トップ>小説>皇太子の愛妾は城を出る
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「すまん、パックのこと悪く思わないでくれ」

 パックが馬車の前側に移動したのを見てバッカーさんがわたしに謝ってきた。はじめは何を謝ってこられたのかわからなかったけどパックの名前が出て虫の事だと気付いた。

「い、いえ。わたしが悪かったんです。有事の際には虫を食べる事もあるって聞いたことがあるのに忘れてました」

「いや普通はあんまり食べないから。俺らが特別なんだ。それに嬢ちゃんは虫を食べた事もショックだったみたいだけど、そういう事をされた悪意の塊が原因で味覚障害になったんだと思う。人から悪意を向けられるのって精神的に辛いからな」

 バッカーさんはわたしの頭を数回ポンポンと叩く。久しぶりに優しくされたわたしはまたもや涙をこらえる羽目になった。みんな優しすぎる。
 
 怪しいと思われたら山賊は出てこない。だが最近は山賊を恐れてこの道を通らずに遠回りをするので山賊も焦っているから必ず襲ってくると睨んでいるそうだ。ちなみにこの情報はパックからだ。
 パックの役目は『遠目』と言って、遠くが見えるスキルを持っている。冒険者には得難いスキルだ。それで幼いのに冒険者として活躍できるんだね。こんな大捕物にも誘われるくらいだから評価も高いのだろう。
 外で見ていたパックが

「いたよ。一キロ先に集団で集まっている。魔術師もいるみたいだ」

と言った。
 みんなの顔が引き締まるのがわかった。魔術師がいると少し厄介な事になりそうだ。

「カスリーン、先ほど防御魔法を馬車ごとかけると言われたが今からでも出来るだろうか?」

 バッカーさんに聞かれたので、

「大丈夫ですよ。ただこの馬車から離れたら防御は効きませんよ」

と答えた。

「それで十分だ。防御魔法の結界を馬車ごとかけてもらえたら、近くまでこのまま馬車でいける。山賊の近くまで行ったら戦うぞ。あとパックは馬車の中で留守番だ」

「えっ? 僕だって戦えるよ」

「ここでお嬢ちゃんを守るのがお前の仕事だ。魔術師がいるとなると一般人を巻き込むんじゃなかったぜ。それにお前の防具は 魔術を跳ね返すようにはなっていないだろう。わかったな」

「はい」

 悔しそうな顔でパックは返事をした。
 まだ冒険者二年目の若いパックには高い防具は買えないのだろう。こればっかりは仕方のないことだ。
 わたしは息を吸って頭の中で防御魔法の結界(バリヤー)を馬車ごとかける。魔力がスッと減る。
 どうやら成功したようだ。

「すごい。すごいよ。こんな結界見たことないよ」

 パックは興奮したように叫んでるけど、結界が見えてるパックも十分すごいよ。

「パックに結界の出来を見てもらったんだがこれなら大丈夫だな」

 どうやら信用されていなかったようだ。冒険者でもない一般人の結界だから当たり前か。でもパックが認めてくれたからこのまま山賊のところまで進むみたい。
 私は急に心配になった。本当に大丈夫だよねこの結界。
 まあ山賊だってこの馬車の中の商品が目当てなんだから全滅するような魔法は使わないだろうからこの結界が壊されることはないと思うけど。

「なんかドンドン魔術師がマジになってないか?」

「えっ? どうかしたんですか?」

 外を見てたバッカーさんはわたしの方を見て

「嬢ちゃん、いやカスリーンの魔法はすごいな。結界だけ壊そうとしてたみたいだが、全く壊れないからあっちの魔術師が本気になったみたいだな」

「えーそれって大丈夫ですか?」

「ああ、他の奴らが必死に止めてるから大丈夫さ。山賊だって宝の山に攻撃はしないさ.....よし、ここでいい! 停めろ! みんないくぜ!」

 

 



 



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