トップ>小説>皇太子の愛妾は城を出る
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 王妃様は何を言いたかったのだろう?
 わたしに任せてっておっしゃっていたけど、ユーリにあんな風に思われてたことがわかった今、もう此処にはいられない。思わずユーリのことを愛しているなんて言ってしまった。さっきはユーリのことがとても怖かったのにどうして愛してるなんて言ってしまったのだろう。自分でもよくわからない。
 どちらにしても、ユーリからは愛されていないことがわかったのだからここに留まることは出来ない。
 わたしは王妃様が転移魔法でまた此処に来ないかしばらく警戒してから鞄を取り出した。
 わたしのこの鞄は小さい割にいくらでも入るマジックカバンだ。大きな鞄だと出て行くときに怪しまれる可能性があるのでこういう時に便利だ。この鞄はわたしが小さい時に祖父がくれたものだ。
 ここに住むようになった時もこの鞄だけでここへ来た。父からは縁を切られたのだから仕方ない。

「でも鞄に入れるものってあまりないのよね」

 元から鞄に入れたままの宝石やドレスはそのままでいいだろう。宝石は祖母の形見で夜会用のドレスも実家から持ってきたものだ。結局夜会に出席できないわたしには必要ないものだから、鞄から取り出す事はなかった。出席出来ないのにタンスに飾るのは惨めだから。この鞄から取り出したものは貯めていたお小遣いと普段着用のドレスと化粧品だけ。
 ユーリからの贈り物は下着やネグリジェだけど、これは置いて行こう。これからは使い道がなさそうな下着だ。
 愛妾というのは贅沢三昧と思っている人もいるだろうがそうでもない事を身を以て知っている。
 夜会にも行かれないから夜会用のドレスも宝石も貰ったことはない。家からもあまり出ないように言われてたからたま〜に城下街を侍女に頼んで連れて行ってもらっただけだ。それも今は亡き祖父に貰って貯めていたお小遣いが底をついた時に行くこともなくなった。そう、愛妾はお小遣いも貰えないのだ。三時のお茶もないから最近は甘いものも食べてない。はっきり言って男爵家にいた時の方が贅沢な暮らしをしていた。でも庶民はみんな甘いものも食べれないのかもしれないから贅沢を言っては駄目よね。
 祖父が亡くなった時に形見分けで貰った祖母の宝石を売ることも考えたけれど、愛妾が宝石を売るなんて、たとえ殿下からもらったものでなくても噂になったら困るだろうと考えてやめたのだった。

「でも何処で暮らすにしてもお金が必要になるからとうとう手離す事になりそうね」

 鞄から取り出した宝石を眺めてつぶやく。宝石を買い取ってくれる店は前に城下に遊びに行った時にバニーに教えてもらった。この宝石を売ってかつて親友だったスーザンに会いに行きたい。
 
「スーザンに逢いたい。逢ってくれるかしら」

 スーザンは幼い頃からの友達だ。わたしが愛妾になると知った時に絶交された。彼女は不幸になるから絶対にダメだって言ったのに、絶交するって言ったらわたしが諦めてくれるのではないかと思ってたみたいで、わたしが「ごめん」と言うと泣いて去っていった。
 彼女が婚約者だったヴィック・マーチ子爵と結婚したことは知っている。

「ヴィックの事はわたしも知ってるし逢いに行っても追い出されるってことはないわよね」

 逢いに行って謝ろう。そしてもう一度友達になってもらって話を聞いてもらおう。話したいことが沢山ある。
 鞄には自分が持って来たドレスを数着だけ入れた。何か思い出になるものを持って行こうかしらと思ったけれど、本当に下着とネグリジェしかない事に気付いて頭を抱えてしまった。

「本当にわたしってバカだったわ」

 ショルダーバックを肩に掛けて二年間暮らした部屋を後にした。

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