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魔物娘たちの御主人様!

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序編

第9話 初めての野営

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プス子が引く荷車の中で寝転んでいるタロウ。

辺りの景色には既に田畑はなく、今や荒涼とした大地がどこまでも続いている。

二人は北の未開拓地への前線基地として賑わう「要塞都市バルタロ」があるというコロル大荒野へと入っていた。

程よく慣らさられている一本道が大地の向こうに吸い込まれるように続いている。

あれだけ健やかだった青空は、夕暮れ色に移り変わり天上はほの暗く明るさを失い始めていた。

そんな明るさを失い始めた天上には新しく生まれいでるかのように星々が顔を見せ始め、遥か彼方にある大地の果てでは大きな夕日が沈み込んでいる。

太陽が隠れれば早々に静かな夜がやってくる。

「そろそろ夜だなープス子」

「あい。そろそろ夜です」

「今日はここらで休もうか」

「あい」

タロウがそう命令するとプス子は荷車を引くのを止めて、野営の準備に取りかかる。

プス子は仕入れておいた燃料の薪を並べると、渇いた繊維状の麻綿と藁と細かい木を中に入れて、タロウに買ってもらった火起こし用の火打石を叩き合わせる。

「わー。人間の火打石は凄いですね。火花がたくさん出ます」

プス子が火打石を叩き合わせる度に綺麗な火花が飛び散り麻綿の上に降り注ぐ。

すぐさま麻綿は燃え上がり火種となると、藁と細かい木を燃やして炎となり少しずつ薪に乗り移っていく。

やがて「パチパチ」と薪が爆ぜる音をあげながら燃え始めた。

「さすがに日が落ちてくると少し肌寒いな。なにか温かいものでも飲もうか。どうだプス子も一緒に飲むか?」

「いいの?」

「いいよ。今日は戦闘に荷車引きと一日お疲れ様だったからな。ご褒美だ」

「あい!」

「じゃあ、まず俺が作るからよく見ておくんだぞ。これからはプス子にも作ってもらうからな」

「あい、タロ様」

タロウは市場で買った小鍋に水を入れて焚き火に乗せる。

「まずは鍋に飲み水を入れて沸騰させるまで待つ」

タロウはあぐらをかきプス子は乙女座り。

二人は隣同士で座りながら、ぼんやりと火に炙られる小鍋を見つめる。

辺りは既に日が落ちて闇に包まれていた。

空を見上げれば満天の星。

目の前にあるのは暖かに燃える焚き火。

ゆらゆらと炎が揺らめく様は幻想的で美しい。

何とも言えない冒険的な雰囲気と空間にタロウは酔いしれる。

「(俺、異世界を冒険しているなー……)」

タロウは焚き火を眺めながらしみじみと心の中で呟いた。

「タロ様。お水が沸いてきました」

「……ん。沸いたか」

タロウは手元に置いてあった紅茶の葉が入った袋を開けると、無造作に摘んで鍋に放り込む。

「二人分なら茶葉はこんなものな」

「これは何ですかタロ様」

「紅茶と言って植物の葉だよ。香りと味を楽しむ為に入れるのさ。市場で試飲してみたら美味しかったんでな。ついでに買ってみた」

「へー。私は白湯しか飲んだことがありません」

「人間ってのは嗜好品が好きだからな。色んな物を入れて飲むんだよ」

「わー。ほんとだ。良い香りがしてきました」

「更に牛の乳なんかを入れたい所だが、それはまた今度として最後に甘みを足さないとな」

タロウは砂糖袋から砂糖を摘むと鍋に放り込む。

「砂糖はこんな量で」

「さとう?」

「ふふふ。プス子は知らないだろうなー。人間の大好物の一つさ。まー飲んでみてのお楽しみ」

「ほー」

良い感じで紅茶の味が出た所で、タロウは大きめのスプーンに細かい穴が開けられた様な茶こしに通し、金属製の鈍く光るコップに注ぎ入れる。

「ほらプス子。飲んでみな」

「あ、あい!」

プス子は緊張気味にゆらゆらと湯気が立つコップを受け取ると唇を尖らせながら「すすす」と啜る。

「わーー!! あーまーいー!!」

プス子は「ニパー!」と歓喜の笑顔を浮かべるとタロウを見つめる。

「どうだ。美味いだろ」

「こんなに美味しい飲み物は初めてです!」

「これを「紅茶」と言うんだ」

「こうちゃー。凄いなーこうちゃー」

プス子は「ふーふー」しながら紅茶を飲む。
それを見ながらタロウも紅茶に口をつけた。

口内の温度が上がったからなのか、タロウの吐き出した息が白くなって夜空に消えていく。
タロウは満天の星空を眺める。

「(あー……。この冒険者チック満載な雰囲気。たまんねーなー……)」

サラリーマン風の男が言っていたが「異世界旅行のチケット」とは良く言ったものだとタロウは一人納得した。
タロウは食料袋から干し肉や乾燥パンなどを取り出すとプス子に分け与える。

「食べなプス子。まー、日持ち優先で白パンみたいにふわふわはしていないけどな」

「大丈夫です! 泥団子に比べたらこのパンもとても美味しいのです!」

「そっか」

タロウは乾燥パンをかじり、紅茶を口に含んでふやかしながら食べる。

プス子は顎が強いのか気にせずにガジガジと食べていた。

しばらくするとプス子が鼻をすすり始める。

タロウはプス子の横顔を目だけを動かして見てみると、プス子は大きな単眼の両端から涙をポロポロとこぼしながら乾燥パンにかじりついていた。

「タロ様は優しいねー」

「凄いだろ」

「とても凄いです」

「褒められるってのは気持ちが良いからな。どんどん褒めて良いぞ」

「あい。タロ様は優しくて本当に凄いです」

「あはは。さすがにちと照れるなー。ま、でもその気持ち良さが分かるからこそ俺も相手を褒めるわけさ」

タロウはプス子の頭を撫で撫でする。

「プス子は従順で偉いぞ」

「あ、あい」

プス子は急に頭を撫でてもらえた事に驚きながらも嬉しそうに笑う。

「これからも宜しく頼むぞプス子」

「あい! 頑張ります!」

やがてタロウは食事を終えるとプス子に膝枕をしてもらう。

「はー、食った食った」

「ごちそうさまでしたタロ様」

「はい、プス子も今日はお疲れ。明日も荷車引き頼むぞ」

「あい」

「それじゃ火の番を宜しくな」

「あい。山に居た時も火の番をしていたので得意です」

「……そうか。頼むぞ……プス子……」

食欲が満たされた事と焚き火の温もりにより眠気が出てきたのか、タロウはプス子に膝枕をしてもらいながら微かな寝息をたて始める。

プス子はそんな無防備なタロウの顔を見つめていた。

プス子は右手をそっと上げてタロウの頭の上に移動させる。

そして、静かにそっと手の平をタロウの髪の上に乗せると、ゆっくりと静かにタロウの頭を撫でる。

「むふふー」

タロウの頭を撫でてなんだかとても幸せな気持ちになるプス子。

「(タロ様に撫でられるのはとても気持ち良いけど、タロ様の頭を撫でるのもとても気持ち良いな)」

プス子は伴侶の毛繕いをするかのように、優しい微笑みをたたえたままタロウの頭を静かに撫で続けるのだった。
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