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連載

ドラゴンの病

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『わしの背中に、その様な異常があると!?』

 ブラックドラゴンさんの体を洗う話を一旦中止、全員集合させて、自分が見た物をブラックドラゴンさんの前で報告する。ドラゴンの背中……より具体的には羽根と羽根の間。そこの一部が異様な事になっていたのである。白くべたつく物に加えて、血が混じっているようで白と赤のマーブル状態。そして、この部分が異臭を放っていた。どう見たって間違いなく病気であろう。

「はい、ですので早急に治癒能力を持ったドラゴンさんをここに呼んでください! 早く手を打たないと不味い事になりそうです」

 ブラックドラゴンさんは痛みを感じていない様子ではあるが、人間の病気でも痛みを感じたらもう危険水域まで進行している物なんてのはゴロゴロある。だから健康診断と言う物が有るのだ。早期発見早期治療は当たり前の事なのだから。それに、あれはなんとなく嫌な感じがする。気味が悪いのだ。

「アース、それは俺達も確認したいんだが……ドラゴンさん、俺達も背中に乗っていいか?」

 ツヴァイはそう申し出をして、強化が下りた後にブルーカラーメンバーもブラックドラゴンさんの背中に乗る。

「くっ、これはきついな」「く、臭いですね〜」「これは酷いわね、アース君の言う通り早く手を打たないと不味いって理屈じゃなくて感覚で分かるわ」「お嬢様はいち早くこの異常に気が付いてたって事か……」「私達がこうして確認できたのは不幸中の幸いって事でしょうか」「確認できたし降りておこうよ、ボクにはこの匂いはきつい……」

 そんな声が上から聞こえてきた。やっぱり同じ意見になるよな。アレは放置しておいたら不味い。

『今、治癒を得意とするホワイトドラゴンがこちらに向かって来ている。お主から聞いた症状を話しておいたから、それに対応した薬を持ってくるとの事じゃ』

 そうか、対応する薬があると言うのなら一安心か。後はどう治療するにしてもホワイトドラゴンさんが到着してからだ。下手にこっちが手を出したら、かえって悪化させるだけかも知れない。でもただ待っているだけというのもあれだな……

「おーいツヴァイ、とりあえず今洗える部分だけでも洗っておこう」「そうだな、ただ待っているだけってのもあれだしな。それに他の部分をチェックしておこうぜ。もしかしたらあそこ一か所位だけじゃない可能性もあるからよ」

 とりあえず、今はブラックドラゴンさんを洗う事にしよう。背中以外の場所なら大体行けるだろう。洗うついでに、ツヴァイの言葉通りに他の部分にも背中にあったような状態になっている部分が無いかの確認作業も兼ねよう。この手の病気は一回所だけとは限らんのだから。

「んじゃ、各自作業開始で。後背中で見た様な事になっている個所を発見したら必ず報告ね」

 自分は背中を洗えなくなったので、ブラックドラゴンさんの洗顔と首部分、歯磨きを行う事にした。歯は馬鹿でかいブラシに歯磨き粉をつけてガシガシと洗う。ついでに用意されていた舌専用のブラシも使って舌もきれいに洗い流す。その作業をしながら口の中をあちこち見てみたが、奇麗なピンク色でこれといった異常個所は発見できなかったことにホッとした。口の中の病気は色々と面倒くさい。

「右後ろ足終わったよー」「左後ろ足もきれいになりました〜」「右前脚、異常なし。完了だ」「左前脚も奇麗になりましたよ」「尻尾もきれいになったわよー、黒い鱗がきれいに光ってるわ」「お腹もOK! うん、奇麗になった!」

 ブルーカラーのメンバーも、各自担当していた部位の掃除を終えた様だ。背中が洗えない分、奇麗になった部分との差が激しいな……と、このタイミングでホワイトドラゴンさんがやって来た。頭から長い白い毛を伸ばした……なんというかおばあちゃんっぽい感じがする……ホワイトドラゴンさんだ。頭から伸びる毛がそう思わせるのだろうか?

『呼ばれてやってきましたよ……それじゃあ早速背中を見てみましょうか』

 声も優しいおばあちゃんという感じであった。しかし、その穏やかな雰囲気はブラックドラゴンさんの背中を見ると一変した。

『何ですかこれは! これは鱗とその下が腐り始めている! 放置すれば間違いなく命を失いますよ! こんな事になるなんて、何をしたのですか!?』

 ──よりにもよって腐敗系統の病気か。これは少々余計な事だが、人にも壊疽という病気がある。詳しい事は知らないが大雑把に言ってしまうと、皮膚などが腐っていく病気だ。で、治療法は一つだけしかない。その腐っている部分を切り落とすのだ。もちろんそうなる前に医者に見せて適切な治療を受ければそうはならない。しかし、完全に壊疽が進行してしまえば手術による切除しか選択肢が無くなってしまうのだ。何せ壊疽は健康な細胞も侵食するかのように腐らせていく。それを回避するために切除という手段を使わざるを得なくなる。

 さらに蛇足だが、人の場合は足元から発生する事が大半らしい。明らかにおかしな紫色や黒いシミが出来てきたら要注意である……と病院で先生に注意を受けた事がある。どうやら、ドラゴンは全く違うようだが。

『なんじゃと、そんな事が!? 分からぬ、教えて貰った所を深く傷つけたりした記憶は全くないのじゃが……』

 ホワイトドラゴンさんから診断を受けたブラックドラゴンさんも仰天したようで声に焦りが含まれているのが分かる。でも、ホワイトドラゴンさんは放置したらと言っていた。つまり、人の壊疽と同じで対処すれば助かるって事だろう。

『とにかく、一刻も早く治療をする事が大事です! 最悪を予想して薬を調合してきましたが……やはりこの腐った部分を完全に切除してから出ないと薬を流し込んでも効果がありません。──そこの人族の方々、報酬は別途お支払いいたしますのでどうか力を貸していただけませんか?』

 取る治療方法も同じか。ならばここは手を貸そう。

「任せろ、やれる事なら手伝うぜ!」

 ツヴァイの言葉に自分と他のブルーカラーメンバーは揃って頷いた。

『お願いしたいのは、この白濁した部分の周囲を刃物で切り裂いて頂きたいのです。普段ならドラゴンの鱗に歯が立たないでしょうが、今回は私が治療を目的とした魔法を用いる事で一時的に柔らかく致します。柔らかくなったところに剣などを用いて患部を切除、摘出。その後殺菌を兼ねて火を用いて患部を少し焼きます。その後に私が用意した薬を患部に流し込み、回復魔法で傷を一気に塞ぐと言う流れで治療を完了させます。私がやると、この体なのでどうしても幹部以外を大きく削り取ってしまうのです』

 なるほどね、確かにドラゴンの爪でやろうとすると患部だけをピンポイントで切除するなんてのは難しいか。さて、そうなると。

「なら、斬るのはカザミネにやってもらうのが良いかな。大太刀でスパッとやってもらおう。その後はツヴァイの魔剣で患部を焼いてもらうか……自分はもし腐敗部分が細く奥に進行していたらその部分を担当するって形が良いと思うが」

 と自分が提案。そうは行っても、この場にいるメンバーじゃメンバーだとミリーは杖、レイジは斧、ロナはナックルだから最初から除外。ノーラの得物は短剣だから、ちょっとリーチが足りない。と消去法で考えれば自分とツヴァイ、カザミネしか選択肢が無かったんだけどね。

「ちょっとしつもーん。治療方法は分かったけど、いくらブラックドラゴンさんでも体を切られたら痛いでしょ? 自分の意思とは関係なく本能的に暴れる様な事にならない?」

 と、ここでロナからホワイトドラゴンさんに質問が飛ぶ。

『もちろんその対策もしておりますよ。先ほど治療を目的とした魔法をかけると言ったでしょう? その中には痛覚をマヒさせる効果も含まれているのです』

 予想通り、やっぱりあったんだな麻酔効果。いくらドラゴンだって痛い物は痛いはず。なのにホワイトドラゴンさんが述べた治療法にブラックドラゴンさんが全く文句を言わなかったから予想はしていたけど。

「そうなんだ、ごめんね茶々入れて」

 ロナの言葉に、ホワイトドラゴンさんもいえいえと軽く首を振る。

『では、よろしいでしょうか? この腐敗は放置すれば徐々に侵食速度を増して侵食し、最終的にドラゴンを腐らせて大量の毒をまき散らしながら死を迎えさせる凶悪な病です。ですが、今ならまだ間に合う範囲で済んでいますので治療を始めたいと思います……準備はよろしいでしょうか?』

 自分とツヴァイ、カザミネは一度頷き合ってからブラックドラゴンさんの背中に乗る。さて、お嬢様大好きな可愛いブラックドラゴンさんが悲しい結末を迎える様な事が無いように、一つ頑張りましょうか。
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