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第3章〜転生王子と舞踏会

闇にまぎれ(キャラ年齢修正5/3)

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 人々が不安そうにざわめく。
 目は慣れてきたが、1メートル程度先になるとよく見えない。

 風によって蝋燭が消えることはあるが、今は無風状態だ。それにこんなに一斉に消えるのもおかしい。
 パーティーのサプライズじゃないよな?舞踏会始まりのダンスが終わってもいないもんな。

 その証拠にマティアス王の毅然とした声が飛ぶ。
 「皆の者、落ち着け!衛兵直ちに灯りをつけよっ!」
 命令によって次第に灯りがともされた。だが、何故か着ける先から火が消えてしまう。
 明らかに何かが起こっていた。

 「ヒスイ」
 小声でヒスイを呼び出す。
 「姿を消して、何が起こってるのか調べてくれない?」
 【畏まりましたわ】
 耳元でそう聞こえると、ヒスイの気配が消えた。

 とりあえず、ここは下手に動かず気配を探らなくては。それにシュリ姫に最も近いのは俺だ。彼女に怪我でもされたら一大事である。
 
 俺はシュリ姫に近づくと手を掴み、かばうように辺りの様子をうかがった。
 だが、シュリ姫はそんな俺の手を振り払う。
 「えっ!?」
 振り払われるとは予想外。
 痴漢みたいに思われたのか?この非常事態、別段やましい気持ちないよ?
 俺が慌てて振り返ると、シュリ姫は両手の平を下に向け目を瞑っていた。

 この為に手を振り払ったのか。はて、何をやってるんだろうか。俺は首を傾げる。
 「シュカ!」
 シュリ姫が声を出すと、空間が歪み始めた。
 そうか、召喚獣を呼んだのか。
 普通に名を呼べば出てくるはずなのだが……。ナハル国はやり方が違うのだろうか?

 俺がジッとその歪みを見ていると、ポンと黄色い小さなものが飛び出した。
 「え……」
 思わず目をパチクリさせる。

 黄色い……ヒヨコ?

 薄暗いから見間違いかと思ったが、目をこすっても見ているものは変わらなかった。
 タンポポの綿毛みたいにまんまるフワフワした、黄色い羽に覆われた……可愛いヒヨコ。
 
 思わず吹き出しそうになって、口をパンっと押さえる。
 笑っちゃダメだ。笑っちゃダメだ。
 だが、あまりにも仰々しく召喚して、出てきたのが可愛いヒヨコなんて普通思わないよ。ギャップが凄すぎる。
 堪えるあまり、肩がプルプル震えた。

 そんな俺の様子を見て、驚きすぎて震えていると勘違いしたらしい。シュリ姫は自慢気に胸を張る。
 「驚いた?私の歳で召喚獣を出せる子なんていないのよ」
 
 言われて気付いた。
 そっか、そう言えばレイラも召喚獣持ったのは遅かったもんな。俺はたまたまラッキーでゲットできたが、普通はまだ難しいのかもしれない。
 そう考えたら凄いことだ。笑いそうになってごめんなさい。
 
 「触ってもいい?」
 「触れるならね」
 シュリ姫は鼻息でフンと笑う。
 俺は黄色いヒヨコを、そっと手の平に乗せた。
 俺の小さな手にスッポリと納まるくらい小さなヒヨコだ。

 この世界でも大きくなったらニワトリになるのか?それとも、これが最終形態なのかな?
 観察しつつ指で頭を撫でる。
 撫でられるのが気持ちいいのか、指に擦り寄ってくるのが可愛いらしい。
 【ありがとぉ。お礼!】
 ピヨと満足そうに鳴くと、ヒヨコの体が発光し始めた。まるで、黄色い光るボールのようだ。
 昔お祭りの夜店に光るボールあったなぁ。何か懐かしい。
 小さいから俺の手元を照らすくらいなのだけれど。薄暗いから明るく感じる。

 だからシュリ姫はこの子を出したのか。明るくするために。
 感心しながら、さらに可愛がるようにヒヨコを指で撫でる。

 「何でっ!」
 突然発せられたシュリ姫の言葉に、ヒヨコを撫でながら首を傾げる。
 「ん?」
 「私、手に乗るようになって1ヶ月、撫でさせてくれるまで1ヶ月、光らせるまで1ヶ月かかったのにっ!!」

 「えっ!」
 撫でていた指が止まり、ヒヨコが不満そうな声で俺に向かってピヨと鳴いた。
 俺とシュリ姫の間で気まずい空気が流れる。
 やばい……泣きそうな顔になっている。そりゃ、そうだよな。自分の召喚獣が他の人に懐いてちゃ。

 「ご、ごめん」
 俺は慌ててヒヨコをシュリ姫に戻そうと近付く。
 その時、フワリと新緑の香りが俺を包んだ。ヒスイが抱き込むように俺の体を倒してきたのだ。そして、気付いた時には床に倒れていた。

 「何……」
 口を開いた瞬間、トスっと床に何かが刺さった。見ると、床に20センチほどの小ぶりな矢が刺さっていた。俺が倒れていなかったら、体に刺さっていただろう。

 「ど、どうしたの?」
 俺が倒れたので驚いたのだろう。シュリ姫が慌ててこちらに来ようとする。
 「動かないでっ!こっち来ちゃダメだ。」
 俺は強めの声でそれを止めた。
 「え、何で?」
 突然出された声にシュリ姫が狼狽える。
 俺は静かに深呼吸して、努めて明るい声を出した。
 「転んだ拍子に大事なもの落としちゃったんだ。踏んだら壊れちゃうから、しばらく動かないで」
 「何だ。驚いた。わかったわ」
 シュリ姫のホッとした声に、俺も密かに息を吐く。

 こんな状態で不安にさせてパニック起こされても困るからな。
 しかし……俺が狙われた?何で……?
 自慢じゃないが、俺はしがない三男坊だぞ。

 ピヨと不安そうにヒヨコが鳴く。
 倒れた時、咄嗟にかばうように手に包んでいた。立ち上がって手を開き、ヒヨコの無事を確認する。

 だが、その瞬間どこからか気配を感じた。咄嗟に大きく体を反らせる。
 かするように風が通り抜け、近くで矢が刺さる音がした。

 まさか、ヒヨコの灯り?それを目掛けて打ってきているのか?
 再び手でヒヨコを包むと、光が漏れないように隠す。
 「お願いだから元に戻れる?」
 そっと囁くと、ヒヨコは光を落としていく。

 【お怪我はありませんか?】
 ヒスイが側に降り立った気配がした。
 「大丈夫。さっきはありがとう、助かった。ところで何が起こってるのかわかった?」
 聞きながら、胸元を飾っていたハンカチを抜き取ると、それでヒヨコを包み胸ポケットにそっとしまう。
 【調べましたところ、闇の妖精が何匹か動いておりましたわ】
 「闇の妖精?」
 【覆い隠すことで、闇を作り出す妖精ですわ。捕まえようとしましたが、ちょうどフィルが射られそうでしたので……。申し訳ありません】
 落ち込んだような声に、俺は笑った。
 「何言ってんの。来てくれてなきゃ、危なかったよ。」
 
 ヒスイのホッとしたような息が聞こえる。だが、すぐ心配そうな声のトーンに変わった。
 【実は……矢が射られた辺りにも、闇の妖精の気配がありました。闇の妖精の力によって、体を隠しているのだと思われます】
 「じゃあ、これは闇の妖精を使って、誰かが事件起こしてるってこと?」
 冷や汗がにじみ出る。
 おいおい、矢を射られたことですでに事件だけど。こりゃ計画的事件じゃないか。よりにもよって、舞踏会でこんな事が起こるなんて。

 【でもおかしいですわ。闇の妖精は、他の妖精と違って単独でいることが多いのです。目立つことを特に嫌っておりますから。こんなに何匹も人に使われることなど……】
 不可解とばかりにため息を吐く。

 本当、わけわからないな。
 わかっているのは、今もこの大広間に刺客がいるということ。
 相変わらず辺りはざわめいているが、他の人に危害が及んだような感じはない。つまり、狙いは決まっているという事だ。

 闇の妖精の力で大広間を暗くし、さらに自分もその闇にまぎれ、ヒヨコを持っている俺目掛けて矢を射る。
 とんでもない技だが、ホール中央にいた俺たちだ。射る技量に自信あれば可能だろう。

 そこまで考えて、はたと気付いた。
 …………あれ?
 もしかして俺が狙われたんじゃないのか?
 このヒヨコの持ち主はもともとシュリ姫だ。たまたま俺が持っていたけど、本来ならシュリ姫が持っていたはずだ。

 じゃあ、狙われたのは……シュリ姫?

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