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第2章 〜転生王子は城の外

ホタル

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 「よろしくね。ホタル。」
 にっこり微笑んでグリグリと撫でる。すると、撫でた勢いで辺りに埃が舞った。
 「ゥゲホッ!」
 舞った埃を思い切り吸い込んでしまい、ゲホゲホと咳き込む。
 ゆ、油断したーっ!!
 「だ、大丈夫ですかっ?」
 慌てて駆け寄るカクさんを手で制止する。
 「ケホッ……だ、大丈夫。」
 だけど、埃と一緒に変な綿毛も吸い込んじゃったよ。
 咳き込む俺を心配そうにホタルは見上げる。その姿はとても愛らしい。
 だが……汚かった。
 これ早急に洗わないとダメなレベルだろ。

 俺はカクさんたちを振り返る。
 「父様が事態収拾に鉱石使うなって言ってたけど、もう事態は収束したんだし洗うのくらいは平気だよね?」
 「そのくらいは大丈夫じゃないですか?汚れを落とすのは賛成です。」
 うんうんと軽く頷くスケさんに、カクさんが眉をひそめる。

 「おい、私たちがそんな勝手に判断しては……。」
 「だってこんなに薄汚れちゃってるんだぜ。洗うくらいいいじゃないか。汚いまま城内に入れらんないだろう。」
 そう言われて、カクさんはホタルをチラリと見下ろす。

 ホタルはシュンと俯いていた。
 薄汚れているやら汚いやらハッキリ言われて、どうやら落ち込んでいるようだ。見かけは無頓着でも、一応デリケートなお年頃らしい。 
 しおれたホタルを見てカクさんが「うっ」と詰まる。

 「あー……、わかりました。私もそのくらいは平気だと思いますし。」
 仕方ないという様にため息をついた。
 俺はそんなやり取りを笑って、毛玉猫に指輪を掲げる。
 
 「洗う。」

 洗濯機をイメージしながら唱えると、水が動きながらホタルの体をぐるぐると取り囲む。一瞬息できるのかと心配したが、顔は出ているようで気持ち良さそうだ。洗われている間、陽気にナウナウ鳴いていた。
 そんなに気持ちいいのか?俺も今度お風呂でやってみるかな。

 ホタルを撫でていた俺の手も少し汚れていたので、ついでに重ねて鉱石を発動してみる。

 「手洗い」

 水が手にまとわりついて、綺麗にするとパシャリと地面に落ちた。
 持続は相変わらず短いが、重ねて発動は出来るんだな。だからと言って絶えず唱えてるのも大変だろうが。
 未だホタルが洗われているところから、3文字より2文字の方が持続力はあるのかもしれない。
 
 「しかし……汚いですね……。」
 カクさんが呆れたような声を出した。
 確かになぁ……とホタルを見つめる。
 体を取り囲んでいる水が、みるみる茶色に汚れていく。
 本当は石鹸あればジャブジャブ洗いたいところなんだが。とりあえずは水洗いでしょうがない。

 それにこっちの世界の石鹸、泡立ちいまいちで洗ったぞ感も少ないしなぁ。
 小学生の時、自由研究で作ったから原理はわかっている。苛性ソーダありゃ簡単に作れるんだけど。ここにはないから、灰で何とか作ってみるかな。

 洗い終わると水が弾け、中から水で濡れてぺションと一回り小さくなったホタルが現れた。
 ……フォルムの丸さは変わらないんだな。水饅頭みたいにプルンとしてる。

 「ホタルって元は真っ白だったのかぁ。」
 驚きながら、濡れてるホタルの毛を撫で付ける。
 てっきり薄い灰色だと思ってたよ。色んな色に染まってたから、わからなかったんだな。つか、どんだけ汚れてたんだ。

 撫でていると今まで毛で隠れていた目も見ることが出来た。つぶらな瞳は、右目が青、左目が黄色のオッドアイだった。

 「目の色が違うんだね。珍しい……のかな?」
 こっちの常識がわからない。話してる途中で不安になって、カクさんを振り返る。
 カクさんは肯定するように頷いた。
 「瞳の色違いは珍しいですよ。目には力が宿るといいますから、少なくとも2種類の力を秘めているかもしれませんね。」

 「そうかぁ。まぁ、癒してあっためてくれるだけで充分だけど。」
 【はい、あったかくするです。】
 言うが早いか、ホタルは薄く光りだした。
 風と火の鉱石でドライヤーみたいに乾かそうと思っていたのだが、体から発する熱であっという間に乾いてしまった。
 「すごいね。ホタル。」
 白い毛玉を抱っこする。丸いフォルムに反してそんなに重くない。

 あったかぁ。あつすぎずぬるすぎず、ちょうどいい暖かさだ。綺麗になった白いもふもふの毛は滑らかで、顔を埋めると優しく包んでくれる。

 そんな様子を長老がフォッフォッと笑って見ていた。
 【では救い主様、我らはこの辺でおいとまいたします。】
 ハッ!もふもふに我を忘れていた。
 慌ててホタルを地面に置いて、長老に向き直る。

 「今回はどうもありがとう。帰り送って行こうか?大変でしょう。」
 俺の申し出に長老は頭を振る。
 【大丈夫ですじゃ。慣れておりますでのぅ。それより救い主様に伝えておきたいことがあります。】
 「伝えておきたいこと?」
 なんだろうか。

 【今回のことでご恩を全て返せたと思っておりません。何かありましたら、ホタルを介して我らをお呼び下さい。】
 「ホタルを介して?」
 ホタルは召喚獣として俺の側に置かれるわけだが、遠くても長老を呼ぶなんてことできるのか?
 訝しげにホタルを見ると、ナウと鳴く。
 【毛玉猫の信号あるです。地面叩いて信号出すです。周りの毛玉猫伝いで、相手に知らせられるです。】
 一生懸命説明するホタルに、俺は「へぇ」と頷く。

 毛玉猫用のモールス信号みたいなものか。それを毛玉猫ネットワークで送ると。
 「他の振動とかでわからなくならないの?」
 素朴な質問をしてみた。ホタルはゆるく頭を振る。
 【信号はとても特殊。毛玉猫ならわかるです。他の振動に混じらないです。】

 【呼び出しがありましたら、我が一族どこでも馳せ参じ、力をお貸しするとお約束致します。】
 長老がニャアと鳴くと、周りの毛玉猫たちも鳴き始めた。
 
 歩きも遅く、攻撃系ではない愛玩の毛玉猫。呼ぶ機会はおそらくないだろうけど、気持ちはありがたい。
 「ありがとう。その時はよろしく頼むよ。」

 微笑んだ俺にコクリと頷いた長老は、ホタルの前に立った。
 【救い主様の召喚獣として、頑張るんじゃぞ。】
 【じっちゃんも長生きしてねです。毛玉猫信号時々送るです。】
 ぷるぷると震えてホタルがナウーと鳴く。
 感動の別れだな。転生して幼児になっても中身は大学生。何で大人になると涙腺が弱くなるんだろう。
 思わずホロリとしそうになる。だが、目元を押さえかけた手が止まる。

 「ん……じっちゃん?」

 首を傾げると、長老はケロッとして言った。
 【だって、ワシの孫じゃもん。】
 「孫じゃもん?長老の孫なの?」
 俺に聞かれて、ホタルはコクリと頷く。

 初耳です。

 【転がって移動したりして、我が一族の中でも異色でのぅ。なかなか馴染めんで心配しておったのじゃが。救い主様のところなら安心じゃ。】
 フォッフォッフォッと笑う。

 ホタルを選んだのは俺なんだけど、何だこの長老にしてやられた感。長老、全部見通してるんじゃなかろうか。

 【ところで救い主様……。そこにある騎士の彫刻。よく出来ておるのぅ。ワシにくれんじゃろうか?】
 騎士の彫刻……?
 長老の見てる方を見ると、グランドール将軍が未だに仁王立ちしていた。
 この毛玉猫たちがいなくならない限り動くことはないだろう。

 すっかり忘れてた。

 「それは……ダメです。」
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