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第1章 

6:ベルカイム滞在

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「エプララの葉8つとポラウェントの根っこが6つ、瑠璃キノコと茜キノコはそれぞれ20束にしました。えーとそれから…」
「ピュイピュー」

ベルカイム滞在半月。

俺は地味依頼を率先して受注している。他にもお手伝い系依頼はあるがいかんせん報酬が少ない。素材採取は地味だがリスクは少ないし、安定して稼げる。その代わり豊富な知識が必要となる。大金は稼げないが採取中に見つけた良質のものをギルドは買い取ってくれるから、無理にランク上の依頼を受けるよりもよっぽど安全に稼げているのだ。

探査(サーチ)を調整してランクCから上のものを優先的に採取、ランクFからのものはより良質のものを選んで採取していった。
どうせ採取するならより良いものを、と考えていただけなんだけど。

「これも、これも…、こんな大きなキノコ、はじめて見ましたよ。色も香りも…うん、申し分ない…」
「ありがとうございます」

採取してきたものを鑑定(アバルス)するのは専門知識のあるギルド職員。最近は俺担当になっているキツネの獣人グリットだ。グリットは銀のフレームの丸メガネをくいっと直すと、小鼻を膨らませて言う。

「依頼主も大感激しているんですよ。今まで依頼した品は何だったんだ、これならば是非指名依頼をさせてもらいたいと。ええと、今日だけで20件もきています」
「無理です」
「…ですよねぇ」

基本的に俺の活動は1日2件から3件受ける。それを3日以内に消化し、消化したぶん依頼を受注してまた消化していくという、かなりのんびりとした活動だ。それでも1回の報酬が最低でも銀貨1枚と高額。
本来なら青銅貨10枚の報酬でも、モノによって値段が倍増する。良い状態の薬草は良い薬を作れるらしく、薬師が俺を指名して依頼を出すことも珍しくなくなった。

「あ、忘れるところだった。グリットさん、これ探していませんでした?」
「え?………!!これっ…、ネブラリの花じゃないですか!こんなにたくさん!」
「奥様が誕生日なんでしょう?どうせなら新鮮で大ぶりな花がいいかなと思いまして」
「タケルさん、貴方って人は…!で、ですがこんなにたくさんの花、私では買い取ることが…」
「依頼を受けたわけではないので、差し上げますよ」
「え!!いや待ってください、これはランクDの貴重な花ですよ?!」
「毒にも薬にもなりませんからね。奥様を喜ばせてあげてください」

グリットは感激して涙を流していた。大げさかと思うが、ネブラリの花は王侯貴族に人気な大輪の花。牡丹や芍薬に似ている。花屋で買えば1本銀貨2枚。高価な品をしれっと差し出すことで、俺に対する少しの疑惑も持たせない。ふひひ。いわゆるこれはワイロだ。

「ありがとうございます、本当に、タケルさん」
「いえいえ、奥様の得意な焼き菓子を御馳走していただけるだけでいいですよ」
「ははっ!言いますねぇ、必ず作らせて持ってきますね!」

与えるだけでは無く、些細な要求もする。相手と対等であることを忘れてはならない。利用されるだけの存在ではないぞとアピールすることも大切だ。
これでグリットは俺を信頼し、俺の株を上げてくれる。俺を無条件でいい人だと証言してくれる一人となる。味方は一人でも多いほうがいい。ちなみにギルド職員は皆、礼儀正しく仕事をきっちりとこなす俺を友好的に見ていた。

「ピュイッピュピュー」
「そうだな。湯屋に行くぞ」

今どうにもならないことを考えても仕方がない。日々仕事があって稼げて食って眠れる。それだけでいいのだ。

「タケルさん、ビーちゃんもいらっしゃい!」
「お待ちしておりました〜!」

夕方前、俺は毎日湯屋に行く。
宿屋からひとつ奥の通りにあるベルカイムでも一番大きな湯屋だ。広い脱衣所と広い湯船があり、おまけに露天風呂もある。素晴らしい。温泉でないのが非常に残念だが、湯量が豊富なのが売りらしく魔道具(マジックアイテム)で湯を沸かしているのはこの店だけなのだとか。

「こんちは」
「お待ちしていたんですよ」
「タケルさんを待って湯船に入る人が多いんですから」
「俺は掃除屋じゃないんだけど」
「わかってますって」

宿屋でこの湯屋を紹介されてはじめて訪れたとき、それはもう愕然とした。楽しみにしてやって来たというのに、湯船は泥水だわ温度は低いわ床はぬるぬるだわでテンション一気にダダ下がり。自分で贅沢は言うなと言い聞かせたくせに、ブチ切れて脱衣所から湯船に至るまで全てに清潔(クリーン)をぶちかましてしまった。
遠慮なく発揮した俺の魔力は、巨大な湯船全ての湯を透明にし、洗い場もツルツルのピカピカにしてしまった。その威力は女性風呂にまで及んだらしい。

俺としては清潔な場所で身体を清潔に出来ると満足したのだが、湯屋の主人である虎の獣人であるリムレイが驚きそして感激。俺に大いに感謝。湯船を綺麗にしてくれるのなら利用料はいらないと、青銅貨5枚分タダにしてもらった。

それ以来、俺は二日に一度、湯船に清潔(クリーン)をする代わりに毎日の入浴利用料完全免除にしてもらっている。

「ほっふぅ…」

でかい俺の身体でも余裕で手足を伸ばせる湯船。
今日は何かの薬草が入れてあり、薬湯になっている。これも俺がリムレイに勧めた。湯船に清涼感のある匂いのする花や疲労回復効果のある薬草を入れれば、僅かながらも効能が出るのではないかと。リムレイは嬉々としてこの勧めに乗り、この湯屋の売りにしている。情報料を貰うべきだったな。

「ピュイィ…」
「ははっ、ドラゴンも風呂に入るなんてな」
「ピュイ」
「そうだよなあ、本当に気持ちいいよなあ…」
「タケル、来ていたのか」

腰に布を巻いた状態で立派な裸体を惜しげもなく晒しているのは、リザードマンの戦士、クレイストンだ。
そうそう、二足歩行のドラゴンみたいな種族はドラゴンではなく、リザードマンでした。

「こんちは、クレイ。スタヴロウ平野のクエストはどうでした?」
「同行した偵察の腕がヘボでな。危うくコルドールサボテンの餌食になるところだった」

ははは、と豪快に笑う様もかっこいい。
クレイストンの肌には大小の傷がたくさんある。まさしく歴戦の勇者の如くマッチョな身体に生きながらえた勲章を称えているのだ。
湯屋で知り合った裸の付き合いだが、話せば気のいい奴だった。見た目は青い鱗に覆われた恐竜のような、というかまんまヴェロキラプトルという恐ろしい顔だが、意外と表情は豊かだし会話も楽しい。

「前衛であるはずのパラディンがギラガヤマネコに恐れをなしおって…」
「逃げたんですか?」
「あれでランクCとは笑わせる。己の身を挺してでも仲間を守るのが務めであろうに」

まるで戦国の武士のように志高いクレイストンも冒険者だ。相手のランクを聞くのは失礼だと思い彼のランクは知らないままだったが、そこそこの腕がある高位冒険者ではないかと推察。纏う空気が違うし、時々ほかの冒険者らしき人に会釈されている。

「ああ、それにしても良い湯だ。お前のおかげだな」
「いえいえ、俺が満足したいだけですから」
「お前の技で一儲け出来るだろうに。この湯を作るのに無償だと?」
「使用料をタダにして貰っているんですよ?それ以上は望みません」
「ははははっ、無欲なヤツだ!」

商売上手なヤツはそれで食っていけるだろう。だが、もともとこの町にある掃除屋の仕事を奪うことになる。賢い者が生き抜く世界だが、余計な恨みは買いたくない。

「ピュイ〜〜ィ♪」

ビーがご機嫌で歌を歌いだす。調子はずれの歌ではなく、採取中に俺が教え込んだ歌。有名な科学の子のテーマソングだ。
湯屋を毎日利用しているのは俺くらいだ。通常なら週に2回、それでも多いと言われている。風呂に入るのは金に余裕のある者の特権であり、湯屋に通うものはそこそこな財力がある証拠とも言われている。毎日通っている俺はほら、タダだから。

「それはそうと、お前にランクアップの知らせがあっただろう」
「あーーーーーーーー」
「いい加減に受けてやれ」
「俺、冒険者になってまだ半月ですよ」
「見込みのあるものに時は関係無い」
「現状で満足しているんですよね」
「まったく…お前のように欲のないやつは却って目立つぞ」

欲があっても目立つが、欲が無くても目立つらしい。
俺はただひっそりと地味に日々を送るだけでいいってのに、どうやら周りが放っておいてはくれないようだ。


面倒なことはやりたくないんだけどな。

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