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翼 アフェアーズ

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第1章 出会い

第3話 素敵なメイドさん

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「何か私に粗相がありましたか?」

 その女性は、僕がその場に立ち尽くしているの見て、少し小首を傾げながら改めて声を掛けた。

 だって、そこには濃紺のベルベット地で出来た長袖ロングワンピースの上に、美しいフリルで縁どられた染み一つない真っ白なエプロンドレスを身に纏い、頭にはフリルの付いたカチューシャまで付けた、まさに絵に描いた様なメイド姿の女性が居たのだ。しかもその人は若さのピークは過ぎてるようだけど落ち着いた雰囲気のいかにも仕事が出来そうなとっても美人さんだった。最近のアニメでは嫌と言う程目にしてはいるけど、現実でこんな絵に描いた様ないかにもメイドさんって人を見るのは初めてだった僕は思わず口をぽかんと開けてその人を見詰めていたのだ。

「あっ……いえ、あまりにあなたがお美しかったのでつい……」

 ……って何、スケベオヤジみたいな台詞は吐いてるんだ僕は。もっと気の利いた受け応えしろよ。思わず僕は自分の吐いた台詞に自分自身で突っ込みを入れていた。

「まあ、私みたいなおばさんに……そんな嬉しい事を」

 僕のセクハラオヤジ的な発言にも、そのメイドさんは顔を上げてにこやかな笑みを浮かべてそう答えてくれた。

「では応接室へご案内いたします。
 どうぞこちらへ……」

 でもすぐにそのメイドさんはいかにもメイドさんと言う無表情に近い事務的な顔に戻ると片手を伸ばし僕を屋敷の中へと誘いなった。


 玄関の大きなガラス扉を通ると、そこは本当にちょっとしたホテルのレセプション並の広さがある吹き抜けになっていた。真正面には二階へと続く美しい彫刻が施されたローズウッドの手すりを両側に持つ広い階段がでんと控えていた。根っからの庶民である僕にはむしろ受付カウンターが無い事に違和感を感じるほどの豪華さだった。

 僕を迎えてくたメイドさんはすたすたとその階段を上り始めた。僕も当然その後を続いて上がって行く。

 すると、ちょうど二段ほど先を上がるメイドさんの濃紺のワンピースにつつまれたお尻辺りが僕の視線の先に来る様になった。階段を上がるそのお尻がくりっくりっと左右に動き長いワンピースが美しく揺れるのが嫌でも僕の目に飛び込んでくる。ここでもしメイドさんが振り返り僕の視線に気が付いたらきっと汚い物を見る様な目で僕を蔑むだろうとは分かっていても、僕の視線はメイドさんの動くお尻に釘付けになったまま逸らす事は出来すにいた。

 そして僕はそのメイドさんのお尻の動きから、ネットでちょっと前にこっそりと観たエッチな漫画の中でお屋敷のサディスティックな性癖を持つお坊ちゃまが主従関係を盾にこんな年上で美人のメイドさんにいやらしい悪戯をする場面をつい思い出していた。僕だって思春期真っ只中の男の子でこういう場合にこういう妄想を巡らせてしまうのはむしろ健全な事なんだと、心の中で必死に弁解をしつつ、その一方で僕は一つ屋根の下いつもこんな美人のメイドさんと一緒に居られるここに住む『翼と言う引きこもり野郎』の事が死ぬほど憎らしくそして羨ましく思えてた。

 そして、もしこの瞬間、このメイドさんが不意に振り返り僕をまるで汚い物を見る様な目で見ながら……

「あなた今、私のお尻を見ていかがわしい事を妄想してたでしょう。
 ああ、なんていやらしい。
 あなたみたいな変態さんは塵一つ残さずこの世から消えてしまえば良いのに」

……なんて罵ってくれたらなんと幸せなんだろうと想像してしまった僕はやっぱり少し屈折してるかもと思った。

 しかし、こんな丘の上まで遥々ケッタマシーンで必死の想いをして登って来た僕へのご褒美とも言えるそんな至福の時間はあっという間に過ぎ去り、メイドさんはすぐに階段を上り切ってしまった。普通に廊下を歩くメイドさんのスカートはふわりとしていて階段を登る時の様などきどきする様なエッチな感じはなくなっていた。まあ、それでもその歩く後ろ姿で色々妄想を膨らませる事は簡単な事だったが、いくらなんでもここでそんな事を妄想する程僕は飢えてはいない。階段の時はあくまで不意打ち的なもんだったから青い性を刺激されああなちゃったんだと自分に対して言い訳などしてみる僕だった。

 とか馬鹿な事を頭の中で考えている内にメイドさんと僕は二階の応接室に到着した。


 メイドさんが開けてくれたドアを一歩入るとそこは卓球台なら二台置いてオリンピック級の選手が二組フルセットマッチが余裕で出来る程の広さの部屋がどぉんと広がっていた。いや驚くべきは広さだけじゃない、天井の高さだって半端ない。遥か見上げる先にはクリスタルガラスで出来た夜空に煌めく星の様なシャンデリアがぶら下がり、その周りの天井全体は濃紺地に星座をあしらった絵画の様な布地で一面覆われていた。右手の壁には漫画やアニメでしか見た事のないデッカイ暖炉があり、その向かいの壁にはこれまたデカい油絵の額が掛かっていた。

 もう、何から何まで浮世離れしていて僕の頭はお酒に酔った様にぼぉっとなっていた。とは言っても僕はまだお酒を口にした事はないし、ましてや酔った事などないのだけれど。


「どうぞ、そちらへお座りになってお待ちください。
 すぐにお茶をお出ししますので……」

 応接間に入るなり呆然と立ちすくんでいた僕に、メイドさんは口元に微かな微笑みを浮かべながらそう言うと、深々とお辞儀をして一旦、部屋の外へ出て行った。

 僕はだだっ広い部屋の真ん中にぽつんと置かれたこれまた豪華な大理石のテーブルを挟む様に置かれた革張りで見るからにふかふかで座り心地の良さそうなソファーに歩み寄ると、一瞬、こう言う場合僕はどちら側に座るべきなんだろうと迷いながらも、結局、窓際に置かれた一人掛けの物ではなく、廊下側に置かれた長ソファーの方へ腰を下ろした。
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