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ミミック三姉妹のダンジョン攻略……なのか?

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 初日に〈技量の指〉や〈義賊頭〉が罠解除でガッツリ上がったので、このまましばらく上げてみようと画策したのだが……そんなに甘くなかった。翌日からは一レベルも上がらなかったのだ。多分だが、このダンジョンは長時間籠っての罠関連に関するスキルのレベル上げには制限が掛かってると思われる。これを解除するためには、多分地下十一階まで下りないと駄目なような気がする。

 また、この罠のダンジョンには少ないながらもモンスターが生息しているが、こいつらを罠に引っ掛けて倒す事が出来る。某ローグライクゲームでも囲まれたら地雷を踏んで周囲のモンスターを一掃すると言う方法があったが、こっちでもモンスターの動きを読んで罠を発動させればモンスターに命中する。一番やりやすいのが、ギロチンの刃を使った方法。罠を踏むと、その罠のスイッチの少し前にギロチンの刃が落ちて来てこっちを殺そうとしてくるのだが、スイッチを踏んだ場所から動かなければ何の実害も無い。なので、モンスターが突っ込んで来るタイミングに合わせて罠を発動させれば……バッサリという訳だ。

 なので、地下十一階に向かうべく進む道の途中では、罠の発見、最小限の解除、時には罠を逆手にとってモンスターを素早く処理すると言った行動が要求される。モンスターは普通に戦って倒してもいいのだが、せっかくなのだから利用できるものはしっかり利用させてもらう方が楽できる。──何せここは罠だらけのダンジョン。その罠の中にはさりげなく即死級の罠がごろごろ混ざっている。解除の難易度が低いから簡単だ、何て思考は出来ない。一回のミスでやり直しとなる。そうして精神的に罠の発見や解除で苦労するのだから、モンスター退治は出来るだけ楽をしたい。力を入れる所は入れて抜くべき所は抜かないと、この手のダンジョンは辛いだけだ。

 なんとかとハサミは使い様、なんて言葉がある。その言葉は、このダンジョンにぴったりなのではなかろうか。地下五階、六階と降りて行くうちにモンスターの数が明らかに増えてきた。それどころか、明らかにパーティを組んで行動していると思われる集団までいる。そんな奴らと真っ向勝負しても──勝てる事は勝てるが──時間の浪費になる。ちなみにモンスター達はダンジョン〜と言う名前で統一されており、良い方は悪いが量産品のようなイメージがちらつく。個体としてはゴブリン、リザード、ベア、ラビットと言った所。ちなみにラビットは例の如く首切りウサギだと思われる。利用できる罠が無い時に一回だけ真っ向勝負をしたのだが、執拗に首元を狙って来たからな……リアルのうさぎとは違って、実に怖ろしい。

 基本にモンスターとの戦闘は回避し、進行上避けられない相手は周囲の罠を利用して始末。集団相手には天井落としの罠が非常にありがたい。罠の起動は重量のある重撲の矢で遠距離から行えば危険も無い。ただ、罠の下敷きになるので重撲の矢の回収は出来ない。完全に壊れてロストしてしまう。罠を起動させると音がするので、近くのモンスターが集まって来る事もある。そう言う奴らを纏めて地雷の罠で吹き飛ばしたり、落とし穴の罠で叩き落とすのも面白い。こういうトラップ系が好きな人にとっては天国かも知れないな、ここ。

 トラップの利用法だけでなく、こういう罠が近くに会ったらこんなコンボを決められるのではないか? こう誘導すれば、こうひっかけられるのではないか? なんて少々黒い事を考え、実行。そしてまた考えて実行。そんな事を繰り返しているうちに、地下十階に到着した。以前はこの地下十階で、アイテムを宝箱に入れているククちゃんと出くわしたわけだが……その時の地下十階とは大きく姿が変わっていた。変わってないない部分は宝箱が二十個ぐらい並んでいて、その中から何か一つ選べるようになっていると言う報酬がある位で、その部屋の先にはなぜか幾つもの食べ物が大きなお盆に乗って回ってるのだ。乗っている物はステーキやらお味噌汁やらご飯のセットやら。そしてテーブルには多数の人が座って食事を楽しんでいる……そんな光景が、宝箱のある部屋から透けて見えたのである。

(──いや、もうこれダンジョンじゃなくって斜め上に進歩した観光地みたいな物じゃないか?)

 何となく心のどこかで気が抜けてしまったが、とりあえず宝箱を一つ選んで開けてみよう。少し見渡して、なんとなくで選んだ宝箱から出てきたものは……


 上級盗賊の片眼鏡

 種類 顔アクセサリー 品質 ハイレア

 罠の細部を見る時に、補助してくれる片眼鏡。罠の解除成功率を上げてくれる。また、ほんのわずかながら目を保護する効果もある。右目用。

 DEF+2 罠解除成功率5%UP


 これは、なんか熟練の執事さんが付けているイメージの片眼鏡だが……とりあえずつけてみるか。右耳と鼻で支えるような形か、常に顔につけているフェンリルの頬当てと干渉し合わないようで助かる。装着した後に眼鏡をのぞき込んでみるが特に変わった所が無いので、罠が無い時にはただの伊達眼鏡という扱いみたいだ。実際の効果のほどは、地下十一階以降で見せて貰う事にしよう。

 宝箱を選んだことで、他の宝箱からはほんのわずかながら鍵の締まる音がした。複数を選び取りたい奴も多いだろうから当然の行動だな。そんな感想を抱いた後に、宝箱の部屋から扉を開けて見えていた場所へと出る。そこで分かった事は、宝箱があると思われる部屋は複数ある事。その宝箱の部屋はこの中央の部屋からは見えない事。どうも一種のマジックミラーになっていたらしい。理由は分からないが、深く考えない事にした。ここはもうダンジョンという名の訳の分からない場所。ダンジョンマスターであるミミさんがやや暴走したんだろうと言う事にしておく。

「おや、初顔さんですね。ようこそダンジョンの十階、休憩の食事場へ。まずはあそこにある記録石に触れてくださいね。それで次からはすぐにここまでやって来る事が出来るようになりますから。後は休息をとりたければあちらの席へ。食事取りたいのであればどうぞこちらへいらしてください」

 制服を着て髪型をツインテールにしている店員? ダンジョンマスターの部下? とにかく、自分にそう声をかけてきた人の指示に従って記録石という奴に右手で触れる。触った途端に薄らと発光したので、おそらくこれでセーブ完了って事で良いのだろう。これで今日の目的は達成なのだが、それですぐさまログアウトすると言うのもつまらない。なので、ここで回っている料理に手を出してみる事にした。リアルの時間では夜遅くだし、こんな時間に自分の様なおっさんがリアルで何か食べ物を口にしたら間違いなく腹に出る。そんな悩みを抱える必要もこの世界ではないから、食べて行こう。そう考えて食事場のカウンター席に腰を落ち着ける。

「いらっしゃいませ、回っている料理を下に敷かれているお盆ごと取ってくださいね。そしてお盆は回っている台座には戻さないでください。そのお盆で代金を計算いたしますので……もしルールを破ってしまわれた方は、一回目は警告で済ませますが、二回目はこの休憩所に入る事が出来なくなった上に記録も取り消されます。つまり一階から地下二十階まで突き進んでいただくことになってしまいますので、とてもつらい事になるかと思われますのでお勧めできません」

 と、店員さんが説明してくれた。まあ乗っている物は違うが、回転寿司のシステムとほぼ同じだ。ついでに店員さんのツインテールを結んでいる所に、宝箱の形をした小さなアクセサリーがついていた。という事は、この店員さんもミミックの一種なのかもしれない。もちろんそんな事は聞かないが。

「分かりました、ありがとうございます」

 説明してくれた店員さんに頭を下げ、回っている物を物色する。いくら食べても太らないとはいえ、今はちょっとお肉系はパスしたい心境だ。何か良い物が無いかな、と思っていると天ぷらそばが流れてきたのでそれを取ることにした。早速取って食べてみると……普通に美味しい。天ぷらも悪くない。サクサクという触感を楽しみながらおいしく頂ける。汁も尖った所が無く、まろやかだ。この味を自分の料理スキルでは作れるか? と考えてみたがちょっと難しいだろう。うどんは以前打った事があるが、そばは記憶にないし。良い意味で予想外の味に舌が喜ぶ。

(ダンジョンとしては? マークが浮かぶ点も多いが、リピーターを得ると言う意味では成功しているか。それに厳しい戦いを潜り抜けて疲弊した所に、ホッと一息つきながら美味しいご飯が食べられると言う点も上手い。これならある程度のお金を払っても食っていきたいし、その上自分で作ると言う労力が必要とされない。疲れている時に料理をするってのは予想以上に疲れる物だからな……リアルでは料理をしない人にはピンと来ない所もある話だが、こちらの世界で生きている冒険者なら火を起こして水を温めて肉を焼いて……という作業で苦労をしたことが無い人はまずいない)

 我が家は共働きな夫婦だったが、母がちょくちょく仕事から帰ってきて料理をするのが辛いとぼやいていたし、自分も自炊をするようになってからは仕事帰りの家事が面倒だと感じたことは一度や二度では済まない。そんな所に目を付けたとしか思えない配置……ダンジョンマスターもやりおる。さて、今日はここまでにして引きあげようか。帰り方も店員さんに教わって魔法陣っぽい物の上に載って街まで帰還。後は宿屋でログアウト……ここのダンジョンになれちゃったら、他のダンジョンは潜れなくなってしまいそうだ。あんまり長居しない方が良いかも知れない。
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