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第3章〜転生王子と舞踏会

ダンスの特訓(キャラ年齢修正5/3)

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 城のダンスフロアには手拍子と、カチカチとメトロノームの様な規則正しい音、それに合わせようと必死な靴音が響いていた。

 「何ですかその腕はっ!腕は下げないっ!止めてっ!そのままっ!体は流れるように……違いますっ!そんなヘロヘロで流れていると言えますかっ?フィル殿下っ!」
 「は、はひ……」
 弱々しく返事をすると、ピシリと叱咤が飛ぶ。
 「フィル殿下っ!返事が聞こえませんよっ!!」
 「はいぃぃっっ!!」
 俺は半ば泣きながら大きな声で返事をする。
 ゼイゼイ息をしたいところを、息を止めて笑顔でステップを踏む。
 ダンスって優雅なもんかと思っていたが、これは完全に格闘技だ。古武術の型稽古より早いし。笑顔作りながらっていうのがめっちゃキツイ。

 この世界の一般的な舞踏会の踊りは、フォークダンスとワルツが合わさっている。
 まずワルツのような三拍子のステップを2人で踊る。それからお互い離れて個別のステップを入れ、そしてまたワルツ戻る。それがフォークダンスみたいに輪になった状態で行われ、次々と交代していくのだ。
 1フレーズ3分。一曲分で10人分の踊りらしい。つまり30分踊りっぱなし。

 耐久レースかこれ…。

 今回俺たち子供は2人しかいないので交代はせず、ダンスの開始として1フレーズ分踊ることになっていた。

 と言っても、皆が見てる前で踊ることになるから、みっともない真似はできない。
 その上俺は来賓をもてなす立場。ダンスに失敗して、ナハル国の姫君に恥をかかせてはならないのだ。

 だから、今こんな死にそうな状態でスパルタを受けているわけで……。

 「よろしい。本日のレッスンはここまで」
 その声に止めていた息を、一気に吐き始める。ゼイゼイしながらヨロリとよろめくが、グッと踏ん張って何とか堪えた。
 「あ、ありがとうございました」
 俺は先生に一礼して顔をあげる。

 目の前には柔和な顔付きの大人しそうな女性が立っていた。
 「フィル殿下、お疲れ様でございました」
 スカートの裾をつまんで優雅にお辞儀すると、にっこり微笑む。

 先程の鬼教官は何処に行ったのか……。
 とても同一人物とは思えない。

 彼女の名前はミリアム・ポルタ。ダンスやマナー、会話術の講師である。
 女性に歳を聞くのは失礼なんで推測だが、20代後半くらいだと思う。俺たち兄弟が教わっている先生だ。
 会った時は優しそうだと安心したのになぁ。授業が始まったらとんでもないスパルタだった。
 ヒューバートが逃げたくなる気持ちもわかる。


 「タイム、もういいわ」
 ミリアムは壁際のチェストにいたトキトカゲに声をかける。すると、室内にカチカチと鳴っていた規則正しい音が止んだ。

 トキトカゲはメトロノームのように規則正しく時を刻む召喚獣だ。尻尾が2つに分かれていて、その尻尾の先にある玉のような膨らみをぶつけあって音を出す。

 【お疲れ様でございます。お嬢様】
 トキトカゲは恭しくミリアムにお辞儀をした。それから俺を見てほくそ笑む。
 【坊っちゃまも始めた頃よりは、だいぶタイミングが合ってきましたな。個別の踊りの時に遅れがちになるのはいただけませんが……ま、及第点でしょう】
 頷いてフンと鼻息を出すトキトカゲに、脱力しながら頭を下げる。
 「……ありがとうございます」

 その様子を見ていたミリアムはくすくすと笑った。
 「フィル殿下、タイムにまでお礼は必要ないですよ。でもありがとうございます。」
 「い、いえ……」
 ミリアムは俺が獣と会話できるのを知らないので、誤魔化すようにへらっと笑う。

 「お疲れ様です。フィル殿下」
 声をかけられて振り返ると、アリスがタオルを持って立っていた。
 「ありがとう。」
 タオルを受け取って吹き出す汗を拭う。

 なんと、少し前からアリスも城に住むことになったのだ。
 やはり近くにいるのに親子が離れ離れというのは良くないからな。
 毛玉猫事件解決の褒美は何がいいか聞かれたので、アリスの住み込みをお願いした。
 アリスはそれに感謝してか、俺の部屋付きメイドであるアリアのサポートをしてくれている。 
 
 「こちらにお茶をご用意いたしました」
 見ると部屋の隅の小さなテーブルに、お茶がセットされていた。
 本当に気がきくなぁ。
 アリアがうっかりメイドなので、アリスが来てくれて大変助かっている。

 「ありがとう。ミリアム先生もよろしければどうぞ」
 俺はミリアムの手を引いてテーブルまで連れて行くと、よいしょと椅子を引いた。
 ミリアムが腰を下ろすタイミングで椅子を戻す。それから自分も席についた。

 「完璧なエスコートですわ。マナーに関しては問題ありません。覚えが良くて私も嬉しいですわ。ダンスも何とか形になって参りましたし」
 「そう言っていただいて光栄です。舞踏会はあと何日もありませんし、気掛かりだったので」
 ホッとして息を吐いて、アリスの入れてくれたマクリナ茶を飲む。
 カラカラに渇いていたから、沁みるように喉を潤してくれる。
 
 「そう言えば、ミリアム先生はナハル国の姫君にお会いしたことあるんですよね?」
 首を傾げて聞くと、ミリアムゆるく頷き微笑んだ。
 「 ええ、ナハル国の船が到着した時に。シュリ姫とおっしゃるんですって。可愛らしいと言うより、綺麗な姫君でしたわ」
 
 ナハル国一行は一昨日到着し、自国の船で宿泊している。
 視察も兼ねて街には降りているようだが、案内はもちろん父上やアルフォンス兄さんで、俺なんか会えるはずもない。
 俺はスパルタ中だし。

 「シュリ姫とは、何を話したらいいんでしょうか?」
 俺は困ったように眉を寄せる。
 「何でもよろしいんですのよ。あ、フィル殿下の場合、何でもはダメですわね。殿下の召喚獣に関しては極秘です。それは王様に忠告を受けて、重々承知しているでしょうが」
 はい。こんこんと説教のように忠告をされましたよ。
 コクヨウやヒスイは話したらダメ。
 鉱石や虹のことは極秘。
 大蜘蛛退治に関しても、コクヨウや鉱石のことが関わってるからこれも内緒。
 マクリナもまだ秘密。
 
 あの忠告を思い出してだんだん目が座ってくる。
 それ以外で俺の話せることって何よ……。お姫様を楽しませる会話なんて何もないんだが。
 
 俺がため息を吐いていると、ミリアムは「そうですわ!」と思いついたように口を開いた。
 「あちらの国のお話をうかがったらいかがですか?」
 ミリアムの言葉に、俺は目をパチクリさせ手をポンと打つ。
 なるほど。向こうの話を聞いたらいいのか。本でナハル国の気候などは調べたが、国のことは本人たちに聞くのが一番だ。そう考えたら気が楽になってきた。

 「なるほど、そうですね。そうします」
 うんうんと頷いて、お茶を一口飲む。
 だが、ミリアムの次の言葉に盛大にむせた。
 「もしかしたらナハル国にお婿に行くかもしれませんしね」
 
 「ゲホッ!えっ!ちょっ!」
 俺はタオルで口元を押さえながら、ゲホゲホと咳こむ。
 アリスも驚いたのか、ポットの蓋をカラーンと取り落とした。

 お、お茶が気管に入った。
 いや、それより何て言った?お婿?
 「み、ミリアム先生、お婿って……」
 
 ミリアムは目を白黒させている俺の様子を見て、楽しげにくすくすと笑う。
 「王族は産まれる前に婚約者が決まることもありますし、あり得ることですわ」

 あり得ることなの?!
 王族コワーッ!5歳児にして伴侶決められる可能性あるわけ?
 政略結婚もあるのかなぁなんて思ってはいたが、まだ先だと余裕ぶっていた。
 
 「確定ではありませんが、シュリ殿下とは歳も近いですから、今回の件は多少の意向はあると思いますよ?」
 首を傾げてにっこり微笑むミリアムに、俺は顔を引きつらせる。
 
 正直言って……。
 舞踏会……参加したくなくなってきたんですけど。
 

 
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