トップ>小説>勇者のその後〜地球に帰れなくなったので自分の為に異世界を住み良くしました〜
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第5話 勇者、旅に出る

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「世界を旅してみようと思う」

  バルザックの屋敷に帰った俺は、夕食の席で自分の考えを話した。

 「世界か、そりゃまた漠然としてるな」

  バルザックが奥さんからワインを注いでもらいながら反応してくる。

 「ああ、俺はこの世界を救う為に勇者として戦ってきた。けど、救おうとしている世界がどんな世界なのかを俺は全然見ていなかったんだ」

  我ながら無我夢中だったからなぁ。

 「魔王を倒したけど、先日の教会の様に家族を亡くして孤児になる子供、収入が減って借金を背負ってしまったシスターみたいな人がたくさんいると思うんだ」

 「それを一人一人助けて回る気? 幾らなんでもそれはお人好しなんてもんじゃないわよ」

  ああ、エアリアの言う通りだ。

 「俺もそこまではしないさ。けど、自分が助けた世界がどんな世界なのか、助けた甲斐があったのかを知りたくなったんだ」

  自分でも上手く説明できないな。

 「つまりトウヤさんは、平和になった世界で皆が本当に笑顔になれたのか知りたいという事ですか?」

  ミューラがその大きな胸を揺らしながら俺の気持ちを再確認してくる。
  ああ、確かにそれが分かりやすい。
  王様や兵士達、それに城下町の人達の笑顔を見て俺は頑張って良かったと思った。
  苦しい戦いだったけど、誰かを助けたいという自分の気持ちに従ったのは正しかったと心から思った。

 「ああ、皆が笑顔になれているのか、ソレを確認しないと元の世界に戻った時に心にしこりが出来ちまうからさ」

 「だったら帰らなきゃ良いのに」

  エアリアが拗ねた様につぶやく。
  まぁそうかもしれないけどさ、俺にも家族は居るんだよ。
  たった一人の肉親を亡くしたエアリアにソレを言うのは躊躇われたので、無言を貫く。
  彼女は賢者と呼ばれた老魔法使いの孫娘で、森の奥で祖父と二人きりで暮らしていた。
  けど魔王軍は彼女達が暮らしていた森の近くにある町を襲い、交流があった町を守る為にエアリアの祖父は戦死した。
  そしてエアリアは、祖父の遺志を継いでたった一人で町を守り続けていた。
  俺達と出会うまでずっと一人で。

 「なるほどな。確かに旅の間は楽しむ暇もなかったからな。逆召喚の魔法研究はまだほとんど進んでいないようだし、その間にこの世界の観光をしてくると良いさ。今のお前なら一人でも危険はないだろう」

  バルザックからのお許しが出た。
  別に許可が必要って訳じゃないけど、バルザックは俺にとって色々な事を教えてくれたお師匠様だ。
  この世界の常識や戦い方など、大抵の事はバルザックが教えてくれた。
  バルザックがいなかったら俺は魔王の城どころか旅の途中で死んでいたかもしれない。
  彼が何かを言う時は、常に相応の理由があった。
  そのバルザックが行っても良いと太鼓判を押したのだから俺も安心して旅に出れるってモンだ。

 「私は付いて行くわよ!」

  と、エアリアが俺にしがみついて宣言する。

 「あての無い旅だぞ?」

 「良いのよ! どうせ私も行くところなんてないんだから!」

  天涯孤独の身になったエアリアが言うと重い。

 「分かった、好きにしろ」

 「好きにするわ!」

  がっしりと俺にしがみついた腕に力が入る。

 「くくくっ」

  ほら、バルザックに笑われてるじゃないか。
  しかも奥さんにまで。

 「私は遠慮させて貰いますね。本当は付いていきたいんですけど、魔王討伐の件で教会に色々と報告しないといけない事がありますから」

  あー、ミューラは教会から派遣されてきた神官だもんな。
  しかも教会が魔族と戦う為に育てた秘蔵っ子だ。
  一般常識に疎い代わりに神聖魔法の力は歴代最強って話だ。
  実際回復魔法は腕の一つや二つ消し飛んでも再生できるし、死んだ直後なら死者蘇生も可能だ。
  俺も勇者の力で回復魔法は使えるが、斬り飛ばされた腕をくっつけ治すので精一杯かな。
  とてもミューラほどの回復能力はない。

 「それと、聖剣の返還もしないといけませんから」

 「ああ、そう言えばそうだったな」

  俺が魔王との戦いで使った聖剣は教会が管理している。
  これは聖剣を国家の政治目的で利用されない為だ。
  もっとも、最近は教会も聖剣を信徒勧誘目的で使ってるので、それを理由に各国から批判されているのだが。
  そこら辺は王様とかの権力者の話なので置いておこう。

 「じゃあしばらくの間はお別れだな」

 「ええ、私の代わりに世界の復興具合を見てきてください。復興が遅れている場所があるのなら、教会が援助に向かいますので」

 「分かったよ」

  そうして、食事を終えた俺達は、全員がそろう最後の夜を過ごしたのだった。

 「ぎゅー」

  何故かエアリアはずっと俺の腕にしがみついたままで、部屋までしがみついてきた。
  そして、朝になるまでずっと俺にしがみついていたのだった。
  言わせんな、そう言うコトだよ。

  ◆

「ちゃんと定期的に戻って来るんだぞ」

 「分かってるよ」

  旅立ちの朝、夕食の時にバルザックと話した約束事の確認を行う。
  俺が地球に戻る為の逆召喚魔法の研究がいつ終わるか分からないので、転移魔法で定期的に戻って来いとバルザックに言われたのだ。
  実際転移魔法があるので帰還は一瞬、こまめに戻っても何の問題もない。
  また、旅先で問題のあった土地はニューラやバルザックに報告する事。
  これは俺達では対処できない内容を教会や国に対応してもらう為の相談だ。
  長期的な対策が必要な事や政治的人種的問題は俺達ではどうにも出来ないからな。

 「じゃあ行ってくるよ」

 「行ってきまーす!」

  俺とエアリアは皆に手を振って城下町と外を隔てる門を出る。

 「気をつけてなー」

 「生水には気をつけてくださいねー」

  バルザックとミューラの定番見送り台詞を受けながら俺達は旅の第一歩を踏み出した。

  ◆

「じゃあ行くか」

  俺は横に立つエアリアに語りかける。

 「うん!」

  新しい旅に興奮してるのか、若干エアリアの頬が赤い。

 「おー兄ちゃん達。歩きかい? バラサの町までだったら銅貨10枚で乗せてってやるよ」

  と、後ろから来た荷馬車の御者が俺達に語りかけてくる。
  この世界、荷物の少ない荷馬車が護衛代を浮かせたり小遣いを稼ぐ為に駅馬車みたいな事をするのは珍しい事じゃない。
  俺達も魔王討伐の旅をしていた時はよく世話になったもんだ。

 「いや、俺達は魔法で移動するから良いですよ」

 「ほー、兄ちゃん達は移動魔法が使えるのか。そりゃあ羨ましいなぁ」

 御者が言っているのは飛行魔法や高速移動魔法、それにゴーレムとかの従者魔法の事だ。転移魔法も移動魔法だが、使える人間はほとんど居ないのでたぶん想定してないだろうな。
  転移魔法が使えるだけで輸送業や要人の移動で大金を稼げる訳だから。
  その為、転移魔法を使える魔法使いは貴族か大商人、後は教会辺りに囲われている。
  転移魔法使いがいれば大名達は参勤交代も楽々だ。
  いやまぁ、この世界に参勤交代なんてルールはないが。

 「ではそう言う事で」

  俺は全身に風の魔力を纏わせる。
  すると体が軽くなり、少しずつ浮き上がっていく。
  一〇秒もしない内に地面から一メートル程浮き上がる。
  横を見れば、エアリアも宙に浮いている。

 「まずはどこに行くの?」

  エアリアが目的地を聞いてくる。

 「そうだな、街道沿いに飛んでバラサの町を目指そう」

 「オッケー!」

  早速エアリアが飛び出した。
  その速さといったらさしずめライフルの弾丸のようだ。
  俺も慌ててエアリアを追う。

 「きーつけてなー」

  既に遠くなった地上から御者の人が手を振っていたので、俺もまた手を振ってそれに応えた。

  ◆

「おーい、待ってくれよー!」

  先に飛び出したエアリアはグングン先を飛んでいく。

 「嫌ーよー! 悔しかったら追いついてみなさーい!」

  などと抜かしやがった。

 「言ったな!」

  俺は全身に纏った風の魔力を集中してエアリアを追う。
  エアリアも俺がスピードを上げたのを見て自身も速度をあげた。
  スピードを上げた俺の横を、鳥が通り抜ける。
  否、俺が鳥を追い越したのだ。
  勇者である俺が全力を出せば鳥を追い越す事なんて容易い。

 「……くそ! やっぱ速ぇな!」

  だというのに、俺の前を飛ぶエアリアには全く追いつけなかった。
  むしろ引き離されている。
  当然だ、俺の飛行魔法はエアリアに習ったのだから。
  師匠であるエアリアの方が早いのは当然と言えた。
  俺は勇者であり、強力な魔族との戦いにはなくてはならない存在だった。
  だがソレはあくまでも勇者の力が必要だったからだ。
  単純な、専門能力で言えば俺は仲間達の中の誰にも勝てない。
  バルザックには剣技で、ミューラには回復魔法で、そしてエアリアには様々な魔法で勝てなかった。
  当然だ。
  皆はその分野のエキスパート。昨日今日学び始めた俺に追いつける訳がない。
  もっとも、そう言って拗ねた俺に対してエアリアはすごく怒った。

 「何でも習っただけですぐ人並み以上になれるくせに何贅沢な事言ってんのよ!! 私達がアンタ位出来る様になるのに何年かかったと思ってるのよ! そんなあっさり抜かれたら勇者の仲間なんて必要ないでしょ!! アンタが足りないから私達が必要なのよ!!」

  エアリアの言う通りだった。
  アレは俺にとってもショックだった。
  あの叱責で俺は自分が勇者として、知らず知らずの間に傲慢な考えに浸っていたと気付かされたのだ。
  そう考えると、エアリアの事を意識しだしたのはその時からかもしれないな。

 「何浸ってるのよ!」

  気がつけばすぐ傍にエアリアが居た。
  たぶんいつまでも追いついてこないのでスピードを緩めてくれたのだろう。

 「いや、エアリアの事を考えてた」

 「っ!? な、ななななっ!?」

  一瞬でエアリアが顔を真っ赤にする。
  あー、こんな言い方をしたらそう受け取られるのは当然か。
  いや、あながち間違いではないが。

 「あ、朝っぱらから何言ってるのよ! そういうのは夜に二人っきりになった時に言う事でしょう!?」

  夜なら良いのか。よし、夜になったらまた言ってやろう。
  俺は夜の事を考えてニヤリと笑った。

  とその時、地上の光景に違和感を感じた。。
  ……アレは?

 「ちょ、ちょっと何いやらしい顔してるのよ! だからそういうのは夜だって……って、どうしたの?」

  顔を真っ赤にして怒っていたエアリアだったが、俺が真面目な顔になった事で何かあったと気付いたらしい。
  この辺りは一緒に旅をしていたからこそのツーカーの感覚だな。

 「あそこ、人が争ってる」

 「え?」

  何処か探すエアリアに俺は指を指して場所を示す。

 「……ホントだ。盗賊かしら?」

 「分からない、だが放ってはおけないな。どちらが被害者か分からない。攻撃は近づいて状況を確認してからだ」 

 「分かったわ」

  俺達は高度を下げて戦いの場へと近づいていった。

  ◆

「魔物だな」

 「みたいね。食べる為に襲ってるのかしら?」

  現場まで近づいた俺達は、襲っているのが魔物だと気付いた。
  パッと見は鎧を着ているので人間に見えたが、その肌が緑色である事から魔物だと気付いた。
  ゴブリン、ファンタジーRPGで定番のモンスターである。
  連中は人間の様に道具を使う。
  だが高い知能も技術力もないので、装備はたいてい木の棒と腰巻きくらいだ。
  だがこいつ等は鎧を着ていた。
  騎士の纏う金属鎧を着て、手には鉄の剣と盾を装備している。
  だがこれらはゴブリンが作ったものじゃない。
  鎧は穴が空いていたりパーツが欠けているし、剣は刃こぼれが酷い。盾も同様だ。
  おそらくは戦場の死体から武装を剥ぎ取ったのだろう。
  ゴブリンが良くする事である。

 「多重攻撃を仕掛けるわ」

 「分かった」

ゴブリン達と距離があるにもかかわらず、エアリアが地上に降りる。

 「燃え盛る炎の子よ、猛々しき火山より生まれし者よ。かの者達は汝らと踊る者なり、汝らへの供物である。なれば炎の申し子よ、愛しくも愚かな供物達と踊りたまえ! フレイムプレデター!!」

  エアリアに呪文が完成し、何本もの炎で出来た蔦がゴブリン目掛けて伸びていく。

  詠唱魔法フレイムプレデター。
  炎の蔦が術者の指定した敵のみを攻撃する乱戦用の魔法だ。
  こうした攻撃したくない相手が近くにいる時に特に有効な魔法だ。
  唯一の欠点は呪文を詠唱しないといけないという事くらいか。
  この世界では二種類の魔法がある。
  無詠唱魔法と詠唱魔法だ。
  無詠唱魔法は俺達が使った飛行魔法といった魔力を通すだけで使えるシンプルな魔法。
  逆に詠唱魔法は制御が複雑な為に呪文で補強する必要のある魔法だ。
  どちらが優れているという訳でもなく、運用思想が違うだけだ。
  すぐ発動させたいか、手間が掛かっても精度を出したいか。

  そして俺は前者を選ぶ。
  風の魔力を強めて、飛行魔法の速度を上げる。
  そして腰から抜いた剣を構えて今まさに人間を襲おうとしていたゴブリンに切りかかった。
  エアリアが攻撃で巻き添えにしないようにあえて残した敵である。
  いちいち振りかぶったりはしない。
  鳥をも追い抜かすこの速度、撫でるように斬るだけですさまじい威力を発揮する。
  現にほんの少し力を入れながらゴブリンを斬っただけで、鎧ごとゴブリンの背中を深々と切り裂いた。
  使っているのは聖剣でも魔法の剣でもない、過去に使っていた普通の剣だ。
  頑丈で長持ちするだけの只の剣である。
  だが、圧倒的な速度を付与した一撃はゴブリンに大きなダメージを与えた。
  そして追い越しざまに飛行魔法を解除、剣を地面に突き立てブレーキとして大地を切り裂く。
  5mほども地面を切り裂きながら減速し、停止する前に足の裏に風の魔力を纏って大地を思いっきり蹴る。
  すると大地に満ちる土の魔力が反発するのでその勢いで正面、ゴブリンの背中に向かって跳躍した。
  この魔力の反作用を俺は縮地と呼び白兵戦で好んで使っていた。

  ゴブリンが俺を見る。
  その目は怒りに満ち……てはおらず、突然攻撃してきた敵への恐怖しかなかった。
  もちろん容赦などしない。
  俺は交差する瞬間、剣をゴブリンの首の高さに水平に構える。
  そしてゴブリンの横を通り抜けると、軽い手ごたえが走りゴブリンの首が吹き飛んだ。

 「殲滅完了」

  無力な者には強く、強き者からは逃げ出す。
  ソレが身上のゴブリン達だったが、圧倒的な力を持った俺達の強襲により、逃げる暇すら与えられずに全滅するのだった。
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