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第3章〜転生王子と舞踏会

取り調べ

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 眠い……。
 俺はあくびを噛み殺した。
 電灯のないこの世界は、俺をすっかり規則正しい生活にしてしまっている。
 はっきり言ってもう寝る時間だ。
 しかも、ここ1週間はミリアム先生のスパルタだったしなぁ。その舞踏会も刺客の出現によって台無しにされてしまったわけだが……。

 事件後、俺は執務室にいた。
 ナハル国一行は事件の心労もあるだろうとの事で、一度船に戻って貰い明日改めて来てもらう事になっていた。女性陣もまた同じで自室に戻ってもらっている。

 俺もぶっちゃけ部屋に帰りたいです。心労で言うなら、俺がナンバーワンだと思う。だが『事態を把握しているお前がいなくて、取り調べができると思うか?』と言われ、今に至っている。

 この世界にも児童就労規約を訴えたい。

 俺としては、刺客も捕まえたし。一件落着みたいなものかなと思うのだが。国と国との絡みがある分、そうもいかないらしい。

 執務室のソファにはマティアス王とアルフォンス、俺が座っていた。
 その脇にいた子狼姿のコクヨウは、ブツブツと呟いている。
 【まったく、何故 事件の時に我を呼び出さぬ】
 ご立腹とばかりにガルと鳴く。
 それから、椅子に拘束されている少年に近付き頭の上に乗ると、タシタシと足踏みを始めた。
 【この様な骨っ子、一噛みで終わるものを】
 そんなコクヨウに、俺は脱力して言った。
 「舞踏会は人いっぱいいるんだよ?コクヨウ出したら大事になっちゃうでしょ。て言うか、タシタシするの止めてあげなよ」
 少年は拘束されながらも、頭の上のコクヨウを睨んでいた。口を塞がれているため、文句を言えないからだろう。
 アイスブルーの瞳は、怒りに満ちていた。
 コクヨウはそんな少年を鼻息で笑うと、俺の隣に降り立ち、ちょこんと座った。
 
 お茶を飲みながらそんな様子を見ていたマティアス王は、ため息を吐いて口を開いた。
 「フィル、そろそろ良いか?」
 「あ、すみません」
 ペコリと頭を下げる。
 「さっきこの者を覆っていたあの黒いのは何なのだ?」
 マティアス王はチラリと刺客に目をやる。今は黒いものに覆われていないが、思い出したのか眉をひそめる。
 「あれは闇の妖精です。ヒスイの話じゃ、物を覆って見えなくする力があるそうです。あの時、火を点けなおしてもダメだったのはそのせいで」
 「なるほど。それで、お前が一芝居うったわけか。鉱石を使ったのだろう?」
 チロリと視線を向けられて、ヘヘと頭をかく。
 「強い光を瞬間的にあてると、闇の妖精を気絶させられると言う事だったので」
 それを聞いてマティアスは仕方なさそうに苦笑する。どうやら、鉱石を使ったことによるお咎めはないようだ。
 
 「では、あの子は闇の妖精を操れるという事かい?」
 アルフォンスは刺客の方を見ながら聞いた。俺はそれに肩をすくめる。
 「はっきりとはわからないですけど。その子の事好きで、協力してるんじゃないかなぁ?」
 俺の目には少年にくっつき、心配そうに見ている闇の妖精が6匹が見えた。言う事聞かされているだけなら、こんなに心配していない。
 彼を守る様に、時々こちらをチラチラ見ているのは、俺の側にコクヨウがいるからだろう。

 俺はコクヨウを抱っこして少年に近寄ると、闇の妖精たちににっこり微笑んだ。妖精たちは少年の背後に隠れ、ビクビクと様子をうかがっている。
 「大丈夫、怖くないよー。」
 コクヨウの手を掴んで、手を左右に振らせてみる。
 だが、妖精は少年にヒシとつかまって、ブンブンと頭を振るばかりだ。
 ダメかぁ。子狼の姿してても、怖い存在だと妖精にはわかるのかな?
 少年を見ると、馬鹿にするなとばかりに俺を睨んでいる。けんもほろろな感じだ。
 少しは妖精から何か聞ければと思ったんだけど。

 「でも、こんなに妖精に好かれて、悪い子に思えないんだけどなぁ」
 ふぅと息をついて、困った様に眉を寄せる。
 【フィル、お前はまことに甘い】
  コクヨウは俺が掴んでいた手から前足を抜き取ると、ペシペシと俺の顔を叩いてきた。
 そんなことされても肉球がプニプニしてて、幸せなだけなんだけど。
 【命を狙ってきたのだぞ?悪いに決まっているではないか】
 「それは、そうなんだけど……」

 「父上、この者を一体どうなさるのですか?」
 アルフォンスに聞かれて、マティアス王は唸る。
 そうだ。それは気になっていた。
 お姫様を……と言うか、俺も巻き込んでだけど、王族を殺めようとしたんだ。ゲンコツもらって謝るだけじゃすまない。
 牢獄行きか、最悪処刑なんて事も有り得る。
 だが、ここは平和な国グレスハート王国。他の国ならいざ知らず。王族の暗殺なんて言う重犯罪や、ましてそれが子供であるなど王国の歴史でも試しがない。
 それくらい平和な農耕国なのだ。
 
 マティアスは立ち上がってこちらに来ると、少年の口を塞いていた布を外す。
 「お前は何者だ?他にも仲間はいるのか?」
 「俺は何も話さないっ!」
 ガタガタと椅子を揺らし、マティアス王に食ってかかる。
 あぁぁ、大人しくしときゃいいのに。

 「俺1人でやったことだ!さっさと殺せっ!」
 そんなわけはない。
 シュリ姫を亡き者にしたからと言って、この少年に何のメリットがあるんだ。背後に誰かいるのはわかりきっている。
 だが、さすが幼くても刺客だけはある。少年は頑なだった。

 すると、アルフォンスもこちらにやって来た。
 「誰の差し金かわからないけど……。君は利用されたんだよ?」
 にっこり微笑む。
 「俺は1人でやったんだ」
 首を振る少年に、アルフォンスはさらに優しく語りかける。
 「大広間の扉を壊したのは君だよね?計画を遂行した後、何処から逃げるつもりだったの?」
 「窓から逃げる予定だった。俺には闇の妖精がいる。闇にまぎれればどうとでもなる。」
 ニヤリと口角を上げ、余裕を見せる。

 だが、そんな少年をアルフォンスはくすくすと笑った。少年はムッとして怒鳴った。
 「何が可笑しいっ!」
 アルフォンスは笑いを含んだ声で言った。
 「君の主人に聞いていなかったのかい?この城は結界石で守られている。普段は出入り自由だけど、一度その結界石の力を解放すれば、城内に閉じ込めることも可能なんだよ」
 「う、嘘だっ!」
 少年は動揺したように叫んだ。

 うん、嘘です。
 そんなハイテクセキュリティなんてこの城にはありません。アルフォンスのハッタリです。
 しかし、結界石の城だってことは有名だ。少しの本当が混ざると、本当かもしれないと人は揺らぐ。
 少年の瞳も彼の気持ちを表すように揺れていた。

 「この城が結界石で守られているのは有名なのにね。そのご主人にとっては、君は切り捨てられる存在だったのかな?」
 トドメとばかりにアルフォンスはそう囁くと、少年に同情の瞳を向けた。
 少年は愕然として、俯向く。

 怖っ!!!
 恐ろしいまでの誘導尋問。にっこり微笑んでるけど、的確に痛いところを突いてくる。
 いつも兄弟にベタ甘な兄だから、すっかり忘れていたがやはり長兄、切れ者なんだな。

 すると、アルフォンスはこちらを見て、何故かにっこり微笑むと俺の頭を撫でてきた。
 撫でられてる俺はキョトンとする。

 え……何だ……?
 何で『兄ちゃんやってやったぞ』的な感じなんだ?

 え……まさか……。
 俺が矢を射られたから、少年に仕返ししたの?!
 アルフォンス兄さん実はめっちゃ怒ってたのか?

 怖い……。
 兄の愛が……重すぎるのですが……。
 
 
 
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