トップ>小説>勇者のその後〜地球に帰れなくなったので自分の為に異世界を住み良くしました〜
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第2話 勇者、異世界に居残る

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「まぁ座れや」

 バルザックに進められて俺は椅子に座る。
 ここはさっきまで居た儀式の間ではなく、城下にあるバルザックの屋敷だった。

「しっかし大変な事になったな。まさか元の世界に帰れなくなるとは」

 バルザックの言う通りだった。
 俺は元の世界に帰れなくなってしまっていたのだ。
 しかもその理由はレベルの上げすぎが原因でだ!

 ◆

「貴方は元の世界に帰る事はできなくなりました」

 神官のミューラと儀式を行っていた魔法使い達は異口同音にそう言った。

「ど、どういう事なんだ!?」

 しかしそれだけでは分からない。
 俺は当然の如くミューラ達を問いただした。

「私が話すよりも専門家に聞いた方が良いでしょう」

 そういってミューラが一歩下がると、儀式を行っていた魔法使いの一人が前に出てくる。

「では私が説明いたします」

 そういって魔法使いが話した内容は、到底受け入れがたいものだった。

「この逆召喚魔法は召喚された勇者様を元の世界にお返しする為のものです。魔法の体系としては転移魔法に近いものですな」

「それが何で帰れなくなるんだ? まさか元の世界の場所が分からなくなったって言うのか?」

「いえ、そう言う訳ではありません。逆召喚先の座標は勇者様自身の魂が記憶しておりますので、見失うという事自体がありえないんのです」

「魂が記憶している?」

「ええ、動物に帰巣本能があるように、人間の魂にも元の世界の場所を本能的に察する帰巣本能があるのです。逆召喚魔法はその帰巣本能を利用した魔法ですので、転移先を見失う事はございません」

「じゃあ何で元の世界に帰れなくなったんだよ!!」

 俺が怒鳴ると、魔法使い達は言いにくそうに言葉を濁らせる。

「落ち着いて、貴方が怒るとこの方達も話しづらくなりますよ」

 ミューラが俺の手を掴んで諌めてくる。

「……すまない。続けてくれ」

 目の前で揺れるミューラの胸に意識を奪われた事で俺は俺は冷静な気持ちを取り戻した。
 別の場所は冷静でなくなったが。

「はい、実はですね、過去にこの儀式を行ってももとの世界に帰れなかった勇者様の記述があったのですよ」

「俺の他にも帰れなかった勇者が!?」

「はい、その勇者様はすさまじい魔法の使い手だったそうで、どうやらソレが原因で元の世界に帰れなくなってしまったそうなのです」

「どういう事だよ!?」

 すごい魔法を使えると何で帰れなくなるんだ!?

「つまりですね……魔法に長けているという事は、勇者様は魔法に対しての抵抗力もすさまじかったという事なのです」

 おい、まさか……

「お気づきになられたかとは思いますが、勇者様が帰れなくなった理由は勇者様の魔法抵抗力が我々全員の力を超えてしまったのが原因なのです」

「な、なんだってぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

 その日、俺は心の底から絶叫した。

 ◆

「まさかトーヤが強くなりすぎた所為で帰れなくなっちゃうなんてね」

 俺の横に座ったエアリアがため息を吐きながら辛い事実を口にする。
 だがエアリアはその口ぶりとは裏腹に声は弾み、口角は緩み、俺の腕にがっしりとしがみついていた。
 言ってる内容と態度が違いすぎませんかね?

「私がトーヤさんが帰れないかもしれないと知った理由も、先ほどの話に出た過去の勇者様の伝承を大司教様よりお聞きしたからなのです」

 反対側の席に座ったミューラがため息を吐く。
 こちらは随分と艶っぽいため息だ。
 俺を気遣ってくれているのだろう。

「転移魔法を始めとした空間操作系魔法は空間を捻じ曲げて本来ありえない場所と場所をつなげる魔法、同じ世界間を行き来する分には安定していますが、遠く離れた異世界の空間とつなげる事は非常に危険な行為。その為、魂が本能的に抵抗してしまうのが原因ではないかというのが教会の専門家達の見解です」

「はぁ……どうしたモンかね」

 結局、魔法使い達が全力で俺が元の世界に帰れる方法を探すからそれまで待っていて欲しいという事で話は終わりになってしまった。
 なんとも世知辛い話ですよ。
 んで、そこに居ても魔法使い達の邪魔だからと、バルザックが自分の屋敷に招待してくれたのだ。

「まぁ現状は待つしかないだろ。帰る方法が見つかるまでは俺の屋敷で暮らせば良いさ」

「助かるよ」

「という訳でだ、そろそろ飯にしようか」

 バルザックが指を鳴らすと、ドアが開いて何人もの女性が料理を運んでくる。

「まだ朝飯を食ってないだろ? 食って元気になれ!」

 と言って自分のグラスに酒を注ぐバルザック。

「朝っぱらから酒かよ」

「ははははっ、魔王退治の褒美で暫くは騎士業も休みだからな!」

 なるほどね。
 けどこの世界で朝から酒を飲む人間は珍しくない。
 地球と違って水事情が違うこの世界では飲み水は井戸、湧き水、雨水の三つだ。
 けど瓶に溜めた水をそのまま飲むのはまずいので、一旦湯を沸かして冷ますかお茶にして呑む。
 けどお茶の葉は高価なので庶民が飲むのは白湯かバレアと呼ばれる木の皮を燻したお茶っぽいものだ。
 けど沸かすにも薪が必要なので、大人は大抵安い酒を水代わりに飲む。
 予め冷ましたお湯で薄めた酒ならアルコール度数も少ないしね。

「おいトーヤ、これが俺の嫁が作った料理だ! 美味いぞ! 食ってみろ!」

 早速酔っ払ったのかバルザックが俺の背中を叩きながら料理を勧めてくる。

 正直バルザックの気遣いがありがたい。
 こういう時は一人になりたいもんだが、それだとドンドン悪い方向に思考が向いてしまう。
 だからバルザックはあえて騒がしくする事で気を紛らわせようとしてくれたのだろう。

「俺の嫁の料理は世界一だからな!!」

 嫁さんを自慢したい訳ではないと思いたい。

 ◆

食事が終わった俺は、使用人に案内されて自分の使う部屋へとやってきた。

「こちらのお部屋をお使いくださいませ」

 使用人はそれだけ言うとそそくさと去っていった。
 さすが貴族の使用人だけあって教育が行き届いているんだなぁ。

「ふぅ」

 俺は荷物をテーブルの上に置くと、ベッドに倒れこむ。
 ベッド突然飛び込んできた俺を優しく包み込む。
 旅の途中で止まった安宿のベッドとは大違いだ。

「はぁ〜」

 ため息がでる。
 それは陰鬱な気持ちを吐き出す為の物ではなく、ただただこれまでの長い旅が終わった事で気が抜けたからだ。

 俺は旅の記憶を思い出していく。

 旅が始まってから戦いづくしだった。
 苦しんでいる人を救い、魔族の作戦を破り、時に人間の陰謀とも戦った。
 反目する二つの種族を和解させ、船乗り達に恐れられる巨大な海魔を倒した。
 軍事国家の行き過ぎた選民思想を、それを利用していた魔族の暗躍を明るみにする事で本当にするべき事を、彼らがしたかった事を思い出させた。
 地上の戦いに無関心だった孤高の種族達に他人事ではないと理解させ協力を得る事が出来た。
 深いダンジョンの中に眠る伝説の武器を手に入れたりもした。
 だが……

「戦った記憶しかないなぁ」

 俺の思い出の中にあるのは、戦いの記憶ばかりだった。
 そこには、戦い以外の何もない。
 この世界はどんな世界なのか、様々な種族が何を考え、何を食べ、何を楽しんでいるのか。
 そういった普通の目でこの世界を見た記憶がほとんどなかった。

「そうだな、そういうのもありか」

 どうせする事がなくなってしまったのなら……

「地球に帰るアテが出来るまで、この世界を見て回るのもアリかな」

 元の世界に戻るまでの暇つぶし、少なくともその時は本気でそう思っていた。
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