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第3章〜転生王子と舞踏会

首謀者は・・・(キャラ年齢修正5/3)

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 俺はひとつ息を吐くと、眉を下げてシュリ姫を見つめた。
 「まず首謀者を探す前に、シュリ姫に悲しいお話しがあるのです」
 「私に?」
 それまでずっと黙って様子をうかがっていたシュリ姫は、突然話を振られてビクッと体を震わせた。

 俺はテーブルの上に、丸くなったハンカチをそっと出す。それを広げると、舞踏会の時に保護した黄色いヒヨコが横たわっていた。舞踏会が終わった時、ポケットに入れたまま返しそびれてしまったヒヨコだ。

 「死んだのっ?!」
 シュリ姫はアバル王に縋り付きながら青ざめた顔でヒヨコを見る。
 「えっ!」
 みるみる涙が溢れてくるので、俺は慌ててブンブンと首を振った。
 「いやいやいや、寝てるだけっ!寝てるだけです!」
 俺は焦ってヒヨコを指でつつく。
 「起きて!紛らわしいからっ!」
 普通ヒヨコってうつ伏せで寝るもんじゃないの?何で大の字で寝てるんだよ。

 気持ち良さそうにヒヨヒヨと寝息を立てていたヒヨコは、つつかれてようやく目を覚ます。だが、不機嫌そうに頭だけもたげると、薄目で俺を睨んだ。
 ヒヨコのくせに鳥相にんそう悪いな。そもそもスタンバイ中に寝てたヒヨコが悪いだろう。

 「でも悲しいお話って…」
 ショックが覚めず鼻を鳴らしながら、どういうことだと俺を見る。
 俺はヒヨコを手に乗せると、ぺこりと頭を下げた。 
 「誤解させてしまってすみません。悲しいお話とは…、このヒヨコはシュリ姫の召喚獣ではありません」
 しばし固まったシュリ姫は、音を立てて立ち上がった。
 「えっ!そんなはずないわっ!ちゃんと召喚できるもの!」

 「じゃあ、もう一回やってみてください。この間と同じように」 
 俺がどうぞと促すと、シュリ姫は「はぁっ?」と眉間にしわを寄せた。
 「私の召喚獣はそこにいるじゃない」
 わけのわからないことを言うなとばかりに口をとがらせて睨む。
 
 「申しわけありません。シュリ姫やってみていただけませんか?」
 マティアス王が優しげにほほ笑む。すると少し恥ずかしそうに頬を赤らめ、シュリ姫は小さく頷いた。
 「わかりました」
 おい、俺と父さんの対応ずいぶん違うな。シュリ姫6歳で、すでに年上の渋い男が好みか。確かに父さんハリウッドばりのイケメンだけどもさ。

 赤らめた頬を冷ますように、ふうと息をついて召喚の態勢をとった。
 両手を下にして目をつぶり、しばらく集中すると叫んだ。
 「シュカ!」
 すると、空間がゆがみ始めた。この間と同じ現象だ。
 そしてそのゆがみから、黄色いヒヨコが飛び出してきた。
 
 【呼んだ?】
 黄色いヒヨコはピヨと首を傾げる。

 シュリ姫は目をパチクリさせる。ひと呼吸置いてから、大きな声で叫んだ。
 「なんでぇぇっ?!」
 俺の手に持ったヒヨコと、テーブルのヒヨコを何度も見比べる。
 「ど、どど、どういうこと?何でシュカが2匹いるの?」
 力が抜けたようにストンとソファに腰を下ろした。

 やはり召喚獣じゃなかったか。
 テーブルのヒヨコを捕まえる。俺の手の上で出会った2匹のヒヨコは、ヘイ!とハイタッチで挨拶をしていた。
 「もう帰ってもいいよ」
 すると、今出てきたヒヨコはすぐに消えたが、もといたヒヨコは頭を振った。俺の手から腕をつたい、ベストの胸ポケットにすっぽり収まる。どうやらポケットが気に入ったらしい。
 まぁ、気が向いたら帰るだろう。

 「アバル王陛下、シュリ姫はまだ召喚獣の勉強は本格的になさってないんじゃないですか?」
 俺の問いかけに、状況が飲み込めずにいる様子のアバル王は頷いた。
 「はぁ、まだ6歳でありますので、これから家庭教師をつけて教えようと考えていますが」
 「だから、シュリ姫は召喚獣の正式な契約方法がわからなかったんですね」
 納得したように呟くと、シュリ姫は未だ混乱しているような顔で俺を見つめる。
 「どういうこと?私がしたのは召喚獣の契約じゃないの?」
 俺は困った顔で頷いた。

 「通常召喚獣の契約は単体での主従契約になります。しかし、シュリ姫が行ったのはおそらく、種族のなかから一匹を呼ぶ召喚法です」
 「それ確か古代の召喚の一つだよね」
 アルフォンスが驚いたような顔をして聞いてきた。
 「そうです。前者は契約した獣しか呼べませんが、後者は契約した種族の中から呼び出すことが可能です」

 「そう言えばそんな召喚法があったと聞いた気がする。すっかり忘れていたが」
 アバル王は顎のひげを触りながら唸る。
 「当然です。この召喚法には主従関係がありません。ほとんど役に立つものではありませんから」
 主従関係がなければ制御できない。言うことを聞かない獣を出してもパニックになるだけだ。
 特に今回はヒヨコだから良かったが、獣によっては襲い掛かってくることがあるだろう。
 知識としてはあったが、俺もコクヨウに教えてもらわなければ気づかなかった。
 
 「この召喚法は呼び出す時、種仮しゅかと言います」
 「なるほど。偶然にもシュリがつけた名前と同じだったわけか」
 アバル王は合点がいったように頷いたが、アルフォンスはそれに対して首を振る。
 「いえ、偶然の一致だけでは召喚できないはずです。召喚前に種仮しゅか用の契約を行わなくてはなりませんし」
 「それでは…」
 アバル王は不可解そうにシュリ姫を見る。シュリ姫は居心地悪そうに俯いていた。その口はしっかり引き絞られて喋らないと言う意思が見える。
 
 俺はその様子を見て、話を少し変えることにした。
 「シュリ姫は今回以外に、何度か危ない目にあったことが?」
 「ええ、小さい事故のようなものなら何度か。なぁ」
 アバル王はマリサ王妃に同意を得るように顔をやる。
 「え、ええ。乗っていた馬が暴れたり、足を滑らせて池に落ちたり…」
 その時のことを思い出したのだろうか、顔を青ざめながら頷く。
 「その度にマリサが助けて、大事には至りませんでしたが……」

 すると、シュリ姫が俯いたまま話し始めた。
 「私…狙われてるってわかってたの。馬が暴れた時は馬の嫌いな薬草の匂いがしたし、池で足を滑らせた時もいつもより道がぬかるんでた。だから、お父様は女の子には必要ないって言ってたけど武術も習って…」
 なるほど。舞踏会の時の言っていた『強くなきゃいけない』って意味が分かった。命の危険を感じていたからなのか。それなら、急く気持ちもわかる。

 そしてその気持ちを利用し、誰かが種仮しゅかを教えたんだろう。あの召喚法は、種仮しゅかとしては完璧だった。偶然できましたってはずはない。
 本来なら召喚獣の契約をさせたかったんだろうが、6歳ではその力量もない。そこで呼び出すだけの種仮しゅかで契約させたんだな。

 「このヒヨコのシュカって名前…君がつけたんじゃないよね?」
 俺が優しく聞くと、泣きそうに顔を歪めて頷いた。
 
 シュリ姫は再び危ないことが起こったらきっと召喚獣を出す。暗闇を作ればなおさらだろう。あとは光るヒヨコめがけ刺客に矢を射って貰えばいい。
 そう推測すると、ヒヨコにシュカと名付けさせた人物が犯人の可能性が高い。
 シュリ姫は震える唇を開けた。

 「マリサお義母様が…」
 その言葉に皆の視線が一気にマリサ王妃に集まった。マリサ王妃は少し俯くと、諦めたようにほほ笑んだ。ゾクリとした寒気が背筋を走って、ゴクリと喉を鳴らす。

 マリサ王妃は大人しい女性だと聞いている。今は亡き前王妃の娘であるシュリ姫を、我が娘のように大事にしているとも聞いていた。気弱だが心優しき王を陰ながら支え、控えめにそばにいるそんな印象だった。

 犯行は手伝ったが、他に首謀者がいるんじゃないのか?それとも共謀者にそそのかされたんじゃないのか?知らずに手伝ってしまったのではないか?
 いろいろ頭をめぐったが、彼女の表情でわかる。この人が首謀者だと。
 俺は愕然とした。
 

 俺……トマル大使が首謀者だと思ってた。

 だ、だって、もしカイルが暗殺失敗しても、国に連れて帰って隔離出来るし。最悪、尋問中に口封じ出来る。動機は解らなかったけど、この召喚獣の件でいろいろ聞いていけばそれが判明するだろうと思ってたのに。
 恥ずかしいっ!!
 熱くなる顔を両手で押さえる。

 「妃殿下…今回のグレスハート王国視察で、私を急遽大使に任命したのは貴女でございました。この刺客を始末するため、利用するおつもりでしたか?」
 トマル大使が厳しい顔つきで、王妃を見つめる。マリサ王妃はそんな大使にはんなりと首を傾けた。
 「貴方は優秀で実直な方ですが、獣人嫌いで有名ですから。まさか貴方が交渉に失敗するとは思いませんでしたが」
 小さく苦笑すると、トマル大使はカッと顔が赤くなる。 

 「お前はあんなにシュリを可愛がっていたではないか」
 信じられないものを見るように、アバル王はマリサ王妃を見る。
 「可愛かったですわ。前王妃様に似てくるまでは…。凛として華やかで眩しかった前王妃にそっくり。私が敵うわけがないあの方に」
 マリサ王妃は、シュリ姫を見て悲しそうにほほ笑んだ。
 「怖かったのです。同じ瞳で、何故お前なんかが王妃の座にいるのかと責めているように思えて」
 そう言ってぽろぽろと涙をこぼすと、こらえきれないように手で顔を覆った。

 シュリ姫はそんなマリサ王妃に縋り付く。
 「そんなこと思ってないわっ!マリサお義母様は優しくって、民想いの素晴らしい人よ。王妃にふさわしい人だわ」
 その言葉が偽りだとは思えなかった。シュリ姫がそう断言できるほどに、以前の二人は仲の良い母子だったのだろう。

 「シュリ…」
 マリサ王妃は驚いたように顔を上げると、涙に濡れた手でシュリ姫を抱きしめた。
 「しかし、シュリ。マリサはお前の命を狙ったのだぞ?いくら王妃と言えど、許すわけにもいかぬ。」
 アバル王は顔を曇らせ、抱き合う二人を見つめる。 

 「カイルの話によりますと、刺客として雇われたのは今回が初めてのようです。その前はご自身でやられたんですか?」
 マティアス王はマリサ王妃を見据えた。その瞳は偽りはすべて見通すという強さがあった。
 縋り付いたままのシュリ姫を見つめながら、彼女は気まずそうに頷いた。そして諦めたように息を吐く。
 「王族暗殺は死罪。だから死を持って償うべきでしょうね。」 
 「でも馬が暴れた時も、池に落ちた時も。お義母様が真っ先に助けてくれたわ!」
 シュリ姫は連れて行かれてなるものかと、必死につかまる。
 
 俺はうーむと唸った。
 マリサ王妃を信じるべきか。このまま処罰するべきか。
 実行出来なくとも暗殺は事実。これはとても重い罪だ。日本であるなら否応なく刑務所行きだろう。
 だが、この世界は向こうと違う。先ほど王妃が言ったように、重い罪には死を持って償う世界だ。そうなった場合、シュリ姫の心はどうなってしまうんだろうか?

 俺がどう言ったところで、この判断は結局ナハル国に委ねられるのかもしれないけど…。
 
 どうするべきか迷うアバル王に、俺はそっと手を上げた。
 「僕の提案なのですが、とりあえず保護観察にしませんか?」
 聞き慣れない単語を聞いて、皆キョトンとした顔で俺を見る。
 「ホゴカンサツとは何なのだ?」
 首を傾げてマティアス王が聞いてくる。
 「カイルと同じです。普通の生活の中で更生させるんです」

 「それでは処罰として甘すぎるのではないですか?」
 驚きと動揺の入り混じった表情でトマル大使が言う。
 「もちろん前と同じ生活ではないです。生活を観察や監督する人がいて、前と同じような間違いを犯したり、それに関連するような疑わしい行動をしたら今度こそ牢屋に入ってもらいます」
 俺はちょっと考えるように、顎に手をやると、チラリとナハル国一行を見た。

 「監督は……アバル王陛下とシュリ姫、厳しい目も必要だからトマル大使にもお願いしようかな」
 にっこりほほ笑むと、トマル大使はさらに戸惑ったような顔になる。
 「私ですか?これは極秘事項でしょう。私がもしこれを漏えいしたり、王族を脅したりしたらどうするんです?妃殿下を牢屋に入れるかもしれない。」
 そんなに簡単に人を信用していいのかと眉根を寄せる。

 俺はそんな彼を見て、目をぱちくりと瞬かせた。
 「そんなこと言ってるあたり、信用できると思うんだけどなぁ。まぁ、いいか。もしそうなったら、アバル王陛下達はグレスハート王国に教えてください。トマル大使を言い負かせるの僕くらいだと思うので」
 小首を傾げてにこっと可愛く笑うと、トマル大使は嫌そうな顔をした。



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次でナハル国のお話は終わりです。
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