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魔物娘たちの御主人様!

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序編

第4話 主人と奴隷

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タロウはサイクロプスのメスであるプス子を連れて町中の普通の市場に戻る。
魔物奴隷は特に珍しいものでは無いらしく行き交う人々は誰も気にしていなかった。

プス子が大きいとはいっても2メートルぐらいなので、とてつもない巨人という程ではない。
これぐらいの高さなら人間の中にもいるので、町中に出てしまえば威圧感というのも大したものではなかった。

あの迫力はやはり檻の中という狭い空間のせいもあったのだとタロウは思う。

プス子は大人しいもので何も言わずタロウの後をついてくる。

首枷は識別首輪と言われる奴隷を判別する為の鉄製の首輪に黒皮を被せた「黒色首輪」と呼ばれる物にかわり、首の鎖は外れている。

木製の手枷と足枷は付いたままで、左右の手首、足首の間にはそれぞれ程よい長さの鎖が繋がっている。
タロウは鍵をもらったがすぐには使わなかった。
なにせ、この枷を町中で外して良いのか悪いのかがタロウには分からなかったのである。

「(……枷を外して皆が騒ぎ出しても困るしな)」

タロウは首だけを後ろに振り返らせてプス子に話しかける。

「悪いなプス子。枷を町中で外して良いのかよく分からなくてな。しばらくそのままで我慢してくれるか?」

「大丈夫だよタロ様ー。私、久しぶりに外を歩けただけで幸せだから」

プス子は本当に嬉しそうに笑う。

「そっか」

タロウも微笑み返すと前を向く。

そして、少しだけ表情を引き締めた。

正直、タロウに不安が無いと言えば嘘になる。

勢いで魔物娘であるプス子を購入してしまったが、果たして平凡な人間である「自分」が本当に魔物を従わせられるのか。

魔物奴隷を購入しただけで奴隷契約が本当に締結されるわけではないのだ。

これからが本番なのだ。

これからのタロウの振る舞いにより、主人と奴隷の関係性をきちんと築けた時に本物の主従は完成するのだとタロウは考える。

「(忠実なる良き奴隷が欲しいなら、 誠実なる良き主人でなくてはならないのだろうな。 相手に求めるだけでなく、こちらも応える。 その先に俺の求める理想の主従があるように思うけど、たぶん大変だろうなー。 ま、やれる範囲でやってみるしかないな)」

タロウはパン屋の前で止まると、柔らかな白パン2つを銅粒2つ(200円)で購入する。

「パンを食べるか?」

タロウはプス子の前に白パン2つを差し出す。

「え?」

プス子はきょとんとして大きな単眼をぱちぱち開閉している。

「どうしたパンは嫌いか?」

「その綺麗な食べ物を食べて良いの? いつもの泥団子みたいなやつじゃなくていいの?」

どうやら檻の中では食糧費を抑える為なのか粗悪な食事を出されていたようだ。

「ああ、食べていいよ」

「わーい」

プス子は大喜びで白パンを受け取ると口に運ぶ。

「わー! なにこれー! ふわふわしてるー! 凄く美味しいよタロ様ー!!」

プス子は白パンを食べながら大きな単眼をより大きく見開きながら驚く。

「そりゃ良かったな。それは人間が小麦から作った白パンって言う食べ物だ」

「白パンすごいー! 私、初めて食べた―!」

プス子はモグモグと口に詰め込んでいく。

「こらこら喉に詰まるぞ」

「むぐぐー」

案の定、喉を詰まらせるプス子。
プス子は自分で胸をどんどんと叩くと喉の詰まりをやり過ごす。

「美味しいー白パン」

両手に白パンを握りしめながら幸せそうに笑うプス子。

「そんなに喜んでくれるなら俺も嬉しいよ」

「タロ様は優しいねー」

「さ、残りは歩きなら食べな。行くぞプス子」

「あいー」

しばらく市場の通りを歩いていると、先の方から魔物奴隷を2匹連れた男が歩いてきた。
男はタロウと同じような冒険者の服装で腰には長い剣を携えている。
その男の後ろに従うのはミノタウロスとオークだった。

魔物奴隷の識別首輪は黒色。

どうやら戦闘用の魔物奴隷であり、男は魔物殺しか魔物狩りの本職のようだった。

初めて見た戦闘用の魔物奴隷にタロウの目は釘付けになる。
まず何と言っても特徴的だったのが魔物奴隷の目だった。

「(明らかに目が死んでるな……。もはや絶望を通り越して何も考えていないのかもしれない。ここまで仕上げるのに余程の恐怖を叩き込んだんだろうな……)」

次に気がついたのが魔物奴隷は枷をしていないという点と、それなりの軽装備を施していることだった。

「(町中でも枷は要らないんだな。 あとやはり戦闘用にする以上は武器を所持させるのか。 枷を外して武器を持たせる……正直怖い気もするが、あんな目になるほどに恐怖で支配するのが一般的な手法のようだな)」

男はタロウのプス子を見て、枷付き、装備無しという状況に薄ら笑いを浮かべるが、タロウは「だって購入したてですから」と心で答えて無視する。
男と魔物奴隷がタロウとすれ違い、そのまま通りの先に消えていったところでタロウは立ち止まるとプス子に振り返る。

「今の魔物奴隷達は枷を付けてなかったな。どうやら町中でも枷は要らないみたいだからプス子も外すか」

「いいのー?」

「ああ、いいよ」

タロウはニコリと微笑むが心中は緊張していた。
枷を外した瞬間に襲われるかもしれない。

なにせ「人間」はプス子にかなりの非道を行なっているのだ。

プス子は人間がとても怖いと言っていたが、それと同じぐらい恨みも大きいはずである。

所詮、タロウも「人間」という種族の一員である。
プス子の人間への恨みがタロウに叩きこまれても不思議ではない。

「(俺を攻撃するならまだいい。もしもの時はあのチート能力でしのげるはずだ……)」

だが、タロウに襲いかかるよりも更に最悪なのは周囲の人間を襲うことである。
そうなればプス子は治安部隊の第七教導騎士団に処分されるであろう。

安全に安全を期すならば人のいない町の外で枷を外すのもいい。

だが、そこで何もなかったからといって町の中に入った時に暴れないとは限らない。

人と見れば襲いかかるような性格では、恐怖で支配する調教を行えないタロウには扱いきれないのだ。
結局、プス子の真価は人混みの中でこそ問われているのだ。

「(プス子……お願いだから暴れてくれるなよ。 だが、もしも、もしもの時はせめて俺の手で……)」

タロウは祈るような思いでプス子の手枷に鍵を差し込む。
プス子はじっとタロウの様子を大きな単眼で見つめている。
そのまま鍵を回そうと力を込めるもタロウは手の動きを止めた。

「(――祈ってどうする! 俺にはプス子に語りかけられる「魔物言語」があるじゃないか!)」

タロウはプス子を見上げて大きな単眼を見る。

「――プス子! 俺はプス子を大事にするつもりだ。人間は嫌いだろうけど、だからと言って枷を外しても暴れちゃダメだぞ。人に対して意味もなく害を与える魔物は、この世界では生きてはいけない。俺はプス子に死んで欲しくないんだ」

プス子は微笑みながら頷くと、とろいながらもしっかりとした口調で返事する。

「大丈夫だよタロ様。だって魔物は「悪いことをしなくても」この世界ではもう生きてはいけないから。逃げてもまた捕まるか、悪ければ殺されてしまう。だから私は優しいタロ様に付いていくと決めたんだよ」

「……プス子」

タロウはプス子の単眼を見つめた後、プス子を信じる決心をする。

タロウはプス子の手枷に差し込んだ鍵を回して外し、続いて足枷の鍵も外した。

プス子は自分で手枷、足枷を取り外す。

手枷と足枷とそれらに繋がっていた鎖が「ガチャガチャ」と音を立てて地面に落ちる。

プス子は暴れなかった。

ただ優しい微笑みを浮かべてタロウを見つめている。

「信じてくれてありがとうタロ様。どうかこれから宜しくお願いします」

「ああ……分かった。これから宜しくなプス子」

「あい。タロ様」

プス子は嬉しそうに笑うのだった。
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