トップ>小説>皇太子の愛妾は城を出る
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 城を出る時はドキドキした。
 でも入る時ほどの検査はなくあっさりと通された。あまりにもあっけない対応にこんなので大丈夫かしらと思ってしまったくらいだ。
 侍女と一緒でないから声をかけられるかと思ったけれど私の格好は高価ではあるけれど二年前から着ている服だし侍女の服とそう変わらないからきっと侍女の一人と思われたのだろう。
 1年ぶりの城下街はあまり変わってなかった。初めてこの街を歩いて回った時、石畳の上を歩きすぎて筋肉痛になってしまった。久しぶりだから気をつけないと。


「1年くらい前になるから、あの店はまだあるかしら」

 バニーに教えてもらった店はなんでも買い取ってくれる店だと言っていた。殿下から頂いた宝石を売るならここがいいですよとさらりと言われたのだ。

「宝石をもらったことなんてないわ」

 わたしがそう言うとバニーは驚いた顔をしていた。

「意外と王族ってケチなのね」

 バニーの小さな呟きはわたしの耳にも届いた。そして不思議に思った。

「愛妾って宝石を貰えるの?」

 夜会にも行けないのに宝石をもらってどこに付けていくのだろう。

「私もよくは知りませんがそうらしいですよ」

 侍女仲間でお茶する時に聞いたそうだ。自分で売りに行かないで侍女に頼むらしい。そうするとちょっとしたお小遣いを貰えるらしくて、わたしはお小遣いをあげられないのでバニーに悪いなと思ってしまった。
《どんぐり屋》は潰れていなかった。とても小さな店だから大丈夫かなと思っていたから助かった。

『カランコロン』

 店に入ると何処からか音がして奥からおじいさんが現れた。
 店の中はいろいろなものが売っていてキョロキョロとあたりを見回す。

「いらっしゃいませ。お嬢さんは初めての客だね」

 おじいさんは私をジッと見るとそう言った。

「はい。今日初めて伺いました。あの、宝石を売りたいのですが」

 わたしは鞄から宝石を出した。全部売るのは寂しいので三つほど渡した。

「どれどれ、これは古いものだね」

 一目見ただけで造った年代がわかるようだ。古いと値段が変わってくるのだろうか?

「わかりますか? 祖母の形見なんです」

「形見を売って良いのかね?」

「仕方ありません。恋人が他の方と結婚する事になりまして家に帰る事になったので旅費が必要なんです」

 おじいさんはギョッとした顔でわたしを見た。祖父に似ているのでつい余計なことを話してしまった。誰かに話したかったのだろう。家には帰れないけど友達の家に行くというよりはマシな気がした。

「それは酷いやつだな。お嬢さんみたいな可愛い人を振るなんて見る目がないのう。旅費ぐらいそいつに払わせたらどうだい」

「なんだかそういうのに疎いみたいで....」

「ああ、お金に苦労した事のないお坊ちゃんなんだろう。そう言う奴は悪気はないんだな。気が利かないだけだ」

 確かに殿下は気が利かなかった。というかわたしに関心がなかったということかな。

「久しぶりに良い宝石を見たよ。濁りもないし金貨六十枚ってとこだな」

「ありがとうございます」

 金貨六十枚あればしばらくは暮らせる。スーザンに会ってからこれからの事を考える時間も稼げる。
 祖父と祖母の墓参りをしたいけど、さすがに父や母に会う勇気はない。
 おじいさんから金貨六十枚を貰って鞄に入れる。

「それではまたこちらの方へ来ることがありましたら寄らさせていただきます」

「おう。気をつけて帰りなさい。今度はいい男を捕まえるんだぞ」

「はーい」

 いい男って難しいわ。ユーリだっていい男に見えたんだもの。


 



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