トップ>小説>素材採取家の異世界旅行記
6 / 104
第1章 

5:ベルカイム入場とギルド登録。

しおりを挟む
--------------------------

商業都市ベルカイム

アルツェリオ王国ルセウヴァッハ領ベルカイム

領主 アルノルド・ベルミナント・ルセウヴァッハ 伯爵
市長 イオネスト・ラング

--------------------------

トルミ村の何百倍もある巨大な都市であるベルカイム。その町を囲う壁も見上げるほどに高く立派。正面門から向かって正面が森、都市の背後に湖がある。これは陸海モンスターに攻められる構図だが、えりあしがピリピリする感触は何処かに魔素が流れている印。嫌な予感がするときもえりあしがピリピリするのだが、この壁伝いに魔素の流れがうっすらと見えたから、きっと魔道具(マジックアイテム)で結界術などを展開しているのだろう。叩けば壊れそうだがな。

さてはて、目的の町ベルカイムに無事到着したわけだが。
最初にすることはギルドに行くことだ。そこで冒険者としての登録をして、警備隊を紹介してもらう。トルミ村近くの林で発見した白骨死体の報告をする。検査官の甘党おっさんに教えてもらった建物は…確か大通りを進んで白い壁の建物。あそこか。看板に『エウロパ』と書かれている。でかいな。

「ピュイ?」
「ちょっと大人しくしてろよ」
「ピュッ!」

ローブの裾をめくるとビーは心得たとばかりに腹に巻き付いて隠れる。冒険者ギルドには命知らずの猛者がたむろっているから、妙な喧嘩が絶えないのだとか。いやだなあ、俺は平和主義者ですよ。

「こんちはー」

受付らしきところに居るウサ耳の女性に声をかける。白いウサ耳がぴぴぴ、と動き女性が振り返った。おお、可愛い。

「こんにちは。エウロパへようこそ」
「冒険者登録がしたいんですが」
「ありがとうございます。新規登録者はいつでも大歓迎ですよ!」
「宜しく」

高い天井と広い室内。入口入って正面が受付カウンターになっていて、そこから右側が待合室みたいになっていて椅子が数個置いてある。左手に行くと食堂だか酒場だかがある。昼間なのに酒を飲んで騒いでる男たちが居た。

「冒険者についてご存知ですか?」
「はい。ええと、基本的なことはこの本に書いてあったので」

鞄の中から冒険者マニュアルムックを取り出して見せると、ウサ耳さんはパッと微笑んだ。可愛い。

「それでは大まかな説明は省かせてもらいますね。わからないことはその都度質問してください」
「わかりました」

ウサ耳さんはカウンターの下から数枚の羊皮紙を取り出す。

「必要事項をこちらの書類に書いてください。お兄さん、文字は書けますか?」
「はい」
「なるべくならカルフェ語で書いていただけるとありがたいです」

カルフェ語が何語なのかよくわからないが、質問項目に書かれている文字で書けばいいんだろうか。
名前、出身、特技などを書いていくがウサ耳さんは何も言わない。これでいいようだ。

「あらっ!素材採取専門家さんですか?」

専門家さんでは…もういいや専門家で。

「経験は浅いんですが、腕はいいですよ」
「あら。うふふ。丁度良かったです。素材を集める方は常に人材不足で困っていたんですよ」
「あーーー…薬草や野草を採取するには危険がつきものですからね」

モンスター蔓延る森などで採取するには、それなりの腕が必要なのだ。
ジェロムが説明してくれたけど、素材採取を仕事にするものは基本的にパーティーを組む。素材を探している最中に警戒し、応対してくれるものが居なければ命が危ないからだ。俺ははじめこそモンスターが出てこなくて肩透かししたけど、今は立派な警戒警報…じゃなくて相棒が居る。俺も下手くそだが戦えるしな。

「そうなんです。お兄さん…タ、ケ、ルさんですね。タケルさんは戦闘経験はありますか?」
「あります」
「どの程度か…えーと、今まで討伐したモンスターの種類はわかりますか?」
「でかい鳥とか尻尾が蛇の狼とか美味い蟹とかです」
「えっ?」
「蟹は特に美味いので率先して倒していますよ」
「んん〜〜〜と、討伐証明は出来ます?ちょっと信じられなくて」
「討伐証明?倒した証拠ですよね。えっと、ここに出していいんですか?」
「えっ?えっと、こっち、こっちの台に出してください」

鞄の中に手を突っ込み、取り出したるは巨大な蟹。

「ひゃああああっ!!」

遠慮なくドガンと台に乗せたら、思っていた以上の重さと大きさで台が潰れてしまった。ウサ耳さんの耳がピンと尖り、悲鳴を上げて縮こまる。騒ぎを聞きつけた職員らしき人たちや酒場で騒いでいた男たちが集まってきた。

「モ、モンブランクラブ!!」
「あんなの倒したのかよ…」
「ていうか気持ち悪いっ!」

遠巻きにざわざわと声がしている。
えっ?すげぇ美味しい蟹なんだけどこれ。そりゃ見た目はグロいかもしれないが…。

「ひええぇぇぇ…モモモモ、モンブランクラブなんてよく倒せましたねぇぇ」
「それより君、アイテムボックス持ちかい?」

ウサ耳さんの後ろから来たのはクマ耳のおじさん。巨大蟹を見上げて不思議そうに聞いてきた。

「そうです。この鞄の中にある…この、袋です」

ジェロムの店で買ったうんこ入れ用袋を取り出して見せる。何の変哲もないただの袋を見て、クマ耳おじさんはへぇへぇ、と何度も頷いた。

「それで?このモンブランクラブは売るか?外装しか売れないだろうが」
「えっ?いやいや、とんでもない!肉は全部食いますよ」
「は?」
「え?」
「食うのか?!コイツを??」
「食いますよ?すげぇ美味いんですから」

極上のタラバさんですよ?逆に聞きたい、どうしてこんな美味い物を食わないのか。

「ま、まあ、人それぞれだしな…。外装はどうする?こいつはそこそこの値がつくぞ?岩の部分は剥がれているようだし」
「肉だけ残れば後はいらないので売りますよ」
「よっしゃ、それならギルドで買い取らせてもらう。ほらアリアンナ、ぼっとしていないで手続きしろ」
「ひぇっ?!あ、は、はい!えっとウェイドさん、彼は一応今日はじめて冒険者登録をするんですよ。それで、戦闘経験があるか確認していたんです」
「本当か?っはー…モンブランクラブを倒すたあ、イイ腕しているんだな」
「そうですよね!それにタケルさんはアイテムボックス持ちですから、きっと素晴らしい仕事をしてくれるに違いありませんよ!久しぶりに期待の新人現る、ってやつですね!」

オイオイそんな大声で言うなよ。さっき珍しいって言ったばかりじゃないか。
おかげで他の冒険者たちがヒソヒソなにか言い合っている。やめてすごい疎外感。

「モンブランクラブを倒せたということは、先ほど言っていた蛇の尻尾の狼…サーペントウルフも倒せたんですか?」
「ああ。肉が美味いから持っている。毛皮とかありますが、要りますか?」
「宜しければ是非」

続いてサーペントウルフを5匹取り出し、解体を任せた。肉だけ引き取る約束をする。

「決まりだからはじめは最低のランクFで登録させてもらう。ランクアップするには一定の条件をこなすことと、監督官の前で試験を受けてもらう」

別に名声はいらないし強い敵と戦いたいと思わないから、とうぶんは最低ランクでいい。ベルカイムで生計を立て、この世界のことを学ぶ。それが当面の目的だ。
有名になりたくない。人気者にもなりたくない。お尋ね者なんか絶対になりたくない。

「タケルさん、こちらの鑑定(アバルス)水晶に手をかざしてください。魔力数値を図ります」

言われたままに白い水晶を掴む。何の変化も起きない。

「…魔力を込めてもらえます?」

おお。そうか。掴めばわかるのかと思った。
魔力を込めるってことは、ビーの卵に加熱(ヒート)した感覚でいいんだよな。あれが一番わかりやすいから。

「加熱(ヒート)!」



ぱんっ




水晶壊しました。





テッテレー


タケルは ランクF冒険者に なった



そういうわけで俺は無事にギルド登録をすることが出来た。ギルドリングという真鍮の腕輪を渡され、これが身分証明書の代わりになるらしい上に、色で冒険者ランクが一目で分かると。俺の名前と職業、ランクなどが登録されており、こなした依頼(クエスト)件数も登録されるため紛失は厳禁だと言われた。この腕輪を付けているか否かで冒険者かそうでないか判断しているらしい。なるほどな。身に着けるのは煩わしいから鞄にぽいっと。

「ピュイ」
「ああそうだな、先ずは宿を見つけてから湯屋だ!」
「ピュ?」
「風呂に入りたいんだよ俺は。湯船に浸かって手足伸ばしてゆっくりしたいんだ。風呂はいいぞ」
「ピュー」

大通りから一本奥の通りに入ると宿街に出た。ベルカイムの宿は殆どこの通りに軒を連ね、ほぼ中央に位置する立地は目的に合わせ町のどの場所にも最短で行ける。湯屋もいくつかあるらしい。
ランクF冒険者用の掘っ建て小屋のような宿屋はまるっと無視し、中堅クラスの宿屋にすることとした。

「こんちはー」
「はい、いらっしゃいませ。海翁亭かいおうていへようこそ」
「しばらく滞在したいんですけど、部屋は空いてますか?」

トルミ村の宿屋の軽く三倍はある宿屋に少し萎縮しながらも、立派な受付カウンターで声をかける。受付の若い女性は鹿っぽい角が生えていた。可愛い。

「お客様大きいですねえ…。お部屋も大きいほうがいいですか?」
「部屋自体は狭くていいんですけど、ベッドは大きいほうが有難いです」
「わかりました。一泊1,500レイブで食事は別になりますが宜しいですか?」

ヒイイイイ、トルミの3倍値ェェェ!!
これは気合い入れて真面目に働かないと、あっという間に文無しだな。

「そそそれで…オネガイシマス」
「はい。では身分証をお持ちですか?」
「えーと、ギルドリングでもいいですか?」
「勿論です。お客様、冒険者でいらっしゃったんですね」
「見えません?」
「うふふ、とても丁寧にお話しなさるんですもの。お役所の方かと思いました」

ギルドリングを鞄から取り出して手渡す。鹿お姉さんはそれを専用の魔道具(マジックアイテム)にはめて中のデータを確認。これでこの日この宿に泊まったという記録が残る。ギルドリング自体が魔道具(マジックアイテム)らしいんだけど、実はすごいハイテクなのだ。

「はい、確認致しました。ありがとうございます。宿代は先払いになりますが宜しいですか?」
「構いません。えっと、先ず一か月は滞在したいんですけど」
「えっ、あっ、はい。一か月、ですね。ありがとうございます。確かにひと月分、お預かりしました。こちらがお部屋のカギになります。お出かけのさいはこちらにお預けください。お部屋は3階になります」
「わかりました」

3階の角部屋、他の部屋の扉より大きな扉を開くと8畳ほどの清潔な広い部屋。大きなベッドと机と椅子。クローゼットらしきものもあった。天井も高い。
流石一泊1,500レイブ。地球感覚で言えばここは立派な高級宿だ。

「とうぶんは宿代を稼がないとならんなあ…」
「ピュピュ?」
「そりゃ金はあるが、いつまでもあるもんじゃないのが金だ。宿代と、それから飯代。出来れば湯屋にも毎日通いたいからな…。ビーも美味い飯は食いたいだろ?」
「ピュイ!」
「だろ?それなら、少なくとも一日2,000レイブは稼ぐぞ」

ギルドの壁に貼ってあった依頼(クエスト)書。ランクFの依頼は殆どお使いレベルの内容だった。獰猛なモンスター討伐は一切無く、ダレソレさんちの屋根を直して欲しいとか畑仕事を手伝ってほしいとか。一回の報酬が青銅貨3枚程度。ベルカイム内で出来ることが殆ど。
しかし例外もある。それが、素材採取依頼だ。薬草や山菜などはどうしてもベルカイム郊外に行かなくてはならず、底辺ランクながらも高収入な依頼が多い。報酬が良いということは、それだけ危険もあるということだ。

「ピュルルルル」

皿に魔素水を注いでビーに飲ませてやる。ビーはこの水で生きていけるから良いが、俺は水だけでは発狂する。清潔な布団で眠れることが当然だと思っていた元日本人の生活水準はすこぶる高い。妥協する点は妥協するとして、それでも譲れないものは守っていく。

「ギルド依頼だけで生活しようって考えが間違いなんだな。いいじゃないか、個人的に肉…じゃなくてモンスター狩って食っても」
「ピュイピュイ」

ふと思い立ち、そうだそうだと頷く。
トルミ村ではジェロムの店で素材を売って生活していた。そんな感じでギルド依頼をこなしつつ、個人的に採取して個人的に売ればいいんだよな。
そうと決まれば話は早い。多くを望まず、だが決して少なすぎず、目立たず謙虚に賢く生きていけばなんとかなる。

「ピュイ?」
「お前一匹くらい養っていく甲斐性はあるからな」
「ピュピュイィ!」
「ああ、だから安心して養われ、ゴフゥゥ!!!」

感激したビーの鳩尾突進は命の危険があります。

しおりを挟む