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第4話 勇者、借金返済を手伝う

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「シスター居るかい?」

  数日後、準備が出来た俺は再び教会へとやって来た。

 「あ、いらっしゃ……なんですかその大量の荷物は!?」

  迎えてくれたシスターが驚きの声を上げる。

 「ああ、教会で安全にポーションを作る為の道具さ」

  俺は持ち込んだ木箱を開け、中身をテーブルの上においていく。

 「これは、水晶の容器ですか?」

  シスターが荷物の中のひとつ、透明な容器をじっと見つめる。

 「ああ、それは薬草を栽培する為の入れ物さ」

 「これが? 薬草を栽培?」

  何が始まるのか分からないシスターは、水晶の容器を見ながら首をかしげている。

 「これから行うのは水耕栽培というものさ」

 「水耕栽培ですか?」

  そう、俺が行おうとしているのは地球でもそれなりに流行った水耕栽培だった。
  一昔前は一部の農家や企業がやるだけだったが、最近はガーデニングなんかが好きな主婦とかでも出来るくらいお手軽になっているくらいだ。
  俺はその水耕栽培で薬草を栽培しようと考えたのだ。
 これなら子供達が森に薬草を採取しに行く必要もないので、森に入る事を規制されても問題ない。

 「水耕栽培の良い所は水と肥料だけで済む所だ。土も要らない」

 「水と肥料だけ!? それだけで植物が育つんですか!?」

  シスターが驚くのも無理はない。この時代の人間にとって植物とは土の中で育つものだからな。

 「水草や苔があるんだ、土がなくても育つ植物があってもおかしくないだろ」

 「あ、そういえばそうですね」

  俺の言葉に納得したのか、とりあえずシスターは説明を聞く気になったみたいだ。

 「水耕栽培の方法は簡単だ。この中に薬草の苗を入れ、根っこの半分まで水を注ぐ。あとは肥料としてポーションを希釈した液体を入れれば完了だ。ポーションは出来が悪くて客に出せないヤツを利用すればいい」

 「それだけですか!?」

  シスターがまた驚く。
  だが水耕栽培自体そういうものなのだ。
  まぁ、肥料は有機肥料では駄目って縛りはあるけどな。
  有機肥料だと水が腐って根が傷むからだ。
  ただし、特殊な製法で作られた有機肥料ならOKだ。
  最初俺はこの肥料をどうしようか悩んだ。
  異世界に無機肥料なんてないからだ。
  それを解決してくれたのは、神官のミューラと魔法使いのエアリアだった。
  俺は水耕栽培に必要な道具をそろえる為にバルザックに相談したのだが、その際にエアリア達に話しを聞かれてしまった為に根掘り葉掘り聞かれる事になったのだ。王都にいた頃はまだエアリアもミューラもいなかったからな。

 そして、

「水臭いのよ!!」

 とエアリアに怒られたのはシスターには内緒である。
 そうした経緯から栽培に適した形状の容器の選別はエアリアが、肥料に関してはミューラからポーションを使ってはどうかとのアドバイスがあった。
 というのも、もともと教会でも薬草の安定供給を考えており、肥料としてポーションを使う研究をしていたからだという話だった。
  で、俺はその詳細な情報と引き換えに教会にも水耕栽培のアイデア使用許可を与える事になった。
 まぁシスターの所も教会つながりだし、市場が食い合う事はないだろう。
 という訳でミューラ経由で教会本部のポーション肥料の技術を教わった事で水耕栽培の準備は完全に整った訳だ。

 「栽培する際は窓際なんかの光の当たるところにおいておけばいい。ただし冬場は水が凍らないように注意してくれ」

 「わ、分かりました!」

  俺に教えられた注意事項をつたない手つきでメモしていくシスター。
  シスターの書く字はお世辞にも綺麗とはいえない。
  だがこの世界においては文字を書けるのは結構なアドバンテージだ。
  それだけでも商店に就職できるからな。
  文字が書けるなら帳簿仕事や書類仕事が出来る。
  だが識字率が低いのでそうした仕事は一部の裕福な人間達に占領されていた。
  シスターが文字を書けるのは神父のお陰だと思う。

 「か、書き終わりました!」

  俺はシスターのメモを見て、内容が間違っていないかを確認する。

 「ああ、この内容でOKだ」

  字があっていてほっとするシスター。

 「残った借金は俺がまとめて返済しておく。借金の肩代わり分と機材の代金、それに初期投資の薬草の苗と肥料用のポーションの金額がこれだけだ。シスターは子供達の食費を抜いて余った分を俺への返済に回してくれ。利息はなしでいい」

 俺は初期投資に掛かった費用をメモに書いて渡す。
 教会から譲ってもらった薬草の苗の金額はサービスみたいなもんだけどな。

 「そ、そこまでしてもらう理由がありません! これ以上ご迷惑をおかけする訳には……」

  どこまでも申し訳なさそうにシスターが言葉を詰まらせる。

 「いいんだよ。神父にはそれだけ世話になったんだ。礼は神父に言ってくれ。ああそうだ、これは栽培が成功するまでの運営資金ね。これも借金のうちだから」

  そういって俺は子供達の食費をシスターに差し出す。

 「何に使ってもいいから」

 「え、でもそれは……」

  水と肥料だけで良いのに何の為に運営資金が必要なのか。
  聡いシスターなら渡されたお金の使い道にすぐ気付くだろう。

 「じゃ、俺はこれで失礼させてもらうよ」

  だから俺はシスターの答えも聞かずに教会を出た。

 「あ、ありがとうございます!!」

  振り返らない俺の背中に、シスターの感謝の声だけが届いていた。
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