

「これが全て卵じゃと?この、全てにダークスラグがいるのか!」
「ダークスラグ、とは…先ほどの巨大なモンスターのことか。もしや、あのモンスターが郷を覆うほどの魔素を生み出していたのか?」
「なんじゃと?」

リルとテールさんに問われ、なるほどなあと辺りを見渡す。
そういえば魔素が普通の量になっている。少し濃いかな、程度。湿気まみれで不快になることもない。

「いや、それは違うようだ。あの卵らの更に奥から魔素の息吹を感じる」

みっしりと敷き詰められた卵の奥、クレイの視線の先に僅かに感じる濃い魔素の流れ。魔力に敏くないクレイすら感じるほどの魔素。魔素の流れと言っても、俺にとっては風がそよそよと流れているとしか感じられない。ただ、えらく湿気にまみれた風。
もしかしたらこの卵とナメクジが魔素の流れを止めていたのだろうか。いや、もっと別の理由があるのかもしれない。安易に考えて発言するのは控えておく。

ナメクジが最後の最期まで足掻いていたのは、この卵を守るためだったのかもしれない。気の毒なことをしてしまったが、俺がこの洞を訪れなければこの数百もある卵は孵っていた。そうなったらエルフの郷どころでなく、グラン・リオ大陸の壊滅に繋がっていた。
可哀想という感情は捨てることにする。

「まずはこの卵を全部死滅させよう。またナメクジが産まれたらたまらない」
「如何するのだ。一つ一つ太陽の光にさらすのか?既に陽は落ちかけているぞ」
「まじでか」

朝早くにエルフの郷を出たというのに、洞にこもったままで一日が終わるとか。
洞内部で野宿をしないで済んだのは嬉しいが、弱点である太陽の光がないというのは困ったな。太陽の光にさらせば卵のまま幼生は死滅する。ってことは、逆に考えれば太陽の光があれば全滅させることができるということ。
それなら、太陽の光を作ろう。
思いつくのなら作れるということ。太陽の光を作り出せばいい。

強すぎる光は目を焼いてしまう。俺以外の全員に目を強く瞑ってもらい、念のため全員に結界バリアを展開。太陽の光と限定するのだから、紫外線のことを言っているのかもしれないな。それならば紫外線を強めにイメージして。

太陽光イリョスルカ、展開っ!」

ユグドラシルの杖から放たれた炎の玉。掌で隠してしまえるほどの小さな玉なのに、そいつがふわふわと卵軍勢の中央に到達したかと思えば、強烈な光を放った。
真夏に照り付ける太陽のようなその光。じりじりと肌を焦がす、あのハワイの日差しを思い出した。嗚呼、海に行きたい。そうだ、次に行くところは海にしよう。そうだそうだ、海鮮を食べよう。刺身を食べよう食べさせろ。そうしよう。

などと考えているうちに、白かった卵たちは太陽の光に焼かれ、じりじりと黒く染まっていった。
一つも残さないように場所と角度を変え、まんべんなく光を照り付ける。
紫外線に弱いモンスターはほかにもいるだろうから、この魔法は重宝するだろう。俺が思いつかなければ意味はないけど。
全ての卵を真っ黒にした後で、再度調査スキャンをかける。

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邪王の水 ランクA

錬金術に用いられる媒体水。非常に珍しい水であるが、飲料不可。

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よしよし。
これで新しい素材を手に入れることができる。錬金術で使われるなら、きっと需要があるはずだ。
巨大シメジも採取できるし、ナメクジは退治できたし、万々歳。魔素が濃くなった原因も、もしかしたらわかるかもしれないしな。


一休みをしたら採取開始だ。





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おかげさまで好評をいただきました三が日限定会話ですが、残すことに致しました。
『ちょっと息抜き』に移動致します。
皆さまお読みくださいましてありがとうございます。
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