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第5章

黄金の謝辞

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*こがねのしゃじ*



グラン・リオ・エルフ族が住まう神秘の隠れ郷、ヴィリオ・ラ・イ。
他種族の侵入を長きにわたり拒んできたが、そんなの知ったこっちゃないとズカズカ侵入したのは俺たち、チーム蒼黒の団。湿気まみれで心地悪い郷の現状を改善し、ギルドの依頼を消化するついでにランクSモンスターを討伐した。
郷を襲った異常に濃い魔素の原因はそのランクSモンスターにあったらしく、討伐した今では魔素も通常通りになり、エルフ族の郷はひとまず救われた。

エルフ族を救いたいから、なんてこれっぽっちも思ったことはない。魔素が濃いとビーや仲間が辛そうだし、湿気まみれの中で眠りたくないからという自己満足にすぎない。
濃い魔素が原因だったナメクジを倒したのだって、ギルドの依頼を消化しただけ。
俺の都合に過ぎなかったことが、全部うまいこといっただけなんだよ。

それなのに、なんでか女王様から丁重に感謝されました。

「そなたらを歓迎しておるわけではない身勝手な我らを、郷を、そなたらは救うてくれた」

いや、救ったとは思っていませんて。
だってたまたま魔素が正常になっただけですもの。
エルフの郷にある女王の謁見の間に呼び出された俺たち蒼黒の団は、正装で出迎えられた数十人のハイエルフらに見つめられるなか、玉座の前で苦笑い。
こんな仰々しい儀式みたいにする必要ないのに。

「いまいちどこうべを垂れさせてくだされ。そなたらは、まさしく我らの救い主」

女王様が玉座から立ち上がり、俺たちの前で膝をついて頭を下げた。女王様に続き、若いエルフ達が次々に腰を落として頭を下げる。
これには近習のハイエルフ達が一斉に声を荒げた。

「女王様なにをなさいまする!」
「そのような下賤な者どもに尊き頭をおさげになるなど!」
「おやめください!」

うんうん、俺たちが下賤云々ってのはこのさい置いてやるとして。
国を治める人は簡単に頭を下げちゃ駄目だ。上に立つものはどっしりと構えていないと、下のものが動揺する。
それに頭なんて下げる必要もないし、下げられても困るだけ。ほら、ブロライトなんて動揺しまくって慌てて土下座になっている。
しかし女王様は誇らしげに、微笑みを浮かべるだけ。

「黙れ!」

やいやいと騒ぎ続ける近習らを咎めたのは、女王様と同じく頭を下げていたアーさん。
アーさんもまた嬉しそうに頭を下げていたんだけど、愛らしい子供の声を精一杯張り上げ、不平不満を持つ近習らを咎めた。

「滅亡の一途を辿るだけの我が種族に、彼らは光をさしてくれたのだ!外の世界だろうが、種族の違いだろうが、そんなことは関係ないであろう!」
「し、しかしアージェンシール様」
「我らも変わらねばならぬ時が来たのだ。異なる血を受け入れなければならぬのだ。先代の教えを守るだけでは、いずれエルフの種は絶たれる。ただ何もせず嘆くだけの愚かな我らを救うてくれた者たちを、なにゆえ非難できるというのだ!!」

やだ惚れそう。
その姿は可愛いちびっこなんだけど、迫力は大人顔負け。流石は女王側近の執政官。
謁見の間はシンと静まり、古参のハイエルフたちは苦渋に顔を歪めながらも、そろそろと腰を下ろした。

「いやいや、頭なんて下げないでくださいよ。女王様も、アーさんも、ほら立って立って」

釈然としない連中に頭を下げられたところで、その下げた頭に価値は無い。無駄なだけ。どうせあとでぶちぶち文句を言うくらいなら、最初からやるなって話。
女王様をはじめ、アーさん達を全て立たせる。

「ギルドで受けた依頼クエストが、たまたま魔素の原因を解消しただけだ」
「そうだとしても、お主は美しき魔石を造り出し、我らの郷を救うたではないか」
「助けたいとか救いたいとか、そんな立派なものじゃないんだよ」

全てが棚ボタラッキーというか、都合よくうまいこといっちゃったというか。
エルフの郷を濃い魔素から守っていたオレンジダイヤは、今でも元気に起動し続けている。あれは魔素の流れを正しくするだけのアイテム。郷を快適な状態に保つためのエアコンみたいなものだ。停止しても魔素に苦しめられることはなくなったが、起動していても問題はない。

そりゃ、ランクSのモンスターとの戦いは大変だったけど、あいつを倒さなかったらギルドの依頼品は採取できなかった。
今朝残さず食べたご馳走でじゅうぶんなんだよ。報酬はギルドから相応分を受け取れることだし。

「なんと立派な…。我の手柄ぞと声を上げるでなく、謙遜をするとは」
「いや、だからね」
「皆まで言うな!古代竜エンシェントドラゴンの加護をいただきし貴殿の言葉だ。多くを語らずとも、その偉業は後世へと語り継がれるであろう」

ほんとまじやめて。
この思い込み激しいちびっこ執政官様をなんとかしてとブロライトに視線を送るが、ブロライトは満面の笑みでサムズアップ。なんなの。

アーさんが古代竜エンシェントドラゴンのことを口にしてしまったため、俺の頭を陣取る可愛い黒い竜の正体がバレてしまった。
ビーは相変わらず大きな黄金色の瞳をキョトンとさせているが、周りのハイエルフ達がわさわさと騒ぎ始める。口々に、『まさか…』『しかし執政様と女王様が…』『間違いないようで…』とひそひそ話し、古参の近習ハイエルフまでもが驚愕におののいたようだ。

「女王陛下、もしやあの小さきドラゴンが…かの大神であらせられる古代竜エンシェントドラゴンだと申されるのでございまするか?」

近習の一人が震える声で女王様に聞くと、女王様は何故かドヤ顔で深く頷いた。
一斉にひれ伏す近習達。

「ピュイ」

ビーのおかげでエルフ達からの非難の目がなくなったのはいいが、もっと面倒なことになりそうな予感がする。

「エクトナ、あれを持て」
「は」

女王様は側近の若いハイエルフに何かを告げると、その若いエルフは背後に控えていた別のハイエルフから何かを受け取った。
そして受け取ったものを女王様に渡すと。

「これは、そなたらの危うきところを救いしブロジェの弓」

ええ知ってます。クウェンテールが装備しているところを見て、カッケーさすがエルフゥ、なんて思いましたからね。

「リベルアリナより賜りし我が郷の秘宝でありましたが、此度の働きにエルフ族を総じて感謝の証と致します」
「えっ」
「さあ、聖なる弓を受け取りなさい」
「えっ」
「ピュ?」

--------------

ブロジェの弓 ランクS 神器

グラン・リオ・エルフ族に伝わる古の武具。緑王リベルアリナが手ずから造りし神の武具でもあり、装備者の魔力に応じてその威力を変化させる。弓矢は要せず、魔力を用いて矢と成す。超レアだよ。

--------------

調査スキャン先生、そうやって俺を誘惑するのはやめなさい。
いらないから!
こんなの、いらないから!!

「いや、女王様、こんな凄いもの貰っちゃっても使えないから」
「ブロジェの弓は装備者の魔力に応じます。古代竜エンシェントドラゴンの加護をいただきしタケルであれば、この弓の力を遺憾なく発揮することができるでしょう」
「いやいやいやいや、ほんとまじでやめてよして。いらないんですよ、ぶっちゃけ。あっても困るんです。俺はほら、このね、この、杖が武器ですから!弓なんて超格好いい装備品、俺には似合わないっていうか、使ったことないんだから貰ったところでタンスならぬ鞄の肥やしですよ?ハンマーアリクイのうんこのほうが役に立つくらいですよ?」

お祭りの弓矢すら触ったことのない俺が、神様が造った弓なんて扱えるわけがない。
郷の大切な秘宝だというのなら、郷で使うのが正解ってものだ。クウェンテールにでも持たせればいいんじゃないの?
さあさあと満面の笑みで弓を勧める女王様に困り、ブロライトに助けを求めてみる。一応。

「ブロライト、お前からも何か言ってくれ。エルフの大切な宝なんだろ?そんな大切なもの、ただの冒険者に譲渡したらいけません」
「ブロジェの弓は、より強い魔力を持つものに応じるのじゃ。この郷の誰よりも強い魔力を持つのはタケルじゃ」

そうなの?

「タケルが持つに相応しいとおもうのじゃ!」
「そうです。郷を救いしタケル殿にこそ相応しい」
古代竜エンシェントドラゴンのご加護をいただきし者であったとは…数々の無礼、平にお許しくださいませ」
「ピュィーー…」
「タケル殿、是非ともブロジェの弓を」
「我らの感謝の証を」
「是非とも」
「タケル殿」
「何卒」

見事な掌返し、と言うのは失礼だろうか。
しかし、古参のハイエルフ達はさっきまでの罵声は無かったことにし、エルフの秘宝を是非にと勧めてくる。余程古代竜エンシェントドラゴンの威光が強かったのだろう。
ブロライトは目をキラキラ輝かせて受け取れと訴えてくるし、クレイは俺がどうして受け取らないのか不思議な顔をしている。

いやだからさ、使い方のわからないものを貰っても、嬉しくないっていうか。弓を習えばいいかもしれないが、弓で仕留めるよりも魔法のほうが早いし便利なんだよ。光線矢フォースアロウという魔法を無詠唱で放つと威力は半減するが、それでも鞄から弓を出して、ハイ魔力を練って矢を作って、次に狙いを定めて、とやっている間に確実に仕留められる。
そもそも光線矢フォースアロウだって単純に「かっこいいから」という理由で生み出した魔法なのだ。別名、無駄なモーションをつけて放つ黒歴史量産者の成せる業とも言います。

「我らの心を受け取ってください」

女王様に懇願され、エルフ達に強く訴えられ、俺は結局ブロジェの弓を受け取ることにした。


テッテレー

タケルは ブロジェの弓 を 手に入れた !


うん。
嬉しくない。
感謝の証というのなら、ハデ茶三年ぶんと料理長特製ソーセージ一年ぶんが良かった。
だがこの弓、ランクSのモンスターを内部から爆発させるくらいの威力がある。クウェンテールはあの一発で大量の魔力を消費してしまい、次に装填できるまで半日はかかるだろうと言っていた。エルフの膨大な魔力を根こそぎ奪う弓なんて、怖い。
一撃必殺の凄い武器かもしれないが、うかつに使うこともできない。こんな凄い特別なもの、持っていると知られたら盗賊に命狙われちゃうじゃない。やだあ。


「そういうわけで、この弓はブロライトが装備しなさいね」
「なにゆえ!ブロジェの弓はタケルのものではないか!」
「だって俺、弓なんて使ったことないからいらない」
「なんとぉっ?!」


ランクSの超レアな武器をいらないって言うのは、きっとおかしなことじゃないはずだ。





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いらなければ、売る。
売れなければ、いらない。

そんなもんかなと。

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