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連載

そして治療

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『患部を切ることによる大量の出血を抑制、および腐敗部分の排除などは私が行いますので、皆様は腐敗部分を切る事だけに集中してください。では、お願いします』

 ホワイトドラゴンさんの言葉にカザミネが頷き、氷の魔剣を振るって患部周囲を一回り大きく斬っていく。斬られた部分がふわふわと宙に浮かび、ホワイトドラゴンさんが用意したと思われる鉄の長方形型のトレーみたいな物に乗せられていく。カザミネが次々と患部の周囲を斬り捨てていくが、血がほとんど出ない事からホワイトドラゴンさんの治療魔法は効果を問題なく発揮している様だ。

「ひとまずこれで患部を一周しましたね。腐敗した部分はどれぐらい取り除けたでしょうか」

 大太刀に付いた僅かな血液を紙で拭いながら、カザミネの言葉。その確認の為に三人+一匹で患部を再確認する。大体は取れた様であるが、一部横や奥に侵食している部分が確認できた。

『やはり、そう簡単には行きませんか……もう少し切り取って貰わないとなりません』

「じゃあ、ここからは自分が担当します。円花、頼む」

 ここからは、融通が一番効く魔剣である円花を持った自分が斬ることにした。円花を伸ばし、ブラックドラゴンの体を腐らせようとする腐敗部分をほじくり出す様に切除し、排除する。この作業だが、想定以上に時間がかかった……ルエットのバックアップも受けて切除作業を行ったのだが、草の根っこの様に腐敗がその魔の手を伸ばしていた事で、全てを切り出すのはなかなか骨の折れる作業となったのだ。

『本当に危ない所でした。あと一歩遅れれば、上半身の大部分を切除すると言う成功率が大きく下がる方法を取らざるを得なかったでしょう。正直に言います、私の予想よりもはるかに病は進んでいました。ここで皆さんによって見つけて貰わなければ……助かったかどうか怪しい所です』

 ブラックドラゴンの体の奥から次々と出てくる腐敗部分を見ながら、ホワイトドラゴンさんがそう呟く。すでに腐敗部分を含む切り出した肉は山の様になっており、腐敗の浸食が怖ろしいレベルで進んでいた事を嫌でも理解させてくる。もしこの病を人が受けていたら、とっくにアウトだ。

「確認をお願いします!」

 魔剣とルエットから腐敗を感じる部分の切除が終わったとの念話が飛んできたので、ホワイトドラゴンさんの確認を要請。しばらくホワイトドラゴンさんは患部を始めとしてあらゆるところを観察している様子だったが、数分後に小さくうなずいた。

『お見事です、ドラックドラゴンを侵食していた病の原因はすべて取り除かれています』

「良し、んじゃ次は俺の番だな!」

 ホワイトドラゴンの言葉を受けて、さっそくツヴァイが動き出した。火の魔剣を用いて、患部周辺を魔剣の火で焼いて行く。ツヴァイも魔剣の扱いが上達して来ていたようで、剣の太さや長さを自由自在に変えて患部を焼いて行く。ホワイトドラゴンさんから『お見事です、素晴らしい手際ですね』との賞賛が出るレベルであった。

『皆様のおかげで、病がかなり進行していたにもかかわらず最小限の切除で済みました。それでは、薬を患部に流し込みますので』

 と、ホワイトドラゴンさんは腐敗部分を乗せたトレーを地面に置いた後にどこから取り出したのか分からない大きなサイズの薬瓶を出現させた。おそらく、プレイヤーで言うアイテムボックスから出したんだろう。プレイヤーしか使えないなんて事は、このワンモアにおいてはまずあり得ない。手を空にして重い物やかさばる物を持ち運べる利点は、説明するまでも無い。

 薬瓶の大きさは、大型輸送トラックなどが乗せるコンテナ一個分位はあるだろうか。その薬瓶をホワイトドラゴンさんが両手でゆっくりと持ち上げて患部付近に傾けていく。薬瓶に蓋は最初から無く、薬瓶からこぼれ出たポーション? はブラックドラゴンさんに開いた患部部分に流し込まれていく。最初はあまりに大きい薬瓶の中身は、だいぶ残るのだろうと思っていた。しかし、半分を過ぎても今だに薬は流し込まれている。おかしい、いくら何でも傷口から薬があふれ出る量はとっくに超えているのに。

「ホワイトドラゴンさん、大丈夫なのですか? 明らかに私達が削った部分を考慮してもそれ以上の薬を流し込んでいると言うのに全く溢れてこないと言うのはおかしいと思うのですが」

 カザミネも同じ疑問を持っていた様だ。いや、ツヴァイもそうだろう。生き物の体は大小の差はあっても限界って物はある。いくら大食らいな人だっていつかは満腹になる。なのに目の前の流し込まれていく薬は、そう言った常識を無視して流し込まれている。何故溢れ出さない?

『ええ、大丈夫ですよ。これはドラゴンの秘薬の一つで、病さえなければ体を一気に再生する効果があります。今回は血も肉も大きく失っていますからね、流し込んでも流し込んでもまだブラックドラゴンの体が満足していないのでしょう』

 常識は投げ捨てる物、という事か。それに、そのホワイトドラゴンさんの言葉は真実でもあった。何せ大量の薬が全て患部に流し込まれて終わったと思った直後に、大きく穴をあけていた患部から肉が盛り上がってきたのだから。それだけではなく、あっという間に鱗までが再生された。伊達に秘薬を名乗ってはいない、という事だろう。

「うお、これはすごい効き目だな……」

 ツヴァイもあっけにとられている。ただ、その効果が劇的すぎて気味が悪い部分も少々あるけれど。とりあえず治療自体は完了したので、ブラックドラゴンさんの背中から降りて顔付近まで移動する。メンツが揃った所で、ホワイトドラゴンさんからこんな言葉が出た。

『これで危機は乗り越えましたが……それでもしばらくは絶対安静ですね。この場からしばらく動かないで貰わないと、新しくできた肉が体と馴染みません。最低でも十日は空を飛ぶ事を禁止します』

 ああ、一気に治りはするがその後は安静にしてないと駄目なのか。しかし、ここはファストの街からそう遠くない。これはまずい事になるんじゃないのか?

『むう、どうしてもだめか? ここは人族の街からそう遠くはない。もちろん魔法で幻覚の結界は張るが、万が一見つかってしまう可能性があるぞ』

 ブラックドラゴンさんもその点を気にした様だ。確かに、ここで見つかるのはあまり宜しくない。それに、弱っている事をこれ幸いと刃を向ける奴が出てくるかもしれないのも問題だ。

『駄目です、人に見つかってしまうと言う点を危惧するのは理解しますが、ここで体をへたに動かせば本当に命にかかわります。ハッキリ言って、今回の病は手伝ってくださったこちらのお三方が居なければどうしようもなかったかもしれないのです。秘薬も一ビン丸々流し込んでやっと肉が戻ったのです。絶対安静は薬師としての命令と思ってください』

 しかし、ホワイトドラゴンさんは一歩も引かない。口調も強めだから、本当に安静にしないと駄目って事なんだろう。医者が言葉を強めていうってのはよっぽどの時だ。こういう時に逆らってはいけない。その忠告を無視すれば、たいていはそれ相応の結末になる。

『ううむ、お前がそこまで言うのなら仕方がないか……しかし、今度は人族の街に噂を蒔いたのが仇になるのう……何とかならぬものか』

 ああ、すぽーんと忘れていたけど、他のブルーカラーメンバーは今もドラゴンを探し回っているはずだ。もちろんそれ以外のプレイヤー達も大勢ドラゴンを探している。いつここがばれてもおかしくないな。この状況で、口を開いたのはノーラだった。

「別にそんなの大して難しい事じゃないでしょ。ドラゴンのおじいちゃん、ちょっと若い子達に協力してもらえばいいのよ。だから──」


 その日、ファストとフォルカウスの街の中間地点辺りで三匹のブラックドラゴンが大勢のプレイヤーやこの世界の人に目撃された。ブラックドラゴン達は、長老がちょっとした珍味を食べたいので取ってこいと頼まれてしまったためにこの周辺で探し物をしていたと集まった人達に説明。それも見つかったので直ぐに立ち去る事と、周囲を騒がせた事を詫びて立ち去った。もちろん掲示板が直接見れた人と見る事が出来なかった人との応酬で盛り上がった事は言うまでもない。

 この作戦を立てたノーラ曰く、「だったら一回姿を堂々と見せて、バカバカしい理由を言わせて引き上げるそぶりを見せればいいのよ。とにかく、この話はもう終わったと言う事を大勢の人に知らしめればいいのだから」という事だった。実際、この後ドラゴンは用事を済ませて静かに引き上げたと言う話が広まって、それで全部終わったと今回の治療を受けたブラックドラゴンさんと出会わなかった人たちは結論付けたようで、噂はあっという間に無くなった。全てはノーラの狙い通りに終わったのである。この事により、ブラックドラゴンさんは安静に回復を待つことができるようなった。


前回の話が、設定ミスで他の場所に掲載されていました。申し訳ございません。
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