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第3章〜転生王子と舞踏会

会談

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 舞踏会より一夜明けたグレスハート王国の国賓用の応接室。
 瞼を落としかけた俺は、アルフォンスに脇をつつかれ、ハッとして顔を上げた。
 やべっ!今一瞬意識とんでた!
 この応接室のソファが雲のようにふかふかで、いつの間にか寝かけていたようだ。

 昨日カイルの取り調べやら話し合いやらが終わったのが深夜遅く。部屋に戻って泥のように眠ったけど、結局睡眠時間が3〜4時間くらいしか取れなかった。
 ゆえに、体の疲れが全然取れておりません。なんか体が重い気がする。
 寝る子は育つって言うのに…。成長に影響出たらどうしてくれるんだ。

 だが、疲れていても会談中にうとうとするのはまずかった。
 俺は軽く頬をつねって気合を入れる。
 目の前には、ローテーブルをはさんでナハル国一行が腰かけていた。
 俺の両隣にはマティアス王とアルフォンスが座り、カイルは俺の後ろに立っている。

 帰った後、ナハル国でも話し合いが行われたのだろう。会談を初めて早々、アバル王はカイルの引き渡しを要求してきた。
 まあ、当然と言えば当然だ。カイルは首謀者を知っている可能性のある人物なのだから。
 それに対しマティアス王は、昨日話し合ったこちらの考えを説明し終えたところだった。

 お茶を飲みながらそれを聞いていたアバル王は、思ってもみなかった提案に戸惑いを隠せないのか、カップを置く手が震えていた。一つ息をつくと確認するように聞く。
 「つまりグレスハート王国は、その刺客をこの国にて裁くと仰るのですかな?しかも、その処罰がフィル殿下に仕える事だと?」
 マティアス王はゆっくり頷いた。
 「カイルはまだ幼く、刺客に成らざるを得ない環境がこの事件を起こしてしまったとフィルは考えております。更生の余地はあると」
 アバル王は困ったようにハンカチで汗を拭く。
 「いや…しかし…」

 その様子を見ていたトマル大使は「恐れながらマティアス王様…。」と前置きして頭を下げると、おもむろに口を開いた。
 「幼いからと言って、同情して家来にしようとおっしゃるのですか?その者は刺客なのですよ。しかも獣人です。信用して寝首をかかれても知りませんよ?」
 「俺はそんなことしないっ!!」
 カイルはこぶしを握り締めて、トマル大使に向かって叫んだ。
 「俺は書面だけで指示を貰ったから、直接には会っていないんだっ!だから首謀者が誰かなんてわからない」
 必死になって訴えるが、その言葉はトマル大使には届いていないようだった。カイルを蔑むように見ると、嘲るように鼻で笑う。 
 「それを信用しろと?そうやって幼いフィル王子様を騙したのか?」
 「違うっ!俺は騙してなんか…」
 俺は振り返ると、カイルに向かってほほ笑んだ。
 「大丈夫。信じるよ」
 絶望に取り込まれそうになっていたカイルは、泣きそうな顔で頷く。
 
 「信じるのですか?獣人の戯言を。失礼ながら、フィル殿下は獣人と言うものをわかっていらっしゃらないのでは?だからそんな突拍子もない事をおっしゃる」 
 苦笑交じりに言っているが、目は笑ってはいなかった。
 いかにも『何も知らない子供が政治に口をはさむな』と言うような口ぶりだ。
 その口調にさすがのアルフォンスも嫌悪感を露わにする。
 「フィルは解っております。解ったうえで アバル国王陛下・・・・・・・に申し上げているのです」
 今の交渉相手は 大使ではない・・・・・・と言葉に含めると、トマル大使の眉がピクリと動いた。
 
 トマル大使は地味で目立たない印象の割にやり手だと聞く。だが残念ながら、獣人族に対していい噂は聞かない。この事件を機に獣人族を排除しようとし始める可能性もあった。
 今は王がこの場にいるのだから、彼が出てこられては困るのだ。こちらとしては気の優しいアバル王を丸め込もうという算段なのだから。

 だがその時、マリサ王妃がアバル王の顔をのぞき見ながらそっと囁いた。
 「陛下、シュリ姫を襲った刺客を連れ帰らずして、国に戻る事が出来ましょうか。この件に関しては大使に一任しては?」
 そう言って優しげににこりとほほ笑む。

 なぁにーっ!
 嘘だろ。思いもしないところから、伏兵が現れたっ!!
 俺は冷や汗がにじみ出るような気持がした。
 まさかマリサ王妃が大使側に着くとは思わなかった。
 アバル王もだが、マリサ王妃も獣人に関しては中立派だと聞いていたのだが。違ったのだろうか?
 
 「あ、あぁ。まぁ、確かに」
 アバル王は交渉権が自分から離れ、ホッとしたように頷く。
 ああぁぁ。アバル王のおっちゃんもっと頑張れよー。
 確かに気は優しそうだとは思っていたが、王様として交渉権は渡しちゃダメだろう。
 手痛い先手を打たれて、唇を噛む。アバル王だけならどうにかなると思ったが、やはりそうは上手くいかないか。
 だが昨夜父親に『ナハル国の件は大丈夫だ』と言った手前、やってもいないうちからバトンタッチもできなかった。
 やるしかない。
 俺は早まる鼓動を息をついて抑える。

 大使は権利を得て余裕が出たのか、顎を少し上げて俺を見下ろした。
 「我々の気持ちは変わりません。その者はシュリ殿下を狙う暗殺者であり、首謀者を知っている人物。我が国に連れ帰り尋問せねばなりません」
 侮蔑と怒りを含んだようにカイルを睨む。カイルはその視線を感じてか、俺が振り返ると青い顔で小刻みに震えていた。
 この世界の尋問がどのようなものかはわからないが、人道的にとはいかないのだろう。しかもカイルは獣人族だ。相手がトマル大使なら、尋問だけで済むはずはない。
 
 俺は静かに鼻で息を吸い込むと、努めて落ち着いた口調で話し始めた。
 「しかし、この国の舞踏会で起こったことです。この国で裁かれるのが妥当だと思いますが」
 「この者は我が大陸の者です」
 トマル大使の言葉に、俺はちょっと肩をすくめた。
 「では、ルワインド大陸の住民である証拠はありますか?」
 「なんですと…?」
 トマル大使の目が見開いた。
 あるわけはない。だって獣人族はどの国からも住民として認められていないのだから。
 トマル大使は嫌そうに顔を歪める。
 そして、ほんの少し焦りも見えていた。苛立ったように、カイルを指さす。
 「獣人族であることが証拠です。ルワインド大陸の先住民なのですから」
 それでは証拠にならないと、俺はゆっくり大きく首を振った。
 「残念ですが。獣人族は流民です。他の大陸にいてもおかしくない。それではカイルを連れて行く理由にはなりません」
 
 トマル大使は唇を噛むと、舌打ちせんばかりの顔つきで俺を睨んでくる。 
 うーわ、すごい睨んでるなぁ。
 幼児に言い負かされて腹立つのは解るが、大使としてその顔はしちゃいかんと思う。

 「マティアス国王陛下。あなたはどうお考えなのですか?」
 俺が動かないと解ると、身を乗り出すようにマティアス王を見つめる。
 マティアス王はため息を吐くと、俺の頭にぽんと手を置いた。
 「申し訳ないが、この件に関しては、我が息子に一任している。間違った言い分であれば止めようと思うたが、聞いた限りではフィルの考えがおかしいとは思わぬ」
 トマル大使は信じられないと言うように口を開けた。

 様子をうかがっていたアバル王は、トマル大使がいい負けたのだと判断したようだった。シュリ姫を抱き寄せると、困ったようにため息を吐く。
 「しかしフィル殿下。それでは首謀者を捕まえることができません。また次の刺客が襲ってくることになるでしょう」
 俺はにっこりとほほ笑んだ。
 「ええ、わかってます。そこで提案があるのです」
 「提案?」
 アバル王が首を傾げると、俺は大きく頷いた。
 「まず首謀者を見つけましょう。それならばカイルを尋問する必要はないでしょう?」
 「そんなこと出来るのですか?」
 アバル王は驚いたように、息を飲んだ。

 



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