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第4章〜転生王子は国外へ

7歳になりました。

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 グレスハート王国の広間。そこはいつも家族でお茶をしたり、談笑したりと団らんする場所だ。いつも笑いが絶えないこの部屋が俺は大好きだ。
 しかしそこが今、さめざめと泣き声の響く場所になっていた。
 
 決して、不幸があったわけではない。
 いや、レイラとアルフォンスにしてみたら不幸なのかもしれないが。
 
 「何でフィルを国外にやらなければならないんですか?」
 レイラは嗚咽を堪えながらハンカチ
で涙を拭いた。あんまり擦るので、目はすっかり真っ赤になっている。
 レイラのツンとしたお姫様らしいさと可憐さは、13歳になってますます魅力が増した。ちまたでは王国の花と呼ばれているそうだが、今はその花もすっかりしょげた様子だ。

 「そうです。何もこんな小さいうちから国外にやることないではないですか。我が国でも充分です。」
 俺を離すまいとぎゅっと抱きしめるアルフォンスも、目元が涙で潤んでいた。
 金髪碧眼の美少年は今や18歳の美青年になっていたが、ブラコンは相変わらずである。

 その二人の様子を見て、マティアス王は額を押さえた。アンニュイな表情は、それだけで格好良い。
 
 俺は7歳になっていた。手足も少し伸びて、古武術の稽古や剣の鍛錬によって少し筋肉も付いてきた。召喚獣も前より増えている。
 そんな俺が何でこんな状況になっているかと言うと、学校に入学するためである。

 「仕方ないではないか。フィルのこの髪の毛、この目。それに加え目立ちすぎる行動。この国で落ち着いて学生生活がおくれると思うか?」
 チラリと見られて、俺は父親から目を逸らした。
 髪も目も生まれつきだし、行動も目立ちたくて目立っているわけではないんだけどなぁ。
 だが、何故か大騒ぎになると言う自覚はあるので何も言えない。

 「剣術学校なら私が臨時講師として見ていますから、えこひいきせず鍛えてみせますよ!」
 ヒューバートは名案だと言うように笑顔になった。
 俺は細かく首を振る。
 嫌だ。例えこの国の学校入るにしても、それはご勘弁願いたい。

 ヒューバートは去年15歳になったので、正式に王国軍に入った。だが、後輩指導と言う名の下に、剣術学校の臨時講師もやっている。
 昔はアルフォンス兄さんとそんな変わらなかったのに、ムキムキの筋肉でどんどんガタイが良くなっちゃって……。
 絶対後輩にはなりたくない。

 「ヒューバート兄さま。僕学問の方が向いてます。」
 俺が言いにくそうに告げると、ヒューバートはにっこりとほほ笑む。
 「そんなことはない。グランドール将軍もぜひ剣術学校にと言っていたぞ。」
 何故にこの兄は人の話を聞かないのか。悪い人ではないのだが。
 「ヒューバート兄様率いる剣術学校に行って、フィルがムキムキ軍団の仲間入りしたらどうするのよ。」
 レイラは余計な口を挟むなとばかりに、ヒューバートを睨んだ。

 「剣術学校は剣術には特化しているが、フィルには学問も武術も学んで欲しい。その点グラント大陸のステア王立学校は、学問も武術も両方学べる学校だ。」
 マティアス王は皆を説得するようにゆっくりと話かける。

 「ならせめて他の大陸でなく、我がデュアラント大陸で……。」
 食いさがるレイラに、マティアス王はため息で返した。
 「この大陸の国では、フィルの求める学校がないのだ。分かっているであろう。」
 そう言われて、レイラはぐっと口をつぐむ。

 知識という面で言えば、図書館にある基礎知識はだいたい詰め込んである。
 だが、このデュアラント大陸は農耕の国が多い。それ故に、図書館の書物も農耕よりだし、我が国を含めた他の国の学校教育も農耕よりだった。
 将来の職業の選択肢を増やすなら、農耕以外の別の知識も必要だろう。

 「学校のあるステア王国の隣にはティリア王国がある。フィルに何かあればステラが助けになってくれるはずだ。」
 ティリア王国は昨年ステラがお嫁に行った国である。グレスハート王国より土地も大きく、織物で有名な豊かな国だ。
 「いざとなれば監視も派遣しやすいと言ってたしな……。」
 マティアス王はボソリと呟いた。
 父さん聞こえてるよー!
 どうやらステラ姉さんに手を回しているらしい。
 ちぇっ、信用ないなぁ。

 「アルフォンスはステア王立学校の高等部に行っていたのだから、良い学校なのは分かるだろう?」
 マティアス王は同意を得るように、にこやかにほほ笑んだ。
 「それは確かに……素晴らしいです。身分関係なく友人も出来るし、教育も素晴らしいものでした。」
 アルフォンスは不本意のようだったが小さく頷く。

 俺が行く予定のステア王立学校は初等部3年、中等部3年、高等部3年とあり。アルフォンスは王太子としての知識と見聞を広める為、12歳から3年間高等部に行っていた。

 この学校の良いところは、王立学校でありながら年齢や身分を分け隔てることなく学べる点だ。
 入学は7歳以上との規定はあるが、それ以外は自由。つまり、7歳でも高等部入学試験に合格すれば、高等部に入れるわけだ。
 だが、学年が上がるごとに難しい進級試験があり、合格しなければ留年になる。留年が何度か重なれば退学…と大変厳しい。

 優秀な成績をとってれば飛び級もあるらしいので、今回俺は中等部から始めようと考えていた。
 鳴り物入りで入って、その後で留年になったら嫌だからな。そんな中等部でも10歳くらいから入る子が殆どって話だけど。

 アルフォンスは俺の頭を撫でながら、マティアス王を恨めしげに見つめた。
 「ですが、留学中に失った物も大きかったです。」
 「失った物?」
 マティアス王は不可解そうに首を捻る。

 「可愛いフィルですよ!1歳から3歳までの可愛い盛りっ!長期休みに帰って来て、いつの間にか成長してるフィルを見た時の私の絶望わかりますか?」
 そう話しながら力強く頭を撫でられ、俺は頭がもげそうな程ぐらぐらと揺らされる。
 「絶望どころか、帰る度に狂喜乱舞きょうきらんぶしていたではないか。」
 マティアス王は嘘をつけと眉根を寄せた。

 「父上の記憶違いです。」
 真面目な顔でしれっと答える。
 嘘だ。帰ってくる度に小躍りしてたよ。勉強のストレスのせいかと心配してたくらいだ。
 「休み明けにお前が学校の寮に戻らないと駄々をこねて、毎回大変だったのは覚えているぞ。」
 マティアス王はその時のことを思い出したのか、心底嫌そうな顔をした。
 うん……。あれもすごい大変だった。
 

 すると突然、アルフォンスはハッと閃いたように体を震わせた。
 「そうだ。また私がステア王立学校に留学すれば?」
 「何を馬鹿なことを言ってるのです。高等部卒業して中等部に入り直すなんて出来るわけないでしょう。」
 さすがのフィリス王妃も、呆れたようにため息を吐く。

 「それでは私ならばいいでしょう?13歳からでも中等部に入学する方いますもの。」
 レイラは笑顔になったが、マティアス王はすぐさま首を振って却下する。
 「フィルの希望で王族としてではなく、平民として入学するのだ。そんなフィルの周りで、王族のレイラがうろうろして素性がバレたらどうする。」
 「私も平民として入れば良いではないですか。」
 ケロリと言うが、無理に決まってる。 
 レイラは見た目も中身もお姫様っぽい。明らかに平民と言う感じではないからだ。

 「と言うか……。」
 フィリス王妃は心底心配そうにレイラを見る。
 「ステア王立学校の中等部のレベルは大陸でも上位。まずレイラが入学できますかしら。」
 正直過ぎて母さん何気にひどい。確かにレイラ勉強苦手だけど。
 否定はしたいが多少の自覚はあるのか、レイラはムウっと口をへの字に曲げて押し黙った。

 その様子を見ていたマティアス王は、息をひとつついて皆の顔を見渡した。
 「理解できたか?では、フィルはステア王立学校に留学とする。」

 その言葉によって、広間は再びさめざめとした泣き声が響いた。



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7歳になりました。
少しでも楽しんでいただければと思います。
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