トップ>小説>素材採取家の異世界旅行記
70 / 110
第5章

黄櫨の真実

しおりを挟む
*こうろのまこと*



人というのは、なにゆえ湯に身体を浸けるだけで全ての苦労が報われる気がするのだろうか。
湯船に浸かって満天の星空を眺めていると、暗闇の中で巨大ナメクジと戦ったことなんてどうでもよくなってくる。
数々の毒モンスターと戦ったことも、後片付けで更に魔力を使ったことも。

「ふっへぇ…」
「ピュヒ…」

エルフの郷にある温泉に首まで浸かり、全身の力を抜く。細胞の隅々から疲れが溶け出すようで、なんとも気持ち良い。
地球の都心部では見ることの出来ない見事な星空を見上げ、長く息を吐き出した。今日はなんて長い一日だったのかと思い出しながら。

早朝から起き出してキエトの洞で夕方までモンスター討伐。ランクSというレアな巨大ナメクジモンスターまで出てきて魔王クレイストンと愉快な仲間たちによる死闘を繰り広げた結果エルフの秘宝であるブロジェの弓の一撃によって撃破。リルカなんとかクウェンテールとブロライトの痴話げんかを聞きながらナメクジの卵を発見。やっと名前覚えたよクウェンテール。卵を全て死滅させてからいくつか採取をし、ギルドで受注したネコミミシメジも無事採取し、ナメクジとの死闘によって半壊させてしまった洞内部を修復リペアしたらあらら大変。ぐっちょんねっちょんに爆破されたナメクジが見事復活。いや、復活と言っても生き返ったわけじゃなくて、身体だけが綺麗に治ってしまいました。やだびっくりー。

「アレには驚いたな」
「ピュイ?」
「ん?ナメクジの身体だけが綺麗に治っただろ?爆破で細切れになったのに」
「ピュピューイ」

さすがに死んでしまったものを蘇らせるほどの力は修復リペアにない。綺麗に治ったとはいえ、それは魂の抜け殻。だがしかし、せっかくのレアモンスターだからということで鞄の中へと収納させてもらいました。
更に驚いたことに、死滅させた卵を残さず燃やした結果、魔素が正しく流れるようになったのだ。

キエトの洞は近くの湖に隣接している。その湖の水がエルフの郷の近くを流れる河に繋がっており、その河の水の流れが早くなったのはこの卵とナメクジが原因だった。
大量の卵が産みつけられたことにより洞の地形が変わり、河の流れすらも変えた。それでなにがどうして魔素が濃くなっちゃったのかはさっぱりわからないが、ともかく今は濃かった魔素が通常に戻っている。通常、といってもベルカイムの数倍は濃いんだけど。

「ピュムイ」
「うん、そもそものはじまりは地震だな」

つまりがボルさんの住処の魔素停滞を解消した、俺が原因です。ハイ。
洞の最深部にあった碑文。修復リペアの影響で崩壊した洞がもとに戻った時に、碑文が書かれた石碑も発見。石碑には神様が人に警告を残すための専用の文字で記されていた。

『死を招く果ての王 ここに眠る』

リベルアリナが記したとされるその碑文。何が眠っているんだろうとわくわくと調査スキャンしてみたのだが、眠っていたのはなんとあのナメクジでした。
後は全て俺の憶測なんだけど、地震の揺れによってナメクジが目覚めてしまった。神様が封印したものがそう易々と解けるものか?と思ったが、リベルアリナ自体にそんな強大な力は無いらしい。つまりが、ボルさんが引き起こした地震の威力のほうが大きかったということだ。

「すごいな…ボルさん……」
「ピュヒ…ピュプ…」

大陸の各地に影響を及ぼす魔素。ゆるやかに流れるはずの魔素が何らかの原因で停滞し、ボルさんが弱ってしまった。それによって様々な事態を引き起こした。
俺が地質学の専門家だったとしても、魔素ってものを理解していない限り原因を突き止めることは不可能だろう。そもそも地球の地質学がこの不思議な世界で通用するとも思えないしな。
神様が封印していたナメクジが起きてしまった。そして、洞の地形を変え卵を大量に産み付けた。ナメクジそのものが原因なのか、それとも洞の地形を変えたのが原因なのかはわからないが、ともかく魔素が滞るように。

「ププププ…」
「ぶくぶくぶくぶく…」

そもそも魔法の源である魔素って何なんだよ。
この世界では魔素に対して疑問を持つものなんかいない。それくらい、身近で当たり前の存在。むしろなくてはならないもの。
ボルさんは古代竜エンシェントドラゴンであるのにもかかわらず、濃すぎる魔素によって死にそうになっていた。それだけ魔素っていうのは影響がある。

「タケル、タケル!貴様何をやっておるのだ!ああもう、長湯で逆上せおって!」
「うへぁ〜〜」

湯船にぷかりと浮かぶ俺とビーの姿を見つけた誰かが、慌てて何かを叫んでいた。
温泉を心行くまで満喫した俺たちが逆上せて気を失ったと知るのは、翌朝のことだった。


+++++


エルフの料理長が精魂込めて作ったソーセージと分厚いベーコン。朝摘みの新鮮な野菜。暖かなカニ肉すいとんスープと、ロックバードの香味焼き。各種果物の盛り合わせ。
朝からガッツリとしたメニューだったが、昨晩の夕飯を食べそこなったチーム蒼黒の団にとっては気にならない御馳走。

「はい、それでは皆さんご一緒に!」
「「「「いただきます!!」」」」
「ピュイ!」

机の上に並べられた料理の数々に、血に飢えた猛獣たちが一斉に飛びついた。
噛むのすら面倒だと、次々と飲み込んでいく。カニの甲羅と肉で味付けをした醤油スープがたまらなく美味い。細胞に染み入る。巨大寸胴鍋にめいっぱい作ったんだが、あっという間になくなりそうな勢いだ。

「ううううっ、美味いぃっ!」
「やはり美味いな」
「タケル、そちらの肉も寄越しなさい」
「はいはい、ちゃんと噛んでから飲み込めよ」
「ピュイッ」

キエトの洞を修復して必要素材を採取し、転移門ゲートで洞の入口まで戻った俺たちはへとへとだった。人間、疲れすぎると何もする気力が湧かないものだ。それはドラゴニュートとエルフも同じだったらしく、洞の入口でへたりこんでしまった。魔素水すら飲みこむ力を失っていた二人を案じ、プニさんにじゃがバタ醤油三個でエルフの郷まで猛スピードで運んでもらうことに。

クレイとブロライトはそのまま気を失い、翌朝まで目覚めることはなかった。
俺も疲れて眠くてたまらなかったが、どうしても温泉に入りたくて夕飯を我慢してまで入ったのだが。
考え事をしすぎて逆上せた挙句、クウェンテールに発見されて介抱されたという。面目ない。

「やはりカニは美味いな」
「そうだろう、そうだろう。刺身でも美味いが、焼いても煮ても茹でても美味いんだ」

一晩食べなかっただけだが、まるで数日食べていなかったような食欲を見せた俺たち。
特にカニ入りスープは好評すぎてものの数分で食べ終わった。
料理長特性のソーセージとベーコンも美味かった。ちょっとあぶって肉汁を滴らせ、新鮮野菜とあわせてパンで挟めば立派なホットドック。このソーセージは後でまとめて売ってもらうことにする。

「人心地つきましたかな」
「アーさん」
「いや、そのままで」

腹八分目まで食べ続けたところに、アーさんがクウェンテールを連れて食堂を訪れた。立とうとしたところ制され、そのまま座った。
クウェンテールは俺たちがへばっている間、キエトの洞で起こった出来事をアーさんに説明してくれたようだ。
魔素に関することは全て俺の想像にすぎないが、巨大ナメクジが封印されていたのは事実だ。洞の最深部にある碑文についてもエルフ族なら誰でも知っていたこと。俺の調査スキャン先生は決して嘘をつかないし、ナメクジを倒したことで卵の存在を知り、卵を全て焼き払ったことで魔素がゆるやかに流れるようになった。

その事実を知ったアーさん達エルフ一同は、それぞれに顔を見合わせ半信半疑。
そんな凶悪なモンスターが封印されていたのかと俺を疑い、睨みつけてきた。それならばと食堂の外に出、死んだナメクジを取り出して見せた。
あまりにも巨大すぎて俺の身体を鞄に半分突っ込み、クレイに手伝ってもらってやっとこさ取り出したのだ。

「これはまさか…信じられぬ」
「何なのだこれは!こんなものがキエトの洞に眠っておったというのか?」
「こやつ等が我らを謀っておるのでは?」

古参のハイエルフたちが次々に声を上げる。
まあそうですよね。わかります。身近にある場所にこんなデカブツが眠っていたなんて、とても信じられないことでしょう。

「謀ってはおりませぬ!わたくしがこの目でしかと、この、凶悪なモンスターが再生されるのを見たのです!」
「クウェンテール、それはまことか?」
「はい、執政様。数多くの卵が産みつけられているのも確認致しました。その卵を死滅させた後で魔素が正常に流れるのも、確かに」

俺たちを疑っていたハイエルフ達に反論をしたのが、リルとテールさんことクウェンテールだった。
初対面で敵視され、プニさんにアフロにされ、命がけで俺たちをキエトの洞まで追った。
エルフの郷の掟では外部の、特に人間と交流することは禁止されている。保守派のクウェンテールにとっては俺を擁護するなんて屈辱的なことなのかもしれない。

なんだよ、ツンケンしていただけのエルフかと思っていたら、いいやつじゃないか。
彼は胸を張って俺たちを守った。


正確に言えば俺たちを、というよりブロライトを。




+++++

エルフの郷編もあとちょっと。

そして今日も23時57分に書き終わった…
しおりを挟む