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連載

簡単な料理でも・・・

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 いやな話を聞いてしまったが、今日はまだ時間に余裕がある。せっかく龍の国に来たのだから、買っていくべき物は買っていかないと。味噌や醤油、うどん用の小麦粉などをどっさり仕入れておいた。ついでに両腕につけている盾の調子も確認。出番がほとんどないが、だからと言って手入れを怠るのは論外。いつ必要となるか分からないのだから。それに、もし今後魔法抵抗力や闇属性抵抗力が非常に高い敵が出てきた場合は、純粋な物理攻撃である盾の中に仕込んだ飛び出し式のスネークソードの出番がやって来る。

 そう言った雑用を済ませ、久々に料理に取り掛かる。と言っても作るのは焼きおにぎりだが。基本の醤油と、ネギ代わりのリドを刻んだ物を軽くまぶした味噌タレの二種類を作る。ここで使うのは調理道具ではなく、魔王領で活躍したかまくら製作セット一式の中にあるお鉢。焼きおにぎりを作るだけならフライパンでも良いんだけどさ……やっぱり網の上でじっくりゆっくり焼いたものを作って食べたい。

 料理をしても邪魔にならない街の隅っこに移動し、まずは米を炊き上げる。その間に、味噌はみりんと二対一の割合で混ぜ合わせ、そこに刻んだリドを軽く混ぜ合わせておく。このタレが焼いたときにいい香りを出す。そこからしばらく経って、お米の炊き上がりの甘い香りに包まれながらおにぎりを握る。リアルだとこんなきれいな三角形にならないんだよな……なんてことを思いながらもとにかく握る。アイテムボックスに大量ストックするつもりでお米を炊いたので、もたもたしていると焼く時間が無くなってしまう。

 何とか熱いのを我慢しながらも炊いたお米を全ておにぎりにし終わったので、前もって用意しておいたお鉢に入れていた炭に火を入れる。鉢の上に金網をかぶせて焼く準備は完了。後はしょうゆと先程作った味噌タレを別々のハケでおにぎりにまぶしながら、程よくなるまでひたすら焼くのみ。数は多いが、根気よくやるしかない。

 ──醤油と味噌が程よく焼けて、良い匂いを暴力的にまき散らす。時々焼け具合を見る為、という名の言い訳を自分にしながらつまみ食いをしつつ、焼きおにぎりを量産していく。出来上がりの評価は六から八とばらつきが出る。とりあえず最高の八だと……


 焼きおにぎり(味噌)

 製作評価8

 おにぎりに味噌だれをつけて程よく焼いた物。香ばしい匂いが食欲を誘う。

 火属性耐性上昇中 HP自然回復増加中


 醤油も味が違うだけで、説明と付与された能力は同じ。ただ、どうしてもムラが出るな……評価六が二割。七が五割、八が残りの三割。炭の置き方が不味かったのかな? ちょっと火のあたり方が均一じゃないっぽいが……ま、これは商品として売り出すつもりはないからいいか。すぐ取り出せてすぐ食える点はパンやおにぎり系の良い所だよな。美味しい料理はいくつも色んな人が作ってるけど、煮物とかだと腰を落ち着けて食べないと食べにくいし。

 と、鼻歌交じりで次々と焼きおにぎりを仕上げていたのだが……ふと気配を感じて視線を前に向けると、数人の龍人の子供達が自分を見ていた。いや、見ている物は自分の下……焼きおにぎりだ。それこそ、穴が開くかのようにじぃーっと熱視線を送っている。さて、どうしようか? 別に数個ぐらいならあげても構わないんだが、それに味を占めて延々とたかられるようになっては困る。さらに、ここで食べたせいでご飯を食べられなくなったら、親御さんに申し訳が立たない。しかし、子供の中にはよだれがこぼれている子もいるしなぁ。どうしたものか。

「こんな所にいたのかい!」

 と、そんな女性の声が子供達の奥から聞こえてきた。ショートヘアのタレ目気味な女性は、どうやらこの子供達の母親かな? その龍人の女性は自分と子供達を数回交互に見た後に頭を下げてきた。

「うちの子供達が申し訳ないね。ほら、そこのお兄ちゃんの作業の邪魔をしちゃ駄目だよ。さ、帰るよ!」

 しかし、子供達は一斉に反対する。

「アレ食べたいー」「いいにおいー」「お昼はあれがいいー」

 とまあ、各自それぞれ言葉は違うが食べたいという事を主張する。こういう焼き物の匂いって食欲を掻き立てられるよね。縁日なんかの焼きそばとかたこ焼きとかさ……

「まあ今日のお昼はこれから作る所だったけどねぇ……兄さん、ちょっといいかい? もしそのおにぎりを焼いた奴をこっちが買いたいと言ったら、一ついくらぐらいだい?」

 どうやら子供達の言葉に折れたようで、龍人の女性が商談を持ち掛けてきた。そうだなぁ、原価となると一つ二十グローもかかってないだろうな。売り物にするつもりも無かった。でも、あんまり安くしちゃうと、他の食べ物の商売をやっている人の妨害にもなるからな。そうすると、ひとつ五十グローぐらいで良いか。おそらく一つの単価は安くても、子供達がガッツリ食べるだろうからかなりの金額になるだろうし。

「そうですね、ひとつ五十グローという所でどうでしょう? 後、味が醤油と味噌がありますので、食べたい味を言って頂けると助かります」

 そう自分が言ったとたんに、子供達がわっと寄ってきて「醤油!」「味噌!」「醤油と味噌どっちも一個づつ!」とまあ次々と注文が入る事。よろしいですか? と最終確認を龍人の女性に行った所、ええ、お願いしますと許可が下りたので、簡易皿を出してその上に注文された焼きおにぎりを乗せて出していく。

「あと、これはサービスという事で」

 流石におにぎりだけでは辛いだろうし、バランスも良くない。なので、野菜をたくさん入れた豚汁も急遽追加で作って子供達に提供した。料理スキルのアーツ、《料理促進》があるからこそできる荒業だけどね。豚汁を作った事で儲けは減るけど、もともと稼ごうとは思っていなかったからまあいい。

「おいしー」「はぐっはぐっ」「おかわりー」

 しかし、素晴らしい食欲です事。次から次へと可愛いお口の中に焼きおにぎりと豚汁が消えてゆくよ。でも、自分も子供のころはあんな勢いで食べていたような記憶があるから、不思議だとは思わないけど。子供は食ってなんぼ、食わない子は育たないってのは亡くなった祖母の言葉だったかな。

「この子達は……普段は野菜をあまり食べないというのにねえ」

 そんな愚痴? をこぼしつつ、豚汁を食べる龍人の女性。あーうん、子供の野菜嫌いって多いからねえ。でも野菜を食べさせないと、今度は体がおかしくなる。たまにリアルにも『ライオンとか、肉しか食わないじゃんか』と返してくる子もいるけど……あれ、人間にはまねできないからね? あと、野菜も品種改良や生産方法が進んで、甘いニンジンや苦みが少ないピーマンなんてのもちらほらある。もちろん相応のお値段がするが、それは生産するのに手間がかかるのだから仕方がない事だろう。決して値段を釣り上げている訳ではないのだから。

「普段とは形が違うから、食べやすいのではないでしょうか?」

 追加の焼きおにぎりを焼きながら、返答を返しておく。豚汁は美味しいからねえ……豚肉の味が汁の中にしみ出して野菜に染み込むから、野菜の苦みとかが薄れるから食いやすくもなるのだろう。

「形を変える、か。──今後の料理の方法として考える価値はありそうだねえ。叱りつけながら食べさせるより、今のように進んで食べるようにした方が良いというのは言うまでも無い事だからねえ」

 うん、そこは分かる。嫌いな物でも体を形成するために必要な栄養素があるのだから食べなければいけない。ああ、アレルギーは別だよ? アレルギー体質の人にアレルギーの原因となる食べ物を強要するのは殺人鬼だ。それはさておき、食事はとても重要な事だ。その食事が毎回怒鳴られながら食べるのと、和気あいあいと笑顔を浮かべながら食べるのではその後の人格形成や食事に対する考え方に大きな差を産むのは間違いない。

「毎日の献立って、考えるだけでも頭が痛いですよね。美味しい料理だって連日続けばすぐに飽きますし。その上で栄養に気を遣わなきゃいけない……」

 世間の毎日料理を作っているお父さん、お母さんの皆様には頭が上がらない。限られた予算の中で、栄養バランスを考えた上で毎日違う物を作らなきゃならないんだから。子供の要望ばっかり聞いていたらあっという間に肥満体なんて事も十分にあり得るのだから、時には突っぱねなきゃいけない。頭が痛くなるのも無理のない話だ。でも、先人はそれをやってきた訳だからなぁ……凄いわ。

「分かってくれるかい。今日のお昼も何にしようかと悩んでいたから、ある意味こちらとしても助かったさ。まさかこんな場所で料理をしている人が居るとは思わなかったけどさ」

 こちらとしても、まさか人が来るとは思いませんでしたよ。予想以上に焼きおにぎりの匂いが広まっていたのか。まあ、こういうのもたまにならいいか……やがて子供達はお腹いっぱいになり、母親からは代金を頂いた。その後は後片付けを済ませてログアウト。さて、明日は円花の過去の世界に飛ぶのだろうか。
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