トップ>小説>翼 アフェアーズ

翼 アフェアーズ

文字の大きさ
3 / 40
第1章 出会い

第2話 そこは大豪邸

しおりを挟む
「くっそぉ〜、下手すりゃ生まれてこの方ずっと引きこもり野郎なんて、
 異常に痩せこけた骨と皮ばかりのミイラみたいな不気味な外見の奴か、
 逆に全身がぶよぶよな贅肉に覆われた動く肉饅頭みたいな奴に決まってる。
 それで絶対、目の前に来たら、ぷぅ〜んと嫌な匂いが漂って来そうだ。
 ああっ……そんな奴に会う為にこんな苦行を強いられるなって……。
 無事この難ミッションが完遂できた暁には、
 静ちゃんからご褒美にほっぺで良いからキスでもしてもらわないとね!」

 ぜいぜいと上がる息の下、僕は相変わらず恨み言を一人ぶつぶつと呟きながら必死にケッタマシーンを漕いでいた。

 やがて、道の左右に並んでいた住宅地が途切れ、僕の左手側に凝った装飾の忍び返しがてっぺんに付いた高いレンガ造りの立派な壁が現れた。そして反対側の右手には里山風の林が広がり始める。見えていた風景が変わると同時に、今まで岩の様に重かったケッタマシーンのペダルが不意に軽くなった。

 どうやら僕は丘の頂上にたどり着いた様だ。

 軽くなったペダルを先ほどとは打って変わって気持ち良くしゃかしゃか回しながら走っていると、右手にずっと見えていた高い壁が突然途切れ、アニメに出てきそうないかにもと言う感じの巨大かつ荘厳な鉄製門扉が付い門が現れた。

 僕は自転車から下りると、そのまま自転車を押しながら門の脇まで進んだ。そして、そにあったアンティーク風の装飾が施されたインターホンと思われるき物の前に行くと、目を閉じ一度大きく深呼吸してからそこにあったボタンを思い切って押した。

 すると、冷たい金属の感触と共にカチッと何かのスイッチが作動した様な小さな音がした。

 そして一呼吸の後、そこから静かで落ち着いた女性の声がした。

「はい、何か御用でしょうか?」

「あっ……あの……三ッ葵高校一年三組の者です。
 学校からのプリントなどをお届けに来ました」

 自分でも恥ずかしいくらい上ずった声でどぎまぎしながら僕は辛うじてそう答えた。

 しかし『三ッ葵高校一年三組の者』って言い方、ヤクザが『何とか組のモンじゃ!』って言ってるのと同じ様な気がして何だか嫌だなって思うのは僕だけだろうか? まあ、かと言って他に良い言い方など、ぱっと思いつかないんだけど。

「翼坊ちゃまのご学友の方ですね。
 只今、門を開けます。
 自転車に乗ったままでも結構ですのそのまま中へお入りくださいませ」

 先ほどの女性の声がそう告げると同時に、あの巨大な門が真ん中からほとんど音もなく内側へ向かってすぅっと開き始めた。

 外国製大型高級セダンは言うまでもなく少し小さ目なトラックなら普通に通り抜けられそうな程の巨大な門を通り抜けて僕は自転車を押しながら敷地内へと入った。

 そして、僕は門をくぐるとすぐに再びケッタマシーンに跨ってペダルをこぎ始めた。

 だって一歩敷地内に入った僕の目に飛び込んで来たのは広大な庭、いやもはやこれは広大な庭園と言うべき光景だった。門から続く石畳の道はすぐに大きくカーブを描き、その先は高い木々が視界を遮ってその先はまったく見通せなった。その先に当然あるべきはずの建物は確認できずただ高い木々の上から結構先に高い塔の様な部分が辛うじて確認できるだけだったのだ。

 高い木々が生い茂る中を曲がりくねりながら進む石畳の道は平坦でペダルも軽々周り非常に走りやすかった。左右に広がる木々は一見自然のままの里山風に見えるけど、よく見ると巧みに人の手で刈込等が行われている様で乱雑な感じはまったく受けなかった。

 やがて右に大きく曲がったカーブを抜けると高い木々に遮られていた視界が突然開けた。

 僕の目に飛び込んでのは、今までの自然な里山風の風景とはまったく違う、外国のお屋敷やお城に良くある人の手によって完全管理された人工の美を徹底的に追求した西洋風の広大な庭園だった。そしてその正面には西洋の城を思わせる様なりっぱなお屋敷がでんと鎮座していたのだ。ちなみに門を入ってから木々の上を通して見えていた高い塔の様な物はこのお屋敷の正面にそびえ立つ尖塔だった。今まで曲がりくねっていた石畳の道も、この西洋風庭園に入るとまっすぐそのお屋敷に向かって定規で引いた様に真一文字に伸びていた。

 日本人ならどことなく味気なさも感じる、完璧な左右対象で綺麗な幾何学模様を描く様に低く刈り込まれた薔薇は色とりどりの花を綺麗に咲かせていた。そしてその中央部分には左右対称に小さな噴水まで設しつらえてあった。


 あまりに現実離れした光景に溜息を吐きつつケッタマシーンのペダルをこぎ続ける僕はやっと玄関前の車寄せにたどり着いた。あのデカい門をくぐってかれこれ五分くらいは優に経っていた様に思う。もしケッタマシーンでなく徒歩で静ちゃんからの与えられたミッションを遂行しようとしていたなら、絶対にここまでたどり着く前にあえなくリタイヤしていただろうと僕はふと思った。

 僕のケッタマシーンは前後にサスペンションの付いたそこそこ高い奴なので僕はいつも習慣でチェーンロックを掛けてから玄関脇の壁にそっと立てかけて玄関へと歩き出した。でも、ここは完全な私有地。しかもこれだけのお屋敷ならセキュリティーは完璧なはず。仮にも客人である僕のケッタマシーンが例えロックしてなくても盗まれたりするはずはないって事にすぐに気が付いたが今さらロックを外しに戻るのもなんだから、そのまま玄関へ向かって進んだ。

 そこはまるでちょっとしたプチホテルの玄関と言う程りっぱな物だった。僕が玄関前に立つと目の前にあった一面が大きなガラスになっている扉がすぅっと音もなく内側に開いた。一瞬、僕はあの門と同じ様にここも自動ドアなんだと思った。

 けれど僕は、目の前に頭を軽く下げドアの取っ手を持って僕が入ってくるのを待っている女性が居るのに気が付いた。ここは自動ドアではなく、この女性がわざわざドアを開けて僕が入る来るのを待ってくれていたのだ。
しおりを挟む