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第1章 

1:魔法は地味で本が高くて風呂がない。

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眼を瞑ったのはほんの僅か。


肌で感じる空間の変化。河原あそこじゃない何処かに立っている感覚。
風が髪を撫で、小鳥が囀る音。背に伝わる温かな陽の光。緑のにおい。

「はあ…」

眼を開けて広がった世界に思わず息を吐き出した。
見事な緑の草原が何処までも続き、青々とした木々が生い茂る林が各所に点在。空は青く澄み渡り、雲は白く雄大に泳ぐ。太陽の位置でお昼前だとわかるが、あれが太陽でいいのだろうか。太陽ってのは眩しい点にしか見えなかったはず。何あの輝く土星みたいなでかいの。

ここが青年の言っていたマデウスという星なのだろうか。
良かった白塗りの山賊がヒャッハーしている岩と砂だらけの世界じゃなくて。
太陽は土星状だけど太陽だとわかるし、月…は見当たらないけれど夜になれば出てくるかもしれない。見知らぬ場所に身一つで落とされたわけだけど、慌てることがなかった。妙に落ち着いてあたりを見渡すことが出来るのは、地球と違うところがあまりないからだろう。
いきなり得体の知れない何かと戦闘にならなくてよかった。たぶんちびる。

足元の草は膝を隠す程度の長さ。ススキみたいだ。俺は茶色いブーツを履いている。つま先と踵に金属の補強がしてある見た目は皮のブーツ。こんなブーツ買った覚えはないから、俺の今身に着けているものすべてはあの『青年』が用意してくれたんだろう。
それにしても。

「かっこいいぞこれ…」

金属部分は黒ずんでいるが、細かい模様が刻まれている。使い古されたというより、長年愛用されているようなダメージ加工。すごくかっこいい。見た目に反して軽い。
ズボンは黒い皮パンかこれ。ライダーみたいだな。ストレッチ素材で伸縮性抜群。これも膝部分が土で汚れているが、履き心地抜群だ。ちんぽじバッチリ。

ファンタジーのお約束、ローブを着ている。黒茶の地味なローブだが、触り心地が良い。ふわふわした上質なシルクコットンのようだ。端の部分が金糸で縫われている。これもまた凝った作り。
厚手の黒いハイネックシャツ。その下に着ていたインナーはてろてろで光沢のある白。何でてろてろなんだと引っ張ってみたら、これが防御力の高いミスリル銀糸で編まれた防具だと気付く。何故そう思ったのかはわからない。ただそうだ、としかわからなかった。

視界に入る髪は黒。前髪と後ろ髪が少し伸びすぎている。髪は黒なのか。それじゃあ眼は何色なのだろう。真っ赤とか左右で違うとか止めてくれよ、格好いいとか思わないからな。

「鏡は…」

右手に持っていたショルダー状の鞄。何の変哲も無い通学鞄のようなそれを開くと、真っ黒い空間が広がっていた。
一度閉めて、再び開く。なにこの暗黒空間。これが空間収納術、いわゆるアイテムボックスのようだ。
恐る恐る手を突っ込んでみると、脳内に一気に情報が流れ込む。ステータスウインドウを展開した時のように、入っているものが種類別に小分けされているのがわかる。お洒落女子じゃないんだから鏡なんてあるわけないと思っていたのに、手に触れたのは手鏡。何で持っているんだ俺。

木製の手鏡を手にし、恐る恐る自分の顔を写す。

「うおう…」

俺、ではなかった。俺ではない誰かの顔が映っている。面影すら無い。
どっかの国とどっかの国となにかの人種をシャッフルしてミックスした顔立ち。つまり、例えられない外国人顔。髪は漆黒で両目は空色だった。青というよりも、蒼。黒目じゃない目を見るのははじめてで、しばらくほーんふーんと言いながら見入ってしまった。若い。『俺』よりも10歳くらいは若い気がする。髪が伸びているから全体的にもっさりしているが。

一通り自分の顔を観察し、醜いわけでも突き抜けて美形というわけでもない、だけど美形って言っちゃうよ、といった感想を持つ。前の俺よりもイケてやがるのは少々腑に落ちない。だって背が高い。多分。そして手足も長い。腹、憧れのシックスパック!脱いだら凄いんです系の肉体美なのか?!股下何センチだこれ!そしてムスコは………Oh…マグナム…。

再度鞄に手を突っ込み、脳内リストを確認。ナンチャラの剣とかナンチャラの弓とか、そういった武器になるようなものが入っていない。鉄のフライパンも武器にはなりそうだが、それは最終手段にしたい。
あるのは防寒具、数着の着替え、野営用品、手鏡、毛布、布、袋×10、小袋、水袋、干し肉、黒砂糖、枝…。

枝?

「ユグド、ラ、シルの…枝?何だユグドラシルって」

ゲームや漫画で聞いたことのある名前。確か別名で世界樹…とかいう。どこかの世界を支えているでっかい樹、としか知らない。
手にして鞄から取り出すと、何の変哲も無い木の枝が出てきた。指先から肘までの長さ。こげ茶色の木肌は光の加減で時々キラキラと輝く。途中で枝分かれしており、緑色の葉っぱが1枚ついていた。

もしやこれが世界樹の葉?と感動したが、いやいや武器にはならないだろうと肩を落とす。せめて鉄パイプとか釘バットとかあれば自衛が出来るのに。
しかし見渡す限りの草原で、頑丈な木の枝も落ちて居なさそうだ。

風は穏やかだし日差しは温か。4月の晴れた日に似た陽気。桜が咲いていたら絶好のお花見スポットだが、忘れてはいけないここは異世界。既に鞄の中に虚無が広がっているのを確認したため、ここが異世界であることに間違いは無い。腕毛も引っ張って痛いことは確認済み。ちょっと部分ハゲした。

太陽は相変わらず土星の形。
目的地がわからないままただ歩く、というのは初めての経験だ。夜が更けるまでに人里を見つけたいが、まあなんとかなるだろうという気持ちのほうが強い。
足早に草原を歩いているのに少しも疲れない。息も乱れないし疲労感も無い。身体が物凄く軽い。空気はうまいし日差しは暖かい。なんならスキップもできちゃうらんらんるー。



+++



「お!」

俺は 村っぽいものを はっけんした

さて、このまま村を訪れて不審者と言われないだろうか。石を投げられないだろうか…。小奇麗な格好をしていると思うし、顔を背けたくなるほどの不細工でもない。体臭…よくわからん。背は高くなったがこのくらいの背が平均的なのかもしれない。

そういえば鞄の中に金銭は無かった。あの青年は無一文だけど何か探して売り払えとか言っていた気がする。だが、何が金になるのかわからない。何かを探せばいいのだろうけど、何をどう探せば。

探査探査…。
そういえば探査能力とか探査魔法とか言われたような気がする。憧れ…でもないが、人間一度は夢見た魔法使い。使い方はさっぱりわからんが、何か呪文でも言えばいいのか?

「探査…ええと、探査………、うん、探査サーチか」

思いついた言葉を発すると、視界に数々の光る点が現れた。赤、白、緑と色が様々で、一番近い緑の点に近づくと、生い茂る草の合間に黄色い花を見つけた。
憧れの魔法だがずいぶんと地味だった。もっと光がキラキラと…シャランラシャランラするものだと思ったが何もない。地味。
ともかく他にも青い花や黄色い花はあるが、緑の光がここだと主張するこの花は他と違うのか?

「こういう場合は更に細かく調べるんだよな。そういう場合は…調べる…調べる…調査する?調査スキャンだ」

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月夜草(つくよぐさ) ランクB
三日月の夜に芽吹くと言われている黄色い花。花の蜜は精霊の好物と言われており、疲労回復に効く。
すり潰せば傷薬になる。
備考:一般的に市場に出回る薬草ではなく、高位回復薬の材料となる。生息地域はまばらであり、発見が困難。


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ほほう。
脳内にひらめく情報。忘れていたものをふと思い出した時の感覚に似ている。
いちいち図鑑などで調べなくて済むからこれは便利な魔法だ。だが、地味だ。

つまりこの視界に見えた光るテンテンは、こういった素材の場所を教えているということか。それで、探し当てたものに調査スキャンをかければ名前と使い道、ランクなどがわかると。うんうん、便利だ。

緑が植物なら赤は…石?
足元の石を拾い上げると、つるんとまるんとした川原の石のようだった。川は無いのに丸い石。
意識したものを詳細に理解できる技能(スキル)を、総じて探査能力ってことなのかな。
続けて調査スキャンを展開。


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ハンマーアリクイの糞 ランクC
粘着質な物質を体内で作り出すハンマーアントを捕食するアリクイのうんこ。粘着力があり、水に溶かすと強力な接着剤になる。
建材として重宝されている。


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「うんことか!!!」

石かと思ったらクソでした。
だがランクCなので投げ捨てるわけにもいかない。見た目も触った感じも石にしか思えないのに、うんこかこれ。このまま鞄に入れるのもなんか嫌だな。袋×10ってのがあるから、その一つに居れればいいな。
うん、鞄の中身に 袋1:ハンマーアリクイの糞×1 と、表示が追加された。鞄の中の袋はパソコンのフォルダのようなものか。

うんこが赤表示ってことはないよな。他の赤表示は緑と白に比べて極端に少ない。それじゃあ白表示は何かと近づくと、ごつごつとした黒い石が転がっていた。


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鉄鉱石 ランクD
需要はあるが珍しくもない鉱石。鉄素材。

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白表示は鉱石なのか?赤と白の違いがいまいちよくわからないが、追々調べていけばいいだろう。ともかく花とクソと石は見つけた。せめて一食か二食、贅沢を言えば今夜の宿代になればいい。
最初はボられてもいいから、現金を手にしたい。

さて、村に行ってみますか。





「おや珍しい。旅人かね」

緊張しながら集落に近づくと、簡素な門の入り口に槍を手にした男が立っていた。古びた鎧を身に着けている。すごくファンタジーっぽいぞ…。
男は陽に焼けた浅黒い肌でにこやかに話しかけてきた。言葉がわかる。良かった。

「こんにちは。こちらは何という集落ですか?」
「ここはトルミ村だよ。ルセウヴァッハ領ベルカイムの南、田舎も田舎、ド田舎さ」

自らド田舎と胸を張るとか。
田舎を連呼するわりには戸建がたくさんと隣接している。屋台もいくつかあり、人もたくさん住んでいるようだ。

「気を悪くしないで欲しいがこれも仕事でね。兄さんは何の用事があってトルミ村に来たんだい?」

これは必ず聞かれると思い、前もって返答を用意しておいた。

「俺はタケルって言います。独りで気ままな旅をしていますが、路銀が底をついて難儀していました」

ちょっと時代劇よりな話し方だが、このほうがより「らしい」だろう。
失礼の無いよう、丁寧にお行儀良く。

「やはり旅人かい。冒険者と迷ったが…この村に冒険者が訪れることはほぼ無いからな。それにしても命拾いしたな。見たところ戦士か剣士なのか?えらく…大きいな」
「えーと、素材とか集めて売ってます」
「ほう、素材採取専門家かい!こりゃあまた珍しい」

いや専門家とか誰も言ってませんよ。

「俺はマーロウ、トルミ村自警団の一人だ。この村は特に名所も無いが、旅人を癒すことくらいは出来る」
「それは良かった」
「素材屋は生憎とないんだが、雑貨屋なら一つある。ジェロムの店だ。素材なら何でも扱ってくれると思うから、そこを訪れるといい」
「わかりました。ありがとうございます」
「いいってことよ」

異世界第一村人がいい人で良かった。不審者あっち行けバーカとか言われなくて良かった。
門らしき柵を通り抜けると、行き交う村人の視線が集まった。ド田舎だと自負していたから、俺のような旅人は珍しいのかもしれない。
古き良き昔の風景。剣と魔法の世界なら、科学文明より魔法文明が発達しているのだろうか。見た限り機械で動いているようなものは見当たらない。土の地面。土壁と木の家。井戸も奥にある。周りに畑が見えるから農業で生計を立てているのかも。



「こんちはー」

薄暗い店内に入ると、漢方のようなお香のような独特の匂いがした。所狭しとガラス瓶が並び、中に何かが詰められている。壁には鍋やフライパンが吊られ、シャベルやつるはしのようなものもあった。なるほど、雑貨屋というか何でも屋というか。テーマパークにあるような部屋だが、これは現実。なんか顔がにやけてくる。

カウンター奥から恰幅の良い髭面の男がのそのそと出てきた。

「はい、らっしゃー、い?兄さん見たことない顔だな」
「こんにちは。旅をしているものです」
「ほうほう、それは珍しい。……何か探しているものでもあるのかい?」

何が必要なのか今はわからないので、先ずは拾ったものを売ることが先だ。
鞄の中から一番いらないものを取り出す。そう、うんこだ。

「すんません、こんなんでも売れます?」

えんがちょとつまんだブツを店主に見せると、店主はそれをひょいと素手でつまむ。しつこいが、うんこだ。

「うーん?うん?ほう、ほう、ほ〜〜う!ハンマーアリクイの糞か!」
「はい…」
「形も強度もいいな、色もいい。兄さん、こんなの良く見つけられたな」

そこらに落ちてましたけど。

「売れます?」
「もちろん!これは売ってくれとこちらから言うところだ。こんな状態のいいものは久しくお目にかかっていない。そうだな…他に売られても困るから、銀貨5枚でどうだ!」

そうドヤ顔されても相場がわかりません。
銀貨って貨幣なんだろうけど、幾らくらいになるんだ。だってうんこ売った額だぞ?

「ええと、この村に宿ってありますよね」
「ああ、はす向かいのギャロップの宿だ。村には宿がそこしかねぇ」
「宿代って一晩いくらになります?」
「500レイブだな」

れ、れいぶ? レイブってのが円とかドルっていう貨幣の呼び方? うんこが安いのか宿代が安
いのかわからんな。

「銅貨十枚と青銅貨九枚と銀貨四枚にバラけて渡したほうがいいか?」
「それで、いいです。どうも……」
「よっしゃ! お互いいい取引ができたな!」

店主は嬉しそうにうんこに頬ずりしている。気づけそれはうんこだ。
ばっちいものを見る目を我慢し、用意してくれた貨幣を受け取る。鞄の中にあった小袋にそれを
入れたらちょうど良かった。
続いて鞄に手を突っ込む。

「これはどうですか?」
「うん?これは…鉄鉱石だな。鉄含有量がそこそこあるようだな。うん、いい品だ。銀貨3枚でどうだ?」

日常の必需品に化ける鉄分がうんこに負けた瞬間だった。
どんだけ貴重なのかあのうんこ。

「それでお願いします」
「兄ちゃん、状態のいいもん持っているんだな。他にもなにかあるかい?」
「えーと、それじゃあ…」

ランクBの月夜草つくよぐさを土ごと取り出す。
何処を採取すればいいのかわからず、根こそぎ持ってきた。

「なぬっ?!そりゃあ…月夜草か?いやまさか…むむ…確かに月夜草だ」
「そうらしいですね」
「こんなに大振りなものは初めて見た。これは何処に咲いていたんだ?」
「街道を北にずっと行った草原です」
「ベラキア大草原か。っはー、あんなところにも咲いているたあなあ。…しかし今採取したばかりのようだな。どうやって持ってきたんだい?」
「鞄につめて?」
「は?…空間収納袋アイテムボックス?いや……でもまさか……!こりゃあなんてこったい!兄さん、異能ギフト持ちかい?!」

鞄を広げて見せると、何もない漆黒の空間に店主が飛び上がるほど驚く。
それほど驚くようなことだったのか?

「こりゃ驚いた…空間術の異能ギフト持ちなんざそれこそ久しぶりに見たぞ」
「はあ」
「すまんな、こんなに驚いちまって。話には聞いていたんだが、兄さんのような能力があるもんは大抵王都近辺を根城にするもんだろ?なんでこんなド田舎に来たんだい」

店主は震える手で月夜草を売り物らしい木のカップに入れ、それを眺めた。

「俺こそ辺鄙な森の中に住んでいましてね。都心部の情報なんて一切入ってこない、外界から閉ざされたところで自給自足の生活だったんですよ。それでまあ外の世界を知りたくなりまして、旅をしているわけです」
「森の住人かい」
「超、ド田舎でした」
「はははは!でかい森はそれだけ訪れるもんも少ないと聞くからなあ…。もしかして…兄さんはその異能ギフトのことを詳しく知らねぇんじゃないか?」
「恥ずかしながら」

店主は呆れながらも語気を強くして説明してくれた。

異能ギフト技能スキルと違って産まれもって授かった祝福。その確率は一万人に一人とも百万人に一人とも言われ、誰しも持っているわけではない。グラン・リオ大陸一賑やかなアルツェリオ王都にある魔法技術学院にすら、数人居ればいいほう。異能力者を集めた団体もあり、国すらも動かせるほどの発言力がある。

ちなみに店主は人を見る目が普通の人より優れており、初対面の相手でもどんな性格なのか大体わかってしまうのだとか。それは長年の経験と潜在的な技能スキルによって生み出された特技のようなものらしい。便利だな、それ。初対面の相手でも悪意があれば避けられるってことだろ?

「田舎モンなら便利なんだなーで終わる話だが、ここより更に南に行ったベルカイムでは話が違う。兄さんの能力を何とかして利用しようとするヤツが居るだろうよ。怪しげな団体に勧誘されたりするかもしれねぇ」
「なんか怖いですね」
「それだけ異能力者、異能ギフト持ちってのは珍しいし貴重なんだよ。俺は大昔、兄さんのような空間を操る異能力を見たことがあるからわかったけどよ、こう見るとその違いがわからあ。そいつの異能力なんかより兄さんの力のほうがすげぇってのがわかる。魔道具マジックアイテムにも空間収納袋ってぇのがあるから、一見するとそれを持っていると思われることのほうが多いかもな」
「アイテムボックスですか」
「そうだ。だからといって異能力者だと言って回るのは止めておけよ。兄さん、人が良さそうだから利用されそうな気がするぜ」
「気をつけます」
魔道具マジックアイテムについては…そうだな、ここらにある…この本でも読んでおけば基本がわかる」

店主はカウンターの下に潜り込み、古びた一冊の本を取り出した。
背表紙には『事典』と書かれている。数年前に作られたものらしいが、大体の言葉の意味が載っているらしい。これはありがたいことだ。

「銀貨2枚にしておいてやるぜ」

魔道具マジックアイテムのことがわかるならばとそれを銀貨2枚で購入した。商売上手め。


本よりうんこが高いのです…。




翌日の早朝。
足がはみ出しまくった宿屋のベッドで窮屈な思いをしながらも熟睡し、目を覚ますことが出来た。疲労感も倦怠感も一切ないが、見慣れぬ天井を眺めながらため息。

「夢じゃなかったぁー…」

リアルな夢を見たな、と言いたかった。だが夢じゃなかった。はみ出した足、ちょっと寒い。
眠気は無かったのでのろのろと起き上がる。もともと朝はグズグズしないでちゃっちゃと動くのが好きだ。昨日用意しておいた服に着替え、すっかり冷えてしまった桶の水に近づく。

「加熱(ヒート)」

手を翳して呪文を唱えると、水はあっという間に沸騰し、あっという間に適温になる。一度沸騰させるのはバイキン予防の為です。
これも寝る前に試してみた生活便利魔法の一つ。生活をより豊かにするためだけの魔法を生活便利魔法と呼ぶことにした。贅沢に慣れた日本人、少しでもラクをしようと奮闘します。

顔を洗ってさっぱりする。魔法で綺麗にすることは出来るだろうが、顔や手を洗ったりするのは実際にやらないと気持ち悪い。なんでも魔法に頼らず、出来ることはやっていくつもりだ。すると自然と腹が減り、小気味良い音がくるると鳴った。
特に時間指定はされなかったが、窓の外には既に活動をはじめた村人達が歩いている。土星な形の太陽が登ると活動するのがこの村の一般的なことなのかもしれない。

今日は半日素材を探し、それを売って生活用品を揃える。
着替えなどは持っているがタオルや簡易な靴を買うつもりだ。今履いている靴は頑丈だけど宿にいる時はもっとラクな靴に履き替えたい。脱ぐのも履くのも一苦労なのだ。サンダルが欲しい。

その前に先立つものが必要なのです。


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