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第2話 ファック・パペットの憂鬱

09:不眠の夜

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    09:不眠の夜

「エリカのあそこ、よかったでしょう?」
「あ、ああ、、」
「でも男のお尻の穴だったのよ」
「、、、、」
「男のお尻の穴を女のだと思ってたみたいね」
「、、、、」
「女の穴よりよかった?」
 ゑ梨花は甘い声音で誘うように言いながら、手を伸ばして男のペニスを握ってやった。
 優しくやわやわと揉撫してやると、男の欲望がその直径に流れこんできた。

 自宅に帰ると、ゑ梨花はバスルームに直行した。
 あのブタ男の臭いが体のあちこちにこびりついている。
 一刻もはやく洗い流してしまわなければ。
 ゑ梨花はメイクを落とし、ボディソープをたっぷりと使って身体中を清めてシャワーの熱い湯を浴びてからバスタブに裸身を沈めた。
 ようやく人心地がつく。
 そうして、タオル地のローブに身を包んで、ドレッサーの前に座った。
 秘密の手帳を取り出す。
 今日の日付を書き、その横から分析を記入する。
 別に理路整然とした分析でなくてもかまわない。
 インスピレーションでいい、特に、自分のリクへの思いとリンクした時々の行為や感情が重要になって来ると思えた。 何故、外道を求めて夜の街に出たのか?
 どうしようもなくめちゃくちゃに歪んで爛れたいという思いが、何故、リクへの思いと連動しているのか。
 ゑ梨花はベッドに入り、枕もとのスタンドを消して眠ろうとした。

 あのブタ男は、ゑ梨花が男であってもかまわないから、もういちどやらせてくれ、と懇願した。
「ふふふ、お尻の穴に入れたいの?」
「ああ、入れたい」
「男のお尻に入れるの、何ていうか知ってる?」
「、、、」
「男色というのよ。ホモよ」
「、、、」
「まともな男のすることじゃないよ、わかってる?」
 そう言いながら、男のそそり立ったペニスを赤いマニキュアの手指で摺り上げてながら焦らしてやる。
 男は、相手の実態が男か女かはもうどうでもよくて、淫欲ではちきれんばかりに膨張したペニスを甘く熟した穴に、ただ挿入したいだけなのだ。
 そのオス特有の発情がよくわかるからこそ、焦らして弄んでやるのだ。
 白い肌に黒レースの官能衣装を身に纏った女装美少年に惑わされた哀れな男。
 ゑ梨花の入念な手入れを怠らない肌は、すべすべと白磁に輝いている。
 黒のセクシーランジェリーに映える筈だ。
 しかし、そんな姿で相手を嬲ってばかりではいられなかった。
 ゑ梨花も濫淫に狂ってしまいたい夜だったのだ。
 そしてその狂った夜の全ての鍵は、リクの不在にあった。

 ゑ梨花は眠ろうとしたが眠れなかった。
 つい二時間ほど前の出来事が脳裡に鮮明に浮かんでくる。
「ほら、入れなさいよ」と、ゑ梨花は膝裏をかかえて、アナル丸出しの恥辱的ポーズで男を誘ったのだ。
「あんたが掘りたいお尻の穴よ」
 男の目には、ゑ梨花の股間のすべてが見えている。
 ゑ梨花のホーデンも屹立したペニスも丸見えだ。
 ノーマルな男なら、ここで、いくらなんでもためらう所だった。
 けれども、ゑ梨花には自信があった。
 このブタ男は、もう後戻りできないと。
「さあ、ハメなさいよ。女のあそこだと思って入れたんでしょう。気持ちよすぎて中出ししそうになったんでしょう?」 煽ってやると、男は獣のように襲いかかってきてゑ梨花を犯した。
 こんなつまらないブタ男に組み敷かれて犯されているなんて、屈辱以外の何ものでもない。
 好意を持てない相手に後ろを犯されるのは、快感と言えるのだろうか?
 でもそれはネガティブな快感とでも言うべきか、暗い色に彩られた快感であるのは確かだった。
 ゑ梨花は膝裏をかかえていたのだが、男はゑ梨花の手を払いのけるようにして自らの手でゑ梨花の両脚を抱えこんだ。 ひっくり返されたカエルのようにM字に開いた脚ごと押しつぶされたようになって男のセックスが始まった。
 男の額から粘汗が滴ってくる。
 男の怒張したペニスが容赦のないピストン往復でゑ梨花のアナルを抉り抜く。
 息を継ぐのも苦しいぐらいに、男は攻め犯してくる。
 果たして、これは快感なのだろうか。
 と、ゑ梨花は皓い歯を見せて唇から悶え呻きを発してのたうちながら、頭の中の醒めた部分で考えていた。
 これが「肉欲の快感」と呼ばれるような正常なものではないとわかっている。
 アナル性交の倒錯、男どうしのセックス、、、ここにはそれを超えた歪みがある。
 だから、ゑ梨花のペニスは痛いほどに屹立してしまっているのだ。
 もう寝なければ。

 もう少し楽しめるのかと思っていたら、男はあっけなく射精してしまった。
 ううう、と情けない声を出して、ゑ梨花の直腸めがけて噴出した。
 二回目だというのに大量の精液を。
 男は萎えたペニスを抜いてから、ゑ梨花の身体の上におおいかぶさってきた。
 ゑ梨花を抱きしめてキスしようとしたが、ゑ梨花はするりと身をかわして逃げた。
 トイレで中腰になって、漏れ出るザーメンを脱ぎ捨ててあったパンティで拭き取る。
 そして、用意してきていた新しいパンティをはき、化粧を直してからコートを着た。
 男はベッドに仰向けに寝ていた。まだ裸のままだ。
「ほら、持って帰りなさいよ」
 ゑ梨花は精液まみれの黒い下着を男の胸に放り投げ、コートのポケットからゴールドに輝くシガレットケースとライターを取り出した。
 煙草を、塗り直したばかりの真っ赤な口唇にくわえる。
 男は何か言いたそうにじっとゑ梨花を見つめている。
 火を点け、フー、と煙を吹き出してから、
「それ、男とセックスした記念に持って帰るといいよ」と、念を押して言ってやる。
 男は物言いたげにゑ梨花を見つめたままだ。
「何よ?」
 紫煙をくゆらせながら訊くと、おずおずとした口調で、男は「キスさせてくれないか」と言い出すのだった。
「エリカは男なのよ。男とキスしたいの?」
「男でもかまわないから」
「ゲームはもう終わったの。わかる?」
「また会ってくれるか?」
「女装の娼婦を買いたかったら、土曜の夜にあのあたりを探してみたら?」
 けれども、あのブタ男とは二度と性交することはない。
 あんな男は一度で十分だ。
 でもリクが又、いなくなったら、ちがうブタ男を捜す夜が訪れるかもしれないけれど。


 戸橋は警察捜査用車両のルーフに流線型の回転灯をマグネットで貼り付けた後、サイレンアンプのスィッチを押そうとしたが、その指を止めた。
 助手席に座っている香山微笑花が、それを見とがめたからだ。
 確かに、この早朝の時間帯なら、大仰な事をしなくても問題なく現場に到着できる。
「指尻先生って、女優のスカヨラに似てるよな。」
 戸橋が、気まずそうに、違う話題を持ち出す。
 戸橋が言うスカヨラとは、演技派美人女優スカーレット・ヨーランソンの事だ。
 数年前には外国の有名男性雑誌で「世界で最もセクシーな女性100人」のトップとしても選ばれている。
 日本では映画「リベンジャーズ」での紅一点の女性スパイ役で有名だ。
「なに?惚れてるの?ゑ梨花さんは、トバシなんか相手にしないよ。」
「いやさぁ、スカヨラってスッピンだと顔立ちは申し分ないけど、結構、芋女だろ。でもメイクすると凄いエロくて綺麗じゃん。だからさ、俺、そのうち、ゑ梨花さんにメイクの仕方なんか教えて貰おうと思ってさ。」
 こういう会話は、いつもなら弾んでいる二人だが、今朝方、飛び込んで来た事件を前にして、そういう訳にはいかなかった。
「今度、美馬の所に潜るような事があったら、徹底的に探ってやるつもりだし。」
「確かに、殺し屋ブローカーの件はトバシが見つけてきた山だけど、あまり拘らない方がいいよ。もしかしてトバシ、ファック・パペットの事も気にしてるんじゃない?」
「それは、お前もだろ。指尻先生に害が及んだワケじゃあるまいし。気にするな。ある意味、これで指尻先生の危険もなくなったわけだしな。」
「そういう事かな、、。」
 香山微笑花は、それ以上言葉を続けず、黙って朝靄の立ちこめる都心の風景を眺めていた。

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