トップ>小説>皇太子の愛妾は城を出る
9 / 98

しおりを挟む

「お姉ちゃんって、見たまんまっていうか。うーん。やっぱり、お嬢様なんだな」

 パックの呆れたような言葉にわたしは固まった。
 多分慰められると勝手に思っていたからだ。
 馬車に乗った時、パックにハチミツパンを何故残したのかを聞かれ、イジメで虫入りのシチューを食べさせられた時から味覚がなくなってることに今日気付いて、食べる気がなくなったのだと正直に話した。さすがに皇太子の愛妾だった事は言えなかったけれどパックには何故がスラスラと本当のことを話していた。

「見てわかるの?」

「そりゃわかるよ。一度も働いたことがないだろうっていう荒れてない手をしてるし、僕たちと違って毎日風呂にも入ってるって匂いでわかるよ。服だって何日も同じの着てる冒険者たちと違って洗濯されてるでしょ。僕たちも今日は一般人の振りをしてるからいつもより小綺麗にしてるけど、所詮付け焼き刃なんだってお姉ちゃん見てたらわかるよ」

「そうなの? わたしにはよくわからないわ」

 パックはいつもとは違って小綺麗にしてるって言ってるけど、そもそも冒険者の日頃の格好というのがよくわからない。そんなにいつもは汚い格好なのだろうか。

「お姉ちゃんは本当の貧乏を知らない。それがよくわかる。だって僕だったらその虫入りの食事を吐くなんて、ましてや残すなんてもったいない事はしない。しかもそれがトラウマになって味覚障害になるなんて僕からしたら甘えてるようにしか見えない。僕たちはどんな不味い虫だって腹を満たすためなら食べるよ」

  目からウロコが落ちると言うのはこう言う事なのか。パックに言われるまで虫は人間の食べるものだと思っていなかった。なんて傲慢なんだろう。人間の食べるものじゃない虫を入れられたと嘆き、それがどんなに嫌だったかと虫を食べなければ生きていけなかったパックに話してしまった。
   わたしはただのお嬢様で甘えた子供と同じ。悲劇のヒロインぶってるだけで何の努力もしなかった。     
   食事については侍女長にもっと文句を言っても良かったし、意地悪な侍女には仕返しだってすればよかった。女同士の喧嘩なら勝てたかもしれない。何故ただただ泣いてたのか……。
 また涙が出そうになって、必死に歯を食いしばった。これ以上パックに情けない姿を見せたくない。

「おいおい、パック。お貴族様に虫なんて食えるわけないだろ。戦争を経験している騎士なんかだと貴族でも虫を食べるのが平気になるだろうけど、貴族のお嬢様には無理だよ」

  バッカーがわたしが泣くとでも思ったのか優しい声でなだめてくる。でも彼も虫くらいで騒ぐなんてとでも思っているようだ。見渡せば馬車に乗ってる冒険者たちはみんなこの話を聞いていたようで苦笑している。

「冒険者の皆さんは虫を食べるのが当たり前なのでしょうか?」

   バッカーは騎士でも戦争になれば虫を食べると言った。

「そうだね。洞窟の中に何日もいることもあるし、持っていける食料だって限りがあるから自給自足として虫だって食べるし、コウモリや蛇も食べるよ。中毒が怖いから生で食べるのはよっぽどの時だけだけどね」

  パックの隣に座っていた三十代くらいの人の良さそうなおじさんが笑いながら呟く。そうか、虫だけでなくコウモリや蛇も食べるのか。魔法が多少使えるから冒険者になることも視野に入れてたけど、とてもじゃないけど無理そうだ。

「だけどね、君に虫を食べれとは言わないよ。君は冒険者でもないし、見た所お金に困ってるようでもないからね。ただ、虫は食べ物ではないと言うのは失礼になる場合もあるから気をつけたほうが良い」

  わたしは彼の言葉にただ頷くことしか出来なかった。ごめんなさいと謝りたかったけど声が出なかったから。虫入りシチューで味覚障害になるなんて情けない。ユーリに何も言わないまま城を出てきたのも良く考えたら自分勝手な行動だ。あらゆる人に迷惑をかけたかも知れない。
  本当に馬鹿だった。これから山賊退治があるのに変な話をして申し訳ない。
  色々と考えを整理したいけどそれは山賊を退治してからゆっくり考えよう。時間だけはたっぷりあるから。


 

しおりを挟む