トップ>小説>勇者のその後〜地球に帰れなくなったので自分の為に異世界を住み良くしました〜
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第3話 勇者、城下町を満喫する

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 俺はバルザックの屋敷を出て、城下町を散策していた。
 勇者とバレると面倒なので、服装はこの世界の普通の服だ。

「勇者様が世界を救った記念に今日の串焼きは銅貨一枚分おまけだよ!!」

「たった一枚かよ!」

 安売りを謳う店主に客が冷やかしの声を上げる。

「一枚でも安い方が良いに違いねぇだろうが!」

「違いねぇや。親父二本くれ!」

「あいよ!」

 どうやら冷やかしと言ってもツッコミみたいなものだったらしい。
 他の客も店に並び、それに対抗する様に他の店も安売りを始める。

「ウチの串の方が美味いよ! ウチも銅貨一枚安くするよ!」

「いやいやウチの方が美味いよ!」

 といいつつも値段はそれ以上下げようとはしない。
 あまり安くしても儲けにならないからだろう。
 地球でも安売りを売りにしていたファーストフードが後年それが原因で苦労していたからな。
 こういう特別な祝いの日だからだという理由が必要なのだろう。

「俺も2本くれ」

「毎度! っと、兄ちゃん見ない顔だな。旅の人かい?」

「ああ、たまたまこの国に来たらこの騒ぎさ」

 嘘は言ってない。騒ぎの原因は俺だけどな。

「はははっ! そりゃあ良いタイミングで来たな! なにせ昨日は勇者様が魔王を倒した祝いの日だからな!」

「魔王を倒したってのはホントの話なのか?」

「おうともよ! 王様がおふれを出したんだ。魔王を退治しに旅に出た勇者様が魔王の首を持って帰ってきたってな」

 まぁ間違いではない。首から下も持ってきたが。
 倒した相手の死体を持ってくるのは少々気が引けたが、ちゃんと証拠がないと皆安心できないもんな。
 ちゃんと魔王を倒したって証がないと、残った魔族達が実は魔王はまだ生きてるって言い張って二代目魔王とかが出てこないとも限らない。

 一応王様には見せしめが終わったら、魔王の死体は綺麗にしてやってちゃんと埋葬して欲しいと言ってある。
 敵ではあったが、正々堂々とした戦士だったし、日本人的感性なのか、命を賭けて戦った相手の死体を辱める事もしたくはなかったのだ。
 本当なら晒し首にするのも反対だったのだが、騎士団長達からこれまで魔王の被害にあった民の心の傷を癒すのに必要だと言われては納得するしかなかった。
 この世界じゃ地球と違って生命保険もないし裁判を行って慰謝料を取る事も出来やしない。
 だからせめて鬱憤を晴らす必要があるんだと言われてはもうどうしようもない。
 死体を綺麗にして埋葬して欲しいというのがギリギリのラインだった。
 もちろんそれも民衆には内緒だ。
 バレたら絶対墓荒らしが魔王の死体を掘り返して何かやらかすだろうからな。

 そんな事を考えながら、俺はふとある事を思い至って屋台の店主に追加注文をする。

「悪いけど、あと20本追加で頼む」

「あいよ!」

 地球に帰る前に挨拶しておきたい人が居たのを忘れていた。

 ◆
 
「すいませー……」

「さぁ貯まった借金、まとめて支払ってもらおうか!!」

 ドアを開けたらなんだかテンプレな台詞が聞こえてきた。
 返事を期待できそうもなかったので、俺は勝手に中に入る。

「もう少しだけ待ってください!」

「そう言って何ヶ月だ!? もう待てないんだよ!」

 典型的な借金の取立て会話だ。
 確かにこの建物はボロボロで、隙間風は入り放題雨が降ったら雨漏りで桶が足りなくなる。
 とても借金を返すどころではないだろう。
 だが、ここの主は以前俺が来た時は、借金などしていなかった筈なんだがなぁ。

「ともかく、金が返せないのならあんたの体で払ってもらおうか!」

「いやっ! 放して!」

 おっと、悠長にはしていられないみたいだ。
 そろそろ乱入しないと。
 
「そこら辺にしといてもらおうか」

 俺は図ったようなタイミングで会話に割り込んだ。

「なんだ手前ぇは!」

 部屋の中にいたのは十代後半くらいの女の子と、三十代くらいの目つきの悪いオッサン二人だった。

「ここの関係者ですよ」

「関係者だぁ?」

「君は!?」

 女の子の方は俺の顔を見てすぐ気付いてくれたみたいだ。
 たった数日の付き合いだったが、ちゃんと覚えてくれていると思うと嬉しいもんだ。

「一体何事ですか? ここは神聖な教会ですよ。シスターに乱暴なんてしたら神罰が下りますよ」

 そう、目の前の女の子は紺色の衣装を着て、髪も衣装で隠している。
 典型的なシスター衣装だ。
 まぁ、異世界人らしく地球のシスターとはちょっとデザインが違うが。
 
「けっ、こんな貧乏教会で何が神罰だ! 文句があるのなら借金を返してから言えってんだ!」

 まぁ道理だわな。借金取りも慈善事業じゃない訳だし。

「返済の契約はどうなってるんですか?」

「借金が金が二〇枚、月々銀貨五枚返済で利息はそのうち銀貨一枚だ。だがここんところ支払いが滞ってるから滞納分の銀貨二〇枚をまとめて払ってもらうぜ」

 つまり四ヶ月分支払いを滞納してる訳か。
 そら借金取りも怒るわ。

「分かりました。俺が銀貨二〇枚を支払いましょう」

「え? で、でも」

「おお、そいつはありがてぇ。それじゃあ銀貨二〇枚今すぐ支払ってくれ」

 シスターが遠慮しようとするも、借金取りがそれをさえぎる。
 俺は魔法の袋から銀貨二〇枚を取り出して借金取りに差し出す。

「へへ、毎度あり! 良かったな姉ちゃん。これで暫く身売りの心配はなくなったじゃねぇか。次の支払いはよろしく頼むぜ」

 借金の回収を終えた借金取り達は上機嫌で教会を出て行った。

「大丈夫かい?」

 俺はシスターに声をかける。

「あ、ありがとうございます。この度は何とお礼を言ってよいやら。お借りしたお金は必ずお返ししますので今しばらくお待ちください!」

 だがシスターはまるで俺が借金取りかの様にペコペコと頭を下げてくる。

「気にしなくて良いですよ。俺もここの神父さんには助けられましたから」

 そうなのだ。かつて俺は勇者としてこの国の王都に召喚された。
 そして王都近くで起きている騒動を治める為に奔走し、この教会の神父に助けられたのである。
 ここに来たのもその時の礼をする為だったのだ。

「ところで神父さんは?」

「……」

 だがなぜかシスターは神父の事を利いたとたん口を噤んでしまう。

「もしかして……」

「……神父様は、数週間前に起きた魔物の大発生から子供達を守る為に戦われ、そのまま……」

 なんてこった。
 数週間前の魔物の大発生といえば、魔族四天王最後の一人である風のバーストンが行った魔界大儀式によって世界中の魔物が活性化した時の話だ。
 あの儀式によって魔物達は強化され、大暴れした。
 俺達が儀式を中断させ、魔界とのトンネルを閉じるまでかなりの被害が出たと聞いている。
 その時の被害がこの国にも出ていたのか。
 いや、常識で考えればでない筈がない。
 気付かないように自分をごまかしていただけだ。

「じゃあ借金ってのは」

「ええ、神父様が亡くなった事で借金を返すアテもなくなってしまって……ここの所の魔物の増加で薬草を取るのにも難儀していたから、借金の返済も滞っていたの」

 くそ、もう少し早く魔界とのトンネルを防げれば……いや、あの時はあれでも最速だった。
 アレ以外に方法はなかったんだ。
 今考えるのは借金を返済する事だ。

「お姉ちゃん、アイツ等帰った?」

 と、そこに現れたのは、ボロボロの服を着た子供達だった。

「あ、ご、ごめんなさいね。お客様がいらしてたから」

 シスターは慌てて立ち上がり子供達の下へと歩いていく。

「……あ! あの時のお兄ちゃんだ!」

 お、どうやら子供達も俺の顔を覚えていたみたいだ。

「よう久しぶり。お土産もってきたぞ」

 俺は顔見知りの子供に串焼きの入った袋を差し出す。

「わー! お肉だー! ありがとうお兄ちゃん!!」

「皆で分けるんだぞ!」

「うん!!」

 串焼きを受け取った子供は奥の部屋にいると思しき仲間達の下に串焼きを運んでいく。

「お土産まで頂いて、なんとお礼を言っていいか」

 またしてもシスターが深々と頭を下げてきた。

「良いって。気にしないで」

 ◆

「成る程ねぇ」

 俺はシスターと子供達と共に皿に盛った串焼き肉を食べながら話をしていた。
 というのも、孤児院の子供達が増えすぎて串焼きの数が足りなかったのだ。
 だからシスターの命令で肉を串から抜いて一人一個ずつ食べる事になった。
 なんだか居酒屋で焼き鳥の串を抜いて皆で食べるみたいな光景だ。

「はい、貴方が旅に出た後も魔物の襲撃で親を亡くした子供はドンドン増えていきまして、遂にはこの人数です。働ける子にはとにかく安い仕事でも良いから働いてもらっているのですが、それでも焼け石に水で……」

 だろうなぁ。幼い孤児に出来る仕事などたかが知れている。
 それに報酬だって足元を見られているのは間違いない。
 数人がかりで働いてやっと一人分の食料を買えるかって所だろうなぁ。
 子供達のやせ細った姿がそれを物語っている。

「ですので、借金の返済を立て替えていただいた事には本当に感謝しているのです」

 これはなんと言うか、地球に帰れなかった事が功を奏したって事だよな。
 あのまま帰っていたら今頃シスターは体で借金を返済する事になっていたわけで……
 ちょっとシスターが体で借金を返す所を想像してしまったのは内緒だ。

「あの? どうかなさいましたか?」

「い、いえ何でも!」

 うん、何を考えていたのかは永遠に内緒だ。
 ソレよりも今は考えないといけない事がある。
 どうやって借金を返すかだ。
 俺が残りの借金を返しても良いが、それでは俺がいなくなったら新しい借金を作るのは目に見えている。
 となると、俺がいなくても借金を返せるだけの収入を得られる様にしてやらないといけない。

「皆がしている仕事ってどんな仕事なんだ?」

 まずはこの世界の子供にどんな仕事が出来るのかを知る事にしよう。

「えーとね、薬用の毒蛇取り!」

 いきなりヘビーなの来た。

「あとはー、荷物運び」

 まぁ健全か。

「薬の実験台」

 ソレはヤバイ!

「食べられる草を採ってくる!」

 食料は必須だからな。

「前は神父様と一緒に薬草を探してた」

「前は?」

「魔物が増えてきた所為で森に入る事が禁止された為です。ですが勇者様の手で魔王が退治されたので、森での狩りや採取も近く許可が下りるようになると思います。薬草採取さえ出来る様になれば教会秘伝のポーションを作れる様になるのでゆっくりとですが借金の完済は可能です」

 俺が質問すると、シスターが答えてくれた。
 成る程、返済のアテはあるのか。
 となると採取許可が出るまでのツナギの仕事が必要になる訳だな。

 何か良い仕事は無いものかな。
 中世レベルの世界で子供でもそれなりに設ける事のできる仕事、しかも他の大人の仕事と競合しない内容でないと……
 ああ、それに危険な事もさせられない。
 可能なら室内で出来て手間も掛からない方法で……って、そんな方法ある訳ないわ!
 借金返済をするならそれなりの稼ぎがいる。
 希少度の高い商品でないかぎりそんな都合の良い話はないか。
 せめてポーションを作る為の材料を容易に手に入れる事が出来れば……

「待てよ」

 そこで俺は気付いた。
 ポーションの材料を手に入れるのが困難なら、栽培してしまえば良いのではないか?

「これはイケるかも知れない」

「あの、どうかされたのですか?」

 突然黙り込んだ俺にシスターが話しかけてくる。

「ああ、借金を返済する為、いや借金をしないで済む為の策を思いついたんだ」

「ええ!? 本当ですか!?」

「また後日来るよ」 

 俺は思いついたアイデアを実行する為に教会を飛び出した。
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