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連載

とんだ茶番劇

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 そしてやってきましたミミック三姉妹のダンジョン……のはずだったのだが……

「なに、これ」

 今、自分は間違いなく百人が見たら百人が『なんてマヌケ面曝してるんだよ阿呆が(笑)』と断言してくるぐらいの情けない顔をしているだろう。一体あれから何があった……なんか知らんが妖精城のミニチュア版っぽいお城がででーんと中央に立ってるし、その周囲には街が出来上がっている。更にはその街を囲むように石の壁が防壁のような形で出来ており、もうこれは小さな国が生まれたと言っても過言ではないレベル。防壁にある門の前にはちゃんと見張りまでいた。

「おっ、その反応は初めてここに来た人かい? まあ最初は驚くよなぁ」

 先程の自分がこぼした言葉が聞こえたのか、狼顔の獣人さんが話しかけてきた。丁度いい、ちょっと話を聞こうか。あまりにも変わりすぎて状況が呑み込めない。

「始めて、ではないんですが。久しぶりにやってきたら、防壁は出来てるわ中央にはお城が立ってるわ街が出来てるわとあんまりにも変わりすぎてたので」

 以前も宿屋とかはあったが、こんなデカい街はさすがに無かった。それに中央の……恐らくダンジョンがあの城の下にあるんだろうけど、あそこまで立派というかむやみやたらと煌びやかな城は絶対になかったぞ。無駄にネオンサインみたいな物まであって物理的にも眩しくなっており、ファンタジー要素はどこ行った! と文句を言いたくなってくる。

「ああ、なるほど。最初のころを知っているからこそ驚いたって訳か。此処じゃダンジョン内でやられても人が死ぬことはない、って事は知ってるんだよな? OK、知ってるなら話を続けるぜ。何せやられても死ぬことはないってのはありがたい話で、修行や一獲千金を狙う連中が集まる。そうした奴らが集まれば、休む場所や食事のできる場所が必要になるから商人もやってくる。おそらくお前さんはこのころに一回やってきたんだろうな」

 そうそう、以前にやってきた時はそんな感じだった。宿屋があったのは助かったけど。

「で、そこからさらに人が集まってな。そうなるとここに腰を据えて商売を始める奴が増えて、それを理解したダンジョンマスターがここで過ごす人が気持ちよく過ごせるようにと、いろいろ手を貸してくれ始めたんだ。変わってるけど、その支援はありがたくてな。お蔭で肥沃な土に恵まれた畑から食料や地下から澄んだ飲み水などが手軽に手に入るようになって、そう言った恩恵があれば人はさらに集まって……という繰り返しで、いつの間にかここは一つの都市になっちまったって所だ。たまにあんたみたいに何でこんな所にこんな街が有るんだ? みたいな疑問を抱える奴がいるから、その時は近くにいる奴が教えてやるのがこの街のお約束って奴になってる」

 あー、あの長女がどうにかして地上の発展に手を貸したのか。ワンモアの設定では、人気のないダンジョンは自動で消されるっていうシステムがあったはずだ。そう考えると、ある程度ダンジョンマスターとしての力を使うと言う出費をしても、多くの人に集まってもらった方が結果的には自分達の住処を護るって事に繋がる、か。

「それと一応言っとくが、この街でも犯罪はご法度だぞ? スリレベルでもここから追い出されるからな、手持ちのありとあらゆる金品を身ぐるみ剥がされた後に」

 改めて言われなくても犯罪は侵さないが、ちょっと気になるな。手持ちのありとあらゆる金品を身ぐるみって?

「お、あそこ見てみろ。赤髪の男がいるだろ? あいつの様子からスリっぽいからよ、ここで見物していれば俺の言葉がどういう事なのかよく理解できるぞ」

 と、狼獣人さんの指し示した方向には、赤髪の人族がいた。確かに周囲をむやみやたらと見まわしている姿は挙動不審であり、手の動きも怪しい。確かに、何かやらかしそうな雰囲気を漂わせているな……ここは言われた通り、見物することにした。男は歩き回っているうちに狙いを定めたのか、わざとらしく体を妖精族の女性にぶつけてその懐に手を突っ込んだ。その後はお約束の様に走り出したが、急にその場から動かなくなった。スリの足は動いているのだが、そこから移動することが全くできていない。《百里眼》でよく見てみると、スリの体がわずかながら浮き上がっているようである。あれではいくら足を動かしても移動できまい。

「おお、来た来た。周囲の連中も見物を始めたな。ここからが面白いぞ?」

 楽しそうだな……と思っているうちに、スリの体から何かが落ちた。アレは盗んだ財布、か? が、その後次々とスリの体から物が落ちて来る。よーく見てみると、自分もダンジョンの宝箱を開ける為に使うピッキング・ツールを始めとして、短剣やら服の下に着ていたと思われるいくつかの防具、さらには妖精国の身分証明証も落ちていた。だがそれだけにとどまらず、何とスリが着ている服までが落ち始めた。当然ながらドンドン裸になって行くスリの姿。

「な、なんだこれ!? おい、なんでお前ら笑ってるんだ!? 助けろよ!?」

 もはやスリを行った男はパニック状態だ。でも誰も助けになんか入るはずも無く、とうとうスリはパンツ一枚になってしまった。この時点でスリが盗んだ財布以外の物品は地面に吸収されてしまっている。その盗まれた財布も持ち主の女性が無事に拾って、これでお仕置きは終わりか? と自分は思ったが……スリの後ろから大きな大砲が現れた。大砲は地面から現れたらしい。仕組み? こちらが知りたい。さて、この状態で大砲とくれば先は読める。スリはさらに暴れようとするが、そこに光の帯が現れてスリの手足を完全に拘束。拘束されたスリは浮かび上がって、大砲の中にセットされた。と、周囲の人が大きな声でカウントダウンを始める。

「「「「四! 三! 二! 一!」」」」

 そして、ゼロ! の声と共に大砲がぽっこーん! と可愛い音を出して中にセットされていたスリを街の外に打ち出した。なんなのコレ。何この茶番。コントの一種?

「あー、犯罪を犯す馬鹿がああやってお仕置きされる姿はいつ見ても楽しいもんだな。まあこんなわけで、この街では犯罪をやらねえ方が良いぞ? あんな情けない姿を大勢にさらした上に自分の全財産を没収されてから追放されるんだ。このお仕置きもダンジョンマスターのお力の一つで、この街限定なのが惜しいんだよなぁ。この方法が全ての国のすべての街で適用されれば、街は平和になるのによ。そして身分証明証も取り上げられたわけだから、アイツは今から妖精国への不法侵入者という罪も追加されるな」

 何でだろう、頭が急激に痛くなってきた。ちょっと前には悲惨な事件があったと言うのに、ここはそんな事は関係ないとばかりに平和な物だ。それが世界って奴か……こんな方法で喜劇と悲劇のバランスを取ってほしくないんですけど。まあ、やり方があれだがこの街は防犯能力が高いってのは良い事だと言う事にしておいた方が身のためだ。特に身分証周りに対してのツッコミどころが多すぎて色々考えると疲弊するだけになる。

「元から犯罪行為をするつもりなんかかけらも無かったが、改めて思ったよ。悪い事をやっちゃあいけない、と」

 何とか絞り出した自分に言葉に、狼獣人さんは満足そうに頷く。この満足そうな顔は、自分が犯罪行為をやらないと言った事に対してなのか、それとも先程の茶番を見終わったから浮かべているのか。前者だと思いたい。

「ま、悪い事せずにダンジョンに挑んでいれば楽しい所だ。頑張れよ!」

 そう言い残して、狼獣人さんは去って行った。なんか、いきなり疲れたような気もするけどまずは宿屋を探そうか。この宿屋探しを疎かにすると、有名なお言葉である『ここをキャンプ地と〜』と言われて野宿するなんて事になりかねん。まあそれでもアクアに大きくなって貰ってそのふかふかぼでぃに包まれれば解決するんだけど、それでは自分は良くてもアクアがかわいそうだ。なのでやっぱり宿はきっちりと押さえないとな。

 街は大きかった、宿屋も多かった。しかし人がいっぱいいれば宿屋探しは難航する。どうにか一つだけ狭い個室にベッドがあるだけという内容ではあったが、部屋を抑える事が出来たのは幸運であっただろう。探すのに一時間以上かかってしまったけれど。残念ながら風呂文化は伝わってきていないようで、無し。同じ宿に居る龍人さんとちょっと話す時間があったのだが、彼もその一点は嘆いていた。ま、贅沢は言えない。風呂は龍の国に行った時のお楽しみという事にしておこう。今日はログアウトだ、お疲れ様だー。


追記
次回更新は三日後ではなく四日後となります、申し訳ありません。
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