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引きが悪いって事、ありますよね

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「本日もご来場有難うございまーす!」

 ご来場て。地下十階に入るなり、もうおなじみとなってしまった店員さんにそんな声を掛けられた。此処がダンジョンの一部であると一瞬忘れそうになるなぁ、緊迫感のかけらもないよ。

「あ、まずはこちらの方をご確認ください。先日より地下十一階以降に向かわれる冒険者の皆様方全員に、必ず一回目を通していただいている物ですので」

 と、脱力している所に店員さんから一枚の紙を手渡された。えーっと、いくつかの変更点? ダンジョンマスターからのお知らせ? なんじゃこれは。


『いつも我がダンジョンにおいでいただきありがとうございます。本日はいくつかダンジョンにおいて追加された罠などがございますので、必ず最後まで一読して頂くようにお願いいたします。

1.罠の種類の増加

 罠が一種類増えております。内容は周囲の魔物を引き寄せる匂いがばら撒かれるものとなっており、魔物との連戦を楽しみたいと言う方は意図的に発動させることでお楽しみいただけるようになっております。

2.魔物の追加

 地下二五階以降に、デミ・ドラゴンが歩き回るようになりました。数はそう多くありませんが、その代わり強力な個体です。是非一度、挑戦して頂けると幸いです。なお、治療代は挑まれた方の自己責任という点は変更されませんので、ご理解のほど宜しくお願いします。

3.魔物を使って意図的に他者への妨害を行う行為について

 他の場所ではどのようになっているか興味もありませんが、このダンジョンにおいては意図的に魔物を多数引き寄せて他者に擦り付けると言うつまらない行為をした者には、面白い罠が発動するようになっております。自分の力量を見極めたうえで、ダンジョンの攻略をお楽しみください。先日も一件発生し、その間抜けな姿っぷりに姉妹一同で大爆笑させていただきました。記録も取ってありますので、見てみたいと言う方はぜひ一階のカフェにいる店員にお申し出ください。

 以上 ダンジョンマスター』


 ──いや、本当になんなんだこれは。ここダンジョンですよね? これじゃ運営からのINFO告知みたいじゃないですか。いや、ダンジョンマスターはダンジョンの運営がお仕事なのだから、これはこれでそう間違ってはいないのか? ダンジョンをどう扱うのかはダンジョンマスター次第なんだし、こちらがあれこれ言う事ではないか……一般的な罠と恐ろしいモンスターがごろごろいるダンジョンエリアってのは、多分ダンジョンマスターの部屋に通じるとククちゃんが言っていたあの道に設定されてるんだろう。

「お読みいただけましたか? 先日から多少ダンジョンの内容が変わっておりますので、お気を付けください」

 読み終わってダンジョンマスターからのお知らせが掛かれた紙をお返ししておく。罠は昨日店員さんに渡した魔物寄席袋を媒体として新しく生み出したんだろうな。新しく手に入った物品が、ダンジョンの罠に生かせそうなら早速取り入れると言う考え方は別におかしい事じゃない。自分がもしダンジョンマスターとして活動しているとしたら、同じことをやるだろうな。どんな場所でも、時間が流れている以上常に同じ姿のままあり続けると言う事はあり得ない。特に侵入者を退ける為に用いられる罠なんてものは、常に新しい物を考えないといけない部類だし。

 ま、今日は昨日のMPKのせいで中断させられた地下十四階の攻略を再開しよう。罠は相変わらず大盛りなので進行速度が全く上がらないのが困りどころだが……地下十三階辺りから罠がコンボを組み始めているので、遅くても仕方がない。今のところ罠コンボ内容は、足止め系罠に突き飛ばし罠ぐらいだが……たまに足止めからの突き飛ばし、そこに天井落としの即死系コンボが混ざっているので引っかかる訳にはいかない。ほんと性格悪い。

(えー、罠のコンボで相手を一瞬で戦闘不能にするのって楽しくないかしら?)

 幻聴が聞こえたような気がする。だがあえて無視する。それにやる方は楽しいだろうが、やられる側としてはたまったもんじゃないんです。ワンモアには痛みもきちんとあるんだから、なおさら食らいたくないよ。もちろん即死級のダメージは痛覚カットされるけど、HP半減ダメージとかは相応の痛みを感じるからきっついんだよなぁ。こんな世界でタンカーをやってるレイジとかは素直にすごいと思うよ。

 モンスターとの戦闘はとにかく避けて、罠の解除も最低限にして地下十四階を回っているが、まだ地下十五階への階段は見つからない。ダンジョンマップも七割ぐらい埋まったんだが、引きが悪い。あと三十分もしたら今日は引き上げなきゃならないのに。マップの埋まっていない所は……モンスターが巡回しているっぽいんだよなぁ。モンスターとの戦闘を避けるために近寄らなかった区域ばっかりだ。覚悟を決めて行くしかないかぁ……もちろん戦闘せずにステルス行動メインで。昨日魔王モードをつかっちゃったから、大勢に絡まれたら黄龍を使うしかなくなる。そして使ってしまったら、数日切り札の変身が使えない日が続く。それは避けたい所なんだよな、面倒事っていつも突然やって来るし。

 壁を用いてモンスターの視覚から死角になる場所を選んでこそこそと。やむを得ない時のみ《隠蔽・改》で乗り切る。モンスターは皆パーティというかグループ行動をしているようで、戦闘にちょっと大きめのオーガを先頭に、その後ろに四匹のオーガかイエティが追従してる。見つかったらいろいろと不味いなぁ。周囲にも罠はいっぱいあるし、歩き回りにくいのも状況を面倒にしている。とてもじゃないが罠の解除なんて、この状況下では出来っこない。

 それでも何とか、地下十五階の階段を発見する事には成功した。そして見つけてマッピングした後脱力した。何故かって、最短コースなら地下十三階と繋がっている階段と三分もかからない距離しかなかったのだから。結局地下十四階は、散々周辺をぐるりと回って思いっきり遠回りしていただけだったのだ……モンスターが居たってそんなの知るか、俺は進むぞ! という考えの人なら、すぐに階段を見つける事が出来たんだろうなぁ。

 それでも目的は達したので地下十階まで帰還した。帰り際に罠とモンスターの行動が変に噛みあっててやり過ごすのに多少苦労した所はあったが、戦闘は一回も行わずに済んだ。とにかくこの地下十階まで帰還できれば、一気にワープで地上まで帰れるのでほっと一息。安心したら急に空腹を感じたので、食事をしてから引き上げる事に。自分は味噌ラーメンを。アクアは力うどんを選択した。

「お帰りなさい、今日はいかがでした?」

 店員さんが話しかけて来るので、食事をとりつつ今日の行動を話してみた。周囲にいる他の人達も、顔なじみっぽい店員さんとダンジョン内での活動を話している様なので別段目立つようなことはない。聞き耳を立てているような人もいないな、ざっと見た限りでは。

「あらあら、それは何とも大変でしたねー。それにしても壮大な遠回りでしたね、ちょっと同情します」

 で、店員さんに最後の十五階の階段を見つけたら、十三階と繋がっている階段と目と鼻の先であったことを話し終えた後のご感想がこれである。まあ、マッパーって言うんだっけ? 全てのマップをきっちりと埋めなきゃ納得しない! っていう人達もいるらしいけど……自分はあくまで目的地に着くまでの道が分かればいいって方だから、遠回りさせられると疲れるんだよね。特に今回の様な特に何のギミックも無いのに、自分の判断のせいで遠回りしていたっていうお間抜け具合だとなおさらね。

「実にお間抜けな行動だなーって、ダンジョンマスターさんがもし自分を見ていたら思ったでしょうね。今日は本当に疲れました」

 そう、今日の自分の行動を上から見ていると、わざわざゴールを避けてその周辺をうろうろしていたおバカな行動をする駒の一つだろうな。それを見て『こいつ最高にアホだ(笑)』と笑うか、『なんでこいつもうちょっと奥行かねえんだよ、イライラすんなこいつ』と罵られるかのどっちかだろう。もし実況動画でやってしまった場合は圧倒的に後者だろう。

「それでは、本日はこれにて」「はい、またどうぞー」

 食事も終わったし、今日はこれでログアウトだ。このペースでは、地下三十階に到達するのはいつになる事やら。
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