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第6話 勇者、傷を治す

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「娘達を助けていただいて、本当にありがとうございました」

 王都を出た俺とエアリアは、旅の途中で助けた人達にお礼がしたいと言われてとある村にやって来た。
 俺が助けた人達は大半が女の人で、王都に行商に出た帰りに魔物の襲撃を受けたのだという。
 魔物が闊歩するこの世界において、女の人だけで行商に出るというのは非常に危険な行為だ。
 けどこの村はそれをしないと生活する事が出来ない状況なのだろう。
 目の前の村長さんは何度も頭を下げてお礼の言葉を言ってきた。

「いえいえ、たまたま通りがかっただけですよ」

「ご謙遜を。何十匹といた恐ろしいモンスターをあっという間に退治したそうではないですか」

 いやあっという間に倒したのは俺ではなくエアリアだから。
 それに何十匹というのも間違いだ。あの場にいたモンスターはせいぜい七.八匹程度だ。
 恐怖で実際の数以上に感じていたのだろう。

「大半を倒したのは俺のツレですよ。俺は討ち洩らしを倒しただけです」

 そういってエアリアを紹介する。

「旅の仲間のエアリアです。彼女は優秀な魔法使いなんですよ」

「はー、こんな若くで可愛らしいお嬢さんが魔物の群れを?」

「あらやだ、可愛いだなんて」

 照れてるように見えるが、アレは本当の事よねって思ってる顔だ。

「俺はトウヤ、見ての通り剣士です。レベルは低いですけど回復魔法も使えます」

「おおっ、回復魔法が使えるのですか!?」

 ついでのように自己紹介をすると、なぜか村長さんが食いついてくる。

「助けていただいてあつかましいとは分かっていますが、どうか我々の頼みを聞いては頂けませんか? 出来うる限りのお礼はさせて頂きますので」

「怪我人の治療ですね。かまいませんよ」

「おお、ありがとうございます。すぐに全員を連れてきますので!」

 そう言うと、村長は家を出て村中の怪我人を呼びに行った。

 ◆

「では重傷の人から治療していきますね」

 俺は村長の家の前で座り込んでいる村人達を順番に並べて回復魔法で治療を始めた。
 集めた怪我人の数が多くて村長の家の中に入りきらなかったからだ。

「ああ……、ありがとうございます」

 傷を負ったおばさんが安らいだ顔で俺に礼を述べてくる。
 こういった光景は魔王と戦う旅の最中でもよく遭遇した。
 魔王の影響で活性化した魔物達が暴れて狩りや採取に出かけた人達が襲われ怪我をするのだ。
 だが回復魔法の使い手はそう多くない。
 大抵は町で多くの患者を治療しているので小さな村に回復魔法の使い手がいる事は非常に稀だった。
 怪我をした人間を治療してもらう為に町まで連れて行こうにも、村の外は魔物がいっぱいで危険だ。
 結果、村の中で怪我人がどんどん増えていく悪循環にはまり込むわけだ。
 だから回復魔法を使える人間の居ない村などに寄った時は、神官のミューラが怪我人達を回復魔法で治療していた。

「モロギの草を煎じて水に溶かした薬は血止めの効果があるから、定期的に採取しておきなさい。けど長期間使わないと薬が劣化するから一月毎に新しいものと交換しなさい」

 その横では外に持ち出したテーブルを使ってエアリアが村人に薬の作り方を教えていた。
 エアリアの祖父は賢者と呼ばれていた人物だけあって、薬についての造詣も深かったらしい。
 その知識を活用して近隣の町に顔が利いていたらしいのだ。
 で、エアリアも祖父から色々な薬の作り方を習ったのだそうだ。

「いやー、ベスのバーサンが死んじまったから、誰も薬が作れなくなって困ってただよ。ホントに助かっただ」

「高価な材料を必要としない薬の作り方をいくつか教えるから、村の皆で情報を共有して。一人しか薬の作り方を知らないと今回みたいな事になるから」

 村人の言うベスのバーサンという人は老衰で死んでしまったらしい。
 享年70歳だそうだ。
 この世界では結構な長生きである。

 ◆

「いやー、本当に助かりました」

 怪我人の治療と薬の作り方を教えた事で結構遅くなってしまったので、俺達は村長の家に泊まらせてもらう事になった。
 村長からお礼をしたいので泊まってほしいと言われたからだ。

「たいしたものはありませんがどうぞ食べてください」

 そう言ってテーブルに載った料理を勧めてくる村長。

「では頂きます」

 俺とエアリアは進められた料理を口にする。

「……っ!」

 これは……

「どうですか? 村で採れる食べ物でも一番良い物を用意させました」

「……ええ、とても美味しいです。な、エアリア!」

「え、う、うん。すごく美味しいわ!」

 突然話をふられたエアリアだったが、ちゃんと俺の意図を理解して話を合わせてくれた。
 まぁ、この状況で不味いという奴はそうそういないだろうが。

「おお、そうですか! ドンドン食べてください!」

 村長はそう言って更に料理を勧めてくるが、正直言ってこれは不味い。
 芋は硬いしスープも味も薄い。
 栄養価がどれ程あるのか疑問って位具もない。
 見れば村長も奥さんも随分と痩せている。
 きっとこの村ではこれでも贅沢な食事なのだろう。

「せめて森に入る事が出来ればもうちっとマシな食事を出せるのですが、森には魔物がうろついていますんで」

 森か、狩人が数人チームを組めば昼間遭遇したゴブリン程度なら何とかなりそうなもんだが。
 そこまで考えた俺はある事に気付いた。

「そういえば……この村、男の人が少なくありませんか?」

「っ!?」

 図星らしく村長が肩を震わせる。
 おかしいと思ったんだ。
 王都への行商が女の人だけとかさ。
 この村には男が居ない。
 それもほとんどだ。

「おっしゃるとおりです。村の男衆は大量発生した魔物の襲撃から村を守る為に戦ってほとんど死んでしまいました。生き残った連中も怪我が酷く……お二方が来て下さらなければいずれ怪我が悪化して死んでいたかも知れません。本当に、本当にありがとうございました!」 

 村長がテーブルに額をこすり付けんばかりに頭を下げて再び礼を述べてくる。

「お陰で怪我の治ったモンは明日から狩りに出かける事が出来ます! お二人には何とお礼を言えば良いやら!」

「頭を上げてください。もうお礼は十分ですから」

「本当にありがとうございます! ささ、おかわりはまだまだ沢山ありますから!」

「「いえ、それはもう結構ですから」」

 あまりにも村長がお礼を連呼するもので、俺とエアリアはついついハモリながら勢いでおかわりを拒否してしまった。
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