トップ>小説>とあるおっさんのVRMMO活動記
378 / 391
連載

ひとまずお終い

しおりを挟む
 翌日ログインして、地下二一階へと足を踏み入れた自分は茫然としていた。地下二一階に降りた自分が見た物、それは……

『この先は工事中です。申し訳ありませんが引き返してくださいね。ダンジョンマスターより』

 と書かれていた立て札一つだった。工事中って何ですか……というか、地下三十階まであるってのが一つのルールだったんじゃないですか? とぼやいてみたが、立札の奥は壁になっており、進みようがない。一応立札が一種のトラップなのかと疑って調べてみたが、本当にただの立札。その奥も仕掛けなど一切ない普通の壁。なので仕方なく引き上げて、一階にあるカフェでカフェオレを飲んでいる。

「姉さまにあとで言っておきますね、本当にごめんなさい」

 カフェで働いてるミミック三姉妹のククちゃんには一応伝えておいた。もちろん大声を出したり威圧するような愚かな真似はしていない。あくまで丁寧に穏やかに、それで十分に通じるんだからいきり立つ必要はない。

「今、姉さまから手紙が届きました。先ほどの件を姉さまに伝えた所、これが返答になるとの事です。読んでみてください」

 と、ククちゃんが言いながら一通の封筒を自分に渡してきた。返事が早いなぁ、ここのダンジョンマスターがヒマだとはとてもじゃないが思えないんだけれど。さて、中身はどうなってるんだ?

『先程、ククより報告を受けました。まずは今回の件、まことに申し訳ございません。罠のダンジョンは製作が遅れており、地下二一階より下の製作が現状では全く進められない状況となっております。ダンジョンのリソースが、現状では格上モンスターと戦い続けるエリアに多く割かれている為でございます。せっかく突破して頂いた方にこのような事を頼むしかないのは全く持ってお恥ずかしい限りなのですが、しばし、こちらにお時間を頂ければ幸いでございます。なお、蛇足になりますが、かの罠ダンジョンの地下二一階層へ到達なさったのは貴方様が最初でございます。ダンジョンマスター』

 ふーん、自分が最初か。他の人はおそらく地下十九階までは来れても、あの影絵の少女が超えられなかったんだろうな。それに戦闘や回復、生産を得意とする人は大勢いるが、罠の解除などの盗賊系能力を持つ人はプレイヤーもワンモア世界の住人もそう多くはないから、この様な結果になった訳か。ま、それならしょうがない。円花のトラウマ破壊の旅を再開して、その他色々と寄り道をして、気が向いたらまたここに来れば良いだろう。さて、カフェオレも飲み終わった事だし、ここを後に──

「お、アースじゃねえか。こんな所で会うとは思ってなかったぞ」

 この声は……声の下方向に振り向くと、そこにはグラッドとそのPTメンバーが勢ぞろいしていた。自分は右腕を上げてグラッドの声に応えておく。

「アースもここで訓練か? ここのモンスターは強さはそこそこでも数が多いからなかなか楽しめるがよ」

 相変わらず、グラッド達は強さを求め続けているらしい。まあ、この面子がそれを止める日はこのゲームを引退する日か、サービスが終了する日まで来ないだろうな。それぐらい筋金入れて取り組んでる連中だからなぁ……最強プレイヤーは誰か、って論議は掲示板でもたまに起きるが、グラッドの名前が外れた事は一度たりとも無い。と、グラッド達もこの席に座る様だ。この面子と相席をするなんて珍しい日だな。

「訓練と言えば訓練かな……最も戦闘能力ではなく、罠の解除能力の方だけれども」

 フードを下ろし、ドラゴンスケイルヘルムを解除してグラッド達との喋りに付き合う事にした。フレンド登録はしている中だが、普段は全然やり取りとかしないからなー。

「あー、そっちか。同じ斥候役という立場からしてみればそっちの訓練も大事だってのはよーく解るぜ」

 自分の罠解除の方って言葉に反応したのは、グラッドPTメンバーでレンジャー役を務めているジャグド。彼と自分は冒険における仕事の立ち位置がかなり近いから、一番理解もし易いんだろう。もちろん純粋な戦闘能力と言う点では彼の方が数段上になる。

「アースって色々やるタイプのプレイヤーだもんね。こっちみたく一点集中って訳じゃないから、それはそれで大変そうだねえ」

 なんて言葉が、グラッドPTの魔法使いであるガルから出て来る。以前のイベントでは食事を振舞った事もあるから、こちらが戦闘も生産もやるプレイヤーだっていう事は向こうも知っている。それに、自分がまだ料理を露店に出していた時なんかに食べた事があるかもしれない。まあ別に知られたって問題ない事だけど。知られると困るのは〈盗賊頭〉で動いた事ぐらいか? あ、後、円花もか。

「ジャグト以外は基本的に一点集中型だからねアタシ達は。そうしなきゃ最強の座には届かないからねえ。あ、アイスティーお願いします〜。ほら、あんたらも早く注文だしな!」

 紅一点でもある格闘家ゼラァの合いの手が入る。確かにグラッド達は、特定の方向に一点集中していないと実現不可能な強さを持っているからな。特に装甲の厚さという点では、鎧というより鉄板を纏っていると良く言われるザッドの装備は、おそらく他の誰にもまねできないだろう。装備したらまず動けない。動けたとしても歩けない。そんな装備を身に纏って、普通に動いて両手斧を振り回して戦うザッドの筋力ステータスは一体どうなっているんだろうか?

「──どうした? 俺の鎧が気になるか?」

 ついザッドの方を見つめてしまっていたようで、ザッドからそんな事を言われてしまう。なので、相変わらず本人以外には着込む事すらできそうにない鎧だなと改めて思わされたんだと伝えておいた。その自分の言葉に、そうか、と一言立つ呟くように返答を返してくるザッド。しかし、彼は頼んだコーヒーを飲む時すら兜を脱がない。兜の一部をずらすと口元が見えるようになっている仕掛けがあるようで、そこから飲んでいた。ワンモアの不思議の一つにザッドの素顔があげられていたが、これは気になる人が居てもおかしくないな。

「それにしても、さすがに一階から三十階まで休憩なしで戦い続けるってのは堪えるぜ……やりがいは十二分にあるから面白いのは良いけどよ」

 唯一、グラッドPTで良く解らないのがこのゼッドという槍使い。グラッドのPTに居れば弱いなんて事はあり得ないし、相応の実力者ではあるのだろうが……彼の戦いを自分は見た事が無いからなんだろうか、どうにもイマイチ彼だけは掴み切れていない部分がある。悪い奴じゃあないって事だけはなんとなく解るんだけど、逆に言えばそれしか分からないとも言う。そう言えば、熱くなると突撃してしまうと言うバーサーク病は収まったんだろうか?

「一々休憩を挟んでたらぬるくなっちまうだろうが……限界ぎりぎりまで追いつめられてなおそこを切り抜ける力を得るってのがここに来ている目的って事を忘れんな。準備が整っている時に勝つってのは当たり前の事で、俺達はどんな劣勢に追い込まれてもそこを切り抜ける実力と判断力をもっと磨かなきゃならねえんだ。まあ、それでも手前のバーサーク病はだいぶ収まってきたところは評価してやるが」

 ブラックコーヒーを飲みながらグラッドがそうゼッドに告げていた。

「そういやアース、お前さんはどこまであの罠ダンジョンを攻略したんだ? こっちは今んとこ地下十六階って塩梅なんだが」

 と、ジャグドがこちらに話を振ってきたので、自分は地下ニ十階まで突破済みと教えておく。

「まじか、もうそこまで行ってんのかよ……なあグラッド、俺も少しの間罠のダンジョン攻略に集中したいんだが、駄目か?」

 このジャグドの提案に、グラッドは首を振る。

「駄目だ、あと三日は我慢しろ。あと三日同じメニューをこなしたら、そこからは各自個人で腕をここで磨く時間を設けてやる。そこで攻略を進めろ」

 とグラッドの言葉。

「そうか、まあ時間をくれるって言うならそれで良いぜ。時間もくれずに次の場所となったら流石に反論するところだがな」

 この面子は、本当に強くなることに関しては貪欲だな。そうじゃなきゃ最強プレイヤーで居続ける事などできないか。オンラインゲームはのんびりやるならそこそこで済むが、グラッド達の様に天辺を目指すとなると、しのぎを削り合う修羅の世界だ。そこまでいくと、もうゲームであってゲームじゃない。潰すか潰されるかの世界になって来る……特にPKアリだとか、戦争を題材にしたゲームとかは熾烈を極めると聞いている。──これは嘘かホントかは知らないが、戦闘において一つの大きなミスをしただけでギルドとか除名されるような話になって行くらしい。特に領地の占領などが掛かった大一番だと特に。恐ろしい世界である。

「まあ、自分はここを後にして、他に行くからまたお別れかな」

 そう自分が発現すると、ジャグトが残念そうな表情を浮かべながら質問して来た。

「おいおい、せっかく会えたってのにもうかよ。それに、地下二一階以降の攻略はどうするんだよ?」

 まあ当然の疑問だよね、でもそれも地下二十階に到達すれば理解できると思うと返しておいた。スキルもそれなりに上がったし、そろそろ旅を再開する頃合いでもあるので、ジャグドには申し訳ないがここでお別れとなる。グラッドを始めとした他の面子にも軽い挨拶を交わした後に、ミミック姉妹のダンジョンを後にする。時間はまだあるし、アクアに頑張ってもらって今日中にファスト辺りまで戻ろうかな。
しおりを挟む