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第1章 

3:ボルさんのお子さん誕生して名付けた。

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漆黒の身体に黄金色の瞳がぎらぎらと光り、白い牙がぐわりと剥く。
ごつごつとした肌は鱗には見えず鉄鉱石のように思えた。
恐竜博物館で見たレプリカのティラノサウルスの数倍、数十倍も大きく見える。その威圧感たるや身体全体がビリビリと痺れ、全身の毛が逆立った。うなじがゾワゾワする。

『 ふううううぅむ 我の威圧に 耐えたか 』

低く低く響く声。
口がぱくぱく開いているわけではないので、念話(テレパシー)なのだろう。脳内に直接語りかけてくるようで気持ちが悪い。

「ご自宅だとは思わず、不法侵入をしてしまい申し訳ありません」

痛む頭をさすりつつ、居住まいを正して深く頭を下げた。
こういう場合は素直に謝る。この世界に来てから感じたことの無かった恐怖を覚えた。腰が抜けるとか漏らすとか、そこまでわけわかんなくなる恐怖ではないけど。

『 ふ ふふ 肝の据わった ものよのう 』

おおお、笑った笑った。
その笑い声も響くからちょっと加減して欲しい。

『 この地が 古代竜の住処と 知ってのことか 』
「いえ全然これっぽっちも知りませんでした。確かに古代竜(エンシェントドラゴン)の森、と呼ばれている時もあったそうですがずっとずっと大昔のことだとうかがっております」

力のあるものにはぺこぺこと謙ってしまうのが社会人の悲しい性質(さが)。
生きていくための処世術、と言えば聞こえはいいか。

『 ぬしは なんだ 』
「ぬし?ぬし??…ああ、お主、貴方ってことですね!はいはいはい!俺、いや自分の名前は神城タケルと申します。タケル・カミシロですかね!一応、人間です!」

黒い巨大な何かは黄金の瞳でぎらぎらと睨みつけてくる。こわい。

『 うぅむ ヒトか 』
「たぶん人間です」

規格外かもしれないけど、人種的には人間かと。

『 溢れんばかりの 強大な魔力をかんじた ゆえに われは目覚めてしまった 』
「強大な魔力ですか?はぁー…何でしょうね?」
『 うつけか ぬしは 』
「うつけ??…うつけって、バカってことですか?えええー」

初対面の相手にバカって。

「知らないことをわからないと答えるのは、愚かなことではないんですよ」
『 ぬう? 』
「…はいすみません生意気なこと言いました」

しかし、わからないものはわからない。
強大な魔力って何のことだ。

『 ふ ふふふ ははっ ははは! 』

いやいや笑わないで下さい怖い怖い!
振動が!震度3!いや震度4かこれ!

『 いやいや すまぬな タケルよ わからぬことは愚かなことではない そのとおりだな 』
「申し訳ありません」
『 かまわぬ 我が見るに ぬしは 常世のものでも うつせのものでもない 』
「ちょっと特殊な生まれ方をしました」
『 ふふ ふふふ ぬしが何者でも構わぬ 数千と余 ぬしのようなものと はじめて逢(お)うたわ 』

この黒いでっかいのは、つまり古代竜(エンシェントドラゴン)さん、ってことでいいのか。
ゲームに出てきそうないかにもな姿かたちで、いいえ馬です、と言われても信じないからな。

「起こしてしまって申し訳ありませんでした」
『 構わぬ むしろ ぬしと出逢えたことに 喜びを覚える 』
「えーーと、失礼ですが、貴方様のお名前をお伺いしても…というか、もしかして古代竜(エンシェントドラゴン)さんですか?」
『 いかにも 』

おおおおお!!!
やっぱりドラゴンだった!
これが伝説上の生き物!
雄々しいというか、神々しささえ感じられるな!

『 むふ 』

俺が満面の笑みで興奮していると、古代竜(エンシェントドラゴン)は満更でもなさそうに胸を張った。

『 タケルよ 』
「はい」
『 ぬしの力を 貸してもらいたい 』
「はい?」
『 ぬしの純粋な力で 我の仔を 蘇らせることが できるかも しれぬのだ 』
「お互いにとって安全なら構いませんけど」
『 死ぬことは なかろう 』
「それとですね。俺がここに、白樹の森に来たのは理由がありましてね。ミスリル鉱石が欲しかったんです」
『 ふむ 』

このドームにも反応がなかったから半ば諦めているのだけど。
ボルさんが目を瞑ると、再び震度4。ガガガガッと地面が揺れ、慌てて飛翔(フライ)を展開して地上数センチをぷかぷかと浮く。あまり揺れていると絶対に酔うからな。
地面が激しく揺れながら地底湖が一部色を変える。光に照らされて青く透明の水が、黒と白に変わった。水底から何かが浮かび上がってきているようだ。

「おわ!!!」

それは輝くほどの白い鉱石の数々。
水底から現れたのは、20畳ほどの広さにミスリル鉱石がビッシリと生えているようだった。水晶のように輝くミスリル鉱石は、白に虹がかかる色。真珠色、と言えば丁度いいかもしれない。

『 我の 魔素をとりこみし 高純度のミスリルである 』
「すっげぇ…」


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ミスリル魔鉱石 ランクSS
ミスリル鉱石の中でも最高位の鉱石。高濃度の魔素に長年晒された高純度の魔鉱石。耐久に優れ、魔素を取り込む力を持つ。
備考:市場には滅多に出回らない。この鉱石を用いて作られる剣は魔剣と呼ばれ、神器に分類される。
神器:ヒトならざるものが創りし神の御技を秘めた創造物。

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なんとなく思う「コレジャナイ」感。
世間知らずの俺すらわかる。これがとんでもない代物だと。
村の近くの林で失敬したミスリル鉱石とは比べ物にならない。まじりっけ無しの見事な石の数々。大きくて俺の背丈の倍以上の結晶石もある。これだけで、いやほんの一握りで国が買えるかもしれない。

『 好きなだけ 持って行くが良い 』

そんな大盤振る舞いな!
こんなの持ち帰ったらジェロムが驚きすぎて心臓麻痺で死んでしまう。市場だっておかしくなり、もしかしたら国同士の諍いに発展してしまうかもしれない。神器同士がぶつかり合えば災厄どころじゃなくなるだろうし、とにかくえっらい迷惑なことになるはずだ!

「あのですね。こんなものすごいものじゃなくて、人間世界で普通に出回っているような、何処にでもあるようなミスリル鉱石はありませんか」
『 ふむ ぬしは欲がないの 』

いや、ちょっとはあるよ。面倒なことに巻き込まれたくないだけ。
掌大の塊を一つを手にして眺める。とても綺麗だ。

「ところでお子さん…孵らない卵というのは」
『 願いを 聞き入れるか 』
「こんな立派なもの見せてくれたんですからね。出来る出来ないは度外視して、とりあえずやってみましょう」

ボルさんが片手でついっと空を切ると、ミスリル魔鉱石群の中から真っ黒い卵が出てきた。でかい。とても、でかい。
ダチョウの卵の倍くらい。

ふわふわと宙を飛ぶ卵を眺めると、上手い具合に俺の目の前に降りてくる。それを慌てて両手で受け止め抱きしめた。
冷たい殻に包まれた卵からほんの僅かにトクトク、という音が聞こえた気がした。

「冷たいな…」

孵化する前の卵は暖かいものだ。この卵はまるで化石のような、石の塊のようだ。

「ボルさん、これどうすればいい?」
『 魔力を込めてくれ 』
「どうやって?」
『 この 輝く光を 与えるように 』

灯光(ライト)を与える?
えええーと、魔力を込める。光を与える。まったく、抽象的すぎてわからないじゃないか。
とにかく暖めればいいのか?

「加熱(ヒート)!」

卵だろうと何だろうと、命あるものは暖かいものだ。
とにかく暖めて、いつまで寝ているんだと起こせばいい!


「うおおおおおおっ?!」

加熱(ヒート)を力強く唱えた瞬間、全身の全ての力が卵に吸い取られる感覚がした。例えるならば掃除機で顔全体を吸い込まれているような。例え方が頭悪いが、とにかく巨大掃除機。それが全力で容赦なく俺を吸い込む。

『 おおお 』

ボルさんが感激の声を上げる。だから震度5になっているってば!飛翔(フライ)をする余裕なんてないんだから落ち着いてくれ!

「ぬああああああああ!!」

痛くも痒くも辛くもないが、とにかく吸い込まれる感覚が強くなっていく。
これいつかは俺全部が吸い込まれて無くなるんじゃないだろうか。異世界に来てまだ一ヶ月も経っていないのに。もっと色々な世界を見て回りたいのに!
あの青年(クソガキ)覚えてろよ!このまま魂とやらが消滅したら、消滅したとしても呪ってやるからな!!



カッ




そして光が爆発した。




「ピュイ!」

「はいっ!!」


目を開ければ漆黒の空間。
目を開けているのか瞑っているのか分からなくなる。

『 無事か 』

腹に響くほどのボルさんの声。身体にブブブブ…と振動が伝わる。喋ってないのに空気が震えるってどういう仕組みだよ。

「あーーー…、久々に感じる筋肉痛」

腕やら足やらが地味に痛い。全速力で走った翌日みたいだ。俺は基本的に出不精だからスポーツとは無縁。依って年中運動不足。
この世界に来てから筋肉痛にならなかったので油断していた。地味に痛い。この倦怠感すごく嫌だ。

『 あれほどの 魔力を放ち それでもなお 存命であるとは 』
「ボルさん酷くない?俺は死なないって言っていただろ」
『 われの 想像を はるかに こえていたのだ 』
「ああもうすっげぇ疲れた…。こんなに疲れたの久しぶりだ」

「ピュイ!」
「ん?」

また素っ頓狂な可愛らしい鳴き声上げて。
ボルさんってそんなキャラじゃないだろ?
というか、真っ暗で何も見えないな。俺の意識が途絶えたから、灯光(ライト)の魔法も消えてしまったのか。

「灯光(ライト)ォ〜」

気だるく唱え、四つの光の玉を出す。
漆黒の闇がパッと晴れ、ミスリルの眩い輝きが反射する。
灯光(ライト)くらいじゃ魔力が失われる感覚がしない。気だるさはなかなか治らないけど。

「ピュ〜イッ!」

高い鳴き声がドーム内に反響する。

「えっ」
「ピュイ!」
「えっ」

のろのろと上体を起こした目の前に、真っ黒の生き物がいた。
小さな…と、言っても俺が抱きかかえるくらいにはある大きさの。

「…ドラゴン?」
「ピュイ!」

側に砕けた卵の殻。と、いうことは…。

「ボルさんの子供が孵ったのか?無事に?!」
『 左様 ぬしの 膨大な魔力が それを成した 』
「ピュイピューイッ!」

真っ黒の生き物は小さな小さなドラゴンだった。黄金色の大きな瞳にコウモリのような立派な羽。鋭い牙に鋭い爪。表皮はゴツゴツとした鱗。長い尻尾がふりふりと左右に揺られ、喜んでいるようにも思える。

「あああ、良かったなあ!本当に良かったな!お前の父ちゃん…だか母ちゃんだかは、お前が生まれてくるのをずーーーっと待っていたんだぞ!」
「ピュッピューイ!」
「うへ、待て飛びつくな、舐めるな舐めるな噛むなあああ!!」
「ピューイッ!」

ちびっこドラゴンは物凄い人懐こい。こんなんでボルさんみたいな雄々しいドラゴンに成長できるのか?
それにしても可愛いな。爬虫類?の子供を可愛いと思う日がこようとは。それにしても舐められたところが妙に生臭い。うへえ。

『 名を 』
「へ?」
『 名を 与えよ 』
「な?名前ってこと?ボルさんが名づけなくていいの?」
『 真名(しんな)は 他にある ぬしには 通り名を つけてもらいたい 』

まじか!
世界最強生物、神様でもあるドラゴンの名前をつけてもいいとか!
珍妙な名前は付けられないよな。名前にすら力がある、って言われているからな。どうせならボルさんのような中2……じゃなくて、威厳のあるごっつい名前がいい。

「ピュイ?」

だがしかし俺にそんなネーミングセンスは皆無である。犬はポチで猫ならタマ。だったらドラゴンはどうすればと思い、タロ?いやまさかね!ジョン?だから犬じゃないって。黒いからブラックとかノワール?ありきたりだな。もっと呼びやすくて、親しみやすい名前。

「そうだ。ブラック…の、B(ビー)はどうだ?」
「ピュイ」
「呼びやすいし、なんかお前に合っている気がする」
「ピュイィ!」
「おお、おお、そうかそうか嬉しいか!うわっ、ぺっ、生臭っ」


ゴゴゴゴゴ…


再び揺れる地面。
今度の揺れは激しすぎる。あまりの激しさに天井からバラバラと岩が落ちてきた。岩の塊が地底湖に落ち、激しく水しぶきを立てる。

「ボルさんそれ止めて下さい!ドームが、洞窟が壊れる!」
『 やれ 嬉(うれし)や 嬉や 我の力が浄化された 』
「わかったから!今ちょっと飛翔(フライ)、する力が無いから!」
「ピュッピュッピューイ♪」

こんなところで圧死とかしたくありませんよ?!せっかくドラゴンの名付け親になれたのに、享年19歳くらい?圧死、なんて最期ほんとに嫌だからな!!

『 タケル 』
「落ち着け!」
『 ぬしが 人でなかろうと 何であろうと 構わぬ 大地に平穏が 訪れた ぬしのおかげである 』
「良かったですね!俺は死にそうだけど!」
『 ぬっ? 』

やっと現状に気づいたのか、ボルさんは地震を止めてくれた。あちこち崩落しているのに気づくと、恥ずかしそうに首をすくめた。

「ピュピュ?」
「ああもうクッソ可愛いな…。ところで、名前はいいんですか?」
『 うむ ブラック・ノウビー 良き名である 』

ん???

「ピュピューイ!」
『 うむ ブラック・ノウビー・ヴォルディアス それが おまえの 名だ 』
「ピュイ!ピュイ!」

ちょ

「いや、ちょっと待て。ブラックの、Bであって、ノウビーじゃなくてですね?」
『 良き名を 得たな 』
「ピュイッ!」
「違うんですノウビーじゃないんです!可愛らしくBって!ビーってぇ!」

あちゃー。



「ピュイ」

黄金のくりくりの目を瞬かせ、ビーは嬉しそうに空を飛んだ。
ボルさんの巨体の周りを回り、小さな身体で鼻先に止まり、全身で喜びを表している。
可愛い。激しく、可愛い。
最強種族、ドラゴン。幼生は想像以上に可愛かった。

「そうか、嬉しいか」
「ピュイ!ピューイッ!」
「わかったから、生臭いから」

俺の頭に飛びつき、ぐりぐりと全身を擦りつけて来る。何の攻撃か、ってくらい痛い。
ドラゴンの表皮って鉄よりも硬いって言われているよね!

『 タケル 』
「ん?あ、はい。なんでしょう」
『 からだは どうだ 』
「ああ…、そういえばもう痛くない。関節も、ちゃんと動く」

全身を覆っていた気だるさも倦怠感も無い。筋肉痛も消えた。

『 ふふ 我の澱みし魔素を 全て受け入れるとはな 』

ぐふっぐふっぐふっ、と悪の大王のようなまがまがしい笑い声を出すと、ボルさんは未だ水面に出ていたミスリル魔鉱石に噛みつく。それをぷっと吐きだし俺の前に放り投げた。
巨大な魔鉱石がガランガランと音を立てて転がる。

『 これは 持ってゆくが よい 』

巨大な魔鉱石をごろごろと渡されてもなあ…。

『 感謝の 気持ちだ 』
「ボルさんも、もう平気なのか?」
『 数千年ぶりに 心地よい 』
「それは良かった、良かった」

ボルさんがどのくらい辛かったのかわからないけれど、なんか喋り方も滑らかで表情も…豊かになった気がしないでもない。よく笑うし。
せっかくの厚意を頑なに断ることはないだろう。使い道はほぼ無いかもしれないが、有難くいただくことにする。それから。

「ボルさん、良かったらこの魔素水も少し貰っていいかな」
『 ぬ? 好きなだけ 持ってゆくが よい 』

だがしかし、水袋がなあ…。

「空いている水袋、なんてこんな場所にないことだし」
『 みず ふくろ ? 』
「こういう、水を入れる丈夫な皮の袋なんだけど」

鞄からずるりと水袋を取り出して見せる。

『 ほう 空間術を 操るのか 』
「ん?この鞄のことか?空間術っていうか、いろんなもんがたくさん入る鞄?」
『 空間術が 扱えるのならば 』

ボルさんが再び指をついっと動かす。
すると俺の鞄が淡く光り、ふわりと浮かんだ。

『 それと この水を 直接つないだ 』
「は?」
『 調べて みよ 』

もっと細かく説明してくれよと思いつつ、鞄に手を突っ込む。
すると脳内に浮かび上がるリスト。その一番はじめに『魔素水×∞』と記されていた。なんだこれ。何をしたんだ。

『 ぬしが望むだけ この水を出せる それと これとは 繋がっておる 』

俺に読解力と想像力が無かったら、何度も同じ質問を繰り返しているところだ。
はい、ここに取り出したるはジェロムの雑貨屋で購入した木のコップ!
何の変哲もないこのコップをですね、鞄の中にごすんと突っ込みます。脳内で魔素水がコップに浸るイメージを描きまして。

「おおお…」
「ピュイ?ピュイピュイ」

再度コップを鞄から取り出すと、それには綺麗な水がなみなみと注がれていた。あら不思議。

「これはものすごく便利だなボルさん!!」
『 ブラック・ノウビーは その水を 糧とする ほかの水では 駄目だ 』
「はい!…はい?」
『 時折 清浄な気を 吸わせてやれ 』
「ピュイッ」
「え?」
『 ブラック・ノウビーが目にしたもの 感じたもの 触れたもの すべては 我に通じる 』
「ピューイッ」
「え?」
『 広き 世界 存分に 巡るが良い 』
「ピュピュー」




え?



テッテレー


古代竜(エンシェントドラゴン)の幼生、ブラック・ノウビーが仲間になっ



「いや待て待て待て待て待て!!どういうこと!何言っちゃってんですかボルさん!」
『 む 』
「せっかく、今、生まれた、可愛い可愛いお子さんを!どこの馬のホネともわからん得体の知れない俺なんかに、まるっとデヤッと任せていいと思っているんですか!」
『 我と 仔を 救いし ぬしに 何を否やと 言うのだ 』
「ピュイ!ピュイ!」

生臭い、じゃない、ビーが不満を表すように俺の頭にぐりぐりと頬を寄せてくる。

「痛い!お前もっと加減しろって」
「ピュイイイイィ…」

続いて髪をついばみ始めた。何でここまで懐かれるのかわからんよ。

『 ぬしの 力を 注ぎし 我が子なり ぬしを魂の片割れと 思うのも当然なり 』
「魂の片割れ?何その重たそうなの」
『 力をつけ 成竜とならねば 我が子は 再び 土と化す 』
「だから重いって…。そんなこと言われて、連れて行かないわけがなくなっただろうが…」
「ピュイ!」

ボルさんは当然とばかりにそんなこと言うし、ビーは離れるまいと頭にべったりくっついてくるし。

だから本当に生臭いんだよ…。


翌日、太陽が昇るのと同時に行動を開始した。朝食を弁当2つで済ませると、ビーに魔素水を飲ませて活動開始。
探査(サーチ)先生に今日もご活躍いただき、ランクCの素材に絞って採取をはじめた。黙々と薬草類を採取していると、うなじにぞわぞわと感じる寒気。

「ピュ!!」

飛んでいたビーが慌てて俺のローブの下に隠れた。
動物の本能を無視してはならない。これはきっと何かがあったんだ。

「探査(サーチ)展開、対象、獰猛なモンスター」

ピココココココ…

「うえ」

目の前に広がる真っ黒の光の点滅。それがあちこちにあり、こちらを目指していた。

「探査(サーチ)展開、対象、モンスター部位でランクDからの素材」

反応有り!…しかもそこそこ多いな。

「ピュイ?」
「まあなんとかなるさ。ビーはこのまま隠れていろよ。しっかり掴まれ」
「ピュ!」
「痛ぇ!爪立てんな!!」

最初に現れたのは空飛ぶモンスター。大きな鷲のような、だけど顔が豚のような。見た目は確かに恐ろしいんだけど、ボルさんほどじゃないな。良かった、最強で最恐の生物を目にしておいて。
調査(スキャン)を無詠唱展開する。


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ロックファルコン ランクC
獰猛な肉食の大鳥。肉は脂肪分が甘く美味しい。脊髄は調味料として加工可能。
鋭いくちばしで人の目を抉ってくる。素早い動きに注意。

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なんですと。
空飛ぶ食材じゃないですか!
これは討伐して新鮮なお肉を手に入れねば!
無益な殺生はしませんが、生き抜くために必要なぶんだけ狩らせてもらいますよ!

「よおっし!盾(シールド)展開、調査(スキャン)で捕捉しつつ氷結(アイスニードル)展開!」

炎系で爆撃しても良いのだが、お肉と森が焦げてはならない。

「ギョアアアアアア!!」

まるで化け物の声だな。いや、化け物なんだけど。
豚顔の鳥は真っ赤な目をギラギラさせて俺をめがけてまっしぐら。真っ直ぐ来るなら攻撃は簡単。展開・待機させておいた氷結(アイスニードル)を数本発射させ、脳天に見事に命中。イメージは投げナイフだ。

「それいけ!」
「ギュアアアアア!」

断末魔の悲鳴と共に豚顔鳥はその巨体を地面に叩きつけた。これで食材ゲット、いやいや身の危険回避。

「キュピ!」

マントの裾から顔を出したビーが続いて警戒警報。お前、股間にしがみつくのだけはやめろ。


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サーペントウルフ ランクC
獰猛な雑食の狼。蛇のような尻尾を伸縮させて攻撃をしてくる。尻尾の表皮には麻痺系の毒があるので触れないようにすること。
肉は柔らかく食べやすい。食用としても好まれ、干し肉にすると味が深まる。毛皮は防寒着になる。保温性に優れている。

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続いてのお肉、じゃないモンスターは6頭でやってきた。デカイ犬って感じ。狼なんだろうけど。
剥き出しの牙が恐ろしいが、これもまた冷静に最初の攻撃を回避する。動きは素早い。だが、避けられないほどではない。

「速度上昇(クイック)展開、軽量(リダクション)展開、おまけに両手両足を硬質(ハード)!」

こちらは接近戦。両手両足を鋼鉄より頑丈にし、飛んできたサーペントウルフの顔面をそいやと殴りつける。なんとも脳筋で安易な戦闘だが、華麗に交わしてボディブロー、なんて技は出来ない。身体能力が向上したとはいえ、そこは素人のまま。

「ギャインッ!」

顔面を殴られたサーペントウルフが吹き飛ぶ。続いて蹴り。足が長いって素晴らしい。サーペントウルフの速さに慣れてくると、避けたところに背中を殴るとか左右攻撃をビンタで応戦とか泥臭い戦闘を続けた。
気づけば辺りはサーペントウルフの死体だらけ。ぐろい。

「あーもうめんどいぞ!このまま森を出るまで戦闘とか無理!」

討伐したブツを無造作に掴んで鞄に次々詰め込む。討伐した後は解体とかするんだろうが、そんな知識あったところで実際にやりたくない。血とかやっぱり怖いじゃない。
血の臭いに誘われたのか、探査(サーチ)が次々と黒い点滅を示してくる。あれだけのモンスター、流石にいちいち対処していられない。

「ピュピューイ」
「うん?どうしたビー」

ビーがもそもそとローブの下から出てきたと思うと、俺の背中に回ってがしりと掴まる。

「ピュイイイィ〜〜〜ッ」

ばさりと翼を広げ、ばっさばっさと羽ばたこうとしているのを見、流石にそれは無理じゃないかと止めようとしたら僅かに身体が地面から離れた。

「おおう!まじかよ、お前力持ちだな!」
「ピュイ!」
「よし、それなら軽量(リダクション)だ!」

身体を軽くする魔法をかけると、ビーは嬉々として天空を駆けた。

「ぎゃああああーーーーーーー!!」




悲鳴を上げる俺を無視して。


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