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魔物娘たちの御主人様!

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要塞都市バルタロ編

第13話 久しぶりの美味しい食事

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タロウとプス子は風呂からあがると、部屋での食事ではなく1階の酒場のカウンター席で夕食を食べることになった。

「(大丈夫かな……)」

タロウは魔物であるプス子を酒場内で同席させれば他の客に迷惑がかかるのではと心配したのだが、酒場の女将であるレーデが「気にしなくて大丈夫よ」と、腰に手をあててコルセット風の衣装からはみ出る上乳を強調しながら「ニコリ」と笑うので、何かあれば部屋に戻ればいいかと考えて素直に女将レーデの言葉に従うことにした。

この宿の女将であるレーデは年の頃は25前後。
妙齢の美しさを持つ女性である。

清潔感のある黒髪のポニーテール。
少し切れ長な鋭い瞳と右側の目尻に泣きぼくろがあり、唇にはささやかながら赤い紅を引いている。

元「魔物狩り」と言うだけあってその佇まいにはどこか力強さというか、隙の無さが伺える。

いきなり襲いかかっても綺麗にカウンターを食らいそうだなと、タロウは心の中で思った。

「レーデさん。本当にここで食べても迷惑になりませんかね?」

タロウはカウンター席に近寄ると左側の壁際の席にプス子を座らせてから、その横に自分が座る。
もし、お客が来てもプス子と隣り合わせにならないように配慮する。

「あら。革新的な魔物の使役技術を持って、この要塞都市に一旗上げに来たわりには臆病なのね」

レーデは野菜を切りながらおどけた表情でタロウに答える。

野菜の切れる音と包丁がまな板に当たる軽快な音が響く。

「いやいや、そこは無用なトラブルを避ける堅実さと言って下さいよ」

「なるほど。そういう風にも取れるわね。でも、文句を言う奴がいれば殴り飛ばしてしまえばいいじゃない。ここでは自分の身は自分で守るしか無いんだから」

「むしろ、俺にはそれが面倒なんですよね。こちらが少し気を使って避けられるなら避けた方が楽です」

「少しワイルドさに欠けるわねー。ここには無駄に血の気の多いのがゴロゴロしているわよ? タロウさんは本当に戦闘できるの? 大丈夫?」

レーデは野菜を切るのを止めると、タロウの顔を本当に心配そうに見る。

「それは……たぶん大丈夫です。やる時はやりますので」

そう話すタロウの目を見ていたレーデは軽く頷く。

「……嘘じゃなさそうね。お姉さん安心したわ」

レーデは小さく頷きながらウインクを一回だけすると、また野菜を切り始める。

店の入口から見える外の景色は既に暗くなっているが、まだこれから夜が始まるという時間なので人通りは多い。

タロウはそこから視線を戻し、レーデがカウンター内の厨房を動きまわる様をまた眺める。

そうこうしている内に、お客がレーデの店に入ってきた。

「レーデさん、ただいまー」

軽装備に身を包み腰に剣を携えた若い男が慣れた感じでレーデに挨拶しながら店に入ってくる。

「あら、お帰り。今日は稼げたの?」

「ああ、今日はスライムを8匹ほど殺せたよ。合計で銅貨8枚、悪くないね」

「あら、じゃあ今日は特選ビールにする?」

「ああ! 頂戴頂戴!」

男の客は上機嫌でテーブル席に腰を下ろす。

「お、なんか見かけない顔がいるな。それに魔物を店内に入れるとか面白い魔物使いだな」

若い男の客がタロウを見ながら気さくに声をかけてくる。

魔物を店内に入れるのはやはり珍しいようだが、別に騒ぎ立てるような事でも無いようだった。

タロウは「ども」と軽く会釈をすると、プス子も「うー」と魔物言葉で一声だけ鳴いた。

「このお客さんはタロウさん。今日からうちに泊まってくれることになったの。この要塞都市へは初めて来たらしいけど、ちゃんと稼げたらうちに長期滞在してくれるらしいから、彼にいちゃもんつけたらぶっ飛ばすからね♪」

レーデは特選ビールの泡があふれるガラスの透明なジョッキを若い男の客が座るテーブルに運ぶと、見事な営業スマイルを浮かべながらそう釘を刺す。

その言葉を受けた若い男の客は「ぶるぶる」と顔を左右に振った。

「しませんともしませんとも! レーデさんの宿にやっと入った宿泊客を追いだそうものなら、もう俺、ここに食べにこれないじゃん」

「そうそう。私を失望させないように」

「分かってますよレーデさん。んじゃ、その新人の魔物使いさんの活躍を祝して!」

若い男の客はそう言うとタロウに向かってジョッキを掲げると、「ぐびぐび」と喉をならして冷えた黄色い液体を胃に流し込んでいく。

「ぷはー! 仕事の後の一杯は最高だなー! じゃあ、何か今日のお勧め定食お願いしますよ」

「はいな。今日は良い豚肉が入っているから、豚肉の生姜焼きよ」

「おー! それは楽しみだな〜」

レーデはカウンターの中の厨房に戻ってきた。

若い男の客は美味しそうに「ぐびぐび」とビールをあおっている。

「タロウさんもビール飲む?」

「あ、いや。俺は酒は飲まないんで」

「え? ……貴方は、とことん不思議な人ね〜」

タロウは「あはは……」と愛想笑いを返しておく。

タロウは別に酒が飲めない事はないのだが、酒の恐ろしさを古典や作品で見ているので、特に酒が好きでもないことだし、この異世界では慎もうと考えていた。

「(酒に酔って「殺される」ことだけは避けたいからな〜)」

「タロ様ー。あの黄色い飲み物は何ですか?」

プス子がテーブル席の若い男の客が幸せそうに飲むビールに興味を持ったのか、ジョッキをあおる若い男の客を見ながらタロウに聞いてくる。

「あれは酒だよ。人間が自分の体の感覚を麻痺させて一時的に天国に行く飲み物さ。あれで失敗する人間が多いのに、それでもやめられない魔性の水さ。長生きしたければ手を出さない方が良い」

タロウはプス子にだけ聞こえるように小声で答える。

「あい! プス子は飲みません! 白パンがあれば大丈夫です」

「プス子らしいな」

タロウが微笑むとプス子も微笑み返す。

「貴方達、本当に仲が良いのねー。とても魔物使いには見えないわ」

レーデは苦笑いしながら、夕食の「豚肉の生姜焼き定食」をタロウとプス子の前に置いてくれる。

メインのお皿の上には薄めに切られた豚肉の生姜焼き6枚と山盛りの千切りキャベツ。
小さいお椀には鶏ガラで作った透明のあっさりしたスープと、何とも香ばしいみじん切りの香草がふりかけてある。
そして、真っ白い炊きたてのご飯がどんぶりに盛られていた。

「うわ……美味そう……」

どれもこれも美味しそうな湯気を立ちのぼらせながら、タロウの鼻孔を芳醇な香りが刺激する。

「わ! わ! わ! タロ様タロ様! お肉です!」

プス子は肉が好きなのか定食を前にしてテンションが上がっている。
 
「プス子ちゃんは手で食べるのかしら? 一応、皆と同じようにナイフ、フォーク、スプーンを添えておいたけど」

「ああ、大丈夫とは思います。無理なら手で食べさせますけど、いいですかね?」

「ええ、気にせずどうぞ。汚れたら掃除すればいいだけだから」

レーデは細かいことは気にしないといった感じで微笑むと、まな板が置いてある場所に戻ってそのまま若い男の客の定食を作り始める。

タロウはレーデが少し離れたのを見てプス子に話しかける。

「プス子、刃物の使い方は分かるな」

タロウはプス子の前に置かれたナイフを持ち上げて見せる。

「あい! お肉を切るのです」

「そう。ちなみに、この小さな刃物の事をナイフと言うんだ。そして、これがフォーク。これで突き刺したり、すくったりして食べる」

タロウはフォークで豚肉を刺して持ち上げたり、豚肉を刺したまま固定してナイフで切ってみたり、ご飯をすくいあげたりしてみせる。

「おー!」

プス子は特に疑問も持たずに理解しているようだった。

「で、最後はスプーン。基本は液体をすくって口に運ぶための物だ。まー、別に決まりはなくて何でもすくっていいんだけどな」

タロウはスープをすくったり、白ご飯をすくったり、豚肉をすくったり、キャベツをすくったりしてみせる。

「できるか?」

「あい!」

プス子にナイフ、フォーク、スプーンを手渡すと、プス子は器用にそれらを使って食事を始めた。

「わー! このお肉柔らかいし味がついていて美味しいー!!」

プス子は「ウーウー!」と魔物言葉ではしゃぎながら、豚肉の生姜焼きとごはんを口に放り込んでいく。

「あら、どうしたのプス子ちゃん。お口に合わなかったかしら」

騒ぐプス子をみてレーデが心配そうに声をかけてくる。

「いやいや。美味しくて嬉しいみたいです。ほら、がつがつと食べてますから」

「あら、ほんと? 魔物まで喜ばせることができるなんて、私の料理は大したものね」

レーデはおどけるように微笑む。

「ほんとですね」

タロウも微笑みながら頷く。

「でも、本当にプス子ちゃんは器用なのね」

プス子が普通にナイフ、フォーク、スプーンを使うのを見て、レーデは少し驚いている様子だった。

「魔物といえど武器を使ったり、動物を捌いたりしていたようですからね。基本的には器用なもんですよ」

「そう言われればそうなんだけど。その能力をちゃんと引き出せる魔物使いってなかなかいないわよ。魔物使いの中でも、その魔物が得意な武器をあえて持たせない方が多いんじゃないかしら」

「反乱された場合に自分が危険だからですか?」

「そういうこと。その点、あなたはサイクロプスが最も得意とする弓矢を装備させているんだから、それだけでも調教力の高さは、この要塞都市の中でもトップクラスのはずよ」

「うわ……。そうなると目を付けられる可能性も高いですね」

「気をつけてよ。貴方は私の店の大事な宿泊客なんだから」

「はい、しっかりと気をつけます。おっと、せっかくの温かい料理なので俺も頂きますね」

「ええ、熱い内にどうぞ召し上がれ」

タロウは定食に添えられたナイフとフォークを手に取り、熱々の豚肉の生姜焼きを一口大に切って白いご飯の上にのせる。

「(うわー……マジで美味そう)」

タロウはそのままフォークで豚肉とご飯を口にかき込む。

豚肉の生姜焼きの甘いタレと白いご飯が口の中で絶妙に合わさる。

「うんめぇー……」

タロウは両目をギュッと閉じて喉の奥から絞り出すような声を出した。

なにせタロウがこの異世界に来てから初めての他人が作ってくれた暖かくて「まとも」な料理だったからである。

「(いや……それだけじゃないな。どこか家庭的な温かさというか、母親や奥さんの手料理みたいな家族の温かみが感じられるんだろうな。異世界に来てから簡単な物しか食べていなかったけど、よくよく思えば、元の世界でもコンビニ通いだったから、それ以来の久しぶりな手料理になるわけだ。こりゃ独身男性が家庭的な食堂に入り浸る理由が分かるな……)」

タロウは無言でガツガツと豚肉の生姜焼き定食を口にかき込んでいく。

その様子をレーデは料理をしつつも微笑みながら見ていたのだった。



タロウとプス子はあっという間に定食を平らげた。

空っぽのお皿を前にタロウは両手を合わせて合掌する。

「ごちそうさまでした!」

タロウに合わせてプス子も真似をすると「うー!」と一声鳴く。

「お粗末さまでした」

レーデが嬉しそうに答える。

「本当に美味しかったですレーデさん。こんなに美味しいと、ずーっと泊まりそうで怖いくらいです」

「あら、嬉しい。長期滞在は本当に助かるから遠慮せずに泊まってね」

「そう言ってもらえると助かります。ただ、もちろん稼げたらですけどね」

「そうね〜。そればっかりはやってみないことにはね」

レーデは苦笑いしながら頷く。

タロウはコップに注がれている白湯を口に含む。

「そうだ。レーデさんはこの要塞都市に詳しいって言ってましたよね。少し聞いてもいいですか?」

「ええ、何でも聞いて」

「魔物を退治した場合の賞金って、ここではどこに行けば貰えるんですかね?」

「賞金換金所のことかしら?」

タロウは初めて聞く単語だったが言葉だけでだいたいの予想がついたので、無用な問題を避ける為にお決まりの知ったかぶりで会話を流す。

「そうです」 

「換金所はこの難民街にもあるし、要塞都市の中にもあるわよ。好きな所で登録して「腕輪」を貰うといいわ。ただ、要塞都市の所は癖の強い魔物殺し達もいるから、なるべくは近づかない方が良いかもね」

「ああ、はい。そうします」

正直、タロウは「腕輪」の意味も分からなかったが、それは賞金換金所で聞けばいいなと判断した。

「北の未開拓地には、この大陸中の魔物が集まっていると聞きましたが本当なんですかね」

「本当よ。ありとあらゆる魔物がいるわ。中にはとんでもなく危険なレア種もいるから未開拓地の奥には行かないようにね」

「それは大丈夫です。小さく稼ぐつもりなので無理はしない予定です」

「それがいいわね。大金を狙って無茶をするバカも多いけど、地道にやるのが一番だもの」

「俺もそう思います。なにせ、死んでしまったらレーデさんの美味い料理が食えないですから」

「あら、若いのに本当にお上手ね。そんな嬉しいことを言われるとお世辞でもお姉さんは嬉しいわ♪」

レーデは黒髪のポニーテールを揺らしながら微笑む。
その際、右目の下の泣きぼくろが色っぽいなとタロウは思った。

「じゃあ、これはサービスね」

レーデは小さな調理用ナイフでりんごを素早く剥き、小さく切り分けて小皿に入れるとタロウとプス子の前に置いてくれる。

「いいんですか?」

「遠慮無く召し上がれ」

レーデは小さく頷きながらウインクすると、料理の仕込みに戻るのだった。

「わー! 赤い実だー!」

プス子がリンゴを前に大喜びしている。

「好きなのか?」

「あい! 山にいたころはいつも木から取って食べてました! 甘くてシャクシャクしてて美味しいのです」

「じゃあ、せっかくだから頂こうか」

「あい!」

タロウとプス子はリンゴにフォークを突き刺して食べる。

「おいちー! 赤い実はやっぱり美味しいのです!」

「ホントだ。甘くて美味いな。ちなみにこれは人間で言う所の「りんご」な」

「りんごー。私はりんご大好きです!」

「そうか。なら今度、買ってやるよ」

「わーい! タロ様ありがとー!」

プス子は幸せそうに笑いながらりんごをぱくぱくと食べるのだった。
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