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第3章〜転生王子と舞踏会

午後の昼さがり(キャラ年齢修正5/3)

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 ポカポカ陽気の午後。城の庭の大きな木の木陰。
 ピクニック用の布を敷き、頭にふかふかのクッション。傍にホタルと子狼のコクヨウをおいてのんびりしていた。
 ヒスイも太めの木の枝に横たわり気持ち良さそうだ。

 爽やかな風が吹いて、俺の前髪を揺らす。くすぐられているようで、ちょっとこそばゆい。
 木漏れ日から漏れる光が眩しくて、俺はゆっくり目を瞑る。

 こんなにのんびりしたのは転生して初めてだな。念願のゴロゴロタイムに思わずにやけてしまう。
 眠っちゃいそうな、でもこの心地よさをまだ味わっていたいような……。
 うつつと夢のはざまで、うとうととしていると……。

 「ナーーー!!」
 突然、悲鳴が上がった。

 ビックリしてガバッと起き上がり、キョロキョロと辺りを見回す。
 見るとホタルのおしりにコクヨウがかぶりついていた。
 ホタルはおしりをブンブンと振って、コクヨウを振り払おうとしている。だが、振り払えなくて俺に向かって「ナーウ」と鳴いた。
 【助けて下さいです。】
 寝ぼけていた俺は、ようやく事態を把握する。

 「そ、そうだねっ!今取るから。」
 慌ててコクヨウを引き剥がす。
 「何やってんのコクヨウ。齧ったらダメだってば。」
 すると、コクヨウは半眼で俺を見て、不満気に「ガウ」と鳴く。
 【我のおやつだぞ。】
 「ホタルはおやつじゃありません。」
 コクヨウを地面に下ろして、めっ!と叱る。
 【ぼっボク、おやつっ?!】
 おやつだと言われたホタルは、転がって移動し木の後ろに隠れてしまった。

 【我の白饅頭が……。】
 コクヨウは残念そうな声を出して、ホタルを見送る。すると電池が切れたようにコテンと倒れた。そしてそのまま寝息を立てて寝てしまう。

 「寝ぼけてたのかいっ!」
 思わずツッコミを入れる。

 なんて人騒がせな。
 確かにホタルは大っきな白い饅頭みたいなフォルムだけれども。寝ぼけてかぶりつくなんて……。おやつ食べてる夢でもみていたのか?
 
 それにしても、子狼の状態で良かった。
 俺はホッと胸をなでおろす。

 大きいコクヨウは口も大きい。俺が寝ていて気付かぬうちに、ホタルがパックリ召し上がられてたところだ。いや、俺だって一緒にパックリいかれていたかもしれない。
 あの大きな口だもんな。咀嚼そしゃくもせずに飲み込まれそうだ。
 目が覚めたらお腹の中……コワーっ!

 コクヨウは一緒に昼寝する際、必ず小さい子狼でと約束させよう。もしくは寝る前お腹いっぱいにさせよう。でなけりゃおちおち昼寝も出来やしない。

 「ホタル、もう大丈夫だよ。」
 俺は未だ木の後ろでプルプル震えているホタルに声をかける。
 【食べるですか?】
 すっかり疑心暗鬼になってるな。
 「食べないから。大丈夫だから。」

 野良猫をあやすように「チッチッチッ」と舌を鳴らした。怖がらせないように微笑んで、ゆっくり近付くとそっとホタルを抱っこする。
 噛まれたところは、歯の小さい子狼だったのが幸いしたらしい。噛み跡がついて少し血が出ているが、深い傷ではなかった。
 【大したことなさそうで良かったですわね。】
 木から降りてきたヒスイは、傷口を確認して苦笑した。

 【食べられかけたです。痛いです。】
 しょんぼりするホタルを連れてきて、布の上に置く。ビクビクしてるのでコクヨウとは離れた所にした。
 先ほどまでうつ伏せに寝ていたコクヨウは、今度はお腹を仰向けにしてコーコーと寝ている。
 人の気も知らないで……。

 ナウーと甘えるように鳴くホタルを、ヨシヨシと撫でる。
 ホタルはまだ一歳だって話だしなぁ。
 三百年以上は生きてるコクヨウや、繭の形態をとっていたとはいえ百年前からいるヒスイ。ホタルは赤ちゃんみたいなもんなんだよな。

 「じゃあ、痛いの治るおまじないやってあげるから。」
 気分は幼稚園の先生だ。
 【おまじないですか?】
 俺は頷くと、傷口を撫でていた手をバッと外へ向けた。
 「痛いの痛いのとんでいけー!」

 俺の手の行き先を見ていたホタルだが、ハッとして俺を見る。
 【すごいです!痛くなくなったです!】
 思わず笑ってしまう。
 やはり子供だな。おまじないで騙されるとは。
 とりあえず、傷口の手当てはしておいた方はいいだろう。
 俺は傷口を再度確認した。

 「ん?」

 傷口がない。先ほどまであったカップリついた歯型がなくなっていた。
 あれ、おかしいな。

 【フィル、あのおまじないで本当に治したんですか?】
 ヒスイも傷口を見ながら聞いてくる。

 「まさかぁ、そんなはずはないよ。」
 あははと笑うが、謎は深まるばかり。
 よく探してみてもやはり傷口は見つからなかった。
 
 摩訶不思議。
 俺は眉根を寄せて首を傾げる。


 「フィルさまぁ〜っ!」
 首を傾げたまま固まっていると、遠くから声が聞こえた。キョロキョロと声のした方を探して、そちらの方を振り返る。
 中庭に出る扉の前で、スケさんが手を振っていた。そして俺が気付いたとわかると、すごい勢いで走ってきた。

 「フィル様お探し致しました。」
 さすが鍛えているだけはある。息をきらしもせず、俺の前で臣下の礼をとる。
 「どうしたの?」
 今日の予定は何にもなかったはずだけど。

 「急なのですが、近々舞踏会が開かれることになりまして。王様はフィル様にも参加するようにと。」
 「舞踏会?!」
 関わり合ったことない単語が出てきて、驚きのあまり目を見開く。

 舞踏会ってあれだろ、物語とか映画とかであるやつ。
 それを俺が参加?
 「何でぇ?」
 眉を八の字にして、泣きそうな声が出てしまう。

 おおやけのパーティーみたいなのがあったとしても、参加するのはアルフォンスとステラだけだった。彼らは14歳の時、社交界デビューしている。
 俺を含めヒューバートとレイラはまだデビューしていない。
 社交界デビューするにはダンスやマナー、ウィットに富んだ話術やらが完璧でなくてはならないからだ。

 5歳の俺と11歳のレイラはまだ先なのだが、14歳のヒューバートは今年社交界デビューする予定であった。
 だが、まだ会話術の教師のお墨付きが貰えず、来年に先送りになっている。それくらい難しいってことだ。

 「僕、社交界デビューしてないのに。」
 不安な表情をすると、スケさんは困ったような顔をした。
 「それが、来賓の方々の中に6歳になるナハル国の姫君がいるらしいのです。」
 「ナハル国ってルワインド大陸の?別の大陸からの来賓て珍しいね。」

 この世界には3つの大陸がある。
 グレスハート王国は、その中でも小さいデュアラント大陸。ルワインド大陸はそのデュアラント大陸の1.5倍の大きさだ。
 ここより南側にあり、かなり暑い大陸だと聞く。

 スケさんは頷いて微笑む。
 「最近フィル様のおかげで我が国は名産を増やしており、急成長をみせておりますから。ご家族を連れての視察だそうです。フィル様は姫君と歳も近いので、ダンスとお話しのお相手になって欲しいと。」
 「ダンスっ?!」
 ビックリして声がひっくり返ってしまった。
 俺、盆踊りしか出来ないんだけどっ!
 マナーはだいたいわかるとして、こちらの世界のダンスはまだ習っていない。
 話術だって王族相手なんか自信ないし。
 俺の焦りがわかったのか、スケさんはまぁまぁと落ちつかせるように笑う。
 「それでお迎えにきたのです。これから舞踏会まで特訓をしていただきますから。」

 特訓……マジか。
 自分ながらに血の気が引いていくのがわかった。

 幸せなのんびりゴロゴロタイムが終わった瞬間だった。




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