トップ>小説>転生王子はダラけたい
13 / 134
第3章〜転生王子と舞踏会

刺客の名は

しおりを挟む
 「それで、君の名前は?」
 俺が首を傾げると、少年はふいっと横を向く。
 ……困った。アルフォンスの誘導尋問で衝撃受けてると思ったのに。ここまで来て黙秘権か。
 こめかみ辺りをぽりぽり掻く。
 すると、コクヨウが再び少年の頭の上に飛び乗った。
 【名を聞いておるだ・ろ・う・が】
 苛立ったように、またタシタシと足踏みを始めた。
 「待て待て待て、タシタシはやめなさい」
 俺は慌ててコクヨウを抱き上げる。
 そんなことしたらますます喋らなくなってしまう。

 だが意外にも、不機嫌そうではあるが少年は口を開いた。
 「名前は……カイル」
 お、おおお?
 やったー!ようやく名前ゲットした。コクヨウのおかげか?
 反応を示してくれたってことは、ようやく会話らしい会話ができるってことだ。
 俺はほっと胸を撫で下ろす。

 「家族はいるの?ナハル国の住民なんだよね?君みたいな子供が、何でこんなことしていたわけ?」
 俺がここぞとばかりに質問攻めすると、カイルはぶっきらぼうに答え始めた。
 「家族はいない。それに、まだナハル国の住民なんかじゃない……。なる為に、やったんだ」
 「なる為…?」
 俺が眉を寄せると、マティアス王が思い当ったように口を開いた。
 「もしや……獣人族か?」
 カイルはマティアス王をチラリと見てすぐそっぽを向いた。それは肯定を意味していた。
 「獣人族なの?!」
 俺は驚いて目を見開く。
 「…蝙蝠の獣人だ」

 蝙蝠の獣人っ!闇の妖精に好かれているわけだ。
 ナハル国のことを調べていて、獣人族の関連文書を読んだことがある。
 獣人族は、ルワインド大陸に昔からいる先住民だ。身体的特徴は殆ど俺たちと変わらないが、猫やウサギの耳がついていたり、猿やワニのようなしっぽがついていたりする。
 運動能力は比べものにならないくらい高く。例えば、ウサギの獣人は耳が良く、猿の獣人は身軽だ。つまりその特徴が出ている動物の能力が備わっている。
 俺たちより大変優れている種族なのだ。

 ただ獣人族は、召喚獣を使うことはない。獣人の祖先が獣の姿をした神だと言う伝承があり、彼らが祀る宗教の掟によって、獣を従えることをしないのだそうだ。
 その為、古代の戦争では能力がありながらも、兵の数や召喚獣の多さが原因で敗戦したという。それ以降、獣人族も減少してしまい、ルワインド大陸でもいくつかの部族があるだけらしい。

 それがこんな所で会えるとはっ!俺はぱぁっと笑顔になる。
 「そうなんだ?会ってみたかったんだ!」
 縛られているカイルの手をそっと握手するように掴んだ。
 「もしかして天井にぶら下がる能力とかあったりするの?」
 にこにこしていると、カイルは俺から体をできるだけ引いて怪訝な表情で見てきた。

 え?何?そのドン引き加減。

 「お前は…何なんだ」
 かすれた声でカイルが呟く。 

 え、変な獣人マニアだと思われたのか?
 いや、男としてはリアル猫耳とかリアル兎耳の女の子に会ってみたいなぁっと思わなかったと言えば嘘になるけど。単純に会ってみたいと思っていたのも本心だ。
 別に獣人の人のしっぽ触ってみたいとか、羽触ってみたいとか、耳触ってみたいとか……ちょっとは思ったけど。エチケットに反しますって言うなら、コクヨウやホタルのもふもふで我慢するし。

 「別に……もふもふ好きなだけで変態じゃないヨ」
 コクヨウを撫でながら視線をそらす。

 「そうじゃない!そうじゃなくて……俺が気味悪くないのか?」
 カイルは俯くと、躊躇いがちに上目使いで俺を見る。
 「なんで?」
 首を傾げて聞くが、カイルは答えなかった。どういうことだとアルフォンスを見ると、説明に困ったような顔をする。
 「獣人族は……古代の大戦以来、ルワインド大陸のどの国からも住民として認められていないんだ」

 それを聞いていたコクヨウは、フンと鼻でため息を吐いた。
 【まぁ、当然だな。負けた者は土地を追われる。土地が欲しければ奪い返すか、新たな土地を奪いに行くしかない。我は負けたことがないからわからぬが】
 あーうん。コクヨウなら、そりゃあそうだろう。平気で一国壊してしまうのだから。
 だが、俺が獣人族ならあきらめてしまうかもしれない。だって、数でも召喚獣でも劣っているんじゃ、勝つことは容易ではないからだ。何せ一つの国が相手ではない。大陸全体…、いや下手したら全世界の人間を敵にしなくてはならない。
 たとえ一時勝利しようが、それは一時でしかないと思う。

 「じゃあどこに住んでるの?」
 「獣人族でも大きな部族は放牧しながら移動して暮らしているが……。群れからはぐれ人に使われることで、居場所を得る者もいる。俺の親もそうだった。任務中に死んだけど」
 カイルの話を聞きながら、俺はため息を漏らした。
 きっと危険な任務を行っていたのだろう。そして、生きるため、居場所を確保するために、カイルも同じ道をたどらなければならなかった。

 「他の大陸には移住できないんですか?」
 マティアス王を見上げると、父は顔を曇らせる。
 「我が国で受け入れてもいいのだが……、ルワインド大陸の国々の目もあって難しいのが現状だ。他の国でもそうだろう」
 カイルは悔しそうに唇を噛む。
 任務に失敗したことで、自分の願いが絶たれたと思っているのだろう。

 獣人族を住民にできるなんていうくらいだから、暗殺の首謀者はナハル国でもそれなりの力を持っている人物なのだろうか?だが、暗殺が成功しても、なかなか住民にすることは難しいのじゃないかな?アルフォンスの言葉ではないが、利用された可能性が高かった。

 どうしたものか。 
 カイルに同情はするが、利用されたにしろ暗殺はダメだ。本来なら罪を償わなければならない。だが……彼はまだ少年だった。

 うーんと唸っていた俺は、突然ハッとひらめいた。
 「父さま。カイルの身柄だけでも我が国で拘束できませんかね?」
 「んん?罪人としてってことか?」
 俺の言葉に眉を寄せて、わからないというように首を傾げる。
 「そうです。元の狙いはシュリ姫かもしれませんが、実際狙われたのは僕ですし。我が国の舞踏会で起こった事件なのですから。拘束し罰する権利はあるでしょう」
 「まぁ、あるかもしれないが……。それで我が国でどう裁くのだ?」
  俺はニヤリと笑った。
 「処罰は…僕の家来でどうでしょう」

 「はぁぁぁぁぁ?!」
 マティアス王とアルフォンスとカイルの声が綺麗にそろった。見るとコクヨウが俺に抱っこされたまま、呆れたように俺を見上げている。
 【お前はまたおかしなことを…】
 えーそうかな?いい案だと思うんだけど。

 「王子が獣人の俺を家来だって?ふざけるなっ!」
 カイルは動揺しつつも俺を怒鳴った。
 「いやいや、至って真面目だよ。僕の家来ともなれば、住民登録も必要になってくるでしょう?」
 明るく話す俺に、マティアス王は渋い表情で額を押さえた。
 「ナハル国は黙っていないのではないか?」

 「大丈夫、考えはあります」
 にこりと安心させるように笑うと、カイルはハッと笑い飛ばした。
 「お優しい王子様は、俺に同情して住民登録して下さるって?そんなことできるわけない。この大陸だって同じだ。獣人族なんかを家来にしてたらあんただって何て言われるか……」
 「フィル、そんなに気楽に考えていい問題ではないよ?」
 狼狽えるようにアルフォンスが言う。

 不安な表情を隠せない皆に、俺はあっけらかんとして笑った。
 「僕は気ままな三男坊だし、いざとなれば城から出られる。考えの足りない変わり者で充分です。言いたい人には言わせておけばいい」
 俺はコクヨウを下に降ろすと、カイルの拘束を解いた。拘束を解かれても、カイルは固まったように動かなかった。

 俺はカイルの目を見据えて言う。
 「人の気持ちを変えるのは大変だ。君は僕のそばにいても、いじめられることがあると思う。だから、それが君の罰だ。でも、わかってくれる人もきっといるよ」
 頭をポンポンと叩いて、にっこりと微笑む。
 カイルは息を詰まらせたまま、目を瞬かせて俺を見ていた。

 「いいですよね?父さま」
 マティアス王は苦笑すると、お手上げだと言うように小さく手を挙げた。 




※感想・お気に入り登録いつもありがとうございます!
 とても励みになっています!
 このナハル国の話が終わったら、フィルも少しだけ成長する予定です。今しばらくお待ちください!
しおりを挟む